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ドンマイ殿下
しおりを挟む―天上人という聞き慣れない単語に、周囲の兵士達は混乱していた。
「おい、天上人って何だ?」
「この世界を創ったって…それは女神様の事じゃないのか?」
そう言いながら、一部の兵は広場の噴水の方角を見て、ざわついた。
「おい!あの女神像が無くなっているぞ?!」
「本当だ!いつの間に!どこへ行った?!」
そんなやり取りに、アマタin仁亜は、ため息をつきながら兵達に答えた。
『ハァ…その女神像自体が私の本体だったのよ。今はニアの体と融合しているから、分からないだろうけど』
仁亜と融合、という言葉にアイザックが反応した。
「天上人とやら…ニアはどうした?!何故融合した?!何を企んでいる?!」
『ニアは私の中で眠っているわ…私がこの身体から出ていけば意識が戻るから、安心して頂戴。
それよりも、企むなんて人聞きの悪い事言わないでくれる?アーバンがそこの男に取り憑いて、ニアを殺そうとするのを止めたかったんだもの』
そこの男と言われたギリアムは、地面に伏したままだったが、「ううっ…」と小さく呻いた。呆けていたヒルダがハッとして、慌てて側に駆け寄り介抱する。
「ギリアム!大丈夫?」
「ん…ヒルダ?それに皆も…。あれ、オレ今まで何してたんだっけ?
確か急に頭が痛くなって…知らない男の耳障りな声が聞こえて…それから…覚えてないや」
意識を取り戻したギリアムの疑問に、アマタが答えた。
『それはアーバンの声ね。あなたの身体を乗っ取って、ニアに女神の神器の在処を聞き出そうとしていたのよ。
きっと取り憑き易かったのね。あなた、この中で一番弱そうだもの』
「いきなり失礼だよニアちゃん?!…って、あれ、よく見るとニアちゃんじゃない…?
それに何故神器の事を知っているんだ?アレは各国の王族しか知らない、重要機密事項なのに」
『知ってるわよ。私はその神器の本来の持ち主、天上人だもの。
…感じるわ、盾の気配を。あなたと同じ匂いがする…。そう。盾はあなたじゃなくあの子供達が所持しているのね。
危なかった。もしあなたが持っていたら、そのまま取り憑かれて奪われていた所だったわ。
よし、この好機を逃さない。今こそアイツを…アーバンを倒しに行く時…』
天上人?と頭にハテナが付いているギリアムに、そっとヒルダが耳打ちして説明している。
その間、アイザックはアマタに詰め寄った。
「おい、倒すとは…ニアの身体のままでか?!」
『そうよ。私の力は戻ったけど、体は全然治っていないもの。戦うには誰かの体を借りないといけないわ。不本意だけど』
あまりにも身勝手な言い分に、アイザックは吠えた。
「では俺の体でもいいだろう!ニアは普通の女の子だ。戦うなんて危険な真似をしたら、体が傷ついてしまう!代われ!」
『残念だけど、無理ね。今までずっとニアから力をもらっていたんだもの。この身体が一番しっくりくると思うし、現に馴染んでいるわ』
「貴様は過去にアーバンとやらと戦って互角だったのだろう?勝算はあるのか?!下手したら今度は負ける可能性もあるだろう?」
『仕方ないじゃない。あの時はアイツに血を分けた直後で、力がほとんどない状態だったのよ。
けれど今は違う。さっきだって、あの男に取り憑いた邪気を一瞬で払ってあげたじゃない。私は元々強いのよ、天上人だもの。
アーバンは各国に大量の魔獣と力を送り込んでいるけど、それが仇になったわね。今なら本体に力は無いから、叩けば倒せると思うわ。
アイツは今…マルロワにいる。行かなきゃ』
そう言うと彼女の足元が光り、徐々に体が浮き始め…た所を、その腕をアイザックが引っぱって止めた。
「待て!!話は終わっていない!!」
『しつこいわね!先日、噴水の所でニアを口説いていた時とはえらい違いね。
あの子とても嬉しそうだったわよ。幸せな気の力が、私にも流れてきて…こんな粘着質な男だと知られたら嫌われるわよ』
「なっ、ニアが幸せだった…?」
うっかり動揺した隙に、アマタはアイザックから身を離し、浮き上がっていく。
「し、しまっ…」
『安心しなさい、すぐに終わらせるわ。これ以上無駄な戦いで、この大陸の民を失う訳にはいかないもの』
アイザックはそれでもまだ下から叫んだ。
「戦いが終わったら、ちゃんとニアの身体から出て行くのだろうな?!」
『本当しつこいわね!出るわよ。
出る………とは思うけど、(戦いに負けたら)もしかしたら出ないかもしれない…………』
最後の最後にめちゃくちゃ不安になる発言をして、彼女はマルロワ国に向かって飛んでいった。
その場に残されたアイザックは、とうとう激昂した。
「貴様アアアアアア!!!!そんな、そんな…
厠に籠る直前の殿下みたいな事を言うなアアア!!!!!!!」
「えっ?!何?!いきなりオレの厠事情を皆に暴露しないでーーー!!」
殿下、思わぬとばっちりであった。
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