異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第8章 ライバンス・魔法学院編

第154話 ピンチを切り抜け そして思わぬ『再会』

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 オレは《乾物男》に対して【肉体の治癒】ヒール・ボディをかけていた。
 一瞬で肉体を治癒するこの魔法はアンデッドに対しては効果が裏返って、致命傷となるのは実際にオレ自身が証明した事だ。
 もちろんこの《乾物男》がアンデッドでなかったら、こんな魔法は通用しないわけで、その場合はアニーラやスビーリーだけでなく、今度こそオレもこの場で殺されるかもしれない。

 スビーリー達を見殺しにして、自分だけ逃げた方が賢明だったかもしれないけど、そんな事がオレに出来るはずも無い。
 そしてオレが祈るような思いで《乾物男》を見てると、釣り上げていたスビーリーがゆっくりと床に崩れ落ちる。

 やった! やっぱりコイツには回復魔法が有効だったか!
 だがその安堵は一瞬だった。
 スビーリーを手放した《乾物男》はゆっくりとこちらを振り向き、そしてその顔がぎこちなく、そして邪悪な笑顔を浮かべたのだ。

 なにぃ? まさかこれではダメなのか?
 オレが動揺した瞬間、黒い閃光のごとき一撃がこの身に炸裂し、こちらは無残に吹っ飛んだ。

 これは確実に肋骨が何本かいったか。常人だったら即死したかもしれないが、オレがあの程度で死なない事を察知された結果なのだろう。
 だがこの時、オレが気になっていたのは視界の片隅で今まさに息絶えんとしていた、アニーラの事だった。
 たぶんこの場でオレが殺される事は無いだろう。
 だが誰であろうと知り合いに、オレの目の前で死なれるのは胸が悪くなる。それはオレ自身がどうだろうと関係ない事なのだ。
 オレが連れて行かれるのは仕方ないが、せめて彼女を回復させる時間ぐらいは ―― コイツが与えてくれるはずもないだろう。

 今のオレに出来るのは、ただ一刻も早く助けが来てくれるのを祈るだけだ。
 そしてオレを吹き飛ばした《乾物男》はゆっくりとこちらに向けて歩み寄ってきて ―― そこでいきなりその邪悪な笑顔が停止する。

 どういうことだ?
 いや。よく見るとオレが【肉体の治癒】をかけた脇腹から何かがこぼれ落ちている。
 それと共に《乾物男》の元から生気のない肉体が加速度的に朽ち果てていく。まさかこぼれ落ちているのは、ヤツの肉体の欠片なのか。
 そうか。やっぱり効いていたんだ。ただコイツが強力なアンデッドだったから、破壊されるまで時間がかかっていたのだろう。
 そして《乾物男》はオレの前の床で倒れ、こちらに向けてその干からびた手を伸ばしてくるがそれも直前で崩れ落ち、その全身がまるで特撮か何かで怪物が崩壊していく光景そのままに塵へと帰していく。
 これで野外だったら、最後に風が吹いてコイツの残骸を吹き飛ばしていくところだろう。

 ああ。どうにかなったのか。
 いや。安心している場合じゃ無い。
 スビーリーはともかくアニーラは今すぐにでも治癒しないと命が危ないだろう。
 何とか地面を這い回り、倒れた彼女にオレは近寄る。
 冷静になって考えれば、ひとまず自分の身を回復させてからアニーラを治癒した方が効率がよかったかもしれないが、この時のオレはそんな心理的な余裕がなかったのだ。
 オレはどうにか手を伸ばして、今まさに息絶えんとしている様子のアニーラに対して《肉体の治癒》をかけるが、そこで今度こそ力尽きて意識を失った。

 オレは今まで何度か体験した事のある浮遊感を抱いて、意識を取り戻した。
 いや。これまでの経験からすると、これは覚醒したのでは無い。
 その証拠に今まで何度も見てきた、オレと同じ金髪で青紫の女性が眼前で柔らかな笑顔を浮かべていたのだ。
 間違いない。不本意だがオレの『守護神』でもあるイロールだ。

『しばらく見ない間にあなたはまた力をつけ、美しくなりましたね。わたくしとしても誇らしいです』
「そんな事はどうでもいいですよ!」

 オレが女神に食ってかかるものの、相手は先刻承知とばかりに頷く。

『ご安心なさい。あなたが助けようとした女子は回復して命を取り留めましたから』

 そっちの話じゃ無いよ!
 いや。アニーラが助かった事は胸をなで下ろすことだけど、オレがいまあんたに聞きたいのはそれじゃない。

『さきほどの相手の時は、わたくしも助力しようかと思いましたが、あなたにはその必要など無かったようですね』

 イロールは本当に胸をなで下ろした様子である。
 もっともそんなにオレの事が心配だったら、もっと煩雑に助力してくれたっていいんだけど。

『これまで幾たびも危機に直面し、そのたびにあなたは試練を乗り越えて、更なる高みへと達しています。それにも関わらず決して驕らず、他者を見下す事も無く、弱きもの達を助け続けたあなたの気高い性根は必ずや人々の心を撃つでしょう』

 女神様から大絶賛だけど、生憎オレが聞きたいのはそんな称賛の言葉じゃないんだよ。

「それよりも前に聞いた聖女教会が『回復魔法の素質のある男子を性転換させている』事はどうなっているんですか!」

 繰り返されるオレのこの質問に対し、女神は『困った子供』をあやすかのような笑みを浮かべる。

『またその話ですか? 前にも言いましたがそれは誤解です』

 オレの目の前でこれ見よがしにイロールはため息をつく。
 もっとも本当に困っているというよりは『手のかかる子供をあやしている』程度の事なのだろうけど。

「だけど聖女教会では今でも多くの男子を女子に変えているのですよ! あなたはそれに気付いていないのですか?!」
『繰り返しますが、わたくしにそのような力はありません。当然ですが我が信徒がわたくしに無い力を振るう事も出来ません』

 神様の癖に信徒達のやっている事をちゃんと把握してないのかよ!
 この場合は考えられるのはイロールが知っていて敢えてとぼけているのか、それとも本当に何も知らないのかのどちらかだ。
 残念ながらオレにはそのどちらであっても、真相をつかむ術など無い。

『わたくしも千年ほど神をしていますからね。あなたのように本当の自分の性別が異なっていると思い込んでしまっている人間に出会ったことは何度もありますよ』

 ええい。オレだってそういう例は知っているよ!
 さすがに一介の高校生に過ぎなかったオレに詳しい事は分らないけど、元の世界でもしばしば話題になっていたからな。

『神たるこのわたくしの目から見てすら卓越したあなたほどの者でも、そのような瑕疵を有するのが「人の身」のおもしろさという事なのかもしれません』

 ダメだコイツ。オレの言うことをまるで相手にする気がないらしい。

『それではあなたが神位に達し、このわたくしのいる場所にまで自らやってくる日を楽しみに待っていますよ』

 勝手な事を一方的に言っているんじゃねえよ!
 オレが内心でどれだけ喚き散らそうと関係なく、女神イロールはいつも通りの笑顔をこちらに注ぎつつ姿を消した。
 そしてオレの意識は今度こそ覚醒したのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 オレが目を覚ましたところ、眼前には白い天井が広がっていた。
 とりあえず自分の身を確認するが、拘束されているわけではなく、窓も開いているところから何ものかに捕らわれたワケではないようだ。
 真っ先にそんなところから確認しないと安心できないのだから、何とも殺伐とした生活だと自分でも嘆息せずにはいられない。

 あと改めて自分の負傷を見てみると、傷は残らず回復していた。殴られて何本も砕かれていたはずの肋骨も痕跡すらなく回復しているようだ。
 かけていた【自己回復力強化】の魔法は、本人が意識を失っても効果が続行するので、オレが意識を失っている間に全部元通りになったようだ。
 それはともかくここはどこだろうか。
 意識を失っていたのはどれぐらいの期間だろうか。
 あと深傷を負っていたアニーラは大丈夫なのか。
 女神イロールは一命は取り留めたと言っていたけど、命が助かっても重度の障害が残っていたりする可能性は否定出来ない。
 結果的にはオレに巻き込まれた形であんな怪我を負ったわけだし、彼女達がほんの僅かでも時間を稼いでくれたお陰で助かった事を考えると礼の一つも言うべきだろうな。
 オレがそんな事を考えていると、扉が静かに開く。緊張に僅かながら身を固めていると、そこに姿を見せたのはアニーラとスビーリーの二人だった。
 どうやらアニーラも問題無く回復していたようだ。
 この場合、胸をなで下ろすべきだろう。
 結果的に助けてもらったのだから、少しばかり文句を言われても我慢しよう。

「あなたに対しては自己紹介がまだでしたね。私の名はアニーラ・ブルームーン」
「わたしはスビーリー・ヨルプ。スビーリーでよろしくてよ」
「こちらのことはアルタシャと呼んで下さい」

 使い慣れた偽名を名乗ったところで、二人は揃ってその表情を曇らせる。
 今さらそんな表情をするとしたら――

「やはりあなたがジャニューブ河の上流で起きた紛争で多くの人を救ったという『黄金の乙女』なのですね?!」

 ちょっと前には否定していた事なのだが、アニーラは勢い込んで俺に問いかけてくる。
 いや。その通りではあるのだけど『事実』じゃあ無い。
 俺はただ単に『首輪のスピーカー』をしていただけで、それ以外も全部、俺を利用していた連中がお膳立てしていただけなんだよ。

「その容姿と名前からまさかと思っていましたが……あなたが先ほど見せた魔力からは信じざるを得ません」

 スビーリーはかなり落胆した様子だ。
 察するにガランディアを巡って、俺が強力なライバルだと勘違いしているだろうな。

「わたしは見ていませんでした。しかし壁に叩きつけられたわたしは瀕死の重傷だったはずなのにこうやって元気でいられるのはあなたの魔力故なのでしょうか」

 アニーラもどこか信じがたい様子である。

「さきほどガランディアさんが入り口にこられて必死で中に入れろと叫んでいましたけど、あの人もきっと何かを感じ取ったのでしょうね」

 おいおい。またガランディアはオレの魔力の波動を察知したのか。
 場合によってはあいつに助けられるお約束の展開があったかもしれないのか?
 やっぱりガランディアとは何かがありそうだな ―― もちろんハーレム要員になる気はさらさらないぞ。
 そういえばここは本来、学生身分では入れないはずだったけど、どうしてこの二人はここにいるんだ?

「どうあってあなた達はここに入ってきたんですか?」

 ここでスビーリーはいかにも誇らしげにその大きな胸をはった。

「わたしの父はこの学園で学部長をしていましてね。それでお願いしたのですよ」
「何のために?」
「もちろんあなたとお話しするためです」

 要するにガランディアの事で問い詰めに来たという事か。
 コネを使ってまでここまで来るとは何とも困った相手だが、今回はそのお陰で助かったわけで一応感謝しておこう。
 しかしすぐ近くでかなりの美少女が巨乳をゆらしているのに、オレの精神はまったく反応しなくなってしまったな。
 男の頃のオレだったらさぞかし興奮しただろうに、それを考えてオレはちょっと落胆する。改めてオレの精神が女性寄りになっていることを思い知らされたからだ。

「ふふん。どうやらこの点ではわたしの勝ちのようですね」

 どうやらオレが落胆したのを身体的特徴の優劣と勘違いしたらしく、スビーリーはどこか満足げだ。

「お待ちなさい! そんな無益なもので勝ち負けを競う意味などないわ!」

 アニーラは割り込んできてスビーリーに食ってかかる。
 いや。本当にオレにとってそんなものの比較に意味はありませんから。

「この通り優劣が誰の目にもハッキリしたところで、あなたがなぜこの学園に来たのか教えてくれますか?」
「あと何者に、どうして狙われているのかそちらも聞かせてもらいますよ!」
「それについては――」

 二人から一斉に責められているが、襲われた理由についてはむしろオレの方が知りたいぐらいですよ。

「あなたが何ものかに狙われている事について、もう私達も無関係ではないのだから、ちゃんと聞かせてもらいますからね!」
「まあお待ちなさい。アニーラ。あなたはいつもせっかちでいけません」

 ここでスビーリーがアニーラを制する。

「とにかく詳しい話を聞くには、この医務室では何かと問題でしょう」

 確かにここでは無関係の人間に話を聞かれて、何かと厄介な事にもなりかねないな。

「それでは『女同士』で腹を割って話が出来るところに行きましょう」
「……」

 オレとしてはかなり複雑な気分であるが、敢えて逆らいもせずスビーリーの案内に従った。
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