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第6章 西方・第五階級編
第100話 「流血の惨事」をどうにか避けると
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「ひ……ひぇぇぇぇ!」
高らかに鳴り響く銃声と、それによって倒れ込んだ男の姿を見て、こちらを包囲していた連中は慌てて逃げ出していく。
この連中はしょせん単なる強盗目的であり、命がけでこちらと戦う気など最初からなかったのは明らかだ。
要するに数でこちらを脅して金を巻き上げれば十分だったのである。
だからオレが《調和》で戦闘意欲を失わせ、その間にこちらが逃げれば穏便に全て済ませる事が出来たはずだ。
しかし銃など使われたら、全て台無しだ。
「痛ぇよぉぉぉぉ!」
撃たれた男は腕を押さえ、地面を転げ回って苦痛にうめいている。
もちろん仲間は倒れた相手の生死すら確認せず、既に消え失せていた。
まあしょせんは金目当てでつるんでいるだけの連中だから、自分の身を危うくしてまで仲間を助けたりはしないのだろうな。
もっともこっちの『同行者』は、さらに当てにならないのだけど。
そしてアロンはオレに対して、疑念の声をかけてきた。
「なぜだ? どうして邪魔をした?」
アロンが引き金に力をかけた瞬間、オレは反射的に銃身を押して、銃口を標的からそらしたのだ。
もし一瞬でもオレの反応が遅れていたら、胸をぶち抜いて即死させていたことだろう。
「すみません! とりあえず話は後にして下さい!」
オレは腕を押さえてうめいている男に対し【応急手当】をかける。
そうすると苦痛が治まったのか、男はこちらに困惑した表情を向けてきた。
「お……お前は?」
「詳しい話はいいですから、すぐに立ち去って下さい。さもないと次はこの程度はすみませんよ」
「わ、分った! そうさせてもらう!」
オレがにらみ付けたところで男は慌てて立ち上がると、負傷した腕を押さえつつ走り去っていく。たぶん逃げ去った仲間に合流するつもりなんだろう。
腕の傷は【応急手当】では完治していないけど、そこまでオレが面倒を見てやる義理も無い。
むしろ問題はこっちの方だ。
「とりあえずこの場を一刻も早く離れないといけません!」
オレは射撃の邪魔をされて不機嫌そうなアロン、そしてやっぱり何もせずに見ているだけの『第五階級』の連中に向けて怒鳴る。
「お前はそういうが――」
「とにかく急いで下さい!」
アロンは気にしていないようだが、先ほどの銃声は間違いなく周囲の数キロに鳴り響いたはずだ。
何も知らない相手なら、さきほどの強盗連中が逃げ去ったのと同じく驚くだけで済むかもしれないが、過去に銃撃された事のある人間ならば、ここにお尋ね者がいることがバレバレである。
また仮に知っている相手がいなかったとしても、さっきの強盗連中が話を広めたら、やはり追っ手が差し向けられる可能性が高い。
それを教えていなかったことは、オレとしても迂闊としかいいようがない。
今まで『第五階級』の連中の奇妙な行動にばかり注意していたことと、まさかこんなに簡単に、人間に対して銃を撃つとは思わなかったという『平和ボケした日本の高校生』の感覚が未だに残っていた事の結果だろう。
オレは連中をせかしつつ、街道を急いで進むことにした。
数時間が経ち、ひとまず距離をおいたところでオレ達一行は停止する。
オレの魔法によって疲労を回復しつつ、強行軍を続けてきたが、それでも無限に移動できるわけではない。
とくにアロン以外の連中はほとんど走った事がないらしく、すぐに息が切れてしまうのだ。もちろん板金鎧をはじめ何十キロもある装備をまとっているアロンは言うまでもない。
そんなわけでひとまず休養をとっていると、アロンがこちらに近寄ってきた。
もちろん何を言うのかは想像ぐらいできている。
「なぜ先ほどは邪魔をしたのだ?」
「止めないとアロンさんはあの男を撃ち殺したでしょう」
「当たり前だ。あのような者には武器を持って対する以外の術を私は知らない」
やっぱりアロンは他人を殺す事など何とも思っていないんだな。
いや。そもそも『他人』というよりは『敵』以外の認識をもっていないのだろう。
「お前はまさか先ほどの連中と通じていたのではあるまいな」
おいおい。いくら何でもそこまで言われるのかよ。
「わたしがそんな事をするわけがないでしょう。今までだってずっとあなた方の『味方』だったはずですよ」
「かばうだけでなく、負傷の手当まで行っていたでは無いか。お前が我らの味方ならどうして『敵』に対してそのような事をするのだ」
ここで詳しく説明している時間は無いし、たぶんアロンに分りやすく、簡潔に説明する事もオレには出来ないだろう。
仕方ないので適当にはしょって説明することにする。
「それが『外の世界』でやりくりするコツなんですよ。こちらはもちろん、相手にもなるだけ犠牲が出ないようにすることで、可能な限り穏便にすませるんです」
ぶっちゃけこれは『オレのやり方』であって『外の世界のやり方』ではない。
しかしここでそんな事をあれこれと言っても仕方が無いのだ。
「お前はそういうが――」
「まあ待て」
アロンが食い下がろうとしたところで、サラニスが口を挟んでくる。
「我らは『外の世界』を殆ど知らないのだから、ここはアルタシャの言うとおりにしろ」
「お言葉ですが……」
「もしアルタシャが敵に通じていたのなら、幾らでも出来る事はあったろう。お前とは毎日一緒に寝ているのだから、装備を使用不能にすることぐらい簡単だったはずだ」
おお。どうやらサラニスは『まだ』こちらの事を分っているようだな。
そしてここでアロンが引き下がったところで、オレはこれまでに抱いていた疑問をサラニスに問いかける。
「一つ聞いていいですか?」
「いったいなんだね」
「アロンさん以外の人はなんで戦いが始ろうとしているのに、知らん顔していたんですか? 戦闘はアロンさんの本業だとしても、出来る事ぐらいあるでしょう」
「……」
この時のサラニスの困惑した顔を、どう表現していいのかオレにはよく分らない。
敢えて言えば『あなた達はどうして太陽を食べようと思わないのですか?』とでも聞かれたかのような顔だったのだ。
オレの問いかけに対し、サラニスは『どう答えてよいか分らない』とばかりに、困りはてた様子を示している。
そしてしばし困惑の時間が過ぎた後で、サラニスはどうにか適当な言葉を選んで絞り出すように答えてきた。
「我らには『他の仕事をする』などという、危険な考えをもてあそぶ事などあり得ない」
どうやら『第五階級』の連中に自分の職務外の事をさせるのは『コンピュータにプログラムされていない事を実行させようとする』ようなものであるらしい。
彼らは本当に『歯車』でしかない、というよりは『歯車以上の存在になろうとしない』し、そのように教育されているのだろう。
そんな彼らの価値観をこのオレにはどうすることも出来ない ―― 今まで出会ってきた数多くの人間達と同じように。
オレに出来る事は目の前にいる『第五階級』の連中をどうにか助けて、次の居住地に連れて行くことぐらいなのだ。
そういうわけでオレは改めて一行を引き連れて、目的地に向かうことにした。
その日の夕刻は念のため町には近寄らず、野宿をする事にした。
アロンが銃を使った事で、追っ手が町に先回して待ち受けている事を警戒したからだ。
恐らくアロンが銃を使うことを躊躇しないのは、これまでは自分たちの居住地にて襲ってきた敵と戦った事しか無かったので、隠す必要がなかったからに違いない。
元の世界でも銃や大砲のような火薬を使った武器は、それを知らない相手に対しては、その威力と銃声が絶大な効果を示したと聞いている。
時には『神の化身』として崇拝されることすらあったそうだが、全く予備知識がなければそれほどまでに恐ろしいものなのだろう。
もちろん実際に神様がいて、信徒に恩恵を与えているこの世界では、その影響は限定的なものかもしれないが『第五階級』の連中は、この科学力で己を守ってきたのだ。
しかし今は状況が大きく違う。
火薬という彼らの『大いなる秘密』を外の世界で使うことは、自分たちの存在を周囲に知らしめ、新たな危険を呼び込む事になりかねないのだ。
状況が大きく変わってしまったことをどうにか理解させねばなるまい、と思っていたらアロンの方からどういうわけかオレの横に近寄ってきた。
今までだったら男が寄ってきた場合、オレはその下心を警戒して身構えたものだったが、少なくともアロンについてその心配は無い。
「先ほどは話の途中だったが、お前はなぜ『敵』を助けたりするのだ?」
「それを答える前に、こちらから聞きたいのですけど、アロンさんは仲間が死んだらどう思いますか?」
「もちろん。仲間が死ねば悲しい。それについて私に責任があれば、口惜しくも思うだろう。護衛対象に死なれることは仕事の失敗でもあるからな」
この言葉を聞いてオレも少しはホッとする。『死んだら、ただの物体だから、もう関係ない』などと言われたらどうしようかと、半ば真剣に心配していたからな。
彼らにも仲間を思いやる気持ちがあるのなら、それが話の糸口になるかもしれない。
「それと『敵』を助ける事と何か関係があるのか?」
「敵だって仲間が死ねば悲しいし、責任だって感じる事は理解出来るでしょう」
「だからそれがどうしたんだ」
「その場合、次は相手に復讐を考えるでしょう。つまり報復を目論んでこっちを執拗に攻撃してくるということですよ。だから先ほどは倒れた相手を助けたのです。そうすれば報復される危険性が減りますからね」
このオレの結論にアロンは首をかしげる。
「どうしてそうなるのだ? 殺した相手にやり返したとしても死んだ者は生き返らない。己の力の至らなさを反省し、次に活かすのならともかく、こちらを追ってきたとして何の意味があるのだ」
何となく分ってきたが、この人たちには『敵』はいるが『憎しみ』や『恨み』と言った感情はないんだ。
故郷を失い流浪の身になったけど、それでも自分たちの郷里を破壊した連中に対して、復讐しようとは考えていないらしい。
確かに『復讐は何も産まない』とはよく言われる事だし、いわゆる『憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖』とも無関係だけど、それを知っても少しも安堵は出来ないのだな。
「とにかく『外の世界』ではそれが当たり前なんですよ。だからアロンさんも気をつけて下さい。それと今後は銃もなるだけ使わないようにしてくれますか」
「分かった。ここはお前の言うとおりにしよう」
彼ら『第五階級』の連中が結構、素直にこちらの言うことを聞いてくれるのは『唯一の救い』というところだろうか。
「火薬や弾丸の補充もない以上、少々の危険はあっても近接戦を行った方がいいだろうな」
そういってアロンはトゲトゲのついたハンマーを持ち出す。
なるだけ穏便に済ませろという、こちらの真意はあんまり伝わっていないようだが、一歩前進とでも考えるしかないだろうな。
高らかに鳴り響く銃声と、それによって倒れ込んだ男の姿を見て、こちらを包囲していた連中は慌てて逃げ出していく。
この連中はしょせん単なる強盗目的であり、命がけでこちらと戦う気など最初からなかったのは明らかだ。
要するに数でこちらを脅して金を巻き上げれば十分だったのである。
だからオレが《調和》で戦闘意欲を失わせ、その間にこちらが逃げれば穏便に全て済ませる事が出来たはずだ。
しかし銃など使われたら、全て台無しだ。
「痛ぇよぉぉぉぉ!」
撃たれた男は腕を押さえ、地面を転げ回って苦痛にうめいている。
もちろん仲間は倒れた相手の生死すら確認せず、既に消え失せていた。
まあしょせんは金目当てでつるんでいるだけの連中だから、自分の身を危うくしてまで仲間を助けたりはしないのだろうな。
もっともこっちの『同行者』は、さらに当てにならないのだけど。
そしてアロンはオレに対して、疑念の声をかけてきた。
「なぜだ? どうして邪魔をした?」
アロンが引き金に力をかけた瞬間、オレは反射的に銃身を押して、銃口を標的からそらしたのだ。
もし一瞬でもオレの反応が遅れていたら、胸をぶち抜いて即死させていたことだろう。
「すみません! とりあえず話は後にして下さい!」
オレは腕を押さえてうめいている男に対し【応急手当】をかける。
そうすると苦痛が治まったのか、男はこちらに困惑した表情を向けてきた。
「お……お前は?」
「詳しい話はいいですから、すぐに立ち去って下さい。さもないと次はこの程度はすみませんよ」
「わ、分った! そうさせてもらう!」
オレがにらみ付けたところで男は慌てて立ち上がると、負傷した腕を押さえつつ走り去っていく。たぶん逃げ去った仲間に合流するつもりなんだろう。
腕の傷は【応急手当】では完治していないけど、そこまでオレが面倒を見てやる義理も無い。
むしろ問題はこっちの方だ。
「とりあえずこの場を一刻も早く離れないといけません!」
オレは射撃の邪魔をされて不機嫌そうなアロン、そしてやっぱり何もせずに見ているだけの『第五階級』の連中に向けて怒鳴る。
「お前はそういうが――」
「とにかく急いで下さい!」
アロンは気にしていないようだが、先ほどの銃声は間違いなく周囲の数キロに鳴り響いたはずだ。
何も知らない相手なら、さきほどの強盗連中が逃げ去ったのと同じく驚くだけで済むかもしれないが、過去に銃撃された事のある人間ならば、ここにお尋ね者がいることがバレバレである。
また仮に知っている相手がいなかったとしても、さっきの強盗連中が話を広めたら、やはり追っ手が差し向けられる可能性が高い。
それを教えていなかったことは、オレとしても迂闊としかいいようがない。
今まで『第五階級』の連中の奇妙な行動にばかり注意していたことと、まさかこんなに簡単に、人間に対して銃を撃つとは思わなかったという『平和ボケした日本の高校生』の感覚が未だに残っていた事の結果だろう。
オレは連中をせかしつつ、街道を急いで進むことにした。
数時間が経ち、ひとまず距離をおいたところでオレ達一行は停止する。
オレの魔法によって疲労を回復しつつ、強行軍を続けてきたが、それでも無限に移動できるわけではない。
とくにアロン以外の連中はほとんど走った事がないらしく、すぐに息が切れてしまうのだ。もちろん板金鎧をはじめ何十キロもある装備をまとっているアロンは言うまでもない。
そんなわけでひとまず休養をとっていると、アロンがこちらに近寄ってきた。
もちろん何を言うのかは想像ぐらいできている。
「なぜ先ほどは邪魔をしたのだ?」
「止めないとアロンさんはあの男を撃ち殺したでしょう」
「当たり前だ。あのような者には武器を持って対する以外の術を私は知らない」
やっぱりアロンは他人を殺す事など何とも思っていないんだな。
いや。そもそも『他人』というよりは『敵』以外の認識をもっていないのだろう。
「お前はまさか先ほどの連中と通じていたのではあるまいな」
おいおい。いくら何でもそこまで言われるのかよ。
「わたしがそんな事をするわけがないでしょう。今までだってずっとあなた方の『味方』だったはずですよ」
「かばうだけでなく、負傷の手当まで行っていたでは無いか。お前が我らの味方ならどうして『敵』に対してそのような事をするのだ」
ここで詳しく説明している時間は無いし、たぶんアロンに分りやすく、簡潔に説明する事もオレには出来ないだろう。
仕方ないので適当にはしょって説明することにする。
「それが『外の世界』でやりくりするコツなんですよ。こちらはもちろん、相手にもなるだけ犠牲が出ないようにすることで、可能な限り穏便にすませるんです」
ぶっちゃけこれは『オレのやり方』であって『外の世界のやり方』ではない。
しかしここでそんな事をあれこれと言っても仕方が無いのだ。
「お前はそういうが――」
「まあ待て」
アロンが食い下がろうとしたところで、サラニスが口を挟んでくる。
「我らは『外の世界』を殆ど知らないのだから、ここはアルタシャの言うとおりにしろ」
「お言葉ですが……」
「もしアルタシャが敵に通じていたのなら、幾らでも出来る事はあったろう。お前とは毎日一緒に寝ているのだから、装備を使用不能にすることぐらい簡単だったはずだ」
おお。どうやらサラニスは『まだ』こちらの事を分っているようだな。
そしてここでアロンが引き下がったところで、オレはこれまでに抱いていた疑問をサラニスに問いかける。
「一つ聞いていいですか?」
「いったいなんだね」
「アロンさん以外の人はなんで戦いが始ろうとしているのに、知らん顔していたんですか? 戦闘はアロンさんの本業だとしても、出来る事ぐらいあるでしょう」
「……」
この時のサラニスの困惑した顔を、どう表現していいのかオレにはよく分らない。
敢えて言えば『あなた達はどうして太陽を食べようと思わないのですか?』とでも聞かれたかのような顔だったのだ。
オレの問いかけに対し、サラニスは『どう答えてよいか分らない』とばかりに、困りはてた様子を示している。
そしてしばし困惑の時間が過ぎた後で、サラニスはどうにか適当な言葉を選んで絞り出すように答えてきた。
「我らには『他の仕事をする』などという、危険な考えをもてあそぶ事などあり得ない」
どうやら『第五階級』の連中に自分の職務外の事をさせるのは『コンピュータにプログラムされていない事を実行させようとする』ようなものであるらしい。
彼らは本当に『歯車』でしかない、というよりは『歯車以上の存在になろうとしない』し、そのように教育されているのだろう。
そんな彼らの価値観をこのオレにはどうすることも出来ない ―― 今まで出会ってきた数多くの人間達と同じように。
オレに出来る事は目の前にいる『第五階級』の連中をどうにか助けて、次の居住地に連れて行くことぐらいなのだ。
そういうわけでオレは改めて一行を引き連れて、目的地に向かうことにした。
その日の夕刻は念のため町には近寄らず、野宿をする事にした。
アロンが銃を使った事で、追っ手が町に先回して待ち受けている事を警戒したからだ。
恐らくアロンが銃を使うことを躊躇しないのは、これまでは自分たちの居住地にて襲ってきた敵と戦った事しか無かったので、隠す必要がなかったからに違いない。
元の世界でも銃や大砲のような火薬を使った武器は、それを知らない相手に対しては、その威力と銃声が絶大な効果を示したと聞いている。
時には『神の化身』として崇拝されることすらあったそうだが、全く予備知識がなければそれほどまでに恐ろしいものなのだろう。
もちろん実際に神様がいて、信徒に恩恵を与えているこの世界では、その影響は限定的なものかもしれないが『第五階級』の連中は、この科学力で己を守ってきたのだ。
しかし今は状況が大きく違う。
火薬という彼らの『大いなる秘密』を外の世界で使うことは、自分たちの存在を周囲に知らしめ、新たな危険を呼び込む事になりかねないのだ。
状況が大きく変わってしまったことをどうにか理解させねばなるまい、と思っていたらアロンの方からどういうわけかオレの横に近寄ってきた。
今までだったら男が寄ってきた場合、オレはその下心を警戒して身構えたものだったが、少なくともアロンについてその心配は無い。
「先ほどは話の途中だったが、お前はなぜ『敵』を助けたりするのだ?」
「それを答える前に、こちらから聞きたいのですけど、アロンさんは仲間が死んだらどう思いますか?」
「もちろん。仲間が死ねば悲しい。それについて私に責任があれば、口惜しくも思うだろう。護衛対象に死なれることは仕事の失敗でもあるからな」
この言葉を聞いてオレも少しはホッとする。『死んだら、ただの物体だから、もう関係ない』などと言われたらどうしようかと、半ば真剣に心配していたからな。
彼らにも仲間を思いやる気持ちがあるのなら、それが話の糸口になるかもしれない。
「それと『敵』を助ける事と何か関係があるのか?」
「敵だって仲間が死ねば悲しいし、責任だって感じる事は理解出来るでしょう」
「だからそれがどうしたんだ」
「その場合、次は相手に復讐を考えるでしょう。つまり報復を目論んでこっちを執拗に攻撃してくるということですよ。だから先ほどは倒れた相手を助けたのです。そうすれば報復される危険性が減りますからね」
このオレの結論にアロンは首をかしげる。
「どうしてそうなるのだ? 殺した相手にやり返したとしても死んだ者は生き返らない。己の力の至らなさを反省し、次に活かすのならともかく、こちらを追ってきたとして何の意味があるのだ」
何となく分ってきたが、この人たちには『敵』はいるが『憎しみ』や『恨み』と言った感情はないんだ。
故郷を失い流浪の身になったけど、それでも自分たちの郷里を破壊した連中に対して、復讐しようとは考えていないらしい。
確かに『復讐は何も産まない』とはよく言われる事だし、いわゆる『憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖』とも無関係だけど、それを知っても少しも安堵は出来ないのだな。
「とにかく『外の世界』ではそれが当たり前なんですよ。だからアロンさんも気をつけて下さい。それと今後は銃もなるだけ使わないようにしてくれますか」
「分かった。ここはお前の言うとおりにしよう」
彼ら『第五階級』の連中が結構、素直にこちらの言うことを聞いてくれるのは『唯一の救い』というところだろうか。
「火薬や弾丸の補充もない以上、少々の危険はあっても近接戦を行った方がいいだろうな」
そういってアロンはトゲトゲのついたハンマーを持ち出す。
なるだけ穏便に済ませろという、こちらの真意はあんまり伝わっていないようだが、一歩前進とでも考えるしかないだろうな。
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