森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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番外編 幼き日のレオン④

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 王都への道程は、安全とは言えなかったが、それでもさすがに国の中心地への道だ。

 他の地方への道よりずっと整備されていた。

 魔獣が出れば、大人の護衛に混ざってレオンも討伐した。

 鍛錬を怠らなかった成果は確実に出ていた。

 魔獣との戦闘がないときは、レオンは進んで馬の世話をしたり、煮炊きの手伝いをしたりと、懸命に働いた。

 王都に着くと、荷の積み替えに時間がかかるため、一日休暇がもらえたので、レオンはヴィンスとチビたちを探した。

 王都のどの教会へ行けばヴィンスの知り合いに会えるかわからなかったが、そういくつも教会があるわけではない。

 しらみつぶしに探せばよいと考えて出向いた最初の教会で、ヴィンスの知り合いに会えた。


「ヴィンス氏の養い子なのかい?よく来たね。ヴィンスの住所を教えよう。少し待っていなさい」


 そう言って、ヴィンスが今住んでいる家を教えてくれた。

 住所と簡単な地図を書いてくれたのを頼りに、レオンは王都を歩いた。

 王都のなんとにぎやかなことか。たくさんの人々が何某かの目的を持って行き交っている。

 だいぶ歩いてようやく郊外のヴィンスが住んでいるというアパルトマンに着いた。

 ノッカーを叩いて返事を待つと、間もなく扉が開いた。


「ヴィンス先生」

「えっ、レオン?!レオンなのか?」


 突然の訪問にヴィンスは目を白黒させていたが、ガバリとレオンを抱きしめて、その背中を叩き再会を喜んだ。


「さぁ、中に入ってくれ。しかし、びっくりしたな。ずいぶん大人っぽくなったじゃないか。いつこちらへ来たんだ?」

「昨日」

「どうしたんだ、何かあったのか?」

「いや、仕事で王都まで隊商の護衛をして」

「そうか。護衛をするまでになったのか」


 ヴィンスはレオンが冒険者として頑張っていることを知り、とても喜んだ。

 ヴィンスが王都へ連れ行った子供たちは、みなそれぞれの道を歩んでいるらしい。

 唯一の男の子は建設業の親方のところへ弟子入りしたそうだ。

 王都は好景気でどこも働き手が足りないため、子供のうちから弟子のような扱いで引き受け、住み込みで仕事を教えるのだそうだ。

 二人の女の子も、染め物と針子の見習いとして雇われているらしい。

 一番チビだった女の子は、子供の欲しい夫婦が養子として引き取っていったとのこと。

 みんながこの2年間で、ヴィンスの許から巣立ったのだ。

 みながそれぞれの場所で幸せであってくれるよう、レオンも祈ることにした。


「それで、そっちはどうなんだい?4人で仲良くやっているのかい?」

「いや、シシーが嫁に行った」


 シシーが農家の長男に見初められたこと、農家の人々はいい人だったこと、婚約者としてすでに農家に入ったことを報告した。

「シシーが結婚とは…。時が経つのは早いものだね」


 ヴィンスはシシーが孤児院の前に捨てられていたことを思い出していた。もはや遠い過去となった。


「末永くお幸せに、と伝えてくれ」

「わかった」


 その日の夕飯は再会を祝って外食をし、またいつか会おうと約束して、二人は別れた。

 帰りもキャラバンの護衛をしながら戻って来た。

 無事に商会に到着すると、賃金を受け取った。

 布袋の中でジャラりと硬貨が音を立てるのを聞いて、レオンの口角がやや上がる。

 たくさん稼いだことが誇らしかった。


(今日はうまいものを買って帰ろう。ノアとヨハンが喜ぶぞ)


 帰り道、屋台で肉をあぶってタレを絡めパンに挟んだ物を3人分買い、軽い足取りでいつもの宿屋に戻った。

 しかし、部屋に二人はいなかった。


「おかみさん、ただいま。ノアとヨハンがいないんだが…」



 宿屋の女将はレオンを見ると、慌てて寄って来た。


「アンタ、どこ行ってたんだい。大変だったんだよ!」

「…何かあったのか?」

「あったもあった、二人が大ケガをして救護院に運ばれたんだよ!」


 レオンは目を見開いた。


「大ケガ…?」

「なんでも魔獣にやられたらしいよ」


 そう聞いて、すぐさまレオンは身をひるがえし、救護院まで駆けて行った。

 飛び込んで来たレオンに、救護院の看護助手がお静かに!と注意する。


「ノアは、ノアとヨハンがここにいると聞いて」

「ご家族ですか?」

「そうだ、二人の家族だ」

「…こちらへどうぞ」


 彼女が案内してくれたのは、一番奥の部屋だった。

 部屋に入ると、寝台に寝かされたヨハンの傍らに、椅子にうなだれて座るノアの姿があった。

 ノアの右腕には真っ白い包帯が肩から手首まで巻かれ、肩から垂らした布で腕を吊っている。

 顔にもひどい打撲傷があり、目のまわりが腫れあがっていた。


「ノア…!どうしたんだ。大丈夫か?」


 レオンが声を掛けると、ノアはびくっとしてそろそろと顔を上げ、レオンと目が合うと、みるみるその目に涙をためた。


「ヨハンが・・・死んでしまった」


 ヒュッと息を吸い、レオンは固まった。

 ヨハンに目をやると、静かに寝ているように見えた顔には一切の血の気がなく、まるで蝋を固めて作った人形のようであった。

 レオンはよろよろとした足取りで寝台に近づき、膝をついてヨハンに縋り付いた。


「そんなっ・・・!どうして?ヨハン、ヨハン!」


 ノアはワッと声をたてて泣き出し、寝台に突っ伏した。


「オレが悪かったんだ!レオンがいなくても立派に魔獣を狩れるってところを見せたくて、嫌がるヨハンを連れだしたんだ・・・!」


 3人の中ではレオンが一番の腕利きだったが、二人も少しずつ腕を上げ、ナイフの扱いにも長けていた。


「角兎とか、大牙鼠とかを狩るつもりだったんだよ。それが、森猪が出てきて…!」


 森猪は子牛くらいの大きさのある魔獣だ。

 だいたいは単体で現れ、人を見るや否や突進してくる習性を持っている。

 この森猪の肉は美味しいため、冒険者の間では人気の魔獣なのだが、ナイフしか装備のない二人には到底倒せるものではなかった。

 森猪はヨハンに正面から突撃し、ヨハンを勢いよく跳ね上げた。


「うわあ!」


 思わす悲鳴を上げたノアに向かって方向転換をすると、逃げるノアを追いかけて突き飛ばしたらしい。

 ノアが倒れると、森猪は倒すべき人間がいなくなったと判断したのか、森へと帰って行ったようだ。

 突き飛ばされて倒れたときに地面に着いた右腕は、明らかに変な方向に曲がり、骨が折れていることは明らかだった。

 顔面も強く打ち付け、少しの間クラクラとめまいがして立ち上がれなかった。

 しかし、跳ね飛ばされたヨハンが心配で、何とか起き上がろうとすると、気持ち悪くなって嘔吐してしまった。

 なんとか吐き気が治まるのを待って、ヨハンの許へとフラフラと寄っていったが、ヨハンは倒れたままピクリとも動かなかった。


「ヨハン、ヨハン!大丈夫か。ヨハン!」

 ヨハンは跳ね飛ばされたときに、大木の幹に強く頭を打ち付けてしまったようだ。

 倒れたヨハンの後頭部から、どろりと真っ赤な血が流れていた。


「ヨハン、ヨハン!だれか、助けてくれ…!」


 ノアは荷物から道具を取り出し、狼煙を上げた。救援を求める合図だ。

 煙と共に、魔獣が嫌がる特有のにおいが辺りに広がり、しばしの間、魔獣が寄り付かない安全地帯となる。

 狼煙に気が付いて近くにいた冒険者パーティがやって来てくれた。

 ノアとヨハンは、このパーティに助けられ町まで戻って来たのだった。

 レオンは事の成り行きを聞き、ノアの肩を抱いた。


「ノアは悪くない」


 しかし、ノアはいつまでも自分のせいだと言って泣くのだった。





 ノアのケガは命に別状のないものだったが、聞き手の右手が使い物にならなくなり、冒険者を辞めることになった。

 気長にリハビリをすれば生活には支障がないだろうが、剣を振るうのは難しいと医者に診断されたからだ。

 以前よりノアに目をかけてくれていた瀬戸物問屋に奉公することに決まった。

 こうしてノアも宿屋を出て行って、ついにレオンは一人きりになってしまった。

 大部屋を借りる必要もなくなったので、もっと狭い、物置小屋のような部屋を借り、細々と冒険者稼業を続けた。

 しばらくそうしていると、いつか揚げパンをくれた男に再び出会った。

 ラシッド商会の会長マーリク・ウルハ・ラシッドだ。

 普段は王都で商会長の仕事をしているのだが、この町にある支店を訪れた際に、レオンを見知った。

 マーリクはかねてよりレオンの勤勉さを買っており、護衛に雇ってみれば、腕が立つうえ細々とした雑用も進んで引き受けてくれるので、大変に気に入っていた。

 このような辺鄙な田舎で埋もれているのは惜しい人材だと考えていた。


「レオンと言ったね、きみ。王都へ来る気はないですかな?」


 レオンには何のしがらみもなかった。どこにいようとかまわなかった。

 だからここにいたってかまわなかったのだが、心のどこかでは、なにか劇的な変化を求めていたのかもしれない。

 マーリクに付いて行けば、なにか新しい世界が自分を待っているのではないかと、期待したのかもしれない。

 レオンは王都行きを決めたのだった。




 アリステルに出会うのは、まだもう少し先のお話。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ご覧いただきありがとうございます。
あと少し閑話があります。
よろしくお願いします
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