収穫祭の夜に花束を

Y子

文字の大きさ
6 / 27
10月25日

6.サンはルーナのことが知りたい

しおりを挟む


 ルーナが用意してくれた昼食はとても美味しかった。

 温かいスープは柔らかく煮込まれた野菜がたくさん入っていて、ベーコンまであった。
 僕はこんな豪華なスープを飲んだことがない。
 パンも柔らかくてハムはジューシーだった。

 こんな食事、ここに来なければ味わうことはできなかっただろう。
 とても幸せだと思った。
 たとえあと数日の命だとしても――いや、ルーナは死ぬわけではないといっていたから花になるだけなんだけど――その数日をこんな幸せに過ごせるならば100年花として生かされることになったとしても構わない。

 使った食器を洗い終わった僕は先ほどまで座っていた椅子にもどった。
 なぜならその隣の椅子にルーナが座っているからだ。

「いつもルーナ様は何をして過ごしてるんですか?」
「そんなことが気になるのかい? 私は薬を作ったり魔法をかけた特別な花を作ったりしてるんだよ」
「どこかで作ったものを売るんですか?」
「ああ。他の魔女や魔力のある人間が買っていくよ」

 その答えに僕は驚いた。
 魔力のある人間なんているんだ。
 魔力とは魔法を使う力の源。
 そのままの意味だ。

「魔力のある人間ってことは、魔法の使える人間もいるのですか?」
「もちろんだ。多くはないが、確かに魔法の使える人間は存在する」
「あ、あの、頑張ったら僕にも魔法は使えるようになりますか?」

 勇気を出して尋ねた僕をルーナは笑った。
 しかもよほど面白かったのか、おなかを抱えて笑っている。

「サンは魔法が使いたかったんだね。残念だがお前の魔力では到底魔法を使えるようにはならない。せめてもう少し……いや、少しどころでは足りないな。もっともっと魔力がなければ魔法は使えない」
「そうですか……。残念です」
「いや、残念なものか。もしお前が魔法を使えるほどの魔力を持っていたならば、私はサンを拾ったその場でお前を食べてただろう」

 ルーナはご機嫌でそういった。

「そうなればお前のその美しい目を見ることはできなかったし、こうやって一緒に会話をすることもなかった。だからサンは魔力がなくてよかったのさ」

 彼女の言葉に僕は納得した。
 この悪魔の目を持って生まれた僕に魔力がないのは少し残念だが、その結果こうやってここで過ごすことができているのだからいいのだろう。

「もし魔法が使いたいのなら私が作っている花や道具を使えばいい」
「!! それで僕にも魔法がつかえるのですか!?」
「簡単なものだけどね。ちょっと試してみようか」

 ルーナは棚から干からびた花を取り出した。
 その花は干からびているものの花としての美しさは残したままだ。
 カサカサと乾いた音がする。

 ルーナは取り出した花の中から一輪のバラを手渡してくれた。
 赤いバラだ。

「どうせなら外で……いや、サンの靴を用意していなかったな。外は毒のある植物も生えているから裸足だと危ない。家の中で試してみよう」
「わかりました。僕はどうすればいいですか?」
「簡単だよ。その花に念じながら握りつぶすといい。入っている魔法は風の魔法だ。風をイメージするんだよ」

 僕は言われたとおりに風を想像してみた。
 柔らかく頬を撫でる暖かい風。

 そして右手で花を握りつぶす。

 その直後、柔らかな風が僕の頬を撫でた。
 そして粉々になった花びらをまき散らしながらルーナの髪を揺らす。

「これが魔法……?」
「ああ。一番簡単で一番弱い魔法だよ。今のはお前のイメージが弱かったから弱い風が吹いたんだね」

 じわじわと喜びが胸に満ちる。
 ああ、あれが憧れ続けた魔法なんだ。
 
「ありがとうございます。僕は今日のことを絶対に忘れません」

 薄らと涙が滲んだ。
 悲しいときや辛いとき以外にも涙が出るのだと、僕は初めて知った。

「先程薬や魔法の花を作ると言っていましたが、僕に何かお手伝い出来ることはありませんか?」
「おや、そんなことまで手伝ってくれるのかい? じゃあ準備するからこっちにおいで」

 そしてルーナは奥にある部屋へ入っていった。
 その背中を追いかける。

 村がなくなってから一人で生きてきた僕が最後に辿り着いた場所がここでよかった。
 もう誰からも優しくしてもらえないと思っていた。
 この目がある限り、僕は一人で惨めに死んでいくのだと思っていた。

 だから今この時間が奇跡のように思えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...