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第4章 マニリア帝国編
第48話 皇帝と後宮、そして反乱軍の真実は
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「まさか……まさかあなたが……」
オレは現在、自分たちが置かれた状況も忘れて困惑していた。
ユリフィラスが男――しかも皇帝――だったこととファーストキスを強引に奪われた二重の衝撃に打ちのめされていたのだ。
「なぜ……どうして?」
オレがそれだけ言葉を絞り出すのがやっとのところで、ユリフィラスは満足げに頷く。
「そこまで驚いてくれるとは嬉しいね」
どうやら今までの人をからかって手玉に取る態度は、演技では無く彼女、もとい彼の地の性格だったようだ。
いや。そんな事はどうでもいい。
「なぜ皇帝が女装して、後宮にずっと隠れ住んでいたのか。アルタシャだったら、もうだいたいの見当はついているね?」
「大公に命を狙われたので、ここに逃げ込んだんですね……親しい女官に頼み込んで『病気の宮女』という形で……」
「その通り。宮城を隠れて出るのは大変だけど、幼い頃の『僕』はこの後宮で育ったからね。そのときに世話をしてもらった女官に頼んで、長官のオントールにも黙ってかくまってもらっていたんだよ」
「え……『僕』ですか?」
その地位には明らかにふわしくない、くだけた一人称と口調に少々オレは面食らうが、それを見た『皇帝』は朗らかに笑う。
「ははは。実際に皇帝として玉座に座っていたのはたった二月かそこらだったからね。皇帝らしくないのは勘弁して欲しい」
「それにしても――」
「実は僕の母親は先代の皇后だったんだけど、平民出身だったんだよ。父上に気に入られて、皇后になったんだけど、そのお陰でごらんの通り、僕はあまり皇帝らしからぬ人間になってしまったというわけなんだ」
ユリフィラスは何ら恥じる様子も無く、いつものようにおもしろがっているようにしか見えない。
ラマーリア王国王太子テマーティンもそうだったが、なんでオレの周囲にはこういう変な王子様だの皇帝陛下だのが呼びもしないのに寄ってくるのかね。
「だいたいどうしてそんなに女のフリがうまいんですか」
「僕は幼いころ、母上の意向で厄除けとして女の子の格好で育てられていたんだよ。そういう話は知らないかな?」
「聞いた事ぐらいはありますけど……」
確かに子供が小さいころ、悪霊に魅入られるのを防ぐため逆の性別の格好をさせるという風習は元の世界でもあった話だ。
しかしどう考えてもそれは今より十年は前のことだろう。
本当は女装が趣味だったんじゃないのかよ。
状況を考えればあまりにも場違いな疑念がオレの胸中で渦巻く最中、ここで皇帝は急にその表情を引き締める。
「一部の貴族が母上の身分を問題にして後継者争いが引き起こされ……この国はこんな事になってしまった……」
「それは……何もあなたや先代の皇后が悪いわけではないでしょう」
この後宮に来るとき、オレは『国家への貢献や政治手腕で出世したわけでもなく、皇帝に取り入っただけで皇后になれるのは正しい事ではない』と思っていた。
もちろんその考えは今でも変わっていないが、さすがにその皇后から生まれた相手を前にしたら、それを口にする事は出来ない。
もっとも後継者争いが母親の身分では無く、本人の資質を問題にしたものだったのなら、オレも何を口にしたかは分らないけど。
「最終的に皇帝にはなったけど、叔父上はどうも僕を御輿にしてライバルを排除し、その後でこの僕も始末して自分が皇帝になるつもりだったようだ」
ああ。ありがちな展開だけど、肉親でも手駒であり、また用が無くなると即始末という権力闘争のどす黒い面は見たくもなかったな。
「僕が逃げ出した後、叔父上は親交のあった将軍達を片っ端から辺境の地に左遷し、それから後宮に美女、というか美少女をどんどん集め始めたのさ」
「ええ?! だったらこの後宮は?」
「そうだよ。君たちはこの僕のためではなく、叔父上が自分の即位したときのために集められたんだ」
ちょっと待て。あの明らかに四十歳を過ぎているオッサンが、ほとんどが十代半ばの女の子で形成されているこの後宮を作っただと。
何という男の夢――ではなく! とんでもないクソ親父だな!
だが僅か半年かそこらで三百人もの宮女を抱え込んだら、当然ひとりひとりの出自を詳細に調べるのは困難だろう。
国が乱れているならなおさらだ。
しかも相手が『皇帝と直接肌を接する立場』となると、厳しく追及するのも難しい。
そのお陰で宮女達の嘘もまかり通っていたわけだが、その杜撰さが皇帝本人にとっては格好の隠れ蓑になっていたというわけか。
世の中、何か幸いするか、そして何が災いするか。
本当に分らないものなんだな。
「そして僕は逃げ出すときに『皇帝の証』である玉璽を持ち出したのさ」
ユリフィラスは翡翠で作られたとおぼしき印章をオレに見せる。
もちろんオレには何を意味しているか分らないが、それを巡って多くの血が流されたのだろうという見当がつくだけのものだった。
「僕がここに隠れつつ、左遷された将軍達と連絡を取り合っていたのは、君も気付いているだろう」
「あの夜鷹……ヴリーマクが運んでいた暗号文書はそのためのものだったんですか……それではまさか『反乱軍』というのは!」
「そうだよ。彼らは『反乱軍』では無く、皇帝の意に沿って、君側の奸を取り除くために蜂起した『官軍』だったというわけさ」
ユリフィラスはよくできました、と言わんばかりに首都を包囲する軍勢に目を向けていた。
--------------------------------------------------
オレはここでさっきからずっと抱いていた疑問を問いかける。
「でもどうしてこの後宮にずっと留まっていたんですか?」
「もちろん僕もこの脱出路からさっさと逃げ出す事を考えたよ。だけど叔父上が血眼で探すのはわかりきっていたからね。外に出るよりもここから親しい将軍達に連絡を取った方がいいと思ったのさ」
ここでユリフィラスは苦笑を浮かべる。
「でもまさかこの僕の后となるという建前で次から次に女の子がやってくるとは思いもしなかったよ。お陰で今まで『男として』随分と我慢を強いられたものだった」
この言葉にはオレの方が我慢出来なかった。
つい先ほど唇を奪われたばかりの相手を前にして『我慢を強いられた』とは何たるいいぐさだ!
「いまさっきこちらの唇を無理矢理奪ったのは何だったんですか?!」
「男として我慢しきれなかったけど、ユリフィラスのままだったら君も油断してくれると思ったからね。お陰で首尾良く奇襲が成功したんだ」
「ふざけないで下さいよ!」
オレの大切なファーストキスをよくも――という言葉は呑み込んでおくことにする。
この皇帝の事だから、それを口にしたら『責任をとって結婚しよう』と言いだしかねないからな。
「まあ何にせようまくいったよ」
「その話はもういいです」
「違う違う。将軍達を僕が蜂起させたことさ」
「そっちですか!」
男バレしても人を振り回す性格は全く変わらないんだな。
「叔父上は彼らが『官軍』だという事実を絶対に認めなかったようでね。それでこっちも困ったよ。すぐに降参してくれればいいものを最後まで足掻くんだから」
たぶんマルキウスが殆ど『反乱軍』について知らされていなかったのも、それが理由だったのだろうな。
まあ大公は今でも皇帝がこの宮城にいることにした上で、その摂政としてここを支配していたはずだから、事実を明るみに出すわけにはいかなかったのは当然だろう。
もちろん『反乱軍』が皇帝の勅命を掲げている事は分っていただろうけど、表向きはあくまでもシラを切り通し、それを進言する相手は粛清していたのかもしれない。
「以前に叔父上が君を襲ったのは、たぶん首都に迫る軍勢の報に追い詰められて半ばやけになっていたんだろうな。それについては僕にも責任の一端があるから謝ろう」
「別にいいですよ。気にしてませんから」
皇帝という立場なら、オレの事よりもっと気にすることがあるだろう。
「だけど……それで大公を除いたとしても、結局はあなたを神輿に担ぐ相手が今回蜂起した将軍達に変わるだけなんじゃないんですか?」
「その場合でも僕の立場からすれば、叔父上に殺されるのに比べれば命が助かるだけマシだろう」
結果として多くの犠牲が出る事はやむを得ないのだろうか。
もちろん元の世界の歴史でもそんな話は掃いて捨てるほどあったわけだが、二十一世紀の人間の感覚ではやっぱり受け入れ難いものがある。
そしてそんな事を口にしても無駄だろうという、空しい確信もまたあったけど。
「しかし……ここまでうまくいくとは思わなかったよ。これも女神様のご加護かな?」
そういって皇帝はこちらになにかを言いたそうな視線を注ぐ。
申し訳ないけどオレは女神様なんぞ真っ平どころか、むしろ毛嫌いしているんですけどね。
だが確かに何かが引っかかる。
この後宮に現れた怪異が、この事態の急転と何か関係がある。そんな気がしてならないのだ。
「そういえばそろそろだろうな」
「何がですか」
「外を見たまえ」
「え? これは?」
オレが窓の外を見ると、首都の城壁を包囲していた軍の旗指物が次々と市街地になだれ込んできていたのだ。
つまり殆ど戦闘も無く、あっさり城門が開いたということになる。
おいおい。いくら何でも首都の防衛部隊なのにやる気なさすぎだろ。
「僕がさっき女官をここから先に脱出させていたんだよ」
そういえば女官が数人いなくなったと聞いていたが、皇帝が自分を匿うために働いていた女官を先に逃がしていたのか。
「そのとき彼女達には城門の守将達に門を開けさせる命令文を持たせていたのさ」
そういって皇帝は翡翠の印章を手の中でもてあそんでいる。
「それだけで宮城に確認もせず門を開けるなんて……いや。もう城門を守る兵や将軍もやる気をなくしていたということですか」
「たぶんね……先の事を考えるとあんまり嬉しい事でも無いけど、お陰で犠牲もなるだけ少なく事が済みそうだ」
少し複雑な表情を浮かべつつ、皇帝はここでオレを正面から見据えて口を開く。
「とりあえず話はここまでにしよう。今はここから出てあちらの軍と合流するのが先決だ。アルタシャは僕と一緒に来てくれるね?」
「そういうわけにはいきません。あなただけでも逃げて下さい」
ここから皇帝が逃げるのは構わない。別にとめる気も無い。
むしろここに残れという方が理不尽だろう。
だけどオレは逃げるわけにはいかない。
大公がこの状況であっさり降参してくれるならいいだろう。
だが実際に襲われたオレにすれば、大公が追い込まれてヤケになり、宮女達に対してとんでもない暴挙に出る懸念を捨てきれない。
オレに出来る事が一つでもあるなら、捕まっている宮女達を助けるべく何かしないわけにはいかないのだ。
しかしオレは少し前まで首都を包囲した軍勢に蹂躙される心配をしていたのに、今度はその軍勢が早く来てくれる事を期待しているのだから、本当に人生とは一寸先の事が分らない。
それは女にされてしまう前に気付きたかった事だったけどな。
オレは現在、自分たちが置かれた状況も忘れて困惑していた。
ユリフィラスが男――しかも皇帝――だったこととファーストキスを強引に奪われた二重の衝撃に打ちのめされていたのだ。
「なぜ……どうして?」
オレがそれだけ言葉を絞り出すのがやっとのところで、ユリフィラスは満足げに頷く。
「そこまで驚いてくれるとは嬉しいね」
どうやら今までの人をからかって手玉に取る態度は、演技では無く彼女、もとい彼の地の性格だったようだ。
いや。そんな事はどうでもいい。
「なぜ皇帝が女装して、後宮にずっと隠れ住んでいたのか。アルタシャだったら、もうだいたいの見当はついているね?」
「大公に命を狙われたので、ここに逃げ込んだんですね……親しい女官に頼み込んで『病気の宮女』という形で……」
「その通り。宮城を隠れて出るのは大変だけど、幼い頃の『僕』はこの後宮で育ったからね。そのときに世話をしてもらった女官に頼んで、長官のオントールにも黙ってかくまってもらっていたんだよ」
「え……『僕』ですか?」
その地位には明らかにふわしくない、くだけた一人称と口調に少々オレは面食らうが、それを見た『皇帝』は朗らかに笑う。
「ははは。実際に皇帝として玉座に座っていたのはたった二月かそこらだったからね。皇帝らしくないのは勘弁して欲しい」
「それにしても――」
「実は僕の母親は先代の皇后だったんだけど、平民出身だったんだよ。父上に気に入られて、皇后になったんだけど、そのお陰でごらんの通り、僕はあまり皇帝らしからぬ人間になってしまったというわけなんだ」
ユリフィラスは何ら恥じる様子も無く、いつものようにおもしろがっているようにしか見えない。
ラマーリア王国王太子テマーティンもそうだったが、なんでオレの周囲にはこういう変な王子様だの皇帝陛下だのが呼びもしないのに寄ってくるのかね。
「だいたいどうしてそんなに女のフリがうまいんですか」
「僕は幼いころ、母上の意向で厄除けとして女の子の格好で育てられていたんだよ。そういう話は知らないかな?」
「聞いた事ぐらいはありますけど……」
確かに子供が小さいころ、悪霊に魅入られるのを防ぐため逆の性別の格好をさせるという風習は元の世界でもあった話だ。
しかしどう考えてもそれは今より十年は前のことだろう。
本当は女装が趣味だったんじゃないのかよ。
状況を考えればあまりにも場違いな疑念がオレの胸中で渦巻く最中、ここで皇帝は急にその表情を引き締める。
「一部の貴族が母上の身分を問題にして後継者争いが引き起こされ……この国はこんな事になってしまった……」
「それは……何もあなたや先代の皇后が悪いわけではないでしょう」
この後宮に来るとき、オレは『国家への貢献や政治手腕で出世したわけでもなく、皇帝に取り入っただけで皇后になれるのは正しい事ではない』と思っていた。
もちろんその考えは今でも変わっていないが、さすがにその皇后から生まれた相手を前にしたら、それを口にする事は出来ない。
もっとも後継者争いが母親の身分では無く、本人の資質を問題にしたものだったのなら、オレも何を口にしたかは分らないけど。
「最終的に皇帝にはなったけど、叔父上はどうも僕を御輿にしてライバルを排除し、その後でこの僕も始末して自分が皇帝になるつもりだったようだ」
ああ。ありがちな展開だけど、肉親でも手駒であり、また用が無くなると即始末という権力闘争のどす黒い面は見たくもなかったな。
「僕が逃げ出した後、叔父上は親交のあった将軍達を片っ端から辺境の地に左遷し、それから後宮に美女、というか美少女をどんどん集め始めたのさ」
「ええ?! だったらこの後宮は?」
「そうだよ。君たちはこの僕のためではなく、叔父上が自分の即位したときのために集められたんだ」
ちょっと待て。あの明らかに四十歳を過ぎているオッサンが、ほとんどが十代半ばの女の子で形成されているこの後宮を作っただと。
何という男の夢――ではなく! とんでもないクソ親父だな!
だが僅か半年かそこらで三百人もの宮女を抱え込んだら、当然ひとりひとりの出自を詳細に調べるのは困難だろう。
国が乱れているならなおさらだ。
しかも相手が『皇帝と直接肌を接する立場』となると、厳しく追及するのも難しい。
そのお陰で宮女達の嘘もまかり通っていたわけだが、その杜撰さが皇帝本人にとっては格好の隠れ蓑になっていたというわけか。
世の中、何か幸いするか、そして何が災いするか。
本当に分らないものなんだな。
「そして僕は逃げ出すときに『皇帝の証』である玉璽を持ち出したのさ」
ユリフィラスは翡翠で作られたとおぼしき印章をオレに見せる。
もちろんオレには何を意味しているか分らないが、それを巡って多くの血が流されたのだろうという見当がつくだけのものだった。
「僕がここに隠れつつ、左遷された将軍達と連絡を取り合っていたのは、君も気付いているだろう」
「あの夜鷹……ヴリーマクが運んでいた暗号文書はそのためのものだったんですか……それではまさか『反乱軍』というのは!」
「そうだよ。彼らは『反乱軍』では無く、皇帝の意に沿って、君側の奸を取り除くために蜂起した『官軍』だったというわけさ」
ユリフィラスはよくできました、と言わんばかりに首都を包囲する軍勢に目を向けていた。
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オレはここでさっきからずっと抱いていた疑問を問いかける。
「でもどうしてこの後宮にずっと留まっていたんですか?」
「もちろん僕もこの脱出路からさっさと逃げ出す事を考えたよ。だけど叔父上が血眼で探すのはわかりきっていたからね。外に出るよりもここから親しい将軍達に連絡を取った方がいいと思ったのさ」
ここでユリフィラスは苦笑を浮かべる。
「でもまさかこの僕の后となるという建前で次から次に女の子がやってくるとは思いもしなかったよ。お陰で今まで『男として』随分と我慢を強いられたものだった」
この言葉にはオレの方が我慢出来なかった。
つい先ほど唇を奪われたばかりの相手を前にして『我慢を強いられた』とは何たるいいぐさだ!
「いまさっきこちらの唇を無理矢理奪ったのは何だったんですか?!」
「男として我慢しきれなかったけど、ユリフィラスのままだったら君も油断してくれると思ったからね。お陰で首尾良く奇襲が成功したんだ」
「ふざけないで下さいよ!」
オレの大切なファーストキスをよくも――という言葉は呑み込んでおくことにする。
この皇帝の事だから、それを口にしたら『責任をとって結婚しよう』と言いだしかねないからな。
「まあ何にせようまくいったよ」
「その話はもういいです」
「違う違う。将軍達を僕が蜂起させたことさ」
「そっちですか!」
男バレしても人を振り回す性格は全く変わらないんだな。
「叔父上は彼らが『官軍』だという事実を絶対に認めなかったようでね。それでこっちも困ったよ。すぐに降参してくれればいいものを最後まで足掻くんだから」
たぶんマルキウスが殆ど『反乱軍』について知らされていなかったのも、それが理由だったのだろうな。
まあ大公は今でも皇帝がこの宮城にいることにした上で、その摂政としてここを支配していたはずだから、事実を明るみに出すわけにはいかなかったのは当然だろう。
もちろん『反乱軍』が皇帝の勅命を掲げている事は分っていただろうけど、表向きはあくまでもシラを切り通し、それを進言する相手は粛清していたのかもしれない。
「以前に叔父上が君を襲ったのは、たぶん首都に迫る軍勢の報に追い詰められて半ばやけになっていたんだろうな。それについては僕にも責任の一端があるから謝ろう」
「別にいいですよ。気にしてませんから」
皇帝という立場なら、オレの事よりもっと気にすることがあるだろう。
「だけど……それで大公を除いたとしても、結局はあなたを神輿に担ぐ相手が今回蜂起した将軍達に変わるだけなんじゃないんですか?」
「その場合でも僕の立場からすれば、叔父上に殺されるのに比べれば命が助かるだけマシだろう」
結果として多くの犠牲が出る事はやむを得ないのだろうか。
もちろん元の世界の歴史でもそんな話は掃いて捨てるほどあったわけだが、二十一世紀の人間の感覚ではやっぱり受け入れ難いものがある。
そしてそんな事を口にしても無駄だろうという、空しい確信もまたあったけど。
「しかし……ここまでうまくいくとは思わなかったよ。これも女神様のご加護かな?」
そういって皇帝はこちらになにかを言いたそうな視線を注ぐ。
申し訳ないけどオレは女神様なんぞ真っ平どころか、むしろ毛嫌いしているんですけどね。
だが確かに何かが引っかかる。
この後宮に現れた怪異が、この事態の急転と何か関係がある。そんな気がしてならないのだ。
「そういえばそろそろだろうな」
「何がですか」
「外を見たまえ」
「え? これは?」
オレが窓の外を見ると、首都の城壁を包囲していた軍の旗指物が次々と市街地になだれ込んできていたのだ。
つまり殆ど戦闘も無く、あっさり城門が開いたということになる。
おいおい。いくら何でも首都の防衛部隊なのにやる気なさすぎだろ。
「僕がさっき女官をここから先に脱出させていたんだよ」
そういえば女官が数人いなくなったと聞いていたが、皇帝が自分を匿うために働いていた女官を先に逃がしていたのか。
「そのとき彼女達には城門の守将達に門を開けさせる命令文を持たせていたのさ」
そういって皇帝は翡翠の印章を手の中でもてあそんでいる。
「それだけで宮城に確認もせず門を開けるなんて……いや。もう城門を守る兵や将軍もやる気をなくしていたということですか」
「たぶんね……先の事を考えるとあんまり嬉しい事でも無いけど、お陰で犠牲もなるだけ少なく事が済みそうだ」
少し複雑な表情を浮かべつつ、皇帝はここでオレを正面から見据えて口を開く。
「とりあえず話はここまでにしよう。今はここから出てあちらの軍と合流するのが先決だ。アルタシャは僕と一緒に来てくれるね?」
「そういうわけにはいきません。あなただけでも逃げて下さい」
ここから皇帝が逃げるのは構わない。別にとめる気も無い。
むしろここに残れという方が理不尽だろう。
だけどオレは逃げるわけにはいかない。
大公がこの状況であっさり降参してくれるならいいだろう。
だが実際に襲われたオレにすれば、大公が追い込まれてヤケになり、宮女達に対してとんでもない暴挙に出る懸念を捨てきれない。
オレに出来る事が一つでもあるなら、捕まっている宮女達を助けるべく何かしないわけにはいかないのだ。
しかしオレは少し前まで首都を包囲した軍勢に蹂躙される心配をしていたのに、今度はその軍勢が早く来てくれる事を期待しているのだから、本当に人生とは一寸先の事が分らない。
それは女にされてしまう前に気付きたかった事だったけどな。
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