私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

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第17話 国王からの召喚状

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 領主であるはずのアンドレイ侯爵を排除して、領地の割譲についての話し合いは行われた。

 巨額の借金と引き換えに、広範囲の領地がゴート商会に接収されることとなった。

 これで借金はチャラになるが、ゴート商会を通して生活用品が購入されており、その代金は新たな借金としてゴート商会が債権を持つ。

 愚かな侯爵夫人と令嬢は、値の張るドレスや宝石類をいまだに買い漁り、ゴート商会はあえて自由に買い物をさせ、借金が膨れ上がっていくままにしている。

 もちろんゴート商会とはリアムが設立したスチュワート家の隠れ蓑である。

 直接的にはスチュワート家との関連性は見えないようになっている。

 アンドレイ侯爵家の領地の大部分がゴート商会を仲介して、スチュワート伯爵が買い上げた形になった。

 税収の上がる豊かな農地も、栄えた繁華街も手放してしまったアンドレイ侯爵家は、収入源を断たれすでに再起不能となったが、侯爵自身はまだそのことに気が付いていない。

 大きな決断を下すことになった家令は、いつの間にか侯爵家から姿を消していた。

 侯爵家の経営を一手に引き受けていた家令が失踪し、侯爵家は上を下への大騒ぎである。


◆◆◆


 その頃、ローガン・スチュワート伯爵のもとに、国王からの召喚状が届いた。

 さすがに国王の情報網に侯爵領の買い上げが引っ掛かったのだろう。

 もともとオーウェルズ屈指の大富豪であるスチュワートが、広大な侯爵領を手中に収めたとなれば、王家も黙っていられない。

 ローガンは身だしなみを整えると、やれやれと王宮に上がった。

「ローガン・スチュワート、国王陛下の召喚に応え参内いたしました」

 ローガンが国王の前に頭を垂れた。

 国王は謁見の間に設えられた玉座に座り、その斜め後ろに第一王子と第二王子が控えている。

「顔を上げよ。ローガン、ずいぶん派手にやってくれたな」

「はて。何のことですかな」

「そのようにわかりやすくとぼけるな。経緯は知っておる。一体どういうつもりなのか、申し開いてみよ」

「私としましては、人助け以外に何の思惑もありません。アンドレイ侯爵家が莫大な借金を踏み倒さんとし、多くの民が困っておりました。侯爵家からの支払いがないせいで資金繰りが悪化し一家心中を覚悟した者までいるのです。たまたまその窮状が耳に入ったものですから、融資を申し出たわけです」

「たまたま耳に入るとは、なんとよくできた話だな」

 国王はあきれたように言う。

「そう申されましても、放っておけるほど薄情でもなかったものですから」

「だとしても、領地を巻き上げたのはやりすぎだな」

「巻き上げるなど、心外ですな。こう申しては身も蓋もないが、アンドレイ侯爵殿には健全な領地経営ができないことは一目瞭然。私が肩代わりした借金だって返せはしなかったでしょう。そこで領地を預かり、収益を上げ、借金返済の手伝いをしようとしたまで。返済が終われば領地を返しますとも」

「この狸め。子飼いの商会を使ってまた借金漬けにしておいて、返済が終われば領地を返すなどと。永遠に借金は終わらないのであろう」

「はて。まさか領地を失ってまで散財を繰り返すなどと誰が思いますか」

「領地を失った認識もなさそうだがな。まぁよい。侯爵家に運営能力がないことは顕著である。本日をもってアンドレイ侯爵家は爵位を返上、スチュワートが買い上げた元侯爵領は王家直轄地とする。スチュワート家が肩代わりした借金については相応の補償をしよう。よいな」

 ローガンは頭を下げて同意した。

 スチュワート家にとって収支は赤字であるが、目的は達成したのでローガンは満足そうな表情である。

 元侯爵夫妻とスカーレットは平民となり、強制労働施設へ送られ、労働賃金が王家への返済に充てられる。

 賃金など微々たるものだから、死ぬまで施設から出ることは叶わないであろう。

 こうしてアンドレイ侯爵家は没落した。

 それなりの大きな派閥を持つ侯爵家だが、資金繰りが悪化してからは政治にもたいした影響力を持たなくなっていたため、王家にとってはさしたる問題ではない。

 派閥下にいた下級貴族たちは今後、出世の道が断たれた形となるが、それもどうでもいい。

 国王も二人の王子たちも、すました顔であった。

「ところでスチュワート伯爵」

 第二王子のナリスがローガンに話しかけた。

「はい」

「先日はご令嬢とダンスの約束をしていたにもかかわらず、約束をたがえてしまった」

「そのように気にかけていただいただけで娘も満足でございましょう」

「私が気にかかるのだよ。埋め合わせをさせてはくれないか」

「もったいないことでございます」

「茶会を用意しようと思うが、ルシア嬢は来てくれるだろうか」

「大変ありがたいお申し出ですが…ルシアはすでに王都を離れ、領地におります。ご存知の通り領地は遠く参内するには時間がかかりますゆえ、またの機会に」

 無理を押して王都へ来いとは言えまいと踏んでそう答えたが、ナリスは簡単には引き下がらなかった。

「それはちょうどよかった。実は来月、アンダレジア国第二王子の結婚式に参列する予定でね。伯爵の領地から船に乗ることになっているんだ。その時にでも会いに行くよ」

 アンダレジア国はスパニエル大陸の最南端の国である。

 スチュワート領の港町サガンからアンダレジア行きの船が出る。

 必然、スパニエル大陸へ向かうときはサガンに数日滞在することになる。

 サガンで旅支度を整え、出港を待つ。

 王子が滞在するとなれば、領主の屋敷に迎えることになるだろう。

「…それは光栄です。ぜひお越しください」

 ついにローガンが折れた。

「息子が世話になる。頼んだぞ、ローガン」

 ナリスが令嬢に興味を持つことが珍しかったので、国王もルシアに関心を寄せていた。

 スチュワート伯爵家は政治的には要職に就いていないが、国一番の資産家で保有資産はずば抜けている。

 もしナリスの後ろ盾となれば、メリットは大きい。

 ローガンが王家との婚姻に後ろ向きなことは見て取れるが、いざとなれば王命で婚約すればよい。

 国王は楽しそうに口元を緩めた。

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