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第4章 マニリア帝国編
第49話 皇帝からのいろいろと
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オレの拒否を聞いても皇帝は引き下がらずにその手をさしのべてくる。
「そう答えるとは思っていたけど、それでも一緒に来て欲しい。君には是非ともこの国の再建を手伝ってもらいたいんだ。もちろん我が后として」
この誘いは当然、予想出来ていた。
いきなり唇を奪われたんだから、それを言ってこないと思う方がどうかしているだろう。
そしてその場合のオレの返答も決まっている。
「有り難いお言葉かもしれませんけど、やっぱりお断りさせてもらいますよ」
しかしオレも男からプロポーズされて断るのはともかく、驚いたり、違和感を抱いたりしなくなってしまったな。
「そうか。それは残念だね」
オレのこの返答を予想していたのだろう。
皇帝は残念そうではあっても、特に落胆した様子は見せなかった。
「今までもずっと君は皇帝……つまり僕に批判的だったからね。僕にも至らない事が多々あることは分っている。それでも気が変わることを期待して待つのは構わないかな?」
「待つだけならご自由にどうぞ……」
それだけ言うとオレは、この部屋を出ようとするが、そこでまたしても引き留められる。
「待ちなよ。本当に一人でどうにかするつもりなのかい?」
「自分で決めた事ですから」
「分った。それでは僕が逃げずに君に同行して、宮女達を救助すると言ったらどうするんだい」
「それはダジャレですか?」
オレは少々脱力しつつ問いかける。
まったくこの皇帝陛下はどこまで本気で、どこまで冗談なのか分ったもんじゃない。
「違うよ。今まで君を何度かからかいはしたけど、これは本心だよ」
ユリフィラスはオレの目を正面から見つめている。
だがオレにはこの言葉の真意は何となく分っていた。
相手が『男』であることを知ったからこそ、振り回される事無く冷静になれているのは自分でも少々意外だな。
「そう言ったらこちらがあなたの身を案じて、一緒に逃げると思ったんですか」
「それを望むのは間違いかな?」
オレは静かに首を振る。
正直に言って心が全く動かなかったわけではない。
いくらオレだってこんなところにひとり残るのは怖いに決まっている。
大公に犯されかけたとき記憶はまだまだ生々しいのだ。
しかしここで逃げてしまうわけにはいかない。
そこはオレの譲れない一線なのだ。
「あなたは自分のやるべき事に取り組んで下さい。皇帝であるあなたが呼びかければ、きっと宮城の兵士も抵抗せずに降参するでしょう。こちらはこちらで自分に出来る事をやりますから」
「ふう……君は本当に勇敢だね。僕なんかよりよっぽど男らしいよ」
「それはどうも」
オレはついつい苦笑いを浮かべる。
男だった時には『勇敢』だの『男らしい』だの言われた事など一度も無かったのに、女にされてから何度もそう言われるようになるとは、皮肉としか言いようが無いな。
「君の決意は分ったよ。急いで助けを呼んでくる。それまでは無事でいて欲しい」
「それではここでいったんお別れですね」
オレはここで脱出口に足を向けた皇帝に問いかける。
「ところで最後に二つ質問していいですか」
「何かな?」
「まず最初に合った時、なぜ部屋に迎え入れたんです? 夜中に城壁に張り付いて動き回っている相手なんて、あからさまに怪しかったでしょうに」
これはオレにとってもずっと疑問だったのだ。
だが皇帝はあっさりと答える。
「簡単だよ。男は美人に弱いのさ。それは皇帝でも変わらない。ただそれだけの話だよ。だから僕は本当に君が尋ねてくるのを楽しみにしていたんだよ」
美人でもちょっとぐらい疑えよ!
皇帝なら人を外見だけで評価するんじゃ無い!
思わず内心でツッコミを入れてしまったが、それ以上は追求する気にならなかった。
オレにも『男として』その気持ちはよく分ったからだ。
「それではもう一つ聞きますけど、ユリフィラスというのは偽名でしょう?」
「もちろん。君のアルタシャと同じようにね」
「……」
うう。すっかりそう呼ばれる事になれてしまって、指摘されるまで自分の本名を忘れていた気がするよ。
「これからあなたを何と呼べばいいのですか? よかったら本当の名前を教えて下さい」
「君が自分の本当の名前を教えてくれるなら。こちらも教えるよ」
今までならこれでオレはやり込められていたところだが、今回はちょっと違うぞ。
「だったらこっちはいつまでも『ユリフィラス』で通しますよ」
この切り返しに、さすがの皇帝も少し困った顔をする。
「これは一本取られたな。だけどこの国では皇帝には名前は無いんだ。死んだら贈名されるけどね。だから皇帝陛下と呼べ……と言いたいけど、君には特別に幼名のウァリウスで呼んでいいと認めるよ」
皇帝を幼名で呼ぶなどというのは、特別親しい人間にだけ与えられる相当な特権なんだろうな。
だけどオレにとってはどうでもいいことだ。
「それはどうもありがとうございます。それでは失礼しますよ」
半ば皮肉を込めてオレは頭を下げると、ウァリウスに背を向け、中庭へと駆け出した。
【作者注】
「ウァリウス」の名の由来は女装趣味のローマ皇帝で有名なヘリオガバルスの即位前の名前です。
「そう答えるとは思っていたけど、それでも一緒に来て欲しい。君には是非ともこの国の再建を手伝ってもらいたいんだ。もちろん我が后として」
この誘いは当然、予想出来ていた。
いきなり唇を奪われたんだから、それを言ってこないと思う方がどうかしているだろう。
そしてその場合のオレの返答も決まっている。
「有り難いお言葉かもしれませんけど、やっぱりお断りさせてもらいますよ」
しかしオレも男からプロポーズされて断るのはともかく、驚いたり、違和感を抱いたりしなくなってしまったな。
「そうか。それは残念だね」
オレのこの返答を予想していたのだろう。
皇帝は残念そうではあっても、特に落胆した様子は見せなかった。
「今までもずっと君は皇帝……つまり僕に批判的だったからね。僕にも至らない事が多々あることは分っている。それでも気が変わることを期待して待つのは構わないかな?」
「待つだけならご自由にどうぞ……」
それだけ言うとオレは、この部屋を出ようとするが、そこでまたしても引き留められる。
「待ちなよ。本当に一人でどうにかするつもりなのかい?」
「自分で決めた事ですから」
「分った。それでは僕が逃げずに君に同行して、宮女達を救助すると言ったらどうするんだい」
「それはダジャレですか?」
オレは少々脱力しつつ問いかける。
まったくこの皇帝陛下はどこまで本気で、どこまで冗談なのか分ったもんじゃない。
「違うよ。今まで君を何度かからかいはしたけど、これは本心だよ」
ユリフィラスはオレの目を正面から見つめている。
だがオレにはこの言葉の真意は何となく分っていた。
相手が『男』であることを知ったからこそ、振り回される事無く冷静になれているのは自分でも少々意外だな。
「そう言ったらこちらがあなたの身を案じて、一緒に逃げると思ったんですか」
「それを望むのは間違いかな?」
オレは静かに首を振る。
正直に言って心が全く動かなかったわけではない。
いくらオレだってこんなところにひとり残るのは怖いに決まっている。
大公に犯されかけたとき記憶はまだまだ生々しいのだ。
しかしここで逃げてしまうわけにはいかない。
そこはオレの譲れない一線なのだ。
「あなたは自分のやるべき事に取り組んで下さい。皇帝であるあなたが呼びかければ、きっと宮城の兵士も抵抗せずに降参するでしょう。こちらはこちらで自分に出来る事をやりますから」
「ふう……君は本当に勇敢だね。僕なんかよりよっぽど男らしいよ」
「それはどうも」
オレはついつい苦笑いを浮かべる。
男だった時には『勇敢』だの『男らしい』だの言われた事など一度も無かったのに、女にされてから何度もそう言われるようになるとは、皮肉としか言いようが無いな。
「君の決意は分ったよ。急いで助けを呼んでくる。それまでは無事でいて欲しい」
「それではここでいったんお別れですね」
オレはここで脱出口に足を向けた皇帝に問いかける。
「ところで最後に二つ質問していいですか」
「何かな?」
「まず最初に合った時、なぜ部屋に迎え入れたんです? 夜中に城壁に張り付いて動き回っている相手なんて、あからさまに怪しかったでしょうに」
これはオレにとってもずっと疑問だったのだ。
だが皇帝はあっさりと答える。
「簡単だよ。男は美人に弱いのさ。それは皇帝でも変わらない。ただそれだけの話だよ。だから僕は本当に君が尋ねてくるのを楽しみにしていたんだよ」
美人でもちょっとぐらい疑えよ!
皇帝なら人を外見だけで評価するんじゃ無い!
思わず内心でツッコミを入れてしまったが、それ以上は追求する気にならなかった。
オレにも『男として』その気持ちはよく分ったからだ。
「それではもう一つ聞きますけど、ユリフィラスというのは偽名でしょう?」
「もちろん。君のアルタシャと同じようにね」
「……」
うう。すっかりそう呼ばれる事になれてしまって、指摘されるまで自分の本名を忘れていた気がするよ。
「これからあなたを何と呼べばいいのですか? よかったら本当の名前を教えて下さい」
「君が自分の本当の名前を教えてくれるなら。こちらも教えるよ」
今までならこれでオレはやり込められていたところだが、今回はちょっと違うぞ。
「だったらこっちはいつまでも『ユリフィラス』で通しますよ」
この切り返しに、さすがの皇帝も少し困った顔をする。
「これは一本取られたな。だけどこの国では皇帝には名前は無いんだ。死んだら贈名されるけどね。だから皇帝陛下と呼べ……と言いたいけど、君には特別に幼名のウァリウスで呼んでいいと認めるよ」
皇帝を幼名で呼ぶなどというのは、特別親しい人間にだけ与えられる相当な特権なんだろうな。
だけどオレにとってはどうでもいいことだ。
「それはどうもありがとうございます。それでは失礼しますよ」
半ば皮肉を込めてオレは頭を下げると、ウァリウスに背を向け、中庭へと駆け出した。
【作者注】
「ウァリウス」の名の由来は女装趣味のローマ皇帝で有名なヘリオガバルスの即位前の名前です。
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