渡り人は近衛隊長と飲みたい

須田トウコ

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後日談2の2 両家顔合わせ〜勘違いスケベ〜

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 ―シェパード家の厨房には、イーサンとセイバーがいた。

「…そう、そうやって薄く削いで…よし、完璧だ。後は油で揚げれば完成だ」
「すごーい!ボクにもお魚が捌けたー!」

 セイバーは、イーサンに料理を教わっていた。今夜は厨房を借りて、イーサンが日本料理を振る舞う予定だ。

「しかし、セイバー君はなぜ料理をしたいと思ったのだ?普段は専属の料理人がいるのだろう?」
「うん。でもいずれボクがお嫁さんと二人っきりで余生を過ごしたいと思ったら、やっぱり料理くらいはできなくちゃ駄目だなって」
「余生とは…大分気が遠くなるほど先の話だと思うが……。
 それに、お嫁さんの候補はもういるのかい?」
「うん、おかあさまのお腹の中にいるよ」
「?もう性別が分かったのか?」
「まだだけど…多分女の子だよ。ボクには分かるんだ」
「???」

 子供の考える事はよく分からないと、頭にハテナをつけるイーサンだった。




・・・・・・・





 ―そして庭園の隅にあるガゼボでは、仁亜とアイザックが休んでいた。

「凄いな此処は。城下町の広場も、城もよく見える」
「でしょ?私も初めて見た時感動しちゃいました。すっごくいい眺めなんだもん」
 そう笑顔で返す仁亜を、アイザックはまじまじと見た。

「景色も良いが…ニア、君はもっと素敵だ。そのドレス、とても似合っているよ」
「本当?!嬉しい!」
 彼の髪色に合わせた色だって、気づいてもらえただろうか。仁亜は密かに思う。

「ドレスの藍色が、ニアの肌色としっくりきていて…まるで、その色に出会うために生まれてきてくれたような…」
「…………」
 思った以上に壮大な話になっていた。それでも嬉しいと思ってしまう程、仁亜は舞い上がっていた。

「何か、今日は大事な顔合わせのはずなのに、私達をほったらかして…皆自由過ぎて訳わかんなくなっちゃいましたね」
「フッ、別にいいさ。誰もこの結婚に反対する者はいないしな」
「結婚…」
 アイザックから発せられた二文字の単語に、仁亜は反応した。

「…数ヶ月前、アイザックさんと初めて会った時は…まさかこんな事になるとは思ってなかったなぁ」
「どうした?まさか後悔し始めているのか?」
 ちょっと困り顔のアイザックを見て、仁亜は真っ赤になりながら慌てて否定した。

「違う違う!アイザックさん強いしカッコいいし隊長さんだし…なんか、私みたいな一般人とは一生縁のない人だと思ってて。
 …でも何でだろうね。最初に会った時の、あなたの寂しそうな顔がずっと頭に残ってたの。
 ふふっ、そっか。私はその時からずっと気になってたのかも」
「そうだったのか…少し照れるな。
 俺はニアと初めて会った時…その…事故があったからな…何かあれば責任を取って娶ろうと思っていた」
「えっ。いやいやいや、そこまで責任を感じなくても」

 当初胸を揉まれてしまったあの出来事か。でもわざとじゃないんだし、仕方ないのでは。
 じゃあもしかしたら、私でなく別の人とでも同じ事を思ったのだろうか?と、少しむくれた仁亜に気づかないまま、アイザックは続けた。

「確かにキッカケはそれだったが…ニアを護衛するうちに、どんどん君の魅力に引き込まれてしまったな。
 特に笑顔が良い。これからもずっと、俺の隣で笑っていて欲しい」
「おふっ」

 むくれていた顔が一転、ボン!と真っ赤になる仁亜だった。 

「そ、そういう事は平気でサラッと言うんですから…あ!良い風!き、気持ちいいですね」
 庭に吹く風が心地よい。仁亜はそっぽを向いて照れ隠しした。
 それを見て、アイザックは側にある席に座った。

「!ニア、ちょっとそのままでいてくれ。絵を描きたいんだ」
 そう言ってどこに持っていたのか、鉛筆と紙を取り出した。

「えっ、私ですか?それに今?」
「ああ。そよ風に吹かれているニアが綺麗だから、この瞬間を描いておきたいんだ。いいか?」
 早口で言いながら、返事を待たずに鉛筆を走らせていくアイザックだった。
 仁亜は笑顔で嬉しそうに、こう言った。

「ふふっ。アイザックさん上手だから、出来上がりが楽しみです。鉛筆…
 ですね、どうぞ描いて下さい」

「バキッ!」と、突然鉛筆が折れた。

「ら、ららだと?!」

 突然声が大きくなるアイザックに、仁亜も驚いた。
「わ!どうしたんですか?前も馬車に乗った時に描いていたじゃないですか?」
「い、いや描いてない描いてない!断じて!騎士道精神に誓って!」
「???そうだったんですか?」
「きょ、今日はとりあえずそのドレスを着たニアを描かせてくれ…!
 ……ま、まぁ…いずれは…描かせてもらいたいが…」
「?何をごにょごにょ言ってるんですか?あ、もうすぐ日が暮れちゃいますよ!早く描いたほうが…」
「あ、ああ、そうだな…」

 慌てて別の鉛筆で描き始めるアイザック。
 とんでもない勘違いであった。
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