転生王女は初恋の平民魔術師と結婚したい!

Y子

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三章

51.討伐2

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「今から魔物の討伐を開始する。目標はあの繭の中の魔物だ」

 討伐のために来たのは騎士六人と魔術師が八人。全員祝福を授かっている。

「相手はどのような魔物なのかはわかっていない。敵を捉えて取り込む能力を保有しているため可能な限り距離をとって戦うように。いくつか小さな繭も残っている。油断はするな」

 皇子の合図で配置についた魔術師達が火の魔術を放つ。
 繭は炎に包まれ落下した。
 中の魔物が熱さにもがいているのか繭は大きく動いている。
 しかし燃えているのは繭だけだ。中の魔物に炎は届いていない。

「繭が燃え尽きた瞬間にもう一度火の魔術を放つんだ」

 程なくして繭は崩れ始めた。
 中の魔物の姿があらわになる瞬間、また火の魔術が放たれる。
 しかし九人分の魔術は魔物の咆哮とともに打ち消された。



 繭から出てきた魔物は白いドラゴンだった。
 まだ成長しきれていないのか、羽は飛膜がないし鱗は柔らかそうで長い首を持ち上げることもできていない。
 しかし赤い目が私たちを睨み付けている。

「なんだこの魔物は……。蛇……いや、まさか……ドラゴンなのか……?」

 誰かが戸惑いの声を上げた。
 これまで確認されてきた魔物の中にドラゴンはいない。
 蛇のような魔物は存在するがそれらには羽はないし脚もない。
 この世界でもドラゴンは伝説上の生き物だった。

 それが今目の前にいる。
 
「怯むな! 攻撃を続けるんだ。やつの体勢が整う前に終わらせる!」

 皇子の声で魔術師達は一斉に氷の魔術を放った。
 それらはドラゴンの身体に命中するもダメージを与えられているようには見えない。
 ドラゴンは平気な顔をしている。

「皇子、魔術がきかないのなら剣で戦いましょう。あれの鱗は柔らかそうに見えます。それにまだ動くことはできないようです。今なら簡単に仕留められるのではないでしょうか」
「…………わかった。魔術師は騎士に強化の魔術をかけろ。その間も牽制のために攻撃の手は止めるな」

 絶え間なく放たれる魔術をドラゴンは全て防いでいる。
 魔術、なのだろうか。
 ドラゴンは赤い目で私たちをまるで観察するように見ていた。
 何かを探しているのだろうか。
 
「シャーリィ、雷の魔術を試してもらってもいいかい? 近寄るのは危険だから遠距離から攻撃するんだ」
「わかったわ」

 いつもの様にコマンドを選択し呪文を選ぶ。
 剣に雷を纏わせたとき、ドラゴンは再び咆哮をあげた。
 慌てて雷の斬撃を放ったけれど、それはドラゴンに届く前に何かの魔術で相殺されてしまった。

「やはり魔術だけでは駄目か……! シャーリィ、さがるんだ。これより騎士の攻撃に移る」

 魔術メインの攻撃から騎士の攻撃に切り替えようとしたそのとき、ドラゴンの身体が大きく揺れた。


 呻き声とともにそのドラゴンはゆっくりと立ち上がる。
 そしてその赤い目が私を真っ直ぐに捉えた。

『お前……どこでその力を?』

 頭に直接声が響く。
 これは……私に問い掛けているのか?
 周囲の人間にも聞こえているようだ。困惑した表情でドラゴンを見ている。

『それは神の力。我が使うに相応しい力。……我に寄越すがいい』

 ドラゴンは吼えた。
 そしてゆっくりと脚を前に踏み出す。

「シャーリィ……予定変更だ。君は急いでここを離れるんだ」
「い、嫌よ! だってここで逃げたら……」

 私は民を置き去りにして逃げた臆病者になってしまう。
 それに今ここを離れたら二度とアシルに会えなくなる気がしていた。

「駄目だ! あれは君を取り込む気だ。捕えられる前に早く逃げるんだ」
「逃げる場所なんてないわ。ここはナフィタリアよ。私の国よ。……ここであれを倒さなければ国に未来はないの」

 国の運命はここで決まる。
 ノルウィークには祝福持ちの騎士も魔術師もたくさんいる。けれどナフィタリアにはもういないのだ。
 負けた場合、ナフィタリアの民を守れるものは何も無い。ノルウィークも自国の防衛を優先するだろう。
 だからなんとしてもここで勝たなければならないのだ。

「それにドラゴンの目が私に向いているのなら好都合よ。他の騎士達が攻撃しやすくなるわ」
「君は…………わかった。でも危なくなったらすぐに逃げて」

 ドラゴンの目は私を向いている。
 距離があるためにすぐに捕えられることはないだろう。
 大丈夫、怖くない。
 何度も自分に言い聞かせる。

 それに羽化前に引きずり出したことが功を奏したのか身体を引き摺るように動いている。
 逃げることは難しくないはずだ。
 足を止めなければいい。それだけだ。だから大丈夫。

 皇子の指示が聞こえるよう耳に強化の魔術をかけた。
 これで何かあってもすぐに反応できるだろう。
 皇子から離れ、騎士たちがドラゴンの背後を取れるように移動する。
 私に合わせてドラゴンはゆっくりと向きを変えた。

「かかれ!」

 号令とともに騎士達が一斉にドラゴンに飛びかかる。
 ドラゴンは尻尾を使い騎士を跳ね除けようとした。
 けれどそれは身体の動き同様に鈍く、騎士達の妨げにはならない。
 騎士達がドラゴンの脚を切り付ける。鱗は見た目通り柔らかいようだ。

 これならなんとかなるかもしれない。



 けれど現実はそう甘くはなかった。
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