渡り人は近衛隊長と飲みたい

須田トウコ

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後日談2の1 両家顔合わせ〜シェパード家〜

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 今日は両家顔合わせの日。
 無事シェパード家の第一子として認められた仁亜は、小春に見守られながらドレスに着替えていた。

「まあ…とっても似合っているわ、仁亜。その色のドレスを着こなすなんて…もうすっかり大人の女性ね」
「ありがとう、おかあさん。
 今までアイザックさんに子供扱いされる事が多かったから…少しは驚いてくれるといいなぁ」

 そう、実は私とアイザックさんは一回り年が離れているのだ。彼は32歳だという。
 最初に会った時は二十代後半くらいかと思っていたのでとても驚いた。そりゃあ妹のように扱われ、頭ポンポンとかされるわけだ。
 でも今後はそういう訳にはいかない。ちゃんと彼の婚約者として隣に立ちたい、そう思って選んだのは…藍色のドレスだった。
 ピンク好きの母は、早々に苺ミルク色のドレスを用意してくれていたけど、丁重に断った。
 一瞬ショックを受けたみたいだけど、藍色がいいと言うと「…うふふ、そういう事ね」と納得してくれた。
 そう、この色は…彼の髪色なのだ。我ながらめちゃくちゃ恥ずかしいけど、大人っぽく見えたし結果オーライだろう。
 そこへ、父である宰相シュルタイスと、弟のセイバーが入室してきた。

「おねえちゃん、支度はできた?クリステル家の馬車がもうすぐ来るよ。
 わぁ!すっごく綺麗!」
「ありがとう、セイバー」

 仁亜は喜んだ。

「フッ、とても美しいな………コハルよ。今日もなんて愛らしい」
「…シュウ、今日くらいは仁亜を見てちょうだい…」
「いいよおかあさん、いつもの事だから」

 こんな日でも母しか見てない平常運転の父に、むしろ安心した仁亜だった。





・・・・・・・





 やがて馬車が到着し、数人が降りてきた。
 まずはアイザックとその父であるオーウェンだ。小春が挨拶をする。

「皆様、遠い所からお越し頂きありがとうございます。すみません、本当はお互いの行き来しやすい場所にするべきでしたが…」
 申し訳なさそうにする小春に、アイザックが答えた。

「いえ、コハル様の体調が第一ですから。今日はお招きいただきありがとうございます」

 その隣では、オーウェンとシュルタイスが言葉を交わす。
「シュルタイス殿!お久しぶりですな。まさかこんな形で再会するとは…」
「オーウェン殿!城に中々いらっしゃらないので心配していましたが…お元気そうで良かった」

 どうやら二人は知り合いらしい。
 そして、なんと特別ゲストが二人いる。大将のイーサンと、女将の富美江だ。富美江はなんとも言えない顔で仁亜に話しかけた。

「…アタシらが来て本当に良かったのかねぇ?両家の顔合わせなんだろう?完全に場違いじゃないかい?」
「ううん、私も…おかあさんも是非来て欲しいって思って呼んだの。二人には日本で本当にお世話になったから。
 私にとっては第二のお父さんとお母さん、だもん」
「仁亜…まったくもう!泣かせようとするんじゃないよ!」

 イーサンも照れながら答える。
「嬉しい事を言ってくれるね。来てよかったよ。
 まぁオーウェンが『どうせ私が留守中に二人でイチャイチャするつもりでしょう?!そんなの嫌だ!兄上達もついてきて下さい!』って言うから、半ば強引に連れてこられたのだがね」
「うわぁそんなブラコン発言聞きたくなかった」

 仁亜は引いた。




・・・・・・・




 顔合わせは、仁亜が想像していたものとは大分かけ離れていた。
 両家がテーブルを挟んで向かいあって、お互いの事を話したり…とはならなかった。
 気づいたら各々がいつの間にかペアになって、話し始めてしまったからである。
 最初に一同が座っていたテーブルには、小春と富美江しか残っていなかった。

「驚いた!小春さんも、昔仁亜と同じA町の施設にいたのかい?!
 あそこにはよくお弁当やお菓子を持って行ったんだけど…うーん、悪いねぇ。ちょっと覚えてないよ」
「うふふ、気にしないで下さい。施設にいた頃の私は、人見知りで引きこもってばかりいたから…たぶん、直接お会いした事はないと思います。
 でも旅館の方から沢山差し入れを頂いた事は覚えています。改めて、ありがとうございました」
「仁亜もアンタも、本当に大変だったんだねぇ…でも今は幸せそうで良かったよ。赤ちゃん、楽しみだねえ」

 富美江は小春のお腹を見て微笑んだ。




・・・・・・・




 ―シュルタイスの自室には、オーウェンが招かれていた。

「…アイザックを国外追放しろと言った貴族は…コイツらか!」
 オーウェンは渡された書類を見て憤っていた。

「以前から何かと良くない噂を聞いているが…何か心当たりは?ヤツらの領地と、オーウェン殿の領地は近いはずだ」
「ああ、何やらコソコソとタナノフから宝石を仕入れていてな。購入しないかと言われたが、どれを見ても粗悪品だったので断ったが…」
「!それだ、最近王都で出回っているのは。貴族から多数の被害報告を受けていたのだ。怪しい商人から、本来の価値の倍以上の値段で宝石を買ってしまったと。
 表面だけ上手く加工されていて、中々気付けないという悪質なものだった」

 シュルタイスは書類を握りしめた。
「感謝する、オーウェン殿。
 裏が取れ次第、奴らこそ国から追放してやる」
「ああ。徹底的に潰してくれ」

 薄暗い部屋の中で、二人の目だけが鈍く光っていた。
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