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第5章 辺境の地にて
第87話 新たな助け そして明かされるもう一つの真相
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アカスタ師弟が一部を引き受けてくれたお陰で、ある程度は減少しているとはいえど『病んだ霊体』の群れが迫り来る。
「くう。喰らいたければ幾らでも奪いなさい!」
オレは霊体達にこの身に宿る魔力を与え、それにより連中の身に残る『澱み朽ちた崇拝』を受け入れるのだ。
そしてそれによって霊体達を清めて、本来行くべき領域に進ませて、その一方でオレは自分の身を回復魔法で癒やし続ける。
考えてみるとこのやり方は、フレストル達一神教徒と似ているな。
ひょっとするとフレストルを見ていなかったら、思いつかなかったかもしれない。
【魔力を提供しているのが我だからと言っても、無尽蔵ではないのだぞ。しかも奴らの放つ『毒』を受け入れるのはその身だと言うことを忘れておらんか?】
ファーゼスト神は困った様子でオレに呼びかけてきた。
もしオレが死ねば、この霊体が一気に解き放たれて、ファーゼスト市に害を及ぼすのは確実なのだからこの神様だって困るのだろう。
「それぐらいは分っているつもりですよ!」
そう叫んだ瞬間、オレに取り憑いた霊体から焼け付くような苦痛がこの身に流れ込む。
予想と覚悟はしていたが、それでもその不快感と苦痛は尋常では無い。
もちろんオレは自らの身を魔術で回復はさせているが、それが追いつく保証はどこにもなかった。
しかもそれだけではない。
連中が有していた『澱み朽ちた崇拝』に伴う記憶がオレの思考を犯し始めていたのだ。
それも今度は複数だ。
幾つもの過去の光景がオレの脳裏にて爆ぜる。それは頭の中に無理矢理複数のスクリーンとスピーカーをねじ込まれ、それぞれからめいめい勝手にいろいろな光景や音を垂れ流されるような感覚である。
その結果、オレにはあちこちから引っ張られ、また押され、ねじ切れるかのような精神的な苦痛まで押し寄せてくる。
心身の両方を同時に苛まれ、オレは朦朧としかける意識を何とかつなぎ止めるのが精一杯だった。
これはまずい。
このままオレの精神が取り込まれてしまったら、今は一部だけを通している霊体への防御壁も破られて、この場にいる全てがこちらに殺到してくるに違いない。
そうなれば待っているのは確実な死だけだ。
だが奴らがオレの身体や精神を侵食する速度は間違いなくオレの事前の想定 ―― どちらかと言えば希望 ―― を上回っている。
しまった。これではどうしようもない。
待ち受ける死の予感に、オレの背筋が凍り付きかける。
だがそのときオレの肩に、がっしりとした手が置かれ、それと共にこちらの受けていた心身の苦痛は両方とも潮が引くように消え去った。
え? なぜ?
これはまさか?!
こんな事が出来るのはオレの知る限りひとりだけだ。
「大丈夫ですよ。アルタシャさん。あなたには小生がついていますから」
「ええ?!」
オレが思わず肩に置かれた手の先を見ると、そこでは人を安心させる笑顔を浮かべて、フレストルがこちらを見下ろしていたのだった。
「フレストルさん? どうしてここに?」
「あなたが何をしているのかは小生にもよく分りません。しかしこの精霊達をどうにかしようとしている事は理解出来ますよ。ならば手助けをするのが当然でしょう」
フレストルは普段通りの落ち着いた口調だ。
少なくとも以前に『オレの男装をとがめ立てした』時よりよっぽど落ち着いている ―― それはそれでどうかと思うけどな。
「それでこちらの悪影響をあなたが引き受けて下さっているんですか」
「もちろんですとも。さあ小生が持ちこたえている内に早く、あなたの成すべき事を行いなさい」
どうやらフレストルはいま『他人の受けた悪影響を引き受ける』と『引き受けた悪影響を一定時間無視できる』の二つの魔術を使用しているようだ。
それによってオレはいま普段通りに状態に戻っているのだ。
実にありがたい。
しかし今のオレが金髪になっているのはまだいいとしても、使っている魔術がフレストルの言うところの『異端』のものであることはいいのだろうか?
下手をしたら破門に処せられてしまうのではないのか。
オレの顔に浮かんだ不安に気付いたのか、フレストルは改めてほほえみかけてくる。
「あなたには何度も助けられましたからね。せめて一度ぐらい借りを返しておかないと、小生としても気が収まらないのですよ」
「え?」
オレは一瞬だが困惑する。
もちろんオレは初対面以降、何度もフレストルを助けて治癒してきた。
だがそれは一神教徒が否定する『異端の魔術』によるものであったから、オレは敢えてそれを黙ってきたはずだ。
ひょっとしてそれもヴァルナロから聞いたのか?
だが幸か不幸かその予想は外れていた。
「気付かれないと思ってましたか? 小生にはメリアタンがいるのですよ」
そう言ってフレストルは使い魔である『精霊を封じた金属の猛禽』であるメリアタンを指し示す。
「あれが見たものは小生も見ているのです。だから今までのあなたの行為は全て知っています」
「ええ?!」
それでは今までの事をフレストルは全部お見通しだったの?!
そしてその上で知らん顔をしつつ『異教の魔術を認めるのは異端』などとヌケヌケと発言しながら、ちゃっかり恩恵だけ受けていたのか。
ぐう。なんてしたたかなんだ。
何も知らないフレストルをこっそり治療していたつもりだったのに、それを完全に見抜かれ、利用されていたとは。
オレは今の状況もついつい忘れ、フレストルの『してやったり』と言わんばかりの笑顔をマジマジと見返してしまった。
驚愕のあまり動きを止めたオレに対し、フレストルはこっちの動揺を見透かしているかのようだ。
きっとこの宣教師は今まで、オレが隠れてこっそりと治療しているのを使い魔を通して見ていて、内心ではほくそ笑んでいたに違いない。
うう。まったく融通のきかない杓子定規な男だと思っていたのに、それは全てこちらを欺く仮の姿だったとは。
畜生! 高慢でも気高く誇り高く、困っている人を助けるために命をかける純粋な男だと思っていたのに、裏ではこんなに狡猾な一面があったとは。
オレの純粋な思いを返してくれ!
「どうしました? 小生が耐えられるのにも限界があります。急いで下さい」
特にせかすわけでもなく、落ち着いた態度でフレストルはオレに接している。
いや。内心でちょっと文句を言ってしまったが、今は助けてくれた事には素直に感謝はしているし、この機会を逃すわけにいかない事も分ってます。
本当にこの人とやりあっていると『何が大事なのか』という感覚が根本的に違ってくる気がしてくるが。
「分りました。急ぎますよ!」
オレは自分に憑いた霊体に魔力を与えつつ、同時に自分自身も癒やす。
そうするとオレに『よどんだ崇拝』を押しつけた霊体は、次から次へと離れて天に昇るかのように去って行く。
それに釣られるように、いくばくかの霊体も後に続いてくれる。
いいぞ。順調だ。
ファーゼスト神、アカスタの霊体師匠、そしてフレストルの助けが無ければ、オレはひとたまりもなく殺されていただろう。
そう考えるといまこの場では『一神教』『多神教』『精霊崇拝』が揃って力を合わせ、危機を乗り切ろうとしているんだな。
だけどたぶん誰も互いに力を合わせている、とは思っていないし、もちろんこの一件が終わったら口をきくのもイヤだと言う、関係に戻ってしまうに違いない。
何百年にもわたる対立が、一つの事件をきっかけに解決し、それで朝日が昇って万事オッケーなどという都合のいい事が起きるはずが無いのだ。
ああ。今は余計な事を考えている場合ではなかった。
フレストルやアカスタ達、更にファーゼスト神がどうにか頑張ってくれているうちに、この膨大な霊体をどうにかしなければならないんだ。
今のようにファーゼスト神が膨大な魔力を提供し、アカスタとその師匠が霊体達の関心を引きつけ、フレストルがオレが受けている悪影響を身代わりとなって引き受け、その助力を得て霊体達を癒やし続けるという奇跡のような協力は、たぶん神様だろうと意図しては出来ないだろう。
言い換えればこのチャンスを逃せば、もう後はない。
オレが必死で霊体達の相手をしていると、またしてもファーゼスト神の少々困った様子で意志が飛んでくる。
【そなた……自分の魔力では無いと思って、好き放題使いすぎでは無いか? 幾ら吾が神と言っても限度はあるのだぞ】
まあファーゼスト神の魔力はこの街の住民が捧げたものだからな。たぶん今のオレは一秒ごとに数人、下手すれば数十人分の魔力を浪費しているかもしれない。
この神が心配するのは当然かもしれないが、こっちはそんな事を気にしていられる状況では無い。
「なんだったら請求書は女神イロールの方に送りつけて下さいよ」
こっちではその『代金』は一切はらう気は無いからな。
確かに助けてもらってはいるし、感謝もするけど考えてみればオレはこのファーゼスト市も守っているんだ。
魔力を提供してもらうぐらいは当然の協力というものだろう。
【また随分と素っ気ない態度だな。イロールはそなたの守護女神ではないか】
それはマジで違うっつうの!
オレはあの女神のせいで無理矢理、女にされてしまっただけで、信仰心なんて欠片も持ち合わせちゃいないよ!
「とにかく。今は魔力なんぞ惜しんでいられる状態じゃないでしょう。こちらが死んでこの霊体があふれかえったら、あなただって困るはずですよ」
【確かにそれは困るな。しかしそもそもこの事態を招いた一因はそなたの存在にもあるのではないのか? その償いをしようとは思わないのか?】
まあこれだけあの霊体の群れがオレの事を必死で求めていたら、神様が気付かないはずが無いよね。
だからといってこっちが申し訳なく思う理由もまた存在しない。
もともとオレがここに留まっていたのも、この疫病をもたらす霊体をどうにかするためだったのだ。
ファーゼスト周辺の村人達や下町の住民達を救う事を考えれば、ファーゼスト神の都合なんぞオレの知ったこっちゃない。
とにかく神様はグダグダ文句言わず、オレが必要とする魔力だけ提供してくれていたらいいんだよ。
そんなわけでオレもちょっとばかり意地悪く、ファーゼスト神に対応してみることにした。
「そうですか。こっちが悪いというなら、仕方ありません。こちらはその罪を感じて、今すぐこの地を離れ、二度と帰ってこないと約束しましょう」
【待て! それは本気なのか?!】
もちろんいまオレがそんな事をすれば、多大な犠牲が出るのは確実だ。
下町や周囲の住民達を見捨てて逃げ出すなど、オレに出来るはずが無い。
こんな事を口にしたのは、次の台詞につなげるための駆け引きみたいなものだ。
「それではこれが終わった後で、こちらに『妻になれ』などと言い出さないと約束して下さいよ」
【ふん。見抜いておったか。仕方あるまい】
オレの意識の向こうで、神がため息をつく姿が見えた気がした。
まったく『多神教の神様』って何でこんなに困ったヤツばかりなのかね。
オレはファーゼスト神に続いてため息をつく。
気がつくとオレに殺到していた霊体達もかなり数を減らしてきたようだ。
どうにか危機を乗り切る目処がついたかと思い、オレは僅かに安堵する。
だがそれはまだまだ甘かったのだ。
「くう。喰らいたければ幾らでも奪いなさい!」
オレは霊体達にこの身に宿る魔力を与え、それにより連中の身に残る『澱み朽ちた崇拝』を受け入れるのだ。
そしてそれによって霊体達を清めて、本来行くべき領域に進ませて、その一方でオレは自分の身を回復魔法で癒やし続ける。
考えてみるとこのやり方は、フレストル達一神教徒と似ているな。
ひょっとするとフレストルを見ていなかったら、思いつかなかったかもしれない。
【魔力を提供しているのが我だからと言っても、無尽蔵ではないのだぞ。しかも奴らの放つ『毒』を受け入れるのはその身だと言うことを忘れておらんか?】
ファーゼスト神は困った様子でオレに呼びかけてきた。
もしオレが死ねば、この霊体が一気に解き放たれて、ファーゼスト市に害を及ぼすのは確実なのだからこの神様だって困るのだろう。
「それぐらいは分っているつもりですよ!」
そう叫んだ瞬間、オレに取り憑いた霊体から焼け付くような苦痛がこの身に流れ込む。
予想と覚悟はしていたが、それでもその不快感と苦痛は尋常では無い。
もちろんオレは自らの身を魔術で回復はさせているが、それが追いつく保証はどこにもなかった。
しかもそれだけではない。
連中が有していた『澱み朽ちた崇拝』に伴う記憶がオレの思考を犯し始めていたのだ。
それも今度は複数だ。
幾つもの過去の光景がオレの脳裏にて爆ぜる。それは頭の中に無理矢理複数のスクリーンとスピーカーをねじ込まれ、それぞれからめいめい勝手にいろいろな光景や音を垂れ流されるような感覚である。
その結果、オレにはあちこちから引っ張られ、また押され、ねじ切れるかのような精神的な苦痛まで押し寄せてくる。
心身の両方を同時に苛まれ、オレは朦朧としかける意識を何とかつなぎ止めるのが精一杯だった。
これはまずい。
このままオレの精神が取り込まれてしまったら、今は一部だけを通している霊体への防御壁も破られて、この場にいる全てがこちらに殺到してくるに違いない。
そうなれば待っているのは確実な死だけだ。
だが奴らがオレの身体や精神を侵食する速度は間違いなくオレの事前の想定 ―― どちらかと言えば希望 ―― を上回っている。
しまった。これではどうしようもない。
待ち受ける死の予感に、オレの背筋が凍り付きかける。
だがそのときオレの肩に、がっしりとした手が置かれ、それと共にこちらの受けていた心身の苦痛は両方とも潮が引くように消え去った。
え? なぜ?
これはまさか?!
こんな事が出来るのはオレの知る限りひとりだけだ。
「大丈夫ですよ。アルタシャさん。あなたには小生がついていますから」
「ええ?!」
オレが思わず肩に置かれた手の先を見ると、そこでは人を安心させる笑顔を浮かべて、フレストルがこちらを見下ろしていたのだった。
「フレストルさん? どうしてここに?」
「あなたが何をしているのかは小生にもよく分りません。しかしこの精霊達をどうにかしようとしている事は理解出来ますよ。ならば手助けをするのが当然でしょう」
フレストルは普段通りの落ち着いた口調だ。
少なくとも以前に『オレの男装をとがめ立てした』時よりよっぽど落ち着いている ―― それはそれでどうかと思うけどな。
「それでこちらの悪影響をあなたが引き受けて下さっているんですか」
「もちろんですとも。さあ小生が持ちこたえている内に早く、あなたの成すべき事を行いなさい」
どうやらフレストルはいま『他人の受けた悪影響を引き受ける』と『引き受けた悪影響を一定時間無視できる』の二つの魔術を使用しているようだ。
それによってオレはいま普段通りに状態に戻っているのだ。
実にありがたい。
しかし今のオレが金髪になっているのはまだいいとしても、使っている魔術がフレストルの言うところの『異端』のものであることはいいのだろうか?
下手をしたら破門に処せられてしまうのではないのか。
オレの顔に浮かんだ不安に気付いたのか、フレストルは改めてほほえみかけてくる。
「あなたには何度も助けられましたからね。せめて一度ぐらい借りを返しておかないと、小生としても気が収まらないのですよ」
「え?」
オレは一瞬だが困惑する。
もちろんオレは初対面以降、何度もフレストルを助けて治癒してきた。
だがそれは一神教徒が否定する『異端の魔術』によるものであったから、オレは敢えてそれを黙ってきたはずだ。
ひょっとしてそれもヴァルナロから聞いたのか?
だが幸か不幸かその予想は外れていた。
「気付かれないと思ってましたか? 小生にはメリアタンがいるのですよ」
そう言ってフレストルは使い魔である『精霊を封じた金属の猛禽』であるメリアタンを指し示す。
「あれが見たものは小生も見ているのです。だから今までのあなたの行為は全て知っています」
「ええ?!」
それでは今までの事をフレストルは全部お見通しだったの?!
そしてその上で知らん顔をしつつ『異教の魔術を認めるのは異端』などとヌケヌケと発言しながら、ちゃっかり恩恵だけ受けていたのか。
ぐう。なんてしたたかなんだ。
何も知らないフレストルをこっそり治療していたつもりだったのに、それを完全に見抜かれ、利用されていたとは。
オレは今の状況もついつい忘れ、フレストルの『してやったり』と言わんばかりの笑顔をマジマジと見返してしまった。
驚愕のあまり動きを止めたオレに対し、フレストルはこっちの動揺を見透かしているかのようだ。
きっとこの宣教師は今まで、オレが隠れてこっそりと治療しているのを使い魔を通して見ていて、内心ではほくそ笑んでいたに違いない。
うう。まったく融通のきかない杓子定規な男だと思っていたのに、それは全てこちらを欺く仮の姿だったとは。
畜生! 高慢でも気高く誇り高く、困っている人を助けるために命をかける純粋な男だと思っていたのに、裏ではこんなに狡猾な一面があったとは。
オレの純粋な思いを返してくれ!
「どうしました? 小生が耐えられるのにも限界があります。急いで下さい」
特にせかすわけでもなく、落ち着いた態度でフレストルはオレに接している。
いや。内心でちょっと文句を言ってしまったが、今は助けてくれた事には素直に感謝はしているし、この機会を逃すわけにいかない事も分ってます。
本当にこの人とやりあっていると『何が大事なのか』という感覚が根本的に違ってくる気がしてくるが。
「分りました。急ぎますよ!」
オレは自分に憑いた霊体に魔力を与えつつ、同時に自分自身も癒やす。
そうするとオレに『よどんだ崇拝』を押しつけた霊体は、次から次へと離れて天に昇るかのように去って行く。
それに釣られるように、いくばくかの霊体も後に続いてくれる。
いいぞ。順調だ。
ファーゼスト神、アカスタの霊体師匠、そしてフレストルの助けが無ければ、オレはひとたまりもなく殺されていただろう。
そう考えるといまこの場では『一神教』『多神教』『精霊崇拝』が揃って力を合わせ、危機を乗り切ろうとしているんだな。
だけどたぶん誰も互いに力を合わせている、とは思っていないし、もちろんこの一件が終わったら口をきくのもイヤだと言う、関係に戻ってしまうに違いない。
何百年にもわたる対立が、一つの事件をきっかけに解決し、それで朝日が昇って万事オッケーなどという都合のいい事が起きるはずが無いのだ。
ああ。今は余計な事を考えている場合ではなかった。
フレストルやアカスタ達、更にファーゼスト神がどうにか頑張ってくれているうちに、この膨大な霊体をどうにかしなければならないんだ。
今のようにファーゼスト神が膨大な魔力を提供し、アカスタとその師匠が霊体達の関心を引きつけ、フレストルがオレが受けている悪影響を身代わりとなって引き受け、その助力を得て霊体達を癒やし続けるという奇跡のような協力は、たぶん神様だろうと意図しては出来ないだろう。
言い換えればこのチャンスを逃せば、もう後はない。
オレが必死で霊体達の相手をしていると、またしてもファーゼスト神の少々困った様子で意志が飛んでくる。
【そなた……自分の魔力では無いと思って、好き放題使いすぎでは無いか? 幾ら吾が神と言っても限度はあるのだぞ】
まあファーゼスト神の魔力はこの街の住民が捧げたものだからな。たぶん今のオレは一秒ごとに数人、下手すれば数十人分の魔力を浪費しているかもしれない。
この神が心配するのは当然かもしれないが、こっちはそんな事を気にしていられる状況では無い。
「なんだったら請求書は女神イロールの方に送りつけて下さいよ」
こっちではその『代金』は一切はらう気は無いからな。
確かに助けてもらってはいるし、感謝もするけど考えてみればオレはこのファーゼスト市も守っているんだ。
魔力を提供してもらうぐらいは当然の協力というものだろう。
【また随分と素っ気ない態度だな。イロールはそなたの守護女神ではないか】
それはマジで違うっつうの!
オレはあの女神のせいで無理矢理、女にされてしまっただけで、信仰心なんて欠片も持ち合わせちゃいないよ!
「とにかく。今は魔力なんぞ惜しんでいられる状態じゃないでしょう。こちらが死んでこの霊体があふれかえったら、あなただって困るはずですよ」
【確かにそれは困るな。しかしそもそもこの事態を招いた一因はそなたの存在にもあるのではないのか? その償いをしようとは思わないのか?】
まあこれだけあの霊体の群れがオレの事を必死で求めていたら、神様が気付かないはずが無いよね。
だからといってこっちが申し訳なく思う理由もまた存在しない。
もともとオレがここに留まっていたのも、この疫病をもたらす霊体をどうにかするためだったのだ。
ファーゼスト周辺の村人達や下町の住民達を救う事を考えれば、ファーゼスト神の都合なんぞオレの知ったこっちゃない。
とにかく神様はグダグダ文句言わず、オレが必要とする魔力だけ提供してくれていたらいいんだよ。
そんなわけでオレもちょっとばかり意地悪く、ファーゼスト神に対応してみることにした。
「そうですか。こっちが悪いというなら、仕方ありません。こちらはその罪を感じて、今すぐこの地を離れ、二度と帰ってこないと約束しましょう」
【待て! それは本気なのか?!】
もちろんいまオレがそんな事をすれば、多大な犠牲が出るのは確実だ。
下町や周囲の住民達を見捨てて逃げ出すなど、オレに出来るはずが無い。
こんな事を口にしたのは、次の台詞につなげるための駆け引きみたいなものだ。
「それではこれが終わった後で、こちらに『妻になれ』などと言い出さないと約束して下さいよ」
【ふん。見抜いておったか。仕方あるまい】
オレの意識の向こうで、神がため息をつく姿が見えた気がした。
まったく『多神教の神様』って何でこんなに困ったヤツばかりなのかね。
オレはファーゼスト神に続いてため息をつく。
気がつくとオレに殺到していた霊体達もかなり数を減らしてきたようだ。
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