恋の秘密はサファイアの瞳

十人 秋夜

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1、不思議な依頼

仲の良い三人

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 今日は、曇りだ。午前中なのに外は薄暗く、少し肌寒い。もうすぐ春になるというのに、まだ冬の面影を引きずる様子はどこか寂しげだ。

 王宮の裏に広がる森にある小さな小屋に、三人で暇つぶしに雑談をしている。無口だが可愛らしい笑顔を浮かべる少女、アルタイル。明るく天然な少年、ミーア。そして、サファイア。なかなか個性の強い三人だが、仲が良いのだ。

「昨日、飼ってる猫に引っ掻かれたんだ。見てよ、ひどいだろ?」

 ミーアは自分の腕を見せながら、言う。ミーアは猫愛好家で、猫がとにかく大好きだ。それなのにちっとも飼い猫に好かれず、撫でようとすれば襲われるらしい。その証拠にミーアの腕にはくっきりと三つの筋があり、痛々しい。

「しつこくするから避けられるのよ。」

 サファイアは言った。どうせ猫に溺愛しているミーアのことだから、しつこく追いかけ回しているのだろう。

「サファイア、いくらなんでもその言い方はひどいよ。あんなに可愛いんだから、追いかけたくなったって仕方ないでしょ。」

 やっぱり、追いかけていたのか。

「そんな正論、無いわよ。そんなんじゃそのうち相手にもされなくなるんじゃない?」

 はっきり言えばサファイアは、なかなかの毒舌だ。それでも優しさがあるからこそ、二人で思ったことを言い合える。

「ルルはそんなことしないの。」

 ミーアはツンとそっぽを向いて言ったが、サファイアもアルタイルまで笑っている。

「アルタイルにまで笑われてるわよ?」

 アルタイルは本当に可愛いらしい顔立ちをしている。以前、聞いたがミーアはアルタイルと家同士の関係で会ったことがあるそうだ。ミーアは、アルタイルのことが気になっているようだ。

「え! アルタイルが? アルタイル、俺そんなにしつこくしてないよ? ね、なんで笑うの?」

 少し焦っているミーアを見て、アルタイルは口元に手を宛てて笑っている。 ミーアに色んな質問をされると、明後日の方を向いた。

「ミーア、追いかけるんじゃなくて追いかけられるようになると良いわね。」

 サファイアは、笑いをこらえながら言った。オロオロするミーアも面白いし、クスクス笑うアルタイルも面白い。

「そんな目で見ないでよ。 それどういう意味?」

 アルタイルも不思議そうな目で、サファイアを見ている。ミーアはますます慌てた様子で見てくる。

(まぁ、それはそのうち分かるわよ。)

 サファイアは心の中で、密かに笑った。

「ほら、あなたのルルが帰って来たわよ。」

 窓の外に座ったルルは、首にハンカチを巻いていてそこには紙が挟んである。

「なんだろう。 仕事かな」

 言いながらミーアは、窓を開ける。紙を広げて、文面を読んでいる。あまり険しい顔をしていないことから、おそらくさほど重大な仕事ではないのだろう。

「『仕事があるから一人、王宮に来て欲しい』って、俺が行くよ。」

 ミーアはもう出かける支度をし始めている。ミーアが行くというならそれで、任せても良いだろう。

「えぇ、行ってらっしゃい。帰りが遅くなったら、家に帰るでしょう?」

 ミーアだって家は有力な貴族だ。家に帰らなければ面倒なことになるので、アルタイルもサファイアもミーアも日が落ちると家に帰る。

「多分そうなるから、先に帰ってていいよ。」

 カランという音を発てて、ミーアは出かけて行った。ミーアがいなくなると部屋は静かになり、先程の笑い声は嘘のようだ。サファイアもすることが無くなり、自分の飼っているフクロウのジストを呼ぼうかと考えている。アルタイルもぼんやりと窓の外を眺めている。

「サファイアさん、お聞きしたいことがあります。」

 サファイアは耳を疑った。無口で必要最低限のことしか話さないアルタイルが、質問なんて信じられない。しかし現実は現実であり、答えなければならない。

「な、何でしょう?」

 どう話したら良いのか分からず、ぎこちなくなってしまう。

「あ、あの・・・ ミーアさんのことなんですが・・・」

 アルタイルの声はどんどん小さくなって、顔は赤くなりとても恥ずかしそうに俯く。

「ミーアさんとサファイアさんはその・・・・・ どういう関係なんですか?」

 頬を真っ赤に熟れた林檎のように頬を染め、さらに俯く。なんだか、アルタイルの様子からなんとなく予想がつく。

「ただの友達ですよ?」

 もしかしたら、ミーアと自分の仲を気にしていたのかもしれない。それなら、アルタイルに悪いことをしてしまった。町中でベタベタする男女も、恋愛に溺れる少女も嫌いだ。けれど、信頼している二人の恋愛ならば素直に応援する。

「ミーアさんは・・・ その・・・縁談を進めておられる方ははいらっしゃるのですか?」

「いないと思いますよ。」

 だってミーアはアルタイルのことが好きなのだから、他の人と縁談を進めるようなことはしないと思う。

「ミーアさんは私のことどのように思っておられるのかご存知ですか?」

 それは、どこまで言って良いのだろうか。

「とても可愛らしい子だと言っていましたよ?」

 というよりよく言っている。私服姿が可愛いだの、照れた顔が可愛いと色々言っていた。

(同性の私だってアルタイルのことは可愛いと、思うもの。男の人ならなおさらよね。)

 アルタイルは頬をさらに赤く染めた。

「本当ですか?」

 消えてしまいそうな声は、とても嬉しそうだ。

 幼いころはいつか運命の人と結婚すると、信じていた。けれど今は恋愛なんかに全く興味ない。そもそも貴族の階級が上がれば上がるほど、自由にできることは少なくなる。領地を広げるためや、ただただ利益のために結婚させられるものだ。ミーアもアルタイルも貴族ではあるがあまり階級が高いわけではない。だからサファイアは二人の恋愛を応援しても、自分が恋愛をしたいと思わない。恋愛の裏には厄介なことがたくさんある。誰かが傷つき、傷つけられるのが恋愛というのならしたくもないし、関わりたくもない。

 

 私の恋人はこの仕事なのかもしれない。
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