あなたを消すには愛しすぎた

玖保ひかる

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プロローグ

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 リビアは幼い頃に過ごした邸に足を踏み入れた。

(あの頃と変わらないわ…)

 時間の流れに取り残されたこの場所で感じるのは、懐かしさと少しの胸の痛みだ。

 邸の管理を頼んでいた近所の領民も年老いて姿を見なくなり、今はその娘夫婦が掃除をしてくれている。後で礼をやらなくては、と考えながら地下への階段を下り、貯蔵庫の更に奥、人目につかない小さな部屋への扉を開けた。

「…リビア?リビアなのかい?」

 久しぶりの再会に、驚きながらリビアの名を呼んだのは、ハルトの弾んだ声。

「お兄様、久しぶりね」

「本当に久しぶりだ。最後に会ったのはたしか、お前の娘のジョーが双子を産んだ時だったかな」

 リビアは小さく頷いた。

「そうだったかしら」

「あれから何年経ったのかな」

「20年よ」

 生まれた双子の孫たちは、今年20歳になり、それぞれの青春を謳歌している。

「ああ、そんなに経ったのか…」
 
 ハルトは感慨深そうに息を吐いた。

「それで、今日はどうしたの?何でも相談に乗るよ」

 リビアは困ったように首を横に振った。

「いいえ、違うのよ、お兄様。私もすっかり年を取ったの。夫を亡くしてから、もう何年もたったわ。最近は体の調子も悪くてね、人生の最期はこの家で迎えたいと思って帰って来たのよ」

「本当かい?じゃあまた一緒にいられるんだね」

「ええ、でもお兄様、お願いがあるの」

「…ああ、リビア」

 ハルトはもう、リビアが何を願うのか、わかったようだった。

「僕を殺しに来たの?」

 リビアはほんのわずかも躊躇せず、優しい瞳でハルトを見つめながら言った。

「そうよ。お兄様、消えてくださる?」

 しばし沈黙がおりた。それから決断したようにハルトは答えた。

「いいとも」

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