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番外編
泣き虫な女の子の宥め方
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「俺が孤児院にいた頃、エマっていう女の子がいたんだ」
アシルは唐突に話し始めた。
魔術師達の宿舎のエントランスには今は俺たちしかいない。
それでも魔術で会話が他人に聞かれないようにしてくれているらしい。シャーリィの話を誰かに聞かれたくないからだ。
しかしアシルはシャーリィとは全く関係の無いエマとかいう少女の話をはじめた。
わけがわからない。
「エマは泣くと何を言っても聞いてくれなくて、慰めようとしても余計に泣くし俺はあの子が苦手だった」
昔を懐かしむようにアシルは話を続ける。
「けど院長先生が教えてくれたんだ。エマが泣くのは不安だからだって。泣いてる幼子は母親が抱きしめてあやすだろ。でもエマは両親がいない。抱きしめて安心をくれる人がいないんだ」
自分の記憶を辿る。
……確かに幼少期には母親が抱きしめてくれた記憶があった。
「シャルロット様も同じだと思う。安心が欲しいんだ。さすがに王女様を抱きしめるわけにはいかないから手を握ってあげるといいんじゃないかな。もちろん泣いてないときも可能な限り手を繋ぐといいよ。それで落ち着いてくると思うから。エマはそうだったよ」
途中から察することはできたが、せめてもう少し前振りを分かりやすくしてくれないだろうか。
思わず苦笑が漏れた。
「それはお前がやるといい。俺はシャルロット様の護衛だ。手を握る資格なんてない」
それにシャーリィが好きなのは俺ではなくアシルだ。
俺が手を握ったところで彼女は喜ばないだろう。
「泣いてる女の子を慰めるのに資格なんていらないだろ。それにイヴォンはシャルロット様とずっと一緒にいるって聞いたよ。信頼されてるじゃないか」
「一緒にいた時間が長いだけだ」
隣にいることを許して貰えた。それだけだった。
彼女は俺の気持ちに気付かないし言葉も受け取ってはくれない。
それでも構わないと思っていた。
歴史の浅い伯爵家は王族の伴侶にはなれない。
いつかこの想いを終わらせなければならないのだから気付かれない方がいいに決まっている。
「俺はただの護衛だからな」
「ただの護衛ならシャルロット様と同じように魔術を習う必要は無いだろ」
「あるさ。魔術は俺がシャルロット様に初めて勝てたものなんだから」
剣の腕も体術も身分も知識も何一つ勝てるものなどなかった。
初めて彼女に勝てたのだ。
それがずっと蔑んできた魔術師の技だというのは皮肉以外のなにものでもない。
「護衛なのに何一つ敵わないなんて滑稽だろ。俺はシャルロット様の力になりたいんだ」
「……イヴォンは焦りすぎだよ。焦りは視界を曇らせる。シャルロット様を支えるイヴォンがしっかりしていないと二人して底なし沼に沈んでしまうよ」
二人で沈むのならそれでもいいと思った。
泣き続けるシャーリィを慰めることは俺にとっては幸せな時間だったから。
「シャルロット様のことが好きなんだろ? もっと自信を持つといい。君は俺と違って貴族なんだから」
アシルの言葉に言い返したくなったけれど、こいつに何を言っても現実は変わらない。
それにアシルは平民だ。祝福を授かっているにもかかわらず貴族になることを許されなかった人間だ。
もしアシルが貴族だったなら彼女の隣にいたのはこいつだっただろうにいる。
「それにイヴォンが相手ならシャルロット様は嫌がらないと思う」
皮肉にしか聞こえない。
そのシャーリィが好きなのはアシルなのに。
けれどアシルも俺と同じでシャーリィの伴侶には決してなれない人間だ。
夏までにシャーリィの相手は決まるだろう。王族の結婚には準備が必要だから。
シャーリィのことを好きな俺でもなく、シャーリィが好きなアシルでもない人間とシャーリィは結婚する。
いつものように泣くだろうか。
…………泣くだろうな。
「…………雑談は終わりだ。お前が魔術を教えてくれる代わりに俺はお前に礼儀作法を教える。そういう話だっただろう。お前の教育には時間がかかるんだ。のんびりしている時間はない」
「うん。そうだね。じゃあお願いします」
アシルは小さく頭を下げた。
アシルは唐突に話し始めた。
魔術師達の宿舎のエントランスには今は俺たちしかいない。
それでも魔術で会話が他人に聞かれないようにしてくれているらしい。シャーリィの話を誰かに聞かれたくないからだ。
しかしアシルはシャーリィとは全く関係の無いエマとかいう少女の話をはじめた。
わけがわからない。
「エマは泣くと何を言っても聞いてくれなくて、慰めようとしても余計に泣くし俺はあの子が苦手だった」
昔を懐かしむようにアシルは話を続ける。
「けど院長先生が教えてくれたんだ。エマが泣くのは不安だからだって。泣いてる幼子は母親が抱きしめてあやすだろ。でもエマは両親がいない。抱きしめて安心をくれる人がいないんだ」
自分の記憶を辿る。
……確かに幼少期には母親が抱きしめてくれた記憶があった。
「シャルロット様も同じだと思う。安心が欲しいんだ。さすがに王女様を抱きしめるわけにはいかないから手を握ってあげるといいんじゃないかな。もちろん泣いてないときも可能な限り手を繋ぐといいよ。それで落ち着いてくると思うから。エマはそうだったよ」
途中から察することはできたが、せめてもう少し前振りを分かりやすくしてくれないだろうか。
思わず苦笑が漏れた。
「それはお前がやるといい。俺はシャルロット様の護衛だ。手を握る資格なんてない」
それにシャーリィが好きなのは俺ではなくアシルだ。
俺が手を握ったところで彼女は喜ばないだろう。
「泣いてる女の子を慰めるのに資格なんていらないだろ。それにイヴォンはシャルロット様とずっと一緒にいるって聞いたよ。信頼されてるじゃないか」
「一緒にいた時間が長いだけだ」
隣にいることを許して貰えた。それだけだった。
彼女は俺の気持ちに気付かないし言葉も受け取ってはくれない。
それでも構わないと思っていた。
歴史の浅い伯爵家は王族の伴侶にはなれない。
いつかこの想いを終わらせなければならないのだから気付かれない方がいいに決まっている。
「俺はただの護衛だからな」
「ただの護衛ならシャルロット様と同じように魔術を習う必要は無いだろ」
「あるさ。魔術は俺がシャルロット様に初めて勝てたものなんだから」
剣の腕も体術も身分も知識も何一つ勝てるものなどなかった。
初めて彼女に勝てたのだ。
それがずっと蔑んできた魔術師の技だというのは皮肉以外のなにものでもない。
「護衛なのに何一つ敵わないなんて滑稽だろ。俺はシャルロット様の力になりたいんだ」
「……イヴォンは焦りすぎだよ。焦りは視界を曇らせる。シャルロット様を支えるイヴォンがしっかりしていないと二人して底なし沼に沈んでしまうよ」
二人で沈むのならそれでもいいと思った。
泣き続けるシャーリィを慰めることは俺にとっては幸せな時間だったから。
「シャルロット様のことが好きなんだろ? もっと自信を持つといい。君は俺と違って貴族なんだから」
アシルの言葉に言い返したくなったけれど、こいつに何を言っても現実は変わらない。
それにアシルは平民だ。祝福を授かっているにもかかわらず貴族になることを許されなかった人間だ。
もしアシルが貴族だったなら彼女の隣にいたのはこいつだっただろうにいる。
「それにイヴォンが相手ならシャルロット様は嫌がらないと思う」
皮肉にしか聞こえない。
そのシャーリィが好きなのはアシルなのに。
けれどアシルも俺と同じでシャーリィの伴侶には決してなれない人間だ。
夏までにシャーリィの相手は決まるだろう。王族の結婚には準備が必要だから。
シャーリィのことを好きな俺でもなく、シャーリィが好きなアシルでもない人間とシャーリィは結婚する。
いつものように泣くだろうか。
…………泣くだろうな。
「…………雑談は終わりだ。お前が魔術を教えてくれる代わりに俺はお前に礼儀作法を教える。そういう話だっただろう。お前の教育には時間がかかるんだ。のんびりしている時間はない」
「うん。そうだね。じゃあお願いします」
アシルは小さく頭を下げた。
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