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1、結婚なんてできません
はじめまして、いきなり結婚
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「そんに気を使わなくても良いのよ。」
王妃がお茶に誘ってくれたが、全く現実味のない時間がゆるゆると進んでいく。生涯関係を持たないことが普通の、王家の人達とこうして過ごす。緊張のあまり生きた心地もしないし、作っている笑顔も派手に乱れているだろう。
「そんなこと・・・・セルザイト殿下はいつ頃お戻りになられるのですか?お忙しいのであれば日を改めてまた伺いますが。」
もう日はすっかり落ち、窓の外では溢れんばかりに星が煌めいている。セルザイト殿下は今日も忙しいようで、朝出かけたきり帰ってきていないそうだ。
「時期に帰ってくるわ。わざと会議を引っ張っているのよ。あの子だって後のお嫁さんと会うのに緊張しているの。
お仕事全部片付けちゃわないと、式の準備とか色々忙しくなるの・・・」
「王妃様、セルザイト殿下がお戻りになりました。」
明るく息子の話をしている王妃の声を、生真面目そうな侍女が遮る。
「少し休んだらここに来るように、伝えておいてくれるかしら。」
侍女にまで丁寧な言葉遣い。貴族の人に会ったことなんてないけれど、おとぎ話などで聞いていた印象と王妃は似ても似つかない。
しかし、たくさんいるお嫁さんと一人一人式なんて挙げるものだろうかと、疑問になる。
「セルザイト殿下には他のお妃はいらっしゃらないのですか?」
セルザイト殿下は確か22歳。王族は一般と違い、いくら若くても結婚できる。だいたい20代のうちに全ての女性と結婚する。だから、セルザイト殿下にだって元からいるお嫁さんや、一番大切な正妻だっているはずだ。
「まぁ、いないわ。それに、あなたが正妻で、それ以外の妻は娶らないと言っていたわよ。」
満面の笑みの王妃と、凍りついた作り笑いの自分。
ーー私が正妻?セルザイト殿下の正妻、王太子殿下妃になるってこと?
いくら自分に問いかけたところで、返事なんてものは返って来ない。
「ど、どういう・・・」
混乱した頭は相手の地位を知らないようで、失礼なことをしている自覚もないようだ。
「今まで恋愛にはちっとも興味なかったし、女の子ともなんでか恋愛の方向には進まないのよ。ちょっとぎこちなくても甘く見てね。」
ただでさえ混乱しているのに、更に混乱させる王妃の声。
こうして数いるお嫁さんのうちの一人でも、随分考えてここに来た。しかし正妻、しかもセルザイト殿下にとってたった一人の女性となるわけだ。
それとそれでは話が違う。必要な覚悟の大きさも、背負う責任も桁が違う。
正妻として、王太子殿下の妻として、自分はどうだろうか。セルザイト殿下は自分に魔力が無いことをいつも悔やんでいたそうだ。セルザイト殿下の弟であるノゼナイトには魔力がある。仕方のない遺伝子の問題だが、常にそのことを引きずっていた。
そんなセルザイト殿下のために、自分が結婚すれば良いのなら・・・・
「母上、セルザイトでございます。」
ドアの向こうから聞こえる低い声にどきりと胸を震わす。
「どうぞ。」
ドキドキと鼓動が大きくなる。
どんな人なのだろう。優しい人だろうか、思いやりのある人だろうか、期待と不安の入り混じった感情。もっと良い服があったら良かったのだろうけど、これが一番自分の中で良い服だった。そんな自分がとても惨めに思えた。
「あの・・・」
どうぞ、と言われたのにセルザイト殿下はなかなか入らず、困惑したような声が聞こえてくる。
「どうしたの?早く入りなさい。」
王妃はとても面白そうに、明るい声で言った。
ゆっくりとドアが開く。見たい気持ちと、まだ見たくない気持ちがある。
やはり我慢なんてできず、見てしまった。
綺麗、なんて一言では表せないような男の人だった。
背が高くて、すらっとしているのに、王太子としての威厳がある。今まで男性と深く関わったことはないけれど、セルザイト殿下が男性としてとても魅力的なのはよくわかる。整った顔立ち。王妃に似た甘い目元、輪郭は国王によく似ている。
「こちらが前に話したアーシャさんよ。あなたも座りなさい。そんなに長話はしないからね。」
はじめここに座るよう促された際に感じた違和感の原因が、やっと分かった。なぜ二人しかいないのに向かい合うように座らなかったのか、セルザイト殿下が帰って来て自分とセルザイト殿下が向かい合うようにその位置だったのだろう。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、そんなことございません。お会いできてとても嬉しいです。」
セルザイト殿下が丁寧に頭を下げるので、こちらがどうしたら良いのか分からなかった。どう、言葉を繋いだら良いのか一所懸命だ。
「突然な話でしたが、ご迷惑をおかけしていないでしょうか?」
優しそうな人で良かったと胸を撫で下ろす。心のどこかで裕福な人は傲慢で自分のことしか考えていないような気がしていた。
「迷惑なんて、皆様とてもご親切ですから感謝ばかりです。本日もお忙しかったご様子で、お身体は大丈夫ですか?」
この人が自分の夫となる。そう考えると不安もあるが、少し安心した。
「お気遣いありがとうございます。移動時間が長いので、仕事の量は多くないのです。」
心地好い低い声。明らかにセルザイト殿下に対して好印象を抱いている。もしかしたら直ぐには無理でもいつかこの人のことを好きになって、愛せるかもしれないと思い始めていた。
「あら、随分と楽しそうね。あとは二人に任せるわ。セルザイト、お部屋に連れて行って差し上げなさい。」
セルザイト殿下の暖かな手に引かれ、わずかな幸せを感じた。
王妃がお茶に誘ってくれたが、全く現実味のない時間がゆるゆると進んでいく。生涯関係を持たないことが普通の、王家の人達とこうして過ごす。緊張のあまり生きた心地もしないし、作っている笑顔も派手に乱れているだろう。
「そんなこと・・・・セルザイト殿下はいつ頃お戻りになられるのですか?お忙しいのであれば日を改めてまた伺いますが。」
もう日はすっかり落ち、窓の外では溢れんばかりに星が煌めいている。セルザイト殿下は今日も忙しいようで、朝出かけたきり帰ってきていないそうだ。
「時期に帰ってくるわ。わざと会議を引っ張っているのよ。あの子だって後のお嫁さんと会うのに緊張しているの。
お仕事全部片付けちゃわないと、式の準備とか色々忙しくなるの・・・」
「王妃様、セルザイト殿下がお戻りになりました。」
明るく息子の話をしている王妃の声を、生真面目そうな侍女が遮る。
「少し休んだらここに来るように、伝えておいてくれるかしら。」
侍女にまで丁寧な言葉遣い。貴族の人に会ったことなんてないけれど、おとぎ話などで聞いていた印象と王妃は似ても似つかない。
しかし、たくさんいるお嫁さんと一人一人式なんて挙げるものだろうかと、疑問になる。
「セルザイト殿下には他のお妃はいらっしゃらないのですか?」
セルザイト殿下は確か22歳。王族は一般と違い、いくら若くても結婚できる。だいたい20代のうちに全ての女性と結婚する。だから、セルザイト殿下にだって元からいるお嫁さんや、一番大切な正妻だっているはずだ。
「まぁ、いないわ。それに、あなたが正妻で、それ以外の妻は娶らないと言っていたわよ。」
満面の笑みの王妃と、凍りついた作り笑いの自分。
ーー私が正妻?セルザイト殿下の正妻、王太子殿下妃になるってこと?
いくら自分に問いかけたところで、返事なんてものは返って来ない。
「ど、どういう・・・」
混乱した頭は相手の地位を知らないようで、失礼なことをしている自覚もないようだ。
「今まで恋愛にはちっとも興味なかったし、女の子ともなんでか恋愛の方向には進まないのよ。ちょっとぎこちなくても甘く見てね。」
ただでさえ混乱しているのに、更に混乱させる王妃の声。
こうして数いるお嫁さんのうちの一人でも、随分考えてここに来た。しかし正妻、しかもセルザイト殿下にとってたった一人の女性となるわけだ。
それとそれでは話が違う。必要な覚悟の大きさも、背負う責任も桁が違う。
正妻として、王太子殿下の妻として、自分はどうだろうか。セルザイト殿下は自分に魔力が無いことをいつも悔やんでいたそうだ。セルザイト殿下の弟であるノゼナイトには魔力がある。仕方のない遺伝子の問題だが、常にそのことを引きずっていた。
そんなセルザイト殿下のために、自分が結婚すれば良いのなら・・・・
「母上、セルザイトでございます。」
ドアの向こうから聞こえる低い声にどきりと胸を震わす。
「どうぞ。」
ドキドキと鼓動が大きくなる。
どんな人なのだろう。優しい人だろうか、思いやりのある人だろうか、期待と不安の入り混じった感情。もっと良い服があったら良かったのだろうけど、これが一番自分の中で良い服だった。そんな自分がとても惨めに思えた。
「あの・・・」
どうぞ、と言われたのにセルザイト殿下はなかなか入らず、困惑したような声が聞こえてくる。
「どうしたの?早く入りなさい。」
王妃はとても面白そうに、明るい声で言った。
ゆっくりとドアが開く。見たい気持ちと、まだ見たくない気持ちがある。
やはり我慢なんてできず、見てしまった。
綺麗、なんて一言では表せないような男の人だった。
背が高くて、すらっとしているのに、王太子としての威厳がある。今まで男性と深く関わったことはないけれど、セルザイト殿下が男性としてとても魅力的なのはよくわかる。整った顔立ち。王妃に似た甘い目元、輪郭は国王によく似ている。
「こちらが前に話したアーシャさんよ。あなたも座りなさい。そんなに長話はしないからね。」
はじめここに座るよう促された際に感じた違和感の原因が、やっと分かった。なぜ二人しかいないのに向かい合うように座らなかったのか、セルザイト殿下が帰って来て自分とセルザイト殿下が向かい合うようにその位置だったのだろう。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、そんなことございません。お会いできてとても嬉しいです。」
セルザイト殿下が丁寧に頭を下げるので、こちらがどうしたら良いのか分からなかった。どう、言葉を繋いだら良いのか一所懸命だ。
「突然な話でしたが、ご迷惑をおかけしていないでしょうか?」
優しそうな人で良かったと胸を撫で下ろす。心のどこかで裕福な人は傲慢で自分のことしか考えていないような気がしていた。
「迷惑なんて、皆様とてもご親切ですから感謝ばかりです。本日もお忙しかったご様子で、お身体は大丈夫ですか?」
この人が自分の夫となる。そう考えると不安もあるが、少し安心した。
「お気遣いありがとうございます。移動時間が長いので、仕事の量は多くないのです。」
心地好い低い声。明らかにセルザイト殿下に対して好印象を抱いている。もしかしたら直ぐには無理でもいつかこの人のことを好きになって、愛せるかもしれないと思い始めていた。
「あら、随分と楽しそうね。あとは二人に任せるわ。セルザイト、お部屋に連れて行って差し上げなさい。」
セルザイト殿下の暖かな手に引かれ、わずかな幸せを感じた。
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