魔王軍VS.王国軍・・・・??第三勢力出現!異端だと切り捨てられた田舎者、希少魔法で世界を変える

たま「ねぎ

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第1章:第43特別地区

+++第十一話:無罪を勝ち取れ、臨衆議六!王国軍の異才、ミレイユ・エリクアッツェ

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 「やあやあ、お集りの皆さんごきげんよう」
 勢いよくドアを開き、我が物顔に部屋に押し入る。その姿に、集まった彼らは驚き言葉を失った。無礼だから―――?違う。いや、間違いなくそれもそうだが。彼らはなにより、その女性の正体に目を疑っていた。
 「ヤーマ・テラーリオ・・・・。貴様!なぜここに」
 「ああ!じいさん、久しぶりだねえ」
 そう言ってテラーリオは笑顔で手を振ったが、王国軍大将位【ガルテン・デルンクス】は代わりに睨み返した。 
 
 「貴様は軍を追放されたはずだ」
 「はあ~、全然変わってない。頭カチコチだし、もう死ぬ前にさっさと引退したら??」

 「なんだと――‼⁉」
 デルンクスは額に太い血管を浮かせ、顔を紅潮させた。
 「ロドリゴ⁉わしは貴様に言われてここに来たのだぞ!!まさか、図ったというのか??」
 「いえ、すみません。正直私も、なにがなんだか」
 (なんだ、このとんでもなく面倒な状況は)
 
 彼がそう感じるのも無理はない。【ハーヴェスター・ロドリゴ】大将位もまた、詳しい状況を知らずにこの場にいるからだ。そんななか、彼の隣に座る人物が申し訳無さそうに手を挙げた。
 
 「ロドリゴ先輩をお呼びしたのは、私です」
 彼の名前は、【ルーベン・アイサリーノ】。アイサリーノもまた、王国軍大将位である。

 「アイサリーノ・・・・」
 「申し訳ありません。ですが、お世話になったテラーリオさんの話も無碍にはできず・・・・」
 
 「うんうん、本当に助かったよ」
 彼にしても、テラーリオの性格はもちろんわかっていたはずだ。しかし、ここまでの暴挙は想定していない。彼女は机に用意されたコップを取ると、それを一気に飲み干した。
 「ぷああ!うっま!相変わらず、良い茶葉使うね」
 「本当に、相変わらずですね・・・・」 

 場の緊張をほぐすどころか、わざと助長するように行動している気さえする。
 「おいおい、テラーリオ。俺の後輩をあまり困らせるなよ」
 「後輩かあ。相変わらず冴えないおっさん面して、後ろには優秀なのに慕われてるなあ」

 「一時期はお前のことも、世話してやっていたことを忘れるな」
 「そうでしたっけ?まあ、今回はそれに救われたけどさ。あの子も、あなたが声をかけてくれたんでしょうから」
 
 【ミレイユ・エリクアッツェ】。
 【ダルウィン・エリクアッツェ】終極位の一人娘にして、若干二十歳で大将位へと昇進した異才。
 彼女はこの状況にも、まったく動揺することなく不動にただ座する。
 
 「ああ。だからこれ以上迷惑かけちまう前に、さっさと本題に入れ。いくらお前でも、高え茶が飲みたいから来たわけじゃないんだろう?」

 「やだなあ。そこのじいさんじゃないんだから。まだボケるには、早い」
 「わしはボケてない‼」

 「まあまあ、デルンクスさん。ここは話を聞きましょう」
 ぐちゃぐちゃに乱れた場の雰囲気―――これ以上ヒビを入れて取り返しのつかないことにならないよう、ロドリゴ大将位が舵を取る。
 
 (まったく、なぜ毎回俺なんだ・・・)
 彼の気苦労も知らず、本来場をまとめるべき昔の後輩は、やっと話を進める気になったらしい。
 
 「あはは、懐かしいね。私としても、久しぶりに皆さんと話したかったんだよ。それに本題と言っても、この面子を見れば察しはつくはずだけど?」
 「面子⁇」
 
 「臨衆議六ですよ」
 「馬鹿な、なんだと⁉」
 
 臨衆議六。
 それは王国軍の方針や行動について、審議することのできる集合体である。
 終極位なら一人、太極位であれば二人から。大将位まで降りると四人による発議によって召集され、十人を上回る中将位階級以上で構成されなければならない。ここで採択された議決は、本来政治や外交によって決定されるべきものでも、否定されるまでその効力を有する。
 
 「だからわしを呼んだのか!!」
 「そうそう、大正解!」
 煽るようにして、テラーリオはニンマリ笑った。しかし、彼女の言うことに一応の筋は通っている。
 
 「大将位は私を含めてちょうど四人。そのほかに、43部隊から一人と、ロドリゴさんや私の部下もあわせて中将位が合計七人です。ぎりぎりですが、条件通り集まりましたね」
 アイサリーノ大将がそう説明を付け加えると、青みがかったセミロングの少女が立ち上がった。彼女は緊張した面持ちで、言葉を選ぶ。
 
 「えっとその・・・・よ、よろしくお願いします!」
 「ふん、狂人どもと仲良くするつもりなどないわ!発議した以上は議論を持つが、わしは協力するつもりはないぞ‼」
 「・・・・」
 
 (まあ、そうなるよな。しかしデルンクス大将の否定だけなら、大した影響はない)
 ロドリゴ大将は静かに状況を考察した。
 議決は過半数以上によること―――これが臨衆議六の決まりだからだ。そこまでなら、元王国軍のテラーリオも考えているだろう。
 
 問題はその後である。議題によっては俺の部下はもちろん、アイサリーノたちだって賛成はしないだろう。だが、こいつの要求が普通なわけがない。
 
 「―――いったいなにを考えている⁇」
 「安心してよ、そんなバカげた話をするつもりはない」
 彼女はしっかりと前置きを語った。しかし彼女の言葉を信用する者は、もはやいなかったかもしれない。疑惑の目が向けられるなか、臨衆議六は次のフェーズに進む。
 
 「入っておいで」
 そう声がかかると、俺は目の前にある扉に手をかけた。新しい上司・・・彼女がなにやらめちゃくちゃにやっていたのは、部屋の外からでもよくわかった。しかし、ここから逃げ出すわけにもいかない。決意を固め、重厚な雰囲気のある会議室内へと足を運んだ。
 
 「――――――なんだこのガキは」
 ぶっきらぼうに発せられた老人の問い。続いてもはやなれっこのように、アイサリーノが説明を果たす。
 
 「この前、勇者絡みの作戦で謀反を起こした、セシル・ハルガダナという王国軍召集兵ですね。いまは拘留されているはずなんですが」
 「あ!勝手に解放してきちゃったよ。まあ大丈夫でしょ、審理に必要ってことで」
 「まさか!」
 
 (どういうつもりですかッ⁉テラーリオさん‼)
 会議の発議人はアイサリーノ大将位だが、彼は当然ながら事情の一端すら知らされていない。
 
 「どこまでもふざけた女だ。よもや、犯罪者を不問にしろとでもいうのではなかろうか」
 「え?そのとおりだよ、43部隊はセシル・ハルガダナを迎え入れることに決まったんだ」
 (―――――――‼⁉)
 
 立派な黒塗りの長机に、電流が走ったかのようだ。第43部隊を含めた全員が、驚いたように空気を変えた。
 
 「ちょっとまて、こいつは王国に敵対して亜人族を助けたと聞いたぞ。くわえて、王国兵に多数の死傷者を出したんだ。その提案は、到底受け入れられない」
 「もちろん、普通の兵士にはなれないだろうけど、第43部隊なら別でしょ。それにもし王国側の不利益になるようなことをすれば、私がこの手で殺せばいい」
 
 (―――⁉)
 この人――――!
 
 ”「後はなにしてもいいよ?――――――――亜人を助けたって、私はなにも言わない」”
 
 言ってることほとんど嘘じゃないか!セシルから見れば味方であることは間違いない。しかし流石にここまでだと、彼にすら自慢げな表情が不気味に映る。
 「腐っても元王国軍太極位にいたお前だ。その実力があることは疑う余地もないが――――」
 「もちろん、これは王国に利のある話だ。そうは言っても彼の実力は、並大抵の兵士とは比べることもできないほど高い」
 「詭弁だろう!だいたい、こんな決定をして被害者が黙ってはおらんぞ‼友人や恋人、家族を失ったものもいるのだからな」
 
 「そこは、ほら。王国お得意の情報操作でちゃちゃっと改ざんしちゃえばいいじゃん」
 
 「そんなこと――――!」
 「いまさら【そんなこと】で心は痛まないでしょ。ましてや知らないなんて、ここにいる人たちは口が裂けようと言えないはず。だよね?」
 「ぬう・・・・」
 
 テラーリオの言う通り、俺たちは反論できる立場にない。
 (いやあ、たしかに王国軍というのは黒い組織だよ)
 ロドリゴ大将位は、ふがいなさからため息をついた。もともと、この女がここまでしたんだ。準備万端、必ず手に入れるつもりでいるのだろう。
 セシル・ハルガダナ。
 彼にそれだけの価値があるのかはわからないが、それならそれでいい。俺たちはもともと、なにがなんでもテラーリオに反対したいわけじゃない。事実、場の雰囲気は完全に彼女に向いている。
 このままいけば、思い通りになるだろうな。
 このままいけば―――な。
 
 「―――なるほど」
 議論が終盤に差し掛かったころにようやく聞こえた声は、はっきりと芯の通ったものだった。
 「つまり論点は、彼が本当に善であるか、そしていかに有用か・・・・ここにあると考えます」
 
 ミレイユ・エリクアッツェは、ほかとは違う。完全なイレギュラーだ。教えてたからわかるが、天然で脳筋、そして少し抜けている。自らの正義に一筋で、悪を許さない生粋のヒーロータイプ。
 
 「ただそれは証明が非常に難しい。だからこそ、それを測るためのメジャーが求められる」
 「そうだな。だからこそ、テラーリオさんがその担保を―――」
 「いえ、もっと簡単なやり方があります」
 「簡単な方法?」
 
 アイサリーノだけではなく、全員がエリクアッツェ大将位に注目する。場は完全に振り出しだ。そしてある程度議論が進んでいたからこそ、主導権ごと彼女に移動したと言ってもいい。 
 
 「私が彼と手合わせをします」
 「なんだと―――⁉」
 
 「彼が私に一本取れれば、考えるまでもなく彼は有能でいいでしょう。そして彼が負けるようなら、そのまま私が罪を償わせる。手間も省けて良いのではないだろうか?」
 「・・・・!!!!おいおい正気か!?奴は王国兵を躊躇なく殺せるような男だぞ」
 「問題ありません。こちらも殺す気でやるのですから、当然のこと。それでいかがですか?皆さん」
 「―――ッ」
 俺のミスだ。
 瞬間、後輩思いのロドリゴ大将は、不幸にもそう自覚してしまった。まさかミレイユがここまで暴走するとは。セシル・ハルガダナ、かりにも彼女の命をかけるような価値が、お前にあるのか⁇王国軍大将位という、あいつの実力を疑っているわけではない。しかしここまで進んでしまっては、取り返しはつかないぞ。
 横を見れば、そら!もうデルンクスさんとテラーリオはお互いにに睨み合ってるじゃねえか。
 
 「・・・・わしは賛成だ。お前はどうだ、テラーリオ」
 (もっとも、答えば出ているがな) 
 ミレイユ・エリクアッツェとの対戦など、怖くて承認できまい。守ろうとした人間が殺されると、わかっているようなものなのだからな。
 
 「いいよ」
 「いいのかよ⁉
 ・・・・いや、決まりだ!」
 (バカめ)
 貴様の浅はかな考えなど知りたくもないが、王国を乱すものは全員死罪だ。この場で、実力者に執行させるとはなんと好都合か。
 
 「二言はないな?ごねるようなら、この臨衆議六自体、もはや意味もなさんぞ」
 「だからいいって。そっちこそ、あとになってギャーギャー言わないでよね」
 
 (・・・・なんだ?やっと終わりか?)
 なんか長かったが――――なにか決定がなされたらしい。
 
 「お前もそれでいいな?もっとも、選択肢なんて与えられていないが」
 するとこちらに向かって、ミレイユ・エリクアッツェというらしい、女の兵士がそう問うた。
 
 あれ?
 (そうか、これ俺の話か――――)
 
 「・・・・」
 って、マジか??戦う?俺が彼女と?なんでだ?どうしてこうなる?俺は別に、敵対したいわけじゃないんだよ!これじゃ、なんで戻ってきたのかわからなくなる。
 「ちょっと待――――――」
 「――――言ったろ、お前にその権利はない!」
 「ッ‼‼」
 
 エリクアッツェが手を空中へと伸ばすと、そこには青く澄んだ水塊が出来上がる。
 「まずは、場所を移そうか」
 彼女がくるくるとその手を回すことで、静流はその流れを得るのだった。
 
 (あ・・・・)
 これはもう、どうしょうもないやつだ。
 「――――水魔法:フローター・ニューゲート!」
 「~~~ッ!」
 問答無用とはこのこと。俺の体は彼女の水魔法に包まれ、緻密な魔法操作によって窓の外に放り投げられた。
 
 「・・・・。あのーう、これ、割れちゃいましたけど・・・・どう報告したらいいんですかね?」
 「いいよ、アイサリーノ。俺がやっとくからさ。どうせ、あいつがなにかやらかすと俺も終極位に怒られるんだぁ」
 「・・・・」
 (ロドリゴさん、気の毒だ)
 
 「それにしても、良かったのか?テラーリオ。あいつは多分、死ぬぜ」
 「いやいやぁ。こんなところで死ぬようなやつ、私がスカウトすると思う?」
 
 「――――それはつまり、あの人が勝てるということですか?」
 「はは、エルシアはそう思う?まあ見てみようよ」
 
 
 ・
 ・
 ・
 
 
 「―――うべッ!!」
 割れたガラスで、腕から出血したのがわかる。さらに三階から地面へと落下したことで、俺の背にはかなりのダメージが残った。
 
 「武器を取れ」
 「はあ、はあ⁉」
 見ればたしかに、仰向けになった俺の頭上には細長い剣が刺さっていた。
 
 「体に合わなければ取り替えよう。十秒以内に異議がなければ、取り組みを始める」
 (まだ始まってなかったんかい)
 
 ああ、畜生!!
 あのときと同じだ。草原に転がっていた俺は、勇者たちに助けられた。それが今回は、こんなことになるとは。変わらないことと言えば、空はどこだって綺麗だということくらいか。 
 半ばヤケクソになりながら立ち上がる。剣を抜き取り、魔力を整えた。
 
 (やるしかないだろ‼)
 こうなれば、死なない程度に戦闘不能にして、この場を切り抜ける!
 「へえ、いい顔になったじゃないか」
 「それはどうも。それよりも、もう―――――――――――――十秒たちました!」
 俺は数えてちょうどに、剣を前方に投げつけた。

 「―――――なに⁉」
 エリクアッツェは、意表を突かれたようにそれを避け、体制を崩す。
 (いきなり武器を手放すとは、そこまで魔法に自身があるのか――――?)
 
 「――――面白い」
 エリクアッツェ大将はそうつぶやいた。
 
 (あんたがどう戦うか知しませんがね!)
 俺は氷魔法で新しく手元に剣を生成すると、よろけた彼女に振り下ろした。
 
 「これが俺の戦い方だッ!」
 「なるほど」
 「―――――‼」
 (うそだろ、その体制で受けるのか⁉)

 それに、なぜこんなに威力がでる⁉圧倒的に優位だったはずだった俺の剣が、背後に押し返された。彼女の体は、振り切った勢いそのまま一回転。俺の顔面を蹴り上げた。
 
 「・・・・少し話をしよう」
 「話??」
 華麗に着地した彼女は、鼻血を出して口元を抑える俺にそう提案した。
 
 「お前のやったことは軍規違反。さらには国家反逆の大罪だが、それについてはどう思う?」
 (・・・・!)
 
 「そんなこと、あの場で考えたことはありません。結果として彼ら住民を守ったことに、悔いはないです」
 「――――そうか」
 彼女はそうつぶやき、こちらに流れるような剣戟を浴びせる。
 (話って、戦いながらってことかよ!!)

 「では、また同じ状況になればどうする?またを繰り返すか?」
 「・・・・!そう、ならないようにするのが俺の務めだと気付きました。第43部隊の話を聞いて、まだ死ねないと!」
 
 彼女は距離を取った俺に対し、手の形を銃に模して作った。
 「信用できないな。それに、それでは質問に対しての答えになっていない」
 
 動き回りながらも狙いすました彼女の指先からは、雷のつぶでが放たれる。それは俺の剣先を破壊し、背後の岩をもひび入れた。
 (嘘だろ??)
 
 「お前は間違いを犯したはずだ。だがそれを悪びれず堂々と話す。正直私はお前が怖いんだ」
 「はあ、はあ」
 俺は欠けた剣を捨てると、手元に冷気を集め、新しく氷の刃を作った。形状を工夫し、クミシマが持っていた刀に模してみる。素早い大将位の動きに合わせ、軽く振りやすいように改良したのだ。

 「話してみてわかったのは、きみが芯のある人間だということ。であれば、お前はまた同じことをするだろう」
 「もしそうなれば、仕方ありません」
 
 俺は彼女に向かってスピードを上げた。
 「なぜなら彼らは、人間の言葉を話すんですよ」
 「関係ない。人間とは、私たちのような種族を言う」
 
 これが鉄製の剣同士であれば、火花が散りそうなほどの強烈な刃の削り合い。こちらも強化魔法を使っているはずだが、細い腕のどこからそんな力が湧くのだろうか。
 俺が次の手を考えているとき、視界に入っている彼女の剣の光がだんだんと大きくなってゆく。
 
 「――――光魔法:フラッシュ・ストライク」
 (うッ!!??)
 目が・・・・視界が奪われる!
 右頬に強い衝撃とともに、体が左に吹き飛ぶ。
 
 「王国軍に入った以上は、国王の方針に従わなくてはならない!!!!」
 彼女の語気が一瞬強まった。
 まずい、次の攻撃が来る!
 まだかすんではいるが、俺の目は確かに彼女が剣を構えるのをとらえた。
 
 「氷魔法:永久凍土!」
 しかし。エリクアッツェが剣を振ると、強烈な風の刃が、氷の壁に大きな傷跡を残した。
 
 「大人になれ、セシル・ハルガダナ。思想を持つのは自由だ。だが共同体に所属している以上、それは制限されて当たり前のこと」
 
 もう二・三回彼女が剣を軽く振っただけで、俺が作った防御策は、バラバラになった。しかし、時間稼ぎという意味では、相当の役割を果たす。
 俺は魔力を地面に解放し、彼女の後ろに大木を作り上げた。枝が彼女の体に絡みつき、動きを奪う。
 「森林魔法だと!?まさか、ここは希少魔法の見本市か⁇氷魔法も含めて、本でしか読んだことのない魔法だぞ」
 
 「べつに、見せびらかしているつもりはありませんよ!」
 「いや?才能にますます興味が湧いてきただけだ」
 彼女は会話を続けながら、自らを炎魔法で包み、いともたやすく俺が施した拘束から脱出した。
  
 「さて、得てして長くなりすぎた。そろそろ結論を出そうか、私たちにはその責任がある」
 「恩赦はありますよね?」
 「はは。それは私ではなく、自分で導くものだ」

 彼女は俺と剣を交えながら、魔力を溜めてゆく。魔力が、剣に移っていくのが伝わってくる。
 次で決める気だろう。おそらく、半端によけようとしたら死ぬ。そう肌で感じるほどの魔力量だった。
 (――――受けるしかない)
 俺も同じようにして、剣に魔力を集めた。

 「来い!ハルガダナ、お前の力を証明してみろ!!」
 「後悔しないでくださいよ!?」
 二つの剣がぶつかり合うと、周囲に激しい衝撃が走り、木々が激しく揺れた。地面の草々が凍り付き、晴天だったはずの天候は、いつの間にか雷雨に代わっていく。
 
―――――――――――――――――――――――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 「雷魔法:エデン・ジ=オシェラ‼」
 「氷魔法:シントラウ・ペンダ‼」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ―――――――――――――――――――――――
 
 「~~~~ッ!!」
 なにも見えない!意識が飛ぶほどの風圧で、その後なにがあったのか、観戦者たちはしばらく把握することができなかった。
 しかし視界が晴れるとそこには、地面に横たわるセシル・ハルガダナと、その横に立つミレイユ・エリクアッツェの姿が現れる。
 
 (ここまでか)
 ロドリゴ大将は、その光景を見て素直にそう思った。正直、ミレイユほどの実力者とここまでやりあえるとは思っていなかった。
 
 「はん、終わったなだがまだ死んではいないだろう?とどめを刺せ、ミレイユ・エリクアッツェ」
 
 「・・・・」
 「なんだ?早くしろ」
 
 「・・・・気が変わった」
 「なんだと⁉」
 「いや、違うな。約束はこうだ、私は一本取られたんだよ。彼は解放して、第43部隊に処遇を任せる」
 そこまで言い放った彼女の表情は、どこか満足気で――――疑うまでもない笑顔を浮かべていた。
 そもそも一本取った・取られたなど、あのような状況で周囲から判断はつかない。最初から、ミレイユは戦いのなかで判断するつもりだったのだろう。
 
 「ははは、だってさ。じいさん」
 「ッ‼そんなこと、信じられるかッ」
 
 「おいおい、駄々はこねない約束だったでしょ?」
 「・・・・‼」
 辺りに強い魔力が放出され、全員の体がこわばった。いま一度、大将位と太極位の間にある圧倒的な実力差を周囲に感じさせる。
 彼女は伝えたのだ。その気になればこの辺を壊滅させ、彼を連れ去ることもできるという強い意志を。
 
 「ん~~~。まあとにかく、決まったことだからね。もう彼は私の部下ってことを忘れないようにってことでさ」
 「クソッ‼勝手にしろ‼」
 「そうするよ」
 
 (胃が痛くなってきた)
 アイサリーノがそう感じる一連のやり取りをよそに、エリクアッツェ大将位は濡れた髪を直しながら気絶するセシルに語り掛けた。
 
 「これだけ強いと、殺すのが惜しくなってしまったよ。私はたぶん、戦いが好きなんだろうな」
 「・・・・・・・」
 
 「お前はさっき、亜人族たちまでを人と括った。助けたいとも言っていたな?であれば、もし戦場で会えば、私たちは敵同士。もう一度今のような戦いをしよう・・・・ああ、いまから楽しみで仕方ないよ」
 まるで愛の告白のように、ただ一点を見つめて語り掛ける。もちろん、彼から反応はないが彼女はお構いなしにそう言い切った。
 
 
 *第十二話に続く
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