恋の秘密はサファイアの瞳

十人 秋夜

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1、不思議な依頼

王宮極秘魔術科の娘

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 結婚しろ結婚しろとうるさい。両親も周りの人も結婚のことばかり。俺が誰と結婚しようと、関係ないくせに。イライラしながら、乱暴に書類に印を押す。
 
 分厚い木製のドアが開く。

「アレルキト様、入ります。」

 低い声の主は執事のケイセだ。黒い服と、眼鏡がよく似合う青年だ。

「用件はなんだ?」

 アレルキトはケイセには目も向けずに、黙々と印を押し続ける。ケイセも少しあきれたような視線で、アレルキトを見ている。

「来月の舞踏会のお相手なのですが・・・」

「俺は出ない。」

 ケイセの言葉を最後まで聞かず、はっきりと言い放った。ケイセは、はぁとため息つき重々しく口を開いた。

「最後まで話しを聞きなさい。 ですから、舞踏会のお相手にちょうど良い方が見つかったのです。」

 なんだか嬉しそうに言うケイセ。しかし、アレルキトはかなりあきれた様子だ。

「今までどれだけの女と会ったかお前なら知っているはずだが? で、誰なんだ?ちょうど良い相手って」

 初めは聞く気なんて全く無かったアレルキトだが、妙に自信あり気なので相手とやらが気になった。

「アレルキト様は、王宮直属の極秘魔術科というものがあるのを知っていますか?」

 ケイセはとても嬉しそうで、口元がすっかり緩んでいる。

「いや、知らない。何かの研究室か?」

「そうですか。 極秘魔術科は、主な警察などでは捕まえることの出来ない極悪組織などの捕獲や、他国との交流、直接的な王国を護るための優能力者の集まりなんです。」

 アレルキトは舞踏会の相手の話しよりもその極秘魔術科に興味があった。

「舞踏会と、その極秘魔術科になんの関係があるんだ。」

 ニコニコとするケイセが、なんだか勿体振っているような気がしてきた。

「その極秘魔術科に、アレルキト様にちょうど良い方がいらっしゃったのです。」

 一気に話しに興味が無くなった。そもそも話しにあまり興味は無かったのだが、その「ちょうど良い方」が実際にはちょうど良くなかったりもする。ちょうど良い人に限って、そういう結婚や舞踏会、社交界に興味が無く、知識も無かったりするのだ。

「誘うな。」

 この話しに意味があったのは、王宮直属の極秘魔術科という面白そうなものがあるということを知った。それだけだ。
 ケイセは全く動じていないが、好きどころか会ってもない女と触れたり何だりなって無理だ。キスなんて想像しただけで、吐き気がする。

「それなら極秘魔術科の見学もかねて、その人と会ってみてはどうでしょう?」

 その条件は断ろうとしたが、極秘魔術科がどのようなものかは気になる。会うだけで良いのなら、行っても良いかもしれない。

「分かった、近いうちに行くとしよう。」

 元々気持ち悪いぐらいの笑顔のケイセはさらに笑顔になり、頷く。

「では、予定に入れておきます。」




~極秘魔術科見学~

 近いうちとは言え、いくらなんでも次の日の午前中とは思わなかった。極秘魔術科の本部があるのは王宮の裏から山にかけてある、森の中心。誰かが通った獣道のようなものを辿って行くと、小屋があった。入口と思われるドアにはきちんと王宮のマークである、濃紺の梟の印がある。

 中に入ると、やはり普通の山小屋だ。出て来たのは、自分と同年齢ぐらいの青年だ。無造作な金髪に、愛嬌のある朱色に近い黄色の目。いたって普通の青年。 部屋には机と、奥に何部屋かあるようだ。部屋には誰もいなかった。仕事で出かけていたら良いのに、と思ったがケイセがそんな甘いことをするとは考え難い。

「国王陛下、お待ちしておりました。」

 青年はニコニコと笑っている。ケイセとは違うタイプの人なのか、笑っても全く違和感が無い。

「いえ、わざわざ時間を頂きありがとうございます。」

 ケイセがよそ行きの言葉使いと態度で、軽く頭を下げる。 ケイセに渡された資料に目を落とすとあと二人、女がいるはずだが姿も気配も無い。せっかく来たのだから、自分と同じ魔力を持った人に会いたかったが彼しかいないのなら仕方ない。

「えーと、僕がミーアです。あとアルタイルとサファイアがいます。」

 ミーアの視線の先には灰色のフードを被った、十代ぐらいの女が立っていた。かなり深くフードを被り顔はほとんど見えない。
 サファイアという女の姿は見えないが、書類を見るとこの中のリーダー最も強い魔力を使いこなすことができるようだ。その彼女の姿が見れないのは残念だ。

「サファイアさんは仕事ですか?」

 国王ともなればもっと見くびった話し方をしてもいいのかもしれないが、悪評がたつと面倒だ。まだ朝も早いのに仕事に行くなんて、以外と忙しいのかもしれない。
 質問に対してミーアは、目を逸らした。何かあったのだろうか。

「そこに、いますよ?」

 ミーアが指を指した先、すぐ隣に、アルタイルと同じような紺色のフードを被った女がいた。壁にもたれかかり、ぼんやりと窓の方見ている。つまり、探していた人はすぐとなりにいた。それは遠慮がちに言うだろう。問題はいつからそこにいたか、だ。ケイセもかなり驚いていて、口をあんぐりと開けている。

「い、いつからそこに、いたのですか?」

 多少の動揺を感じるが、一応冷静なケイセは率直な質問をする。素直に自分もそう思った。入って来たときは確かに、いなかったのだ。前を通った訳でも無いし、気配も全く感じなかった。

「初めからいましたよ?」

 平然と言うミーアだが、ケイセは驚いている。王宮直属の極秘魔術科というだけあって、普段からこんな生活をしているのだろうか。

「王宮極秘魔術科、サファイアです。挨拶が遅れ、申し訳ありません。」

 丁寧に腰を折る。一緒にアルタイルも腰を折る。小さく透けているような声だが、簡単に流されるような弱さではない。
 ここに来た本当の目的を、切り出す。

「無理ならばいい。良ければ実力拝見として、私と戦ってみないか?」

 自分以外の魔力を持った人は、どのような使い方をしているのか興味がある。それに、サファイアという娘も興味がある。

「良いですが、誰と戦いますか?」

 誰とかはもう決まっているが、アルタイルも気にはなる。一言も喋らない少女、とても謎めいている。それでも、やはり・・・

「彼女で良いかな? サファイア?」

 何故か、理由は簡単だ。リーダーであり、最も実力があると判断した。ただ、ケイセが言っていたちょうど良い娘がどっちなのかまだ分からない。けれどサファイアなら知識も豊富で、賢そうだ。

「あ、あの僕じゃ駄目ですか?」

 ミーアが申し訳なさそうに言う。

「何故だ?」

 サファイアでは何故駄目なのか、何かいけないことでもあるのだろうか。それとも、リーダーのサファイアだからだろうか。

「サファイアはその、女の子ですし・・・」

 なんだか言い訳のように聞こえるミーアの言い分。サファイア本人の意見はどうなのだろう。サファイアが嫌というなら、しかたない。

「私は構いませんが。」

 凛とした透き通った声にその場が凍りついたように静まり返る。

「なら、すぐにでも始めよう。」



~実力拝見~

 サファイアは空間魔術と氷魔術を使うそうだ。自分は炎と時間の魔術を使える。魔術は血で決まるようで、父が炎、母が時の魔術を使う。どちらも遺伝することもあれば、片方しか遺伝しないこともあるそうだ。
 サファイアの空間魔術で異空間を造り、そこで戦う。実力拝見なので、ある程度で終了だ。使用して良いのは、魔術のみ。

「えーと、か、開始」

 ミーアの情けない声で始まると、サファイアは消えたこれが空間魔術なのだろうか。地面から、太く鋭い氷柱が生える。下がると、次から次へと生えてきて氷柱の生える速さも速くなる。気付けばもう、異空間の壁に尽いていた。身動きが取れないと思えば、四方から重圧がかかって来てどうにも動けない。それでも手の平に力を込め氷柱に当てる。瞬時に氷柱は溶けた。けれど動けるようになる訳ではなく、サファイアがどこにいるのかも分からない。
 音も無くゆっくりと舞い降りてきた。息すら乱れず、涼しげな雰囲気に身を纏うサファイア。細くて長い腕を突きつける、高く振り上げる。抵抗できないことが悔しく、時の魔術を使う。ほんの十秒程しか止まらないが、それが今できる限界の抵抗だ。けれど、サファイアの周りを氷が包む。
 その向こうで、わずかに覗いたサファイアの顔が優しく微笑む。

綺麗だ・・・

 そんなふうに思ったのは一瞬で、気付けば思いっきり倒れ込んでいた。
 

 顔は見えない。それでも、優しく手を差し出される。握り返す。けれどほとんど体重をかけず、自力で立ち上がる。



 サファイア。本当にサファイアを埋め込んだような瞳をしていた。



  その瞳は何を見つめているのだろう。
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