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第8章 ライバンス・魔法学院編
第145話 注ぎ込まれた視線の主は
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今度こそ間違いない。
魔法で強化しているオレの知覚は、こちらを注視している存在を感じ取っている。
しかしここは真っ昼間の学校の中で人通りも多く、残念ながら周囲の気配が沢山ありすぎてその対象を個別に見いだす事は出来ない。
今のオレは可能な限り目立たない格好をしているが、これでオレの容姿をさらけ出していたら、たぶん注視されまくりだったんだろうな。
それはともかくいったい何ものだ?
オレを凝視するということは、こちらの魔力に気付いたか?
それともオレの容姿を見て『異教の手先』とでも思ったか?
ジャニューブ河で『黄金の乙女』としてあれこれとやらかした事が伝わっている可能性も否定出来ない。
まあいずれにしても警戒を怠るわけにいかない事は明らかだ。
しかし次に耳に入った言葉によって、オレの意識は無理矢理に別方向に引っ張られる。
「ところでそっちの娘だけど、よく顔を見せてくれよ」
まあ当然の反応だけど、オレとしては可能な限り自分の容姿を隠したいのだ。
不本意だけどガランディアの背後に隠れよう。
これで『恥ずかしがり屋で人見知りな女の子』だと思ってくれればいいだろう。
「ちょっと待ってくれ……その……彼女はちょっと恥ずかしがりだから……あんまりそういうのはね……」
ガランディアはオレの気持ちを汲んでくれているのか?
それともホン・イールの意志を受けて余計な虫がつかないようにしているのか?
まあ動機は単純に一つだけじゃないんだろうけどな。
「おいおい。お前、もう自分のものにしたつもりかよ」
「さすがに手が早いな!」
男子生徒達はからかい半分ではやしたてる。
こういうところは元の世界でもこっちの世界でも変らないんだな。
まあ元の世界ではまったく『彼女』に縁のなかったオレとしては、ちょっとばかりその気持ちも分かるよ。
もしもこいつらに『彼女』がいたら、もっと余裕を持っていただろうな。
「とにかくここは逃げよう……」
ガランディアはオレの手をとって引っ張る。
そんな事をしても一時凌ぎに過ぎないけど、まあ元々長居する気のないオレとしては、一時凌ぎを繰り返してそれでどうにかなればいいんだけどな。
もちろんそれが甘すぎる希望に過ぎない事はすぐに明らかになるのだが。
「手を引いて逃避行かよ!」
「いよう! お二人さんお熱いね!」
背後からの男子生徒の茶化す声を聞きつつ、オレはガランディアに引っ張られてひとまず人気の無いところまで来ていた。
むう。これはちょっと恥ずかしいな。
だけど考えて見ると、いたずら半分で絡んできた男子生徒達から逃げるために、こんなところに来てしまうのは結構ヤバい気がするぞ。
男共にはやしたてられたり、ガランディアに手を引っ張られたりしてついつい忘れていたが、どう考えても優先すべきはそっちじゃなかった。
そしてここでガランディアは手を離すと、オレに向き直りつつ頭を下げてくる。
「あのう……ゴメン」
これはいつの間にかオレを危険な場所に連れてきてしまったことを謝罪している ―― わけでは絶対に無いな。
たぶんオレの手をつかんで引っ張った事を謝罪しているのだろう。
オレは別に気にしてはいない ―― はずなのだが『女の子として男に手を引かれる』のは結構複雑な気分だ。
しかし今は周囲の気配を探る方が優先だろう。何しろこちらの場合、いつなんどき襲撃されるか分ったもんじゃないからな。
これまでもそうだったけど、たぶんこれからもそんな感じで気の休まる事の無い日々なのだろうか。
それでもどうにかなるだろうと考えるのは、やっぱり楽観的に過ぎるとは思うのだが、どうせ悲観的になったところで何もいい事は無いのだ。
そんなわけで先ほどの視線をもう一度探るべく、オレが改めて周囲の様子をうかがっていると、ここでこちらに向けて甲高い声が飛んでくる。
そしてこの声にはさっきの男子生徒と違って、明らかに不機嫌そうで、とげとげしい感情が含まれていたのだった。
「ちょっと。そこの二人。こんなところで何をしているのかしら?」
振り向くと女子生徒の制服を着た少女がこちらに厳しい視線を注いできていた。
むう。これが先ほどの視線の主なのか?
青い目に赤い髪をした、いかにもキツそうな感じの少女だ。
そして少女はずいと近寄ってきてこちらに問いかけてくる。
「あなたはいったいどこの誰なのかしら? 服を見ると生徒ではないようだけど、この学園は部外者立ち入り禁止よ」
「ああ。ちょっと待ってよ。アニーラ」
このお嬢さんはアニーラというのか。
かなりの美人だけど、どうにも近寄りがたい雰囲気だ。
オレがこれまで知り合った女性は、腹にいちもつ以上ある相手は珍しくなかったけど、こういうタイプは初めてだよ。
ハーレム要員にはひとりはいる事が多いけど、実際に目の当りにすると ―― しかも女の身で ―― ちょっと近づきたくない印象だな。
「この娘はホン・イール教授のところにしばらく逗留するんだよ。だから生徒じゃないけど部外者でもない。ちゃんと教授の同意を得てここにいるんだ」
「それは分かったけど、なんであなたが一緒にいるわけ?」
そういってアニーラはオレをにらむ。
おいおい。ひょっとしてオレはこのお嬢さんから嫉妬されているの?
まあ過去、女性からそんな視線を注がれた事は何度もある。
何しろ『皇帝の寵愛を巡って暗闘が繰り広げられる後宮』にだっていた事もあるんだ。
そんなわけでオレは今さら驚きはしないけどね。
しかしアニーラがオレに嫉妬しているとしたら、このガランディアにもちゃんと好意を抱いている女の子がいるのか ―― それにも関わらずオレに対してセクハラを働いたとしたらやっぱりスケベ許すまじ!
かつて男の時にハーレムに憧れていたオレだが、やっぱりそういう相手を目の当たりにすると憤ってしまうな。
しかしながらさっきの視線の主がこのアニーラだったとしたら、まあ一安心ということだろうか。
だがこのときオレは迂闊にも単純な点を失念していた ―― さきほどオレを凝視していた相手は、別に一つだけとは限らなかったのだ。
オレはアニーラの視線を受け止めつつ、どうするかしばし考える。
まあ定番のラブコメだと、顔を赤く染めつつ必死で関係を否定するか、逆にガランディアの腕に胸を押しつけ『全裸を見せた関係』などと言って挑発する展開になるわけだが、もちろんオレはそんなの真っ平だ。
そんな事を考えていると、アニーラの方からこちらに問いかけてくる。
「私の名はアニーラ。あなたは?」
「アルタシャと呼んで下さい」
「うん……まあいいわ」
ちょっとばかり怪訝な顔をされたのはやっぱり、オレの名がそれなりに通っているからだろうか。
それはともかくここは正直に話せばいいだろう。
オレにはアニーラに隠すべき事は山のようにあるけど、彼女の関心事については嘘をつく必要はまるでない。
「ガランディアさんにはあくまでもこの学校の中を案内してもらっているだけですよ。どうか気にしないで下さい」
「本当に? ただそれだけの関係なの?」
アニーラはここでオレでは無く、ガランディアの方をにらみ付ける。
ふう。これでちょっと安心だな。
オレの容姿を見られたら、またややこしい事になりかねないからな。
「ええと……」
だがここでガランディアは明らかに苦慮した様子で、脂汗を流している。
これはまずい。
こいつ今、オレの裸を思い出しているのか!
それとも股間を蹴り上げられた方か?!
これをアニーラの視点で見たら『二人には何かあるけど隠している』としか思えないだろう。
実際にその通りだけどそんな事を口に出来ないのは当たり前だな。
どう見てもこれではガランディアは学園ラブコメものの主人公だぞ ―― オレがその立場だったらどれだけよかったか、などとちょっとばかり妄想が走る。
「とにかく今は教授に彼女の事を頼まれているから、話は後にしてもらうよ」
気まずい周囲の空気を無理矢理に切り替えようしているのか、ガランディアはひとまずアニーラに背を向けて、オレを連れ出そうとする。
だがこれはちょっと拙速過ぎた。
「ちょっとどこに行くの! 待ちなさいよ!」
アニーラは手を伸ばしてこちらをつかもうとする。そしてその手はオレの深くかぶった帽子にかかる。
まずい! こういう場合のお約束と言えば!
思いついた時にはもう遅かった。
アニーラの手に引っかかったオレの帽子は引きはがされ、中にしまっていた長い金髪が鮮やかに広がる。
「「……!」」
このときなぜかアニーラだけでなくガランディアも呆気にとられた表情で、オレを見つめていた。
そういえば金髪をさらした『この姿』を見るのはガランディアも初めてか。
ついでに言えば水浴びしていたときは、距離があった上にオレの『秘めたところ』に目がいっていたらしいから、容貌の方はよく見えてはいなかったのかもしれないな。
ええい。ここは仕方が無い!
オレはひとまず帽子を拾い上げ、改めて長い髪をしまう。
う~ん。半年もやっていると結構慣れてきて、随分と髪をしまうのが早くなったな。
これは魔法とも一切関係ない、ちょっとした特技のようなものか。
「あなた……その姿は……」
アニーラは呆然とオレを見つめている。
まあこれで実は彼女には秘めた百合趣味があって、オレに絡んでくる ―― などという展開は当然なかった。
ここでアニーラは手を伸ばし ―― オレではなくガランディアの方を ―― つかまえて引き寄せる。
「これはどういうことなの?」
「ちょっと待ってよ。さっき言った通り彼女は教授の客人で、しばらくここに逗留するだけで、僕は教授に頼まれて案内しているだけだって」
そうだ。ガランディアの言葉には全くウソは無い。
だいたいオレの容姿がどうだろうと、この事実には一切関係ないはずだ ―― ガランディアの下心は脇においておくとして。
しかしアニーラの方がそれでは納得していないのは明らかだ。
「ウソでしょう。あなたはさっき鼻の下を伸ばして何を考えていたのよ!」
「だから違うって――」
まったく本当に困ったハーレム野郎だな。
しかしながら漫画やアニメで接するのはともかく、実際に目の当りにするとちっとも楽しくはないな。
オレ自身が目撃者の場合は特にそうだ。
だけどオレだって実際に一度は本物のハーレムである後宮に入って、数多くの宮女から嫉妬されつつ、皇帝からプロポーズまでされた事のある身だよ。
この程度の修羅場で今更驚いたりはしないさ。適当に軽く流すだけで十分だろう。
何にせよこれ以上、オレがここにいても話がややこしくなるだけのようだ。
ならばやるべきことは一つだけ。一時撤退しかない。
「すみません。お二人はそこで仲良くしていて下さい。こっちは一人で回っていますから」
「ええ?!」
オレの言葉を受けて、ガランディアはあからさまに落胆の色を見せる。
相変わらず実にわかりやすいヤツだ。ひょっとするとそんなところが女の子から好意を持たれる理由なのかね。
まあ『伝説の英雄・悪漢』の子孫で、高度な魔法を教える学校の生徒というだけで、元の世界では『テンプレの主人公』なんだから、そういう事があってもいいだろう。
少なくともオレは受け入れてやるよ。
だけどこれ以上、何かツッコまれるのはまっぴらなので、オレはさっさと二人に背を向けて立ち去ることにする。
このときのオレはガランディアに対しては、アニーラの件について後でどんな風にからかってやろうかなどとちょっとばかり意地悪な事を考えていた。
魔法で強化しているオレの知覚は、こちらを注視している存在を感じ取っている。
しかしここは真っ昼間の学校の中で人通りも多く、残念ながら周囲の気配が沢山ありすぎてその対象を個別に見いだす事は出来ない。
今のオレは可能な限り目立たない格好をしているが、これでオレの容姿をさらけ出していたら、たぶん注視されまくりだったんだろうな。
それはともかくいったい何ものだ?
オレを凝視するということは、こちらの魔力に気付いたか?
それともオレの容姿を見て『異教の手先』とでも思ったか?
ジャニューブ河で『黄金の乙女』としてあれこれとやらかした事が伝わっている可能性も否定出来ない。
まあいずれにしても警戒を怠るわけにいかない事は明らかだ。
しかし次に耳に入った言葉によって、オレの意識は無理矢理に別方向に引っ張られる。
「ところでそっちの娘だけど、よく顔を見せてくれよ」
まあ当然の反応だけど、オレとしては可能な限り自分の容姿を隠したいのだ。
不本意だけどガランディアの背後に隠れよう。
これで『恥ずかしがり屋で人見知りな女の子』だと思ってくれればいいだろう。
「ちょっと待ってくれ……その……彼女はちょっと恥ずかしがりだから……あんまりそういうのはね……」
ガランディアはオレの気持ちを汲んでくれているのか?
それともホン・イールの意志を受けて余計な虫がつかないようにしているのか?
まあ動機は単純に一つだけじゃないんだろうけどな。
「おいおい。お前、もう自分のものにしたつもりかよ」
「さすがに手が早いな!」
男子生徒達はからかい半分ではやしたてる。
こういうところは元の世界でもこっちの世界でも変らないんだな。
まあ元の世界ではまったく『彼女』に縁のなかったオレとしては、ちょっとばかりその気持ちも分かるよ。
もしもこいつらに『彼女』がいたら、もっと余裕を持っていただろうな。
「とにかくここは逃げよう……」
ガランディアはオレの手をとって引っ張る。
そんな事をしても一時凌ぎに過ぎないけど、まあ元々長居する気のないオレとしては、一時凌ぎを繰り返してそれでどうにかなればいいんだけどな。
もちろんそれが甘すぎる希望に過ぎない事はすぐに明らかになるのだが。
「手を引いて逃避行かよ!」
「いよう! お二人さんお熱いね!」
背後からの男子生徒の茶化す声を聞きつつ、オレはガランディアに引っ張られてひとまず人気の無いところまで来ていた。
むう。これはちょっと恥ずかしいな。
だけど考えて見ると、いたずら半分で絡んできた男子生徒達から逃げるために、こんなところに来てしまうのは結構ヤバい気がするぞ。
男共にはやしたてられたり、ガランディアに手を引っ張られたりしてついつい忘れていたが、どう考えても優先すべきはそっちじゃなかった。
そしてここでガランディアは手を離すと、オレに向き直りつつ頭を下げてくる。
「あのう……ゴメン」
これはいつの間にかオレを危険な場所に連れてきてしまったことを謝罪している ―― わけでは絶対に無いな。
たぶんオレの手をつかんで引っ張った事を謝罪しているのだろう。
オレは別に気にしてはいない ―― はずなのだが『女の子として男に手を引かれる』のは結構複雑な気分だ。
しかし今は周囲の気配を探る方が優先だろう。何しろこちらの場合、いつなんどき襲撃されるか分ったもんじゃないからな。
これまでもそうだったけど、たぶんこれからもそんな感じで気の休まる事の無い日々なのだろうか。
それでもどうにかなるだろうと考えるのは、やっぱり楽観的に過ぎるとは思うのだが、どうせ悲観的になったところで何もいい事は無いのだ。
そんなわけで先ほどの視線をもう一度探るべく、オレが改めて周囲の様子をうかがっていると、ここでこちらに向けて甲高い声が飛んでくる。
そしてこの声にはさっきの男子生徒と違って、明らかに不機嫌そうで、とげとげしい感情が含まれていたのだった。
「ちょっと。そこの二人。こんなところで何をしているのかしら?」
振り向くと女子生徒の制服を着た少女がこちらに厳しい視線を注いできていた。
むう。これが先ほどの視線の主なのか?
青い目に赤い髪をした、いかにもキツそうな感じの少女だ。
そして少女はずいと近寄ってきてこちらに問いかけてくる。
「あなたはいったいどこの誰なのかしら? 服を見ると生徒ではないようだけど、この学園は部外者立ち入り禁止よ」
「ああ。ちょっと待ってよ。アニーラ」
このお嬢さんはアニーラというのか。
かなりの美人だけど、どうにも近寄りがたい雰囲気だ。
オレがこれまで知り合った女性は、腹にいちもつ以上ある相手は珍しくなかったけど、こういうタイプは初めてだよ。
ハーレム要員にはひとりはいる事が多いけど、実際に目の当りにすると ―― しかも女の身で ―― ちょっと近づきたくない印象だな。
「この娘はホン・イール教授のところにしばらく逗留するんだよ。だから生徒じゃないけど部外者でもない。ちゃんと教授の同意を得てここにいるんだ」
「それは分かったけど、なんであなたが一緒にいるわけ?」
そういってアニーラはオレをにらむ。
おいおい。ひょっとしてオレはこのお嬢さんから嫉妬されているの?
まあ過去、女性からそんな視線を注がれた事は何度もある。
何しろ『皇帝の寵愛を巡って暗闘が繰り広げられる後宮』にだっていた事もあるんだ。
そんなわけでオレは今さら驚きはしないけどね。
しかしアニーラがオレに嫉妬しているとしたら、このガランディアにもちゃんと好意を抱いている女の子がいるのか ―― それにも関わらずオレに対してセクハラを働いたとしたらやっぱりスケベ許すまじ!
かつて男の時にハーレムに憧れていたオレだが、やっぱりそういう相手を目の当たりにすると憤ってしまうな。
しかしながらさっきの視線の主がこのアニーラだったとしたら、まあ一安心ということだろうか。
だがこのときオレは迂闊にも単純な点を失念していた ―― さきほどオレを凝視していた相手は、別に一つだけとは限らなかったのだ。
オレはアニーラの視線を受け止めつつ、どうするかしばし考える。
まあ定番のラブコメだと、顔を赤く染めつつ必死で関係を否定するか、逆にガランディアの腕に胸を押しつけ『全裸を見せた関係』などと言って挑発する展開になるわけだが、もちろんオレはそんなの真っ平だ。
そんな事を考えていると、アニーラの方からこちらに問いかけてくる。
「私の名はアニーラ。あなたは?」
「アルタシャと呼んで下さい」
「うん……まあいいわ」
ちょっとばかり怪訝な顔をされたのはやっぱり、オレの名がそれなりに通っているからだろうか。
それはともかくここは正直に話せばいいだろう。
オレにはアニーラに隠すべき事は山のようにあるけど、彼女の関心事については嘘をつく必要はまるでない。
「ガランディアさんにはあくまでもこの学校の中を案内してもらっているだけですよ。どうか気にしないで下さい」
「本当に? ただそれだけの関係なの?」
アニーラはここでオレでは無く、ガランディアの方をにらみ付ける。
ふう。これでちょっと安心だな。
オレの容姿を見られたら、またややこしい事になりかねないからな。
「ええと……」
だがここでガランディアは明らかに苦慮した様子で、脂汗を流している。
これはまずい。
こいつ今、オレの裸を思い出しているのか!
それとも股間を蹴り上げられた方か?!
これをアニーラの視点で見たら『二人には何かあるけど隠している』としか思えないだろう。
実際にその通りだけどそんな事を口に出来ないのは当たり前だな。
どう見てもこれではガランディアは学園ラブコメものの主人公だぞ ―― オレがその立場だったらどれだけよかったか、などとちょっとばかり妄想が走る。
「とにかく今は教授に彼女の事を頼まれているから、話は後にしてもらうよ」
気まずい周囲の空気を無理矢理に切り替えようしているのか、ガランディアはひとまずアニーラに背を向けて、オレを連れ出そうとする。
だがこれはちょっと拙速過ぎた。
「ちょっとどこに行くの! 待ちなさいよ!」
アニーラは手を伸ばしてこちらをつかもうとする。そしてその手はオレの深くかぶった帽子にかかる。
まずい! こういう場合のお約束と言えば!
思いついた時にはもう遅かった。
アニーラの手に引っかかったオレの帽子は引きはがされ、中にしまっていた長い金髪が鮮やかに広がる。
「「……!」」
このときなぜかアニーラだけでなくガランディアも呆気にとられた表情で、オレを見つめていた。
そういえば金髪をさらした『この姿』を見るのはガランディアも初めてか。
ついでに言えば水浴びしていたときは、距離があった上にオレの『秘めたところ』に目がいっていたらしいから、容貌の方はよく見えてはいなかったのかもしれないな。
ええい。ここは仕方が無い!
オレはひとまず帽子を拾い上げ、改めて長い髪をしまう。
う~ん。半年もやっていると結構慣れてきて、随分と髪をしまうのが早くなったな。
これは魔法とも一切関係ない、ちょっとした特技のようなものか。
「あなた……その姿は……」
アニーラは呆然とオレを見つめている。
まあこれで実は彼女には秘めた百合趣味があって、オレに絡んでくる ―― などという展開は当然なかった。
ここでアニーラは手を伸ばし ―― オレではなくガランディアの方を ―― つかまえて引き寄せる。
「これはどういうことなの?」
「ちょっと待ってよ。さっき言った通り彼女は教授の客人で、しばらくここに逗留するだけで、僕は教授に頼まれて案内しているだけだって」
そうだ。ガランディアの言葉には全くウソは無い。
だいたいオレの容姿がどうだろうと、この事実には一切関係ないはずだ ―― ガランディアの下心は脇においておくとして。
しかしアニーラの方がそれでは納得していないのは明らかだ。
「ウソでしょう。あなたはさっき鼻の下を伸ばして何を考えていたのよ!」
「だから違うって――」
まったく本当に困ったハーレム野郎だな。
しかしながら漫画やアニメで接するのはともかく、実際に目の当りにするとちっとも楽しくはないな。
オレ自身が目撃者の場合は特にそうだ。
だけどオレだって実際に一度は本物のハーレムである後宮に入って、数多くの宮女から嫉妬されつつ、皇帝からプロポーズまでされた事のある身だよ。
この程度の修羅場で今更驚いたりはしないさ。適当に軽く流すだけで十分だろう。
何にせよこれ以上、オレがここにいても話がややこしくなるだけのようだ。
ならばやるべきことは一つだけ。一時撤退しかない。
「すみません。お二人はそこで仲良くしていて下さい。こっちは一人で回っていますから」
「ええ?!」
オレの言葉を受けて、ガランディアはあからさまに落胆の色を見せる。
相変わらず実にわかりやすいヤツだ。ひょっとするとそんなところが女の子から好意を持たれる理由なのかね。
まあ『伝説の英雄・悪漢』の子孫で、高度な魔法を教える学校の生徒というだけで、元の世界では『テンプレの主人公』なんだから、そういう事があってもいいだろう。
少なくともオレは受け入れてやるよ。
だけどこれ以上、何かツッコまれるのはまっぴらなので、オレはさっさと二人に背を向けて立ち去ることにする。
このときのオレはガランディアに対しては、アニーラの件について後でどんな風にからかってやろうかなどとちょっとばかり意地悪な事を考えていた。
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