森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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another side マルグリットの暗躍①

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 オーウェルズ国の王都にある王立学園には、16歳から18歳の子供たちが在籍している。

 王国内の貴族は16歳になったら王立学園に通うことが義務付けられているが、家庭の事情によっては他国の学校へ留学や領主が設立した学校に通うことも認められている。

 また、平民階級の者でも希望者は入学試験を受けることができ、合格すれば入学することができる。

 ただし、王立学園は学費が大変に高いため、平民階級で通えるものは裕福な者に限られていたし、地方の貧しい下位貴族では王立学園に入るのをやめ、学費の安い近場の学校を選ぶこともある。

 その場合は、子供を王立学園に入れる資金もない、と周囲に宣言するようなものなので、大変に不名誉なことではあったが、資金がなければやむを得ない。




 ユーディコッツ子爵家の領地は王都から馬車で3日ほどの場所にある。

 領地にこれと言って特産品や明光風靡な景色があるわけでもなく、狭い領地から上がるわずかな税が主な収入源である。

 太い収入減があるわけでもないのに、娘ばかり三人の子供がいるため、子爵家の財政は火の車であった。

 上の娘たちがそろって王立学園に在籍している間は、完全に赤字経営で、派閥のトップである侯爵家から多額の資金を借り受けた。

 ようやく上の娘たち2人が嫁ぎ家計にゆとりがでてきたため、末娘によき縁組を持とうと社交に力を入れ始めた。

 領地から離れ、王都にあるタウンハウスに今は滞在している。

 夫人とマルグリットが夜会の度に新しいドレスを欲しがり、それ以外にも何かと浪費したがるのがユーディコッツ子爵の悩みの種である。

 三女のマルグリットは、美しい娘であった。

 子爵家の跡を取るため、婿養子を迎えたいところであったが、借金があるため他の貴族家からは敬遠されており、なかなか縁談がまとまらない。

 かと言って嫁に出すとなれば、持参金を用意しなくてはならない。

 これまた、子爵を悩ませていた。

 そんなある日、マルグリットが学園から帰って来ると、胸に大粒のルビーのネックレスを着け、自慢げに父母に見せた。

 大変高価な物に見えた。


「マギー、その宝石はどうしたんだ?」


 子爵はまさか宝石店で勝手に購入してきたのではないかと、冷や汗をかきながらマルグリットに尋ねた。


「んふふふ、素敵でしょう?ボーイフレンドからプレゼントされたのよ」

「ボーイフレンドですって?!一体どこのだれなの?」


 子爵夫人は目を吊り上がらせた。

 貴族の娘は純潔がとても尊重されていて、男女交際は厳しく管理されている。

 母の目の届かぬところで不純な交際をされていては、この後の縁談にも悪影響である。


「ガスター商会の跡取り息子よ。見て!このルビー。わたくしの気を引きたくて、こんなに素晴らしい宝石を渡してきたのよ」


 子爵夫妻は顔を見合わせた。

 ガスター商会と言えば、王都で知らぬ者がいないほどの大豪商である。

 その資産は潤沢で、ユーディコッツ家など足元にも及ばぬ。


「ジェイコブはわたくしを女神のようにあがめているわ。ガスター商会の新商品をどんどん身に着けて夜会に行って欲しいと言っていたわ。お母様の分もお願いしたわ」

「まぁ!それは本当なの?」

「本当よ。これからいくらでも良質な宝石を身に着けられるわ」


 その言葉で子爵夫人は舞い上がった。

 マルグリットがガスター家に嫁に行けば、借金返済の資金繰りもアッと言う間に片が付く。

 貰ってきた宝石を次々と売りに出してもいい。

 しかし、子爵は顔をしかめた。


「マギー、まさか本気でお付き合いしているのではないだろうね。お前は婿を取ってこの家の跡を継がなくてはならない。いくら金があるからと言って、平民のガスター家の息子では、お前には釣り合わないぞ」


 それを聞いて、夫人がキッと子爵を睨んだ。


「あなた!マギーの幸せを考えたら、こんな良縁はございません!平民とはいえ、あのように大きな商会を運営しているのですもの、そう馬鹿にしたものではないわ。婿に取ってあなたが仕事を教え込めばよろしくてよ」

「そうよ、パパ。ジェイコブはパパと違って、わたくしになんでも買ってくれるわ。爵位より金よ。わたくし、ジェイコブと結婚するわ」

「しかし、ガスター商会の跡取り息子が婿に来てくれるわけがなかろう」

「あなた!マギーの話を聞いていたの?あちらはマギーにぞっこんなのよ。結婚したければ婿養子に来るでしょう。もし婿に来なくてもいいじゃない。あなただってまだ元気なのだし、娘たちの子供を跡取りにすれば、別に何の問題もないわ」

「・・・それはそうだが。しかし嫁に行くとなれば持参金を用意せねばならん」

「ジェイコブからもらった宝石を売れば持参金くらいすぐできるわ」


 女二人のタッグに、父親が口で勝てるわけがないのだった。

 しかし、マルグリットがその後もジェイコブから宝石の付いたアクセサリーを度々プレゼントされ持ち帰るのを見て、子爵も考えをあらためた。

 目先の利益を計算し始めたのだ。

 しかも、相手は平民で、少し強く居丈高に接しても問題にならない。

 この縁組はユーディコッツ家に幸運をもたらすかに見えた。


◆  ◆  ◆


 その日、晩餐会に招かれ、ガスター家を訪れた。

 馬車の中ではジェイコブに早く王都へ帰って来るよう甘えてお願いし、色よい返事をもらったが、もし晩餐の時話を切り出さないようなら、マルグリットが自分で話題に上げようと思っていた。


(ジェイコブはちょっと気弱だから、わたくしがしっかりしなくてはね)


 ジェイコブにエスコートされて馬車を降り、玄関に立つと、ガスター家の使用人がずらっと並び迎え出ていた。

 その人数はユーディコッツ家よりも多い。


(平民のくせに)



 マルグリットは民のことを下に見ていた。ジェイコブのことも。

 ただ、差別意識よりも資産に目がくらんだだけのことだ。


「お兄ちゃん、おかえりなさい!」

「リリー!ただいま。いい子にしてたか?」


 ジェイコブに妹のリリーが抱き着くのを、マルグリットは冷ややかな目で見つめた。

 リリーがジェイコブから離れ、今度はアリステルの手を取って紹介した。


「お兄ちゃん、紹介するね。アリス先生だよ!」


 リリーの少し後ろに控えたアリステルは、地味な装いをしていてもパッと目をひくような美人であった。

 どことなく品があり、美しくウェーブした金髪が輝いている。


(なに、この子は。先生って?)


「初めてお目にかかります。リリー様の家庭教師をしておりますアリステルと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 そう言ってきれいな礼をする。

 マルグリットは本能的にアリステルを敵と認定した。

 それは女の勘、といったものだ。

 案の定、婚約者のジェイコブは顔を赤らめて、アリステルに見とれている。

 大変面白くない。


「いつまでここに立たせておく気かしら。わたくし疲れているのだけど」


 きつくそう言えば、家令がマルグリットを応接室に案内し、他の使用人たちは各自持ち場へ去って行った。

 ジェイコブはアリステルの背中をまだ見送っている。

 二人きりになっても、ジェイコブは上の空でマルグリットの話を聞いていない。

 仕舞いには結婚式に身に着ける宝石のことで喧嘩となり、もう帰るように言われてしまった。

 これまでマルグリットの意見がないがしろにされたことなどなかった。

 それが今日は少し勝手が違ったことも、マルグリットをイライラさせた。


(口答えをするなんて、許せないわ!)


 マルグリットは楽しみにしていた晩餐会も出る気がせず、ジェイコブの言うまま馬車に乗って帰宅した。

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