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13. 白い微睡み
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ゆらゆらと、夢の狭間を彷徨っている。
ここがどこかも、自分が誰かもわからない。けれど、時折語りかけてくる声があんまりに優しいから、私はなんだか安心してしまって、また微睡みに身を任せる。
そんな時間が長く続いて───その日、朝の陽射しに導かれるようにして、私は目を覚ました。
「………………」
ゆっくりと、瞬きをする。
あたたかい。ふわりとした毛布に身体を包まれている。
──ああ、戻ってきたのね。
ぼんやりとする頭で、いつもの習慣をなぞる。カトレアが来る前に、今朝の"祈り"を終えなければ……。
そうして目を閉じ、背中に力を集中させたところで違和感を覚えた。
……おかしい。生命力が広がらない。どうして、館の寝台には陣を用意しているはずなのに───そこまで思い至って、私は目を見開いた。
違う。私は、地下に投獄された。
身体を起こそうとして、指先すら動かせないことに気づく。どうにか首を巡らせて、辺りを見渡した。
天蓋の付いた寝台。白を基調とした質素な、けれど品の良い清潔な室内。大きな窓からは朝の陽光が眩いばかりに射し込んで───
ここは、クレルシェンドではない。
それを理解した瞬間、枯れた喉から絶叫が迸った。
◆ ◆ ◆
「いやああああああああああああ!!!」
引き裂かれるような悲鳴が城中に響き渡った。
執務室にいた全員がはっと顔を上げる。
「アイリスか……⁉︎」
「あっちょっと陛下……!」
ギールの声を無視し、指を鳴らしてすぐに転移する。アイリスの為に整えた部屋の中で、寝台を囲むようにして侍女たちがおろおろと狼狽していた。
「何があった」
「いや、いやあ!」
「へ、陛下……クレルシェンド妃殿下が錯乱されて……」
「いや、どうして、どうして私は、」
「……君たちは退がるといい」
そう言って寝台で横になったまま声を枯らして叫ぶアイリスに近づく。
「アイリス。アイリス、俺が分かるか」
「どうして、ここは、私、戻らなきゃ、」
「聞いてくれアイリス、」
「私を、かえして!!!」
「───アイリス!」
彼女の痩せた頰を両の手で包み込む。
真上から覗き込めば、ややあって涙の膜が張った朝焼けの瞳が焦点を取り戻した。
「俺の目を見てくれ、アイリス」
「…………エド、ウィン?」
「そうだ。怖かったな、ひとりにしてすまなかった」
そっと手を離して寝台に腰掛ける。
「ここはヴォーデルム城。これまでのことは覚えているか?」
「私……私は、投獄されて、そこで……」
「少々強引に貴女の気配を辿ってクレルシェンドの城内に転移したんだが……想像以上に酷い状態だったからな、」
攫ってきてしまったよ。
そう言うと、呆然と瞬きしたアイリスが無理に身体を起こそうとして苦悶の表情を浮かべた。
「無理はいけない。貴女はひどく弱っている、しばらくはこのまま……」
「……ここは、ヴォーデルムなのですね?」
「ああ、そうだ」
「私、クレルシェンドに帰ります」
泣きそうに震える声でアイリスは言う。
「私には、王妃としての務めがあります。一日たりとも国を空けるわけにはいかないのです」
「……今、貴女を帰すことは出来ない」
「エドウィン……!」
「よく聞くんだ、アイリス」
もう一度その瞳を覗き込んで、俺はゆっくりと言葉を紡いだ。
「貴女は、クレルシェンドで精霊に自らの生命力を分け与えていた。そうだね?」
「……は、い」
「毎日、欠かさず行ってきたんだろう」
「そうです……」
「ならば、問題ない。かの地の精霊は充分に……貴女の命を吸い尽くすほど、力を受けているんだ。しばらく土地を離れたとしても、その貯蔵分ですぐに国が崩れることはない」
──内部でどんな綻びが出るかは知らないが。
浮かんだ言葉は口にしないまま、「そんな……」と眉を下げる彼女を見つめる。
まるで、帰り道を見失った迷子の子どものようだ。
「私、私は……」
「アイリス」
なおも言い募る彼女を柔らかく制する。
「貴女は今、とても傷ついている。その痛みを癒すのに、友の国へ療養に訪れたって、誰も貴女を叱りはしない」
「…………」
「……おやすみ、アイリス。貴女には何より休息が必要だ」
そう言って瞼に手を翳すと、彼女はとろとろとまた微睡みの中に落ちていった。
そうだ、此処では誰も貴女を叱らない。咎めない。
他の誰にも、もう貴女を傷つけさせない。
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