愛し合えない夫婦です

十人 秋夜

文字の大きさ
3 / 19
1、結婚なんてできません

はじめまして、いきなり結婚

しおりを挟む
「そんに気を使わなくても良いのよ。」

 王妃がお茶に誘ってくれたが、全く現実味のない時間がゆるゆると進んでいく。生涯関係を持たないことが普通の、王家の人達とこうして過ごす。緊張のあまり生きた心地もしないし、作っている笑顔も派手に乱れているだろう。

「そんなこと・・・・セルザイト殿下はいつ頃お戻りになられるのですか?お忙しいのであれば日を改めてまた伺いますが。」

 もう日はすっかり落ち、窓の外では溢れんばかりに星が煌めいている。セルザイト殿下は今日も忙しいようで、朝出かけたきり帰ってきていないそうだ。

「時期に帰ってくるわ。わざと会議を引っ張っているのよ。あの子だって後のお嫁さんと会うのに緊張しているの。
 お仕事全部片付けちゃわないと、式の準備とか色々忙しくなるの・・・」

「王妃様、セルザイト殿下がお戻りになりました。」

 明るく息子の話をしている王妃の声を、生真面目そうな侍女が遮る。

「少し休んだらここに来るように、伝えておいてくれるかしら。」

 侍女にまで丁寧な言葉遣い。貴族の人に会ったことなんてないけれど、おとぎ話などで聞いていた印象と王妃は似ても似つかない。
 しかし、たくさんいるお嫁さんと一人一人式なんて挙げるものだろうかと、疑問になる。

「セルザイト殿下には他のお妃はいらっしゃらないのですか?」

 セルザイト殿下は確か22歳。王族は一般と違い、いくら若くても結婚できる。だいたい20代のうちに全ての女性と結婚する。だから、セルザイト殿下にだって元からいるお嫁さんや、一番大切な正妻だっているはずだ。

「まぁ、いないわ。それに、あなたが正妻で、それ以外の妻は娶らないと言っていたわよ。」

 満面の笑みの王妃と、凍りついた作り笑いの自分。

ーー私が正妻?セルザイト殿下の正妻、王太子殿下妃になるってこと?

 いくら自分に問いかけたところで、返事なんてものは返って来ない。

「ど、どういう・・・」

 混乱した頭は相手の地位を知らないようで、失礼なことをしている自覚もないようだ。

「今まで恋愛にはちっとも興味なかったし、女の子ともなんでか恋愛の方向には進まないのよ。ちょっとぎこちなくても甘く見てね。」

 ただでさえ混乱しているのに、更に混乱させる王妃の声。
 
 こうして数いるお嫁さんのうちの一人でも、随分考えてここに来た。しかし正妻、しかもセルザイト殿下にとってたった一人の女性となるわけだ。
 それとそれでは話が違う。必要な覚悟の大きさも、背負う責任も桁が違う。

 正妻として、王太子殿下の妻として、自分はどうだろうか。セルザイト殿下は自分に魔力が無いことをいつも悔やんでいたそうだ。セルザイト殿下の弟であるノゼナイトには魔力がある。仕方のない遺伝子の問題だが、常にそのことを引きずっていた。

 そんなセルザイト殿下のために、自分が結婚すれば良いのなら・・・・


「母上、セルザイトでございます。」

 ドアの向こうから聞こえる低い声にどきりと胸を震わす。

「どうぞ。」

 ドキドキと鼓動が大きくなる。
 どんな人なのだろう。優しい人だろうか、思いやりのある人だろうか、期待と不安の入り混じった感情。もっと良い服があったら良かったのだろうけど、これが一番自分の中で良い服だった。そんな自分がとても惨めに思えた。

「あの・・・」

 どうぞ、と言われたのにセルザイト殿下はなかなか入らず、困惑したような声が聞こえてくる。

「どうしたの?早く入りなさい。」

 王妃はとても面白そうに、明るい声で言った。

 ゆっくりとドアが開く。見たい気持ちと、まだ見たくない気持ちがある。
 やはり我慢なんてできず、見てしまった。

 綺麗、なんて一言では表せないような男の人だった。

 背が高くて、すらっとしているのに、王太子としての威厳がある。今まで男性と深く関わったことはないけれど、セルザイト殿下が男性としてとても魅力的なのはよくわかる。整った顔立ち。王妃に似た甘い目元、輪郭は国王によく似ている。

「こちらが前に話したアーシャさんよ。あなたも座りなさい。そんなに長話はしないからね。」

 はじめここに座るよう促された際に感じた違和感の原因が、やっと分かった。なぜ二人しかいないのに向かい合うように座らなかったのか、セルザイト殿下が帰って来て自分とセルザイト殿下が向かい合うようにその位置だったのだろう。

「遅くなってしまい、申し訳ありません。」

「いえ、そんなことございません。お会いできてとても嬉しいです。」

 セルザイト殿下が丁寧に頭を下げるので、こちらがどうしたら良いのか分からなかった。どう、言葉を繋いだら良いのか一所懸命だ。

「突然な話でしたが、ご迷惑をおかけしていないでしょうか?」

 優しそうな人で良かったと胸を撫で下ろす。心のどこかで裕福な人は傲慢で自分のことしか考えていないような気がしていた。

「迷惑なんて、皆様とてもご親切ですから感謝ばかりです。本日もお忙しかったご様子で、お身体は大丈夫ですか?」
 
 この人が自分の夫となる。そう考えると不安もあるが、少し安心した。

「お気遣いありがとうございます。移動時間が長いので、仕事の量は多くないのです。」

 心地好い低い声。明らかにセルザイト殿下に対して好印象を抱いている。もしかしたら直ぐには無理でもいつかこの人のことを好きになって、愛せるかもしれないと思い始めていた。

「あら、随分と楽しそうね。あとは二人に任せるわ。セルザイト、お部屋に連れて行って差し上げなさい。」

 セルザイト殿下の暖かな手に引かれ、わずかな幸せを感じた。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...