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第5章 辺境の地にて
第69話 一神教徒も同じ人間ということです
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オレが席を立とうとしたとき、この社の扉を激しく叩く音が鳴り響いた。
「どうやらお客様のようですね」
「それでは私が行ってきます」
「お待ちなさい」
ヴァルナロが玄関に向かおうとしたところで、フレストルは制止する。
「来られた方のお言葉は全て小生に正確に伝えなさい。よろしいですね」
「……分りました」
ヴァルナロは少しばかり不満げな表情を見せつつ、玄関に向かった。
恐らく彼女はフレストルが困っている人を見かけたら、自分の身を犠牲にする事を躊躇しない性格だと分っているので、それを心配して来客を追い返す事があったのではないだろうか。
しばしの後、ヴァルナロはその顔に不安と不満を貼り付けつつ、戻ってきた。
それは部外者のオレにすら何が起きているのかを直感させるだけの出来事だった。
「フレストル様。いつもの病です」
「そうですか。それは喜ばしい事ですね」
「え?」
病気の人が転がり込んでくることが『喜ばしい事』とは幾ら何でもおかしいだろう。
だが一瞬、あっけにとられたオレに対し、フレストルは念を押してくる。
「誤解しないで下さい。喜ばしいのは、この小生が神に与えられた役目を果たす機会が与えられた事ですよ。とにかく急ぎますのでこれにて失礼」
そういってフレストルは玄関に向かう。
どうやらフレストルにとっては『自己犠牲の機会』が与えられた事は喜ばしい事であるらしい。
しかしさしもの一神教徒も、全員がそう考えているわけではないのは、そのフレストルを見つめるヴァルナロの複雑な表情が言葉よりも雄弁に物語っている。
さてどうするか。もちろんこんなの放置して、さっさと立ち去るのがもっとも楽で確実な方策だろう。
どうせフレストルもヴァルナロもオレには何も期待などしていないし、オレ自身もこんなところの住民に対して何の義理もない。
もっと言えばオレが回復魔術を使うのを目の当たりにしたら、さすがにいきなり敵対はしないだろうけど、いろいろと文句を言われそうである。
だけどやっぱりそのまま知らん顔するのは目覚めが悪い。オレに出来る事があるなら、手を貸してやりたいところだ。
そう思ってオレもひとまずフレストルについて行く。
ただオレが良くも悪くも目立つ事は分っているし、あくまでも部外者だから、とりあえずは後ろから覗くぐらいにしておこう。
広くも無い玄関口には手作りと思われる粗末な担架で担ぎ込まれている中年の男性と、その親族か仲間らしい複数の人間いた。
見ると担架の上の男は、体のあちこちにあばたが出来て、そこからウミが流れている。
これはフレストルと初めて会ったときと同じ症状だ ―― もちろんフレストルのものはこれより遙かにひどかったけど、それは彼が言ったように幾人も病人から全て悪影響を引き受けた結果だろう。
「司祭様! お願いします!」
「いえ。司祭ではなく、宣教師様ですよ」
ヴァルナロは律儀に訂正を試みる。
たぶんここにいる一般人の大多数にとっては『多神教の司祭』も『一神教の宣教師』も同じなんだろうなあ。
「ヴァルナロ。そのような呼び名など些細な事に過ぎません。大事なのは苦しんでいる人を救うことです」
フレストルはそう言うと、病人の体に手を当てて、精神集中を始める。
どうやら以前にオレに対して行ったように、他人の受けているペナルティを自分に移す魔術を使うらしい。
傍らのヴァルナロが痛ましい表情をしているのは、やはりフレストルの身が心配なのだろう。
そうだ。ここは霊体や魔力を見抜く魔術である『霊視』をかけて見ていれば、何か分るかもしれない。
オレがこっそり自分に魔術をかけて凝視すると、病人の体からはどす黒く、どこか毒々しいオーラが放たれていた。
これがどうやらこの病気の影響によるものらしいが、やっぱり魔術は使えても知識の無いオレには何のことだか分らないのは残念だ。
そのあたりは本職のシャーマンに弟子入りでもしないとどうしようもない。
そしてその毒々しいオーラは次第に患者の体から、触れている手を通じてフレストルの方へと移動していく。
これがフレストルの使っている魔術の効果であることは間違いあるまい。
そしてそれが全てフレストルの体に移ったところで、患者の顔色は目に見えてよくなり、体を覆っていたあばたも消え失せる。
「さあ。もう大丈夫ですよ」
フレストルは少しばかり憔悴した表情を浮かべつつも、患者の家族には笑顔で応じる。
みたところ症状が現れている様子は無いが、たぶん以前に説明したように、一定時間は影響が現れない魔術を使っているのだろう。
まあ信徒 ―― もしくは改宗の可能性のある相手 ―― の前で病気の移った姿をさらすわけにはいかない事は分る。
「ありがとうございます。これは心ばかりのお礼です」
患者の家族は笑顔でいくらかの野菜を差し出してきた。
少なくとも命に関わりかねない深刻な病気を己の身に移して治すという真似をしたにしては、ささやかすぎる報酬だが、全く文句一つ言わずにフレストルは笑顔で受け取った。
それだけを見ると本当に『聖人』と表現してもいい光景だ。
「……」
しかしそんなフレストルを傍らで見つめているヴァルナロは『心配でたまらない』と言わんばかりの痛ましい表情を浮かべていた。
実に分りやすく対照的な姿だが、やっぱり一神教徒も『同じ人間』だとオレにも確信できた瞬間である。
病気をフレストルに引き受けてもらって連中はいかにも嬉しげな様子で引き揚げていき、それをフレストルは笑顔 ―― そして一方のヴァルナロは仏頂面 ―― で彼らが去って行くのを見守っていた。
この二人は実に分りやすいな。
むしろヴァルナロの態度の方が、オレにとっては理解しやすい。
そして連中の姿が見えなくなったところで、ヴァルナロはいかにも心配げにフレストルに問いかける。
「フレストル様。お体は大丈夫ですか……」
「触ってはなりません」
ヴァルナロは恐る恐る手を伸ばしていたが、フレストルの言葉を受けて反射的に引っ込める。
「小生はしばらく部屋にこもって神に祈りを捧げます。あなたは待っていて下さい。よろしいですね」
フレストルはそう言って部屋の中に姿を消す。
恐らくフレストルは以前、オレに見せたように自己治癒能力を高めて、それで病気を克服するつもりなのだろう。
見る見るうちに傷が治っていく能力は知っているが、それでも絶対確実とまで言えないのは、ヴァルナロの不安げな顔を見れば明らかだ。
う~ん。
オレが『病の治癒』を使えば、病気を癒やすのは造作も無いのだが、それを受け入れられるか少し聞いて見よう。
「あのう。ヴァルナロさん。一つ聞いていいですか?」
「なんでしょうか。すみませんがこれから私も礼拝堂で祈りを捧げるつもりなので、短くお願いしますよ」
恐らくヴァルナロはこれから礼拝堂で神にフレストルの無事を祈るのだろう。
だがオレがフレストルを助けられる事を伝えれば、理解してもらえるかもしれない。
もちろんフレストルは回復魔法を『蛮地のまじない』と蔑んでいたが、それが有益なら使うのは悪い事ではないはずだ。
元の世界では『力そのものに善悪は無い。全てはその使い方次第』だったのだし、それを理解してもらえれば、ひょっとすると聖女教会と聖セルム教で協力とまではいかなくとも、ある程度の融通が利かせられるかもしれない。
だがいきなりそんな事を口にしても、互いに蔑みあっている両者が仲良く出来るはずが無いことぐらいは、世間知らずなオレにだって自明の理だ。
そんなわけでとりあえずオレは遠回しに、話を持ちかけることにした。
「フレストルさんがさっきの人から、病気をご自身の身にうつしたのですよね」
「それが宣教師の役目です。派遣された先の人々があのように困っているのを助け、彼らの神の恩寵を示すのが仕事なのですから」
もとの世界でも某宗教の宣教師は、自分たちの信仰を伝えると共に、その文明を示して改宗に誘ったそうだが、この世界では魔術がそれに代るものなのだろう。
そしてフレストルは先ほどの態度を見ると、信仰を前に押し出すよりも、まずは病人を助ける事で地元の人間の信頼を得ることを優先させているらしい。
実際、この多神教の地域において、オレのように教義に興味を持ってフレストルの元を訪れる人間はむしろ少数だろう ―― そしてこのオレは信仰心など全く無くて、ただ単に一神教徒について知りたかっただけだ。
だから説教をするよりも、まず人々のためにほとんど無報酬で働き、尊敬と信頼を得た上でそれから布教を始める『急がば回れ』方式は有効なやり方だと思う。
自分がその病気を引き受けるという、とんでもない自己犠牲を余儀なくされるのはちょっとついていけない世界ではあるけど。
「それでしたら、この地では回復魔法がある事はご存じですよね。それを使えばフレストルさんの苦労は大分減ると思いますよ」
オレの問いかけに対して、ヴァルナロはかなりあからさまにその眉をひそめる。
「そんな事は出来ません。我ら聖セルムの教えに従う宣教師が使うことを認められるのは、教会で訓練を受けた『唯一なるもの』に通じる魔術だけです」
「そういう戒律になっているのですか?」
「実は聖典にはそんな記述はないのですけど……」
ここでヴァルナロはちょっと言葉を濁す。
どうやら彼女はまだそのあたりについては、よく学んでいるワケではないらしい。
まあこの世界は高等教育が浸透しているワケではないし、オレと同年配のヴァルナロにすれば聖典を読み返すのはともかく、細かい神学レベルについてロクに知らないのは無理もない話である。
彼らの聖典に魔術に関する記述が無いのは、たぶんそれが書かれた時点では『唯一なるもの』の魔術が確立していなかったからなんだろうな。
そして聖典に記述が無いが故に、それぞれの派閥でいろいろと異なる解釈が取られて、違う対応になっている可能性が高い。
ああややこしい。
戒律だの聖典だのはオレにとってはどうでもいいことだけど、魔術の扱いだって一つ間違ったら『魔女として火あぶり』なんて事になりかねない危険性もあるわけだ。
だけどヴァルナロがよく知らないのなら、ここで話をしていても仕方ない。
オレは思い切って、フレストル本人に治療を持ちかけることにした。
「どうやらお客様のようですね」
「それでは私が行ってきます」
「お待ちなさい」
ヴァルナロが玄関に向かおうとしたところで、フレストルは制止する。
「来られた方のお言葉は全て小生に正確に伝えなさい。よろしいですね」
「……分りました」
ヴァルナロは少しばかり不満げな表情を見せつつ、玄関に向かった。
恐らく彼女はフレストルが困っている人を見かけたら、自分の身を犠牲にする事を躊躇しない性格だと分っているので、それを心配して来客を追い返す事があったのではないだろうか。
しばしの後、ヴァルナロはその顔に不安と不満を貼り付けつつ、戻ってきた。
それは部外者のオレにすら何が起きているのかを直感させるだけの出来事だった。
「フレストル様。いつもの病です」
「そうですか。それは喜ばしい事ですね」
「え?」
病気の人が転がり込んでくることが『喜ばしい事』とは幾ら何でもおかしいだろう。
だが一瞬、あっけにとられたオレに対し、フレストルは念を押してくる。
「誤解しないで下さい。喜ばしいのは、この小生が神に与えられた役目を果たす機会が与えられた事ですよ。とにかく急ぎますのでこれにて失礼」
そういってフレストルは玄関に向かう。
どうやらフレストルにとっては『自己犠牲の機会』が与えられた事は喜ばしい事であるらしい。
しかしさしもの一神教徒も、全員がそう考えているわけではないのは、そのフレストルを見つめるヴァルナロの複雑な表情が言葉よりも雄弁に物語っている。
さてどうするか。もちろんこんなの放置して、さっさと立ち去るのがもっとも楽で確実な方策だろう。
どうせフレストルもヴァルナロもオレには何も期待などしていないし、オレ自身もこんなところの住民に対して何の義理もない。
もっと言えばオレが回復魔術を使うのを目の当たりにしたら、さすがにいきなり敵対はしないだろうけど、いろいろと文句を言われそうである。
だけどやっぱりそのまま知らん顔するのは目覚めが悪い。オレに出来る事があるなら、手を貸してやりたいところだ。
そう思ってオレもひとまずフレストルについて行く。
ただオレが良くも悪くも目立つ事は分っているし、あくまでも部外者だから、とりあえずは後ろから覗くぐらいにしておこう。
広くも無い玄関口には手作りと思われる粗末な担架で担ぎ込まれている中年の男性と、その親族か仲間らしい複数の人間いた。
見ると担架の上の男は、体のあちこちにあばたが出来て、そこからウミが流れている。
これはフレストルと初めて会ったときと同じ症状だ ―― もちろんフレストルのものはこれより遙かにひどかったけど、それは彼が言ったように幾人も病人から全て悪影響を引き受けた結果だろう。
「司祭様! お願いします!」
「いえ。司祭ではなく、宣教師様ですよ」
ヴァルナロは律儀に訂正を試みる。
たぶんここにいる一般人の大多数にとっては『多神教の司祭』も『一神教の宣教師』も同じなんだろうなあ。
「ヴァルナロ。そのような呼び名など些細な事に過ぎません。大事なのは苦しんでいる人を救うことです」
フレストルはそう言うと、病人の体に手を当てて、精神集中を始める。
どうやら以前にオレに対して行ったように、他人の受けているペナルティを自分に移す魔術を使うらしい。
傍らのヴァルナロが痛ましい表情をしているのは、やはりフレストルの身が心配なのだろう。
そうだ。ここは霊体や魔力を見抜く魔術である『霊視』をかけて見ていれば、何か分るかもしれない。
オレがこっそり自分に魔術をかけて凝視すると、病人の体からはどす黒く、どこか毒々しいオーラが放たれていた。
これがどうやらこの病気の影響によるものらしいが、やっぱり魔術は使えても知識の無いオレには何のことだか分らないのは残念だ。
そのあたりは本職のシャーマンに弟子入りでもしないとどうしようもない。
そしてその毒々しいオーラは次第に患者の体から、触れている手を通じてフレストルの方へと移動していく。
これがフレストルの使っている魔術の効果であることは間違いあるまい。
そしてそれが全てフレストルの体に移ったところで、患者の顔色は目に見えてよくなり、体を覆っていたあばたも消え失せる。
「さあ。もう大丈夫ですよ」
フレストルは少しばかり憔悴した表情を浮かべつつも、患者の家族には笑顔で応じる。
みたところ症状が現れている様子は無いが、たぶん以前に説明したように、一定時間は影響が現れない魔術を使っているのだろう。
まあ信徒 ―― もしくは改宗の可能性のある相手 ―― の前で病気の移った姿をさらすわけにはいかない事は分る。
「ありがとうございます。これは心ばかりのお礼です」
患者の家族は笑顔でいくらかの野菜を差し出してきた。
少なくとも命に関わりかねない深刻な病気を己の身に移して治すという真似をしたにしては、ささやかすぎる報酬だが、全く文句一つ言わずにフレストルは笑顔で受け取った。
それだけを見ると本当に『聖人』と表現してもいい光景だ。
「……」
しかしそんなフレストルを傍らで見つめているヴァルナロは『心配でたまらない』と言わんばかりの痛ましい表情を浮かべていた。
実に分りやすく対照的な姿だが、やっぱり一神教徒も『同じ人間』だとオレにも確信できた瞬間である。
病気をフレストルに引き受けてもらって連中はいかにも嬉しげな様子で引き揚げていき、それをフレストルは笑顔 ―― そして一方のヴァルナロは仏頂面 ―― で彼らが去って行くのを見守っていた。
この二人は実に分りやすいな。
むしろヴァルナロの態度の方が、オレにとっては理解しやすい。
そして連中の姿が見えなくなったところで、ヴァルナロはいかにも心配げにフレストルに問いかける。
「フレストル様。お体は大丈夫ですか……」
「触ってはなりません」
ヴァルナロは恐る恐る手を伸ばしていたが、フレストルの言葉を受けて反射的に引っ込める。
「小生はしばらく部屋にこもって神に祈りを捧げます。あなたは待っていて下さい。よろしいですね」
フレストルはそう言って部屋の中に姿を消す。
恐らくフレストルは以前、オレに見せたように自己治癒能力を高めて、それで病気を克服するつもりなのだろう。
見る見るうちに傷が治っていく能力は知っているが、それでも絶対確実とまで言えないのは、ヴァルナロの不安げな顔を見れば明らかだ。
う~ん。
オレが『病の治癒』を使えば、病気を癒やすのは造作も無いのだが、それを受け入れられるか少し聞いて見よう。
「あのう。ヴァルナロさん。一つ聞いていいですか?」
「なんでしょうか。すみませんがこれから私も礼拝堂で祈りを捧げるつもりなので、短くお願いしますよ」
恐らくヴァルナロはこれから礼拝堂で神にフレストルの無事を祈るのだろう。
だがオレがフレストルを助けられる事を伝えれば、理解してもらえるかもしれない。
もちろんフレストルは回復魔法を『蛮地のまじない』と蔑んでいたが、それが有益なら使うのは悪い事ではないはずだ。
元の世界では『力そのものに善悪は無い。全てはその使い方次第』だったのだし、それを理解してもらえれば、ひょっとすると聖女教会と聖セルム教で協力とまではいかなくとも、ある程度の融通が利かせられるかもしれない。
だがいきなりそんな事を口にしても、互いに蔑みあっている両者が仲良く出来るはずが無いことぐらいは、世間知らずなオレにだって自明の理だ。
そんなわけでとりあえずオレは遠回しに、話を持ちかけることにした。
「フレストルさんがさっきの人から、病気をご自身の身にうつしたのですよね」
「それが宣教師の役目です。派遣された先の人々があのように困っているのを助け、彼らの神の恩寵を示すのが仕事なのですから」
もとの世界でも某宗教の宣教師は、自分たちの信仰を伝えると共に、その文明を示して改宗に誘ったそうだが、この世界では魔術がそれに代るものなのだろう。
そしてフレストルは先ほどの態度を見ると、信仰を前に押し出すよりも、まずは病人を助ける事で地元の人間の信頼を得ることを優先させているらしい。
実際、この多神教の地域において、オレのように教義に興味を持ってフレストルの元を訪れる人間はむしろ少数だろう ―― そしてこのオレは信仰心など全く無くて、ただ単に一神教徒について知りたかっただけだ。
だから説教をするよりも、まず人々のためにほとんど無報酬で働き、尊敬と信頼を得た上でそれから布教を始める『急がば回れ』方式は有効なやり方だと思う。
自分がその病気を引き受けるという、とんでもない自己犠牲を余儀なくされるのはちょっとついていけない世界ではあるけど。
「それでしたら、この地では回復魔法がある事はご存じですよね。それを使えばフレストルさんの苦労は大分減ると思いますよ」
オレの問いかけに対して、ヴァルナロはかなりあからさまにその眉をひそめる。
「そんな事は出来ません。我ら聖セルムの教えに従う宣教師が使うことを認められるのは、教会で訓練を受けた『唯一なるもの』に通じる魔術だけです」
「そういう戒律になっているのですか?」
「実は聖典にはそんな記述はないのですけど……」
ここでヴァルナロはちょっと言葉を濁す。
どうやら彼女はまだそのあたりについては、よく学んでいるワケではないらしい。
まあこの世界は高等教育が浸透しているワケではないし、オレと同年配のヴァルナロにすれば聖典を読み返すのはともかく、細かい神学レベルについてロクに知らないのは無理もない話である。
彼らの聖典に魔術に関する記述が無いのは、たぶんそれが書かれた時点では『唯一なるもの』の魔術が確立していなかったからなんだろうな。
そして聖典に記述が無いが故に、それぞれの派閥でいろいろと異なる解釈が取られて、違う対応になっている可能性が高い。
ああややこしい。
戒律だの聖典だのはオレにとってはどうでもいいことだけど、魔術の扱いだって一つ間違ったら『魔女として火あぶり』なんて事になりかねない危険性もあるわけだ。
だけどヴァルナロがよく知らないのなら、ここで話をしていても仕方ない。
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