森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

文字の大きさ
44 / 46

閑話 アリステルのお披露目パーティー②

しおりを挟む
「あの子たち、男の子に色目を使って、いやな感じね!」


 ベアトリスがそう言うと、アリステルはこてんと首を傾げた。


「色目?」

「そうよ。婚約者が決まっていない子たちが、かっこいい男の子を探しているってこと」

「そうなの?かっこいい男の子、いたのかしら?」


 ベアトリスはあきれたようにアリステルを見た。


「一番のお目当てはハリーよ。ハリーは大人になったら伯爵位を継ぐし、見た目もかっこいいから人気なのよ」


 アリステルはびっくりしてベアトリスを見た。


「お兄様が?」

「そうよ。きっと明日からたくさん釣り書きが届くわ」

「釣り書きって?」

「結婚したいっていう子の絵姿とか、プロフィールよ」

「えぇ!?だってお兄様、まだ10歳よ?結婚なんてしないわ」

「もう10歳なら、そろそろ婚約したっておかしくないのよ」


 ハリソンが婚約するなんて、アリステルには想像もつかなかった。


「ベティももうすぐ10歳でしょう?婚約するの?」

「ええ、わたくしはもう婚約する相手が決まっているの」

「そうなの?!」


 爵位が高くなればなるほど、婚約するのが低年齢化する。

 爵位と年の頃がふさわしい相手を見つけるのが難しくなるためで、より高位の相手と結婚する場合は、それに見合った教育が必要になるためでもあった。


「お相手はどなたなの?」

「第二王子のハインツ殿下よ。まだ発表されていないから、内緒にしてね」

「王子様!?すごい、素敵!」

「そう?アリステルは王子様に憧れているの?」

「え…?そう、ね。王子様と結婚したらお姫様になれるのでしょう?それは素敵と思うわ」

「王子様と結婚してもお姫様にはなれないわよ。王子様と結婚した人ってだけ」

「お姫様になれないの?」

「なれない」


 アリステルは何となく夢が破れたような寂しさを感じつつも、少し話題をずらすことにした。


「それで、いつ知り合ったの?」

「まだ一度もお会いしたことはないわ」

「え!お会いしたことがないのに、結婚するの?」

「そうよ。高位貴族の家で年が釣り合う令嬢が他にいないから、他の人と婚約しないようにと随分前に王家からの申し入れがあったの」

「お会いしたことがなくても、王子様のことが好きなの?」

「好きなわけないじゃない」

「結婚は好きな人とするのではないの?」

「好きな人と結婚する人もいるし、結婚してから好きになる人もいるんじゃない?わたくしは、どうなるかわからないわ。だってまだ会ってないのだもの。できれば好きになって結婚したいわ」


 淡々と話すベティからは、喜びのような感情が見つからなかったので、アリステル聞いた。


「ベティは、会ったことのない王子様と結婚するのが、嫌なの?」

「別に嫌ではないわ。そういうものだと、最初から分かっていたし。でもね、さっき思ったの。ハリーにまとわりついていた女の子たちみたいに、素敵な男の子をみっともなく漁るのは絶対に嫌だって。だから、婚約者が決まっていてよかったのかもしれないわ」


 そう言ってベティはにっこり笑った。


「アリスはあんな風に、はしたなく男の子を漁るのはやめなさいね」

「はーい」

「正式に婚約者に決まったら、発表のパーティーがあるはずだから、その時はアリスも来てちょうだいね」

「ええ、行きたいわ!」


 その時、会場の方からハリソンが一人でガゼボにやってきた。


「アリス、そろそろ会場にお戻り。今日はアリスが主役だからね」

「わかりました。ベティ、戻りましょう?」

「わたくしはもう少し、ここでお庭を見ているわ」

「そう?」

「では僕がベティの話し相手になるよ。アリスは戻りなさい」


 ハリソンがそう言うので、アリステルは会場へ戻った。

 いとこ同士の二人は久しぶりにガゼボで話をした。


「女の子たちに囲まれて、気分がいいのでしょう?」

「冗談じゃないよ。あんな子たち、アリスの半分もかわいくないよ」

「あら、そんなことを言ったらかわいそうじゃない。アリスはたしかにかわいいけれど」

「そうだろう?それにアリスはとても素直だろ?見た目だけ取り繕ってぶりっ子している女の子たちとは比べ物にならないよ」


 ベティはおかしそうに肩をすくめてクスクス笑った。


「そんなにアリスのことばかりかわいがっていたら、あなたもアリスも結婚できないわよ」

「…別にいいだろ。アリスはだれにもやりたくない」

「そういうわけにもいかないでしょう。行き遅れたら、何か問題のある子なんじゃないかと噂の的になってしまうわ」

「アリスに問題なんかないよ。ベティは知っているだろ」

「そうね。問題があるとすれば、シスコンのお兄様がいることくらいね」

「ベティ!」

「ふふふ、冗談よ」




◆ ◆ ◆




 この10年後、まさか奥手のアリステルが三人の中で一番に結婚することになるとは、当時は思いもしなかった。

 ベアトリスは第二王子の婚約者候補としてずっと他の人との婚約を止められてきたが、他国から王族が嫁いでくるかもしれないという話があり、正式に婚約者の発表がされずに何年も経ってしまった。

 他国の姫を正妻に迎え、ベアトリスを側妃にという話も上がったそうだが、侯爵家が大反対をしてうやむやになったらしい。

 もうこれ以上は待てない、と強く王家に抗議し、ベアトリスが他の人との縁談を進めようとしたときに、やはり第二王子の婚約者になるよう命じられ、ようやく正式に発表された。

 どんなに早くとも準備に1年半はかかると言うことで、まだ結婚に至っていなかったのだ。

 一方ハリソンは、数多くの釣り書きが届いていたものの、最近までスコルト国にいたこともあって、まだ具体的な縁談話は一つもなかった。

 ハリソンは、執務室の補佐官用の机で、真剣な顔をして書類と向き合っているレオンをジトッとみやった。

 平民の、冒険者のレオンに、あっけなく奪われたアリステルの心。

 それも自分がアリステルを守り切れなかったせいで起きた事件が発端となれば、ハリソンは己の首を絞めてやりたくなる。

 アリステルを渡したくない、いやしかしアリステルの危機を救ってくれたのはレオンだ。

 その危機を招いたのは自分にも責任の一端があるときた。


(くそっ。アリスの命を二度も助けてくれたことには感謝するが、それとこれとは話が別だ!)


 そのとき、ハリソンは思いついた。

 レオンをアリステルから物理的に遠ざけてやればいい、と。

 命を助けられて、つい惚れたような気がしているだけで、しばらく離れていればアリステルも目が覚めるかもしれない。


「レオン。お前はオーウェルズの出身だったな。オーウェルズにある冷害に強い麦の実験農場に来年の収穫期まで滞在し、実験結果の記録を取ってきて欲しい。できるか?」

「…オーウェルズ?ああ、いいよ」

「本当にいいのか?収穫期が終わるまで、長く向こうへ行っていなければいけないんだぞ?」

「ああ、別にかまわないが」


 ハリソンは自分で命じておきながら、承諾されると少し面白くなかった。


(アリスと離ればなれになってしまうのに、かまわないだと?!)


 やはり早く別れさせた方がいいようだ、と判断した。


「義兄上の方こそ、いいのか?俺がアリスを連れて行ったら、アリスと会えなくなるぞ?」


 ハリソンは雷に打たれたように驚いた。


「アリスを連れて行く…?!」

「ああ、当然だ。オーウェルズに行くなら、アリスも一緒だ」


 ハリソンはレオンの赴任地へアリステルも付いて行き、自分の方がアリステルと離ればなれになるなどとは思いもしなかったのだ。


「だ、ダメだ!やっぱり無し!」


 レオンはハリソンの様子を見て、一人こっそり笑った。


 ハリソンのシスコンはまだまだ続きそうである。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

処理中です...