渡り人は近衛隊長と飲みたい

須田トウコ

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不敬罪確定

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 ―数刻後。

「も、もういないかな?魔獣は…」

 仁亜は周囲をキョロキョロしていた。怪我人が出ているが、皆軽傷だ。

 ヒルダ様はあの後、数体魔獣を倒してくれた。それぞれ尋常じゃない速さだったのに、誰よりも先に向かって行き、的確に急所に三節棍を当てていた。そして投げ技でトドメを刺していた。強い。
 今はちゃんと倒せたか、死んだフリをしてないか確認している。
 もう魔獣がいないかアマタ様にも聞いてみようとしたのだが、反応がない。どうしたのだろう。
 ふと遠くを見ると、アイザックさんが戻ってくるのが確認できた。向こうも周囲の魔獣を倒したのだろう。ホッとして、手を振り呼びかけようとした。

「アイザックさーん!こっちで…す……」

 仁亜の語尾が小さくなっていく。
 自分の首筋に何か当てられた。ヒヤッとして冷たい。これは…………剣だ。

「…殿下?え?なんで、どうして……」
「………………」

 さっきまで「ヒルダ~強くてカッコいいよ~ヒルダ~」なんて、クネクネしながらラブコールを送っていた殿下が、無言で私の首筋に剣を当てている。
 いつの間にか腰にも左手が回され、ガッチリホールドされていた。

「えっ、ちょ、ちょっと殿下…ハハッ…そんな笑えない冗談は…痛っ!」

 顔を見ようとして首を捻ると、殿下と目が合った。
 目が赤い。魔獣と同じだ…と思うと同時に、首筋に当てられていた剣が掠った。ピリッとした痛みと共に何かがツーっと垂れた。自分の血だ。それを見て軽くパニックになった。

「い、嫌だ…痛い…なんで…殿下全然戦ってないのに…なのに…こんな切れ味の良い剣持ってんの…?」

 そして見当違いのツッコミをした。
 遠くからその異変に気づいたアイザックが、急いで駆け寄ってくる。ヒルダも同じだ。そこでようやく、殿下が口を開いた。

「『メガミノタテ』ハ…ドコダ」
「え…?女神の盾?」
「イワナケレバ…コロス…」

 声姿は殿下だけど、違う。コイツは誰だ?首筋が痛い。仁亜は涙目になった。

「そ、そんなの知らない…」
「ウソヲツクナ…アマタニ…キイテルダロ…ワタリビトヨ…」

 ちょっと待て。本当に知らない。聞いてない!
 っていうか、「アマタ」って…さてはコイツ、アーバンか?!殿下の身体を乗っ取ったのか?!

「あ、あんたアーバンね?!確か、女神の盾ってのはあんたを倒した時の武器でしょ?
 剣と盾と羽衣と…。場所までは知らない!」
「ウソダ!…ソンナニシニタイカ!」

 死にたくないから本当の事言ってるのにいいいいいい!!!!何で信じてくれないの?!!
 本当痛いよう…誰か助けて…と思った所で、ようやくアイザックさんとヒルダ様が来てくれた。

「ニア?!殿下?!これは一体…」
「ギリアム、目の色違ウ。何かおかシイ」

 周囲の兵士達も、殿下が私に剣を当てていることに困惑している。私は痛みに耐えながらも叫んだ。

「でっ、殿下は…悪いヤツに操られています!魔獣を生み出している元凶で…」
「ダマレ!」
「ううっ!」

 さらに剣が食い込んでくる気がした。本当シャレになんない、本当痛くて熱い。汗が止まらない。

「ニア!!!」

 アイザックさんが剣を構えてこっちに来る…と思ったら、ヒルダ様に羽交い締めにされた。

「アイザック…貴方の目線とその構えハ…ギリアムの右手、切ろうとしたワネ…それは私許さナイ…」
「くっ…し、しかし妃殿下…このままではニアが…」

 え、アイザックさん殿下の右手切ろうとしたの?マジで?不敬罪で済まされないよ?多分死刑だよ?
 どうしたの?私以上に動揺してるの?

「オレヲキルナラ…コノオンナ…コロス」
「お前が誰かは知らんが、ならばその前に貴様を斬るだけだ!!」

 はい不敬罪ーーー!!もうやめてえええええアイザックさん!!貴様を斬るとか言っちゃってるけど外見はまだ殿下だから!!
 兵士達が色んな意味でビクビクしてるから!!ヒルダ様が止めてくれてるのに振り切ろうとしてるしヤバい!!

 お願い!!誰か何とかしてええ!!

(今が頃合いね……)

 その時。女性の声と共に、頭に何かのしかかるような重い感覚がして仁亜は意識を失った。





・・・・・・・






 アイザックがヒルダの制止を振り切り、ギリアムに斬りかかろうとした瞬間。
 人質にされていた仁亜の全身が光に包まれ、発光した。アイザックはあまりの眩しさに、思わず目を閉じる。

「な、なんだこの光はっ?!」

 驚く彼と同じくして、目の前にいた男も叫んだ。

「クソッ!…アマタ…フッカツシタカ…
 …グアアアアアッ!!!」

 ―やがて光が収まり、皆が目を開ける。
 発光した場所を見ると…そこには地面に伏して倒れているギリアムと…

 ―仁亜らしき女性が佇んでいた。

 しかし、その髪は真っ白に染まっていた。それなのに艶めき、輝いている。ただの白髪ではない。
 それだけではなかった。彼女の目の色が変わっている。茶色だったはずなのに、今は赤や青、緑といった色が混ざり…なんと、虹色になっていたのだ。
 とても神秘的なその姿に、皆が黙ってしまった。一人を除いて。

「ニアではないな。貴様…何者だ」

 アイザックの問いかけに、彼女は無表情で答えた。

『私は天上人アマタ。この世界を創りし者よ』
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