森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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閑話 アリステルのお披露目パーティー①

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 ナバランド国では、子供が6歳になると正式に貴族の子として登録される慣わしがある。

 かつて赤子の生存率が低かったことから、生まれた子供が無事に育つまでは正式に貴族の子として届け出ない決まりがあった。

 6歳を迎えると国に届け出て、盛大に祝いの宴を行う。

 アリステルが6歳になった時も、祝いの会が開かれた。

 朝からメイドたちに囲まれて、時間をかけて支度をしていた。

 素敵なドレスを着せられ、髪をかわいらしく結い上げ、お化粧も少し施される。

 ドレスは母と相談してアリステルの好きな青緑色の生地を選んで作ってもらった物。

 アリステルのエメラルドグリーンの瞳に近い色だ。

 上半身の身頃には上品なレースが使われ、腰に大きなリボン、スカートはベルラインで上に幾重にもオーガンジーが花びらのように重ねられた華やかでかわいらしいドレスだ。

 結いあげた髪にも同布で作られたコサージュが飾られた。

 母のエリザベスが様子を見に来た時には、すっかり小さなレディが出来上がっていた。


「アリス、見せてちょうだい。かわいくできたわね」

「お母さま!見てください。お化粧をしてもらったのよ」

「ふふふ、きれいよ、とっても」


 エリザベスがにこやかに褒めると、アリステルは嬉しそうにクルリと回った。


「さあ、アリス。みなさんの前でするご挨拶の練習をしましょう。昨日のうちに覚えたのでしょう?やって見せてちょうだい」

「はい、お母さま」


 アリステルは昨日メイドと練習した挨拶を思い出しながら、母に披露する。

 スカートの裾を摘み上げ、正式な礼をする。


「ヴァンダーウォール伯爵家の長女、アリステルでございます。本日はわたくしのためにお集まりいただき、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」


 うまくできた、とアリステルが満足そうな顔をすると、エリザベスは笑顔でアリステルを褒めた。


「上手にできたわね。本番もそれで大丈夫よ。緊張しても笑顔は忘れずにね」

「はい!」


 パーティー会場には、たくさんの客が集まっていた。

 みな美しく着飾っている。

 通常、夜会やパーティー、お茶会にデビュー前の子供は参加しないのだが、今回は6歳のお披露目と言うこともあり、多くの招待客が同じくらいの子供を連れて来ている。

 男の子の正装姿もかわいらしいが、女の子たちのドレス姿はなんとも愛らしいものがあった。

 子供が多いので、会場の飲食コーナーには子供の喜びそうな色とりどりのお菓子なども種類多く用意されていた。

 時間になってアリステルが登場すると、隣に付き従う兄のハリソンと並んで一幅の絵画のように美しく映え、会場には感嘆のため息があふれた。


「かわいらしい子だな。これは将来が楽しみだ」

「奥方に似て美しいな」

「お父様見て、あの子、髪がキラキラ光ってるわ」


 今日のハリソンは、光沢のあるグレーの生地に、アリステルのドレスと同色の糸で刺繍を入れたブレザーを着ており、二人は一対のお人形のようだった。

 アリステルはたくさんの招待客を前にしてもあまり緊張せず、練習の通りにご挨拶を済ますことができた。

 その後は、ヴァンダーウォール伯爵からの挨拶があり、管弦楽団による演奏が始まると砕けた雰囲気となった。

 アリステルは両親と共にたくさんの招待客から挨拶を受けた。

 初めて会う人が多い中に、家族ぐるみで付き合いのある顔見知りに会うと、アリステルは嬉しそうにパッと笑った。それは大輪の花が咲くようだった。


「パトリシア伯母様、ごきげんよう。本日はありがとうございます!」

「アリス、久しぶりね。すっかりレディになって、とても素敵よ」

「ありがとうございます」

「今日はベティも来ているから、後でお話しましょうね」


 パトリシアはエリザベスの姉で、王都に程近いところに領地を持つ侯爵家に嫁いでいる。

 年に一度は互いの家を行き来する数少ない親戚の一人だった。

 ベティはパトリシアの娘ベアトリスのことで、アリステルより3つ年上。

 アリステルとベアトリスは大変仲が良かった。


「ベティ、来てくれて嬉しいわ」

「アリス、お誕生日おめでとう!かわいいドレスね!」

「ベティのドレスもとってもかわいいわ!」


 ベアトリスは紺色の生地に白いレースと真珠で装飾された清楚なドレスを纏っていた。

 さすが侯爵家だけあって、見るからに品格高く、質の良い物とわかる。

 アリステルはうっとりとベアトリスの姿に見とれる。


「後で、たくさんお話しましょうね」

「ええ!」


 挨拶の列が途切れると、楽団の奏でる音が一段大きくなって、ダンスのお披露目となる。

 六歳のお披露目では家族とパートナーを組んでダンスを披露するのが一般的だ。

 本日のアリステルの相手は、兄のハリソンが務める。

 ハリソンはこの日をひそかに楽しみにしていたのだ。


「アリス、お手をどうぞ」


 ハリソンは気取ってアリステルをエスコートする。

 広間の中央に来ると、互いに礼をしてダンスを始めた。

 アリステルは小さい頃からダンスのレッスンを受けていたが、パーティーで正式に踊るのはこれが初めてだった。

 子供が踊れるごく簡単なステップのワルツだったが、アリステルは間違えないように一生懸命に踊った。


「アリス、そんなに難しい顔をしていてはダメだよ。いつもみたいににっこりしてごらん」


 ハリソンが優しく言うと、アリステルはハッとして、顔を上げ笑顔を作った。


「お母さまにも笑顔を忘れないように言われていたのだったわ。でも、もう笑い過ぎてほっぺたが痛いわ」


 アリステルがそう言うと、ハリソンは楽しそうに笑った。

 楽しそうに踊る兄妹を、大人たちはみな微笑ましく見ていた。

 一曲終わると、兄妹はみなにお辞儀をし、広間には拍手が広がった。


「上手に踊れていたわよ、アリス。お友達とお話していらっしゃい」


 エリザベスに誘われ、女の子たちが集まっている辺りに連れて行かれる。

 そこにはベアトリスもいて、アリステルが来ると嬉しそうに、こっちこっちと手招きをした。


「アリス、ダンス上手だったわね」

「ありがとう」


 集まっていた女の子たちとは面識がなかったが、ベアトリスがみんなを紹介してくれ、すぐに打ち解けた。

 お菓子を食べたり、おしゃべりをしたり、楽しく過ごした。

 そのうちに少し年長の女の子たちが、男の子たちを見てクスクス笑ったり、何かを話している。


「ねえ、アリステル様。ハリソン様は、婚約者が決まっていますの?」


 そう聞かれて、アリステルは大きな目をぱちくりと瞬く。


「お兄様ですか?いいえ、婚約者は決まっていません」

「そうなのですね。ハリソン様はどなたと仲が良いの?」

「お友達はよくわかりません」

「ふーん。ねえ、ハリソン様と少しお話をしてみたいの。お兄様に紹介してくださらない?」

「…?ええ、いいですよ」


 アリステルは数名の女の子たちと、ハリソンの近くへ移動した。

 ハリソンはすぐに気が付いて、アリステルに笑いかける。


「どうしたの?」

「お兄様、新しいお友達ができました」

「そう。それはよかったね」


 ハリソンは礼儀正しく令嬢たちに笑顔を向けた。


「アリステルと仲良くしてやってください」


 令嬢たちはポッと頬を染めてハリソンを見つめた。


「わたくし、キャンベル伯爵家のダイアナです」

「コンプトン伯爵家のセイラです」

「フィツロイ子爵家のソフィアです」


 令嬢たちが次々に名乗り、ハリソンの周りにいた男の子たちの輪となんとなく一体となって交流が始まった。

 ベアトリスがアリステルの方をちょんちょんと突きこっそり呼んだ。


「アリス、お庭でゆっくりお話をしましょうよ」

「ええ!」


 二人は輪を抜け出して庭に出て、ガゼボのベンチに並んで座った。
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