森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

文字の大きさ
22 / 46

第20話 それは敗北感に似て

しおりを挟む
 孤児院での生活も決して楽ではなかった。

 院長先生は説法に出かけたり、寄付を募ったり、金策に駆けまわっていた。

 子供たちの中でも年長で目端の利く者は、農家の手伝いや店の下働きをして、わずかな賃金を得たりしていた。

 それでも資金難で、ガタのきている建物を修繕する余裕など到底なく、よく雨漏りがしたものだった。


「わたくしも、母が亡くなった時は悲しくてたくさん泣きましたわ。でも兄は一度も泣かずにわたくしを抱きしめていました。子供の時は、兄は悲しくないのかしらと思っていたけれど、今ならわかります。兄は心で泣いていたのですわ。きっと、レオンさんも同じですね」

「そうか・・・」


 アリステルにそう言われて、レオンは初めて親を失った悲しみが自分の中にあることに気が付いた。

 それは、すでに時間が経ち色あせた悲しみだったけれど、たしかに胸にあった。

 その気持ちをアリステルが優しく受け止め、浄化してくれたように感じ、レオンは一人、深い感動を覚えた。

 野営の準備を終え、アリステルの横に腰を下ろす。


「これからどうするつもりなんだ?」

「スコルト国へ行ってみようかと」

「スコルトか」

「ええ、兄がいるはずなんです。スコルト国の研究機関で農作物の研究をしているのです。だいたいの住所はわかるのです。お手紙を書いていたので」

「そうか。では夜が明けたらスコルト国を目指そう」


 アリステルは大きな目をぱちくりと瞬かせ、レオンを見た。


「レオンさんもスコルト国へ行ってくださるのですか。わたくしと一緒に?」

「そのつもりだ。今は何も仕事を引き受けていないし、どこへ行く当てもない。二度も命を助けたのだ。これも何かの縁だろう。それに、放っておいたらアリスは何度でも危ない目に遭いそうだからな」


 アリスは内心とても嬉しかった。

    やはり心細かったのだ。

 それに考えてみれば、馬車も御者もいなくなってしまい、スコルト国への行き方をアリステルはわからなかったので、レオンの申し出は大変ありがたい。

    しかし、自分の事情にレオンを巻き込むのは、申し訳ない気がした。


「わたくし、護衛代をお支払いできますわ。少しですけれども…。働いて貯めたお金がありますの。だから、わたくしの護衛をお願いしますわ」

「金はいらない。俺がアリスに付いて行きたいのだ。アリスと旅をするのもいいかと思ったから」


 アリステルは代金を支払いたかったけれども、レオンの優しさに甘えることにした。


「あ!そうだわ。レオンさんに渡すものがありますの」


 アリステルは自分のカバンがしっかりレオンによって運ばれていたことに安堵した。

 カバンの中から小さな包みを取り出し、レオンに渡した。


「命を助けていただいたお礼です。あの、1回目の」


 初めて一人で買い物へ行った時にレオンに、と選んだ品だ。

 そう、あのナンパされ、リリーが合流して、一人での買い物ではなくなったあの日である。


「礼などいらないと言ったのに」

「そういうわけにはいきませんと、わたくしも言いましたわ」

「・・・では、ありがたくいただこう。開けてもいいか」

「もちろんですわ」


 アリステルは包みを開けるレオンをニコニコと眺めている。

 包みの中には、黒い輝く石、オニキスが連なったブレスレットが入っていた。

 ところどころにゴールドの装飾が付いている。


「レオンさんの髪と瞳はオニキスのようでしょう?きっと似合うと思って」


 レオンは左手首にブレスレットを付けた。


「ゴールドはアリスの髪の色だな」

「まぁ!本当だわ」


(まるで恋人同士だ)


 そう思ったが、口には出せなかった。

 照れくさく感じた自分に愕然とする。

 アリスにはそんな意図はないのだ。馬鹿なことを考えるな。


「石にも意味があって、オニキスは魔をよけ、災いから身を守ってくれるのですって。冒険者のレオンさんにぴったりでしょう?」


 うふふふ、と嬉しそうに笑うアリスを見て、胸が温かくなる。


「ありがとう、アリス。しかし、ずいぶん頑張ったな。働いてお金をためたのだろう?えらいな」


 そう言ってアリスの頭を軽くなでると、アリスの頬がじんわりと赤くなり、認められたことへの嬉しさに涙ぐんだ。

 潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、レオンは完全に胸を射貫かれた。


(だ、ダメだ、かわいすぎる)


 それは敗北感に似て、レオンはよろよろと崩れ落ちた。


「まぁ!レオンさん。お疲れになったのでしょう。レオンさんも少し休んでください。よかったらここに頭を乗せて横たわってください」


 そう言って自分の膝を示す。

 無邪気すぎるアリステルに、レオンはさらなるダメージを受けたが、何とか耐え、首を振った。


「大丈夫だ。食事にしよう」


 レオンはアリステルの膝から自分の視線を引きはがし、手早く背嚢から干しパンと干し肉を取り出し、夕飯の支度を始めた。

 干し肉を茹でて塩味を付けただけのスープを作った。

 マーリクのキャラバンと共に移動したときに、干しパンを食べたことがあったアリスは、礼を言って受け取り、スープに固いパンを浸して食べた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

処理中です...