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プロローグ
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夜の港。
明かりを照らし船乗りたちが荷を積み込み、合図を送り合う声が聞こえてくる。
深夜であろうとも離着岸する貨物船があるため、港は活気づいている。
天候は良好、隣の大陸へと出港する準備が着々と整っていく。
そんな中、息をひそめて物陰に隠れる少年がいた。
彼のまとっている服は華美ではないものの、見るからに質が良い。
船員の隙を狙って、少年は船にするりと忍び込んだ。
人目につかぬようワインの大樽の隙間に入り込み再び隠れる。
気を張り詰めて出港の時を待つ。
ほどなくして船からタラップが外され、船が動き出すのを確認すると、ようやくほっとして全身から力が抜けた。
逃げ回って来た疲れと、無事に国を抜け出すことができた安心から、急に抗えない眠気に襲われ、意識を手放した。
船が旅立った港町では、影のような者たちが、まだ少年を探していた。
この後、港が一時閉鎖され、停泊していた船は全船で荷検めが行われることになるのだが、少年はギリギリのタイミングで逃げおおせたのだった。
眠りこけているところを船員に見つかり、船長の前に引っ張り出されると、こっぴどくどやされたが、服に着けていた宝石のブローチを運賃に差し出すと、船から放り投げられることなく、なんとか隣の大陸まで乗せてもらえた。
そうして住み着いたのは、オーウェルズ国サガン。
オーウェルズ最大の港町である。
サガンで少年はリアムと名乗った。
リアムは船から降りてすぐに、着ていた上質な服を中古屋に売りに行った。
国を追われる際、わずかな現金も宝石も持ち出せなかった。
当面の生活費として金が必要だったため、服を売ることにしたのだ。
その中古屋で下町の孤児が着ているボロ布のような服を購入し着替える。
「坊や。あんたどこかの貴族だろ?訳アリみたいだけど、今夜泊まるところはあるのかい?」
中古屋の店長と思われる中年の女性が、見かねて問いかける。
リアムは黙って首を横に振った。
「そうかい。その道の奥に行った所に船問屋があるんだけど、年中人が足りないって女将のメアリが嘆いているから、もしかしたら仕事がもらえるかもしれないよ。行ってごらん」
リアムは礼を言って、言われた通りメアリの船問屋へ行ってみた。
生きていくには仕事が必要だ。
メアリの船問屋は異国から来た船乗りたちが泊まる宿屋兼、荷運びを生業とする店のようだった。
客でごった返し、確かに万年人手不足というほどに、皆が走り回って仕事をこなしている様子だ。
働きたいことを伝えると、リアムはすぐに気に入られた。
なにしろ、ぼろ布をまとっていても周囲から浮いてしまうほどにリアムは特別だった。
外国からの宿泊客の言葉がわかる、というのも強力な武器である。
小さな物置のような部屋が与えられ、ここで世話になることになった。
そうして身を隠しながらサガンで暮らして2年後、リアムはサガンを治めるスチュワート伯爵家の娘ルシアと出会った。
まだ幼かったルシアは、共の者とはぐれ道に迷っていた。
人さらいの男に連れ去られようとしていたところを助けたのをきっかけに、リアムは伯爵家に招聘され執事として働くことになった。
「リアム大好き!」
そう言ってぎゅっと抱き着いてくるルシアに、リアムのすさんだ心は癒されていく。
伯爵家で穏やかに過ごすうちに、10年の時が流れた。
ルシア・スチュワート伯爵令嬢、16歳。
リアム・ロード、20歳。
二人の運命を大きく変える夏が、始まる。
明かりを照らし船乗りたちが荷を積み込み、合図を送り合う声が聞こえてくる。
深夜であろうとも離着岸する貨物船があるため、港は活気づいている。
天候は良好、隣の大陸へと出港する準備が着々と整っていく。
そんな中、息をひそめて物陰に隠れる少年がいた。
彼のまとっている服は華美ではないものの、見るからに質が良い。
船員の隙を狙って、少年は船にするりと忍び込んだ。
人目につかぬようワインの大樽の隙間に入り込み再び隠れる。
気を張り詰めて出港の時を待つ。
ほどなくして船からタラップが外され、船が動き出すのを確認すると、ようやくほっとして全身から力が抜けた。
逃げ回って来た疲れと、無事に国を抜け出すことができた安心から、急に抗えない眠気に襲われ、意識を手放した。
船が旅立った港町では、影のような者たちが、まだ少年を探していた。
この後、港が一時閉鎖され、停泊していた船は全船で荷検めが行われることになるのだが、少年はギリギリのタイミングで逃げおおせたのだった。
眠りこけているところを船員に見つかり、船長の前に引っ張り出されると、こっぴどくどやされたが、服に着けていた宝石のブローチを運賃に差し出すと、船から放り投げられることなく、なんとか隣の大陸まで乗せてもらえた。
そうして住み着いたのは、オーウェルズ国サガン。
オーウェルズ最大の港町である。
サガンで少年はリアムと名乗った。
リアムは船から降りてすぐに、着ていた上質な服を中古屋に売りに行った。
国を追われる際、わずかな現金も宝石も持ち出せなかった。
当面の生活費として金が必要だったため、服を売ることにしたのだ。
その中古屋で下町の孤児が着ているボロ布のような服を購入し着替える。
「坊や。あんたどこかの貴族だろ?訳アリみたいだけど、今夜泊まるところはあるのかい?」
中古屋の店長と思われる中年の女性が、見かねて問いかける。
リアムは黙って首を横に振った。
「そうかい。その道の奥に行った所に船問屋があるんだけど、年中人が足りないって女将のメアリが嘆いているから、もしかしたら仕事がもらえるかもしれないよ。行ってごらん」
リアムは礼を言って、言われた通りメアリの船問屋へ行ってみた。
生きていくには仕事が必要だ。
メアリの船問屋は異国から来た船乗りたちが泊まる宿屋兼、荷運びを生業とする店のようだった。
客でごった返し、確かに万年人手不足というほどに、皆が走り回って仕事をこなしている様子だ。
働きたいことを伝えると、リアムはすぐに気に入られた。
なにしろ、ぼろ布をまとっていても周囲から浮いてしまうほどにリアムは特別だった。
外国からの宿泊客の言葉がわかる、というのも強力な武器である。
小さな物置のような部屋が与えられ、ここで世話になることになった。
そうして身を隠しながらサガンで暮らして2年後、リアムはサガンを治めるスチュワート伯爵家の娘ルシアと出会った。
まだ幼かったルシアは、共の者とはぐれ道に迷っていた。
人さらいの男に連れ去られようとしていたところを助けたのをきっかけに、リアムは伯爵家に招聘され執事として働くことになった。
「リアム大好き!」
そう言ってぎゅっと抱き着いてくるルシアに、リアムのすさんだ心は癒されていく。
伯爵家で穏やかに過ごすうちに、10年の時が流れた。
ルシア・スチュワート伯爵令嬢、16歳。
リアム・ロード、20歳。
二人の運命を大きく変える夏が、始まる。
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