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第20話 それは敗北感に似て
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孤児院での生活も決して楽ではなかった。
院長先生は説法に出かけたり、寄付を募ったり、金策に駆けまわっていた。
子供たちの中でも年長で目端の利く者は、農家の手伝いや店の下働きをして、わずかな賃金を得たりしていた。
それでも資金難で、ガタのきている建物を修繕する余裕など到底なく、よく雨漏りがしたものだった。
「わたくしも、母が亡くなった時は悲しくてたくさん泣きましたわ。でも兄は一度も泣かずにわたくしを抱きしめていました。子供の時は、兄は悲しくないのかしらと思っていたけれど、今ならわかります。兄は心で泣いていたのですわ。きっと、レオンさんも同じですね」
「そうか・・・」
アリステルにそう言われて、レオンは初めて親を失った悲しみが自分の中にあることに気が付いた。
それは、すでに時間が経ち色あせた悲しみだったけれど、たしかに胸にあった。
その気持ちをアリステルが優しく受け止め、浄化してくれたように感じ、レオンは一人、深い感動を覚えた。
野営の準備を終え、アリステルの横に腰を下ろす。
「これからどうするつもりなんだ?」
「スコルト国へ行ってみようかと」
「スコルトか」
「ええ、兄がいるはずなんです。スコルト国の研究機関で農作物の研究をしているのです。だいたいの住所はわかるのです。お手紙を書いていたので」
「そうか。では夜が明けたらスコルト国を目指そう」
アリステルは大きな目をぱちくりと瞬かせ、レオンを見た。
「レオンさんもスコルト国へ行ってくださるのですか。わたくしと一緒に?」
「そのつもりだ。今は何も仕事を引き受けていないし、どこへ行く当てもない。二度も命を助けたのだ。これも何かの縁だろう。それに、放っておいたらアリスは何度でも危ない目に遭いそうだからな」
アリスは内心とても嬉しかった。
やはり心細かったのだ。
それに考えてみれば、馬車も御者もいなくなってしまい、スコルト国への行き方をアリステルはわからなかったので、レオンの申し出は大変ありがたい。
しかし、自分の事情にレオンを巻き込むのは、申し訳ない気がした。
「わたくし、護衛代をお支払いできますわ。少しですけれども…。働いて貯めたお金がありますの。だから、わたくしの護衛をお願いしますわ」
「金はいらない。俺がアリスに付いて行きたいのだ。アリスと旅をするのもいいかと思ったから」
アリステルは代金を支払いたかったけれども、レオンの優しさに甘えることにした。
「あ!そうだわ。レオンさんに渡すものがありますの」
アリステルは自分のカバンがしっかりレオンによって運ばれていたことに安堵した。
カバンの中から小さな包みを取り出し、レオンに渡した。
「命を助けていただいたお礼です。あの、1回目の」
初めて一人で買い物へ行った時にレオンに、と選んだ品だ。
そう、あのナンパされ、リリーが合流して、一人での買い物ではなくなったあの日である。
「礼などいらないと言ったのに」
「そういうわけにはいきませんと、わたくしも言いましたわ」
「・・・では、ありがたくいただこう。開けてもいいか」
「もちろんですわ」
アリステルは包みを開けるレオンをニコニコと眺めている。
包みの中には、黒い輝く石、オニキスが連なったブレスレットが入っていた。
ところどころにゴールドの装飾が付いている。
「レオンさんの髪と瞳はオニキスのようでしょう?きっと似合うと思って」
レオンは左手首にブレスレットを付けた。
「ゴールドはアリスの髪の色だな」
「まぁ!本当だわ」
(まるで恋人同士だ)
そう思ったが、口には出せなかった。
照れくさく感じた自分に愕然とする。
アリスにはそんな意図はないのだ。馬鹿なことを考えるな。
「石にも意味があって、オニキスは魔をよけ、災いから身を守ってくれるのですって。冒険者のレオンさんにぴったりでしょう?」
うふふふ、と嬉しそうに笑うアリスを見て、胸が温かくなる。
「ありがとう、アリス。しかし、ずいぶん頑張ったな。働いてお金をためたのだろう?えらいな」
そう言ってアリスの頭を軽くなでると、アリスの頬がじんわりと赤くなり、認められたことへの嬉しさに涙ぐんだ。
潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、レオンは完全に胸を射貫かれた。
(だ、ダメだ、かわいすぎる)
それは敗北感に似て、レオンはよろよろと崩れ落ちた。
「まぁ!レオンさん。お疲れになったのでしょう。レオンさんも少し休んでください。よかったらここに頭を乗せて横たわってください」
そう言って自分の膝を示す。
無邪気すぎるアリステルに、レオンはさらなるダメージを受けたが、何とか耐え、首を振った。
「大丈夫だ。食事にしよう」
レオンはアリステルの膝から自分の視線を引きはがし、手早く背嚢から干しパンと干し肉を取り出し、夕飯の支度を始めた。
干し肉を茹でて塩味を付けただけのスープを作った。
マーリクのキャラバンと共に移動したときに、干しパンを食べたことがあったアリスは、礼を言って受け取り、スープに固いパンを浸して食べた。
院長先生は説法に出かけたり、寄付を募ったり、金策に駆けまわっていた。
子供たちの中でも年長で目端の利く者は、農家の手伝いや店の下働きをして、わずかな賃金を得たりしていた。
それでも資金難で、ガタのきている建物を修繕する余裕など到底なく、よく雨漏りがしたものだった。
「わたくしも、母が亡くなった時は悲しくてたくさん泣きましたわ。でも兄は一度も泣かずにわたくしを抱きしめていました。子供の時は、兄は悲しくないのかしらと思っていたけれど、今ならわかります。兄は心で泣いていたのですわ。きっと、レオンさんも同じですね」
「そうか・・・」
アリステルにそう言われて、レオンは初めて親を失った悲しみが自分の中にあることに気が付いた。
それは、すでに時間が経ち色あせた悲しみだったけれど、たしかに胸にあった。
その気持ちをアリステルが優しく受け止め、浄化してくれたように感じ、レオンは一人、深い感動を覚えた。
野営の準備を終え、アリステルの横に腰を下ろす。
「これからどうするつもりなんだ?」
「スコルト国へ行ってみようかと」
「スコルトか」
「ええ、兄がいるはずなんです。スコルト国の研究機関で農作物の研究をしているのです。だいたいの住所はわかるのです。お手紙を書いていたので」
「そうか。では夜が明けたらスコルト国を目指そう」
アリステルは大きな目をぱちくりと瞬かせ、レオンを見た。
「レオンさんもスコルト国へ行ってくださるのですか。わたくしと一緒に?」
「そのつもりだ。今は何も仕事を引き受けていないし、どこへ行く当てもない。二度も命を助けたのだ。これも何かの縁だろう。それに、放っておいたらアリスは何度でも危ない目に遭いそうだからな」
アリスは内心とても嬉しかった。
やはり心細かったのだ。
それに考えてみれば、馬車も御者もいなくなってしまい、スコルト国への行き方をアリステルはわからなかったので、レオンの申し出は大変ありがたい。
しかし、自分の事情にレオンを巻き込むのは、申し訳ない気がした。
「わたくし、護衛代をお支払いできますわ。少しですけれども…。働いて貯めたお金がありますの。だから、わたくしの護衛をお願いしますわ」
「金はいらない。俺がアリスに付いて行きたいのだ。アリスと旅をするのもいいかと思ったから」
アリステルは代金を支払いたかったけれども、レオンの優しさに甘えることにした。
「あ!そうだわ。レオンさんに渡すものがありますの」
アリステルは自分のカバンがしっかりレオンによって運ばれていたことに安堵した。
カバンの中から小さな包みを取り出し、レオンに渡した。
「命を助けていただいたお礼です。あの、1回目の」
初めて一人で買い物へ行った時にレオンに、と選んだ品だ。
そう、あのナンパされ、リリーが合流して、一人での買い物ではなくなったあの日である。
「礼などいらないと言ったのに」
「そういうわけにはいきませんと、わたくしも言いましたわ」
「・・・では、ありがたくいただこう。開けてもいいか」
「もちろんですわ」
アリステルは包みを開けるレオンをニコニコと眺めている。
包みの中には、黒い輝く石、オニキスが連なったブレスレットが入っていた。
ところどころにゴールドの装飾が付いている。
「レオンさんの髪と瞳はオニキスのようでしょう?きっと似合うと思って」
レオンは左手首にブレスレットを付けた。
「ゴールドはアリスの髪の色だな」
「まぁ!本当だわ」
(まるで恋人同士だ)
そう思ったが、口には出せなかった。
照れくさく感じた自分に愕然とする。
アリスにはそんな意図はないのだ。馬鹿なことを考えるな。
「石にも意味があって、オニキスは魔をよけ、災いから身を守ってくれるのですって。冒険者のレオンさんにぴったりでしょう?」
うふふふ、と嬉しそうに笑うアリスを見て、胸が温かくなる。
「ありがとう、アリス。しかし、ずいぶん頑張ったな。働いてお金をためたのだろう?えらいな」
そう言ってアリスの頭を軽くなでると、アリスの頬がじんわりと赤くなり、認められたことへの嬉しさに涙ぐんだ。
潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、レオンは完全に胸を射貫かれた。
(だ、ダメだ、かわいすぎる)
それは敗北感に似て、レオンはよろよろと崩れ落ちた。
「まぁ!レオンさん。お疲れになったのでしょう。レオンさんも少し休んでください。よかったらここに頭を乗せて横たわってください」
そう言って自分の膝を示す。
無邪気すぎるアリステルに、レオンはさらなるダメージを受けたが、何とか耐え、首を振った。
「大丈夫だ。食事にしよう」
レオンはアリステルの膝から自分の視線を引きはがし、手早く背嚢から干しパンと干し肉を取り出し、夕飯の支度を始めた。
干し肉を茹でて塩味を付けただけのスープを作った。
マーリクのキャラバンと共に移動したときに、干しパンを食べたことがあったアリスは、礼を言って受け取り、スープに固いパンを浸して食べた。
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