153 / 1,316
第8章 ライバンス・魔法学院編
第153話 悪夢の襲撃 そして大ピンチ?!
しおりを挟む
この学校には来て早々に精霊によって攻撃されたが、こっちの建物内ではそういった相手の襲撃に備えてあるから今度は肉体を持つアンデッドで襲撃か。
黒幕は同じ相手なのか、それとも別口か。
少なくともアンデッドを使うとなると、聖女教会の手先で無い事だけは確かだな。
それにたぶん相手はこの学校の内情に通じているんだろう。
ホン・イールが言っていた『名の無きもの』を崇拝している連中が本当にオレをターゲットにしているのかもしれない。
しかし明らかにとんでもない怪物に襲撃されているのに、俺は妙に落ち着いているな。
ぶっちゃけて言えば、ガランディアにこっちの裸を覗き見られた時の方がよっぽど動揺していた気がする。
もちろんそれは怪物なら一切遠慮する必要が無いが、人間相手なら命を奪うような真似が出来ないからだ。
それ以外の意味は一切無いからな!
そんな事を考えていると、改めて相手は音も無く向かってくるが、オレはかなり身軽に跳んでその攻撃をかわす。
う~ん。これは結構、傍目には格好いいかもしれないな。
ケノビウスから学んだ身体強化の魔法で身体能力を強化出来るようになったお陰で、この程度の攻撃をかわすのなら造作も無い。
まあか弱い乙女の身ではたとえ筋力を強化しても、この怪物につかまれたら逃げられないだろうし、殴ったところで効果があるとも思えないけどな。
そして攻撃をかわした瞬間、フードの下にあった顔が垣間見えたが、それは戦慄すべきものだった。
わずかに覗いた相手の顔の皮膚は干からび、ひび割れて殆ど乾物も同然だ。
鼻も唇も残っているのは痕跡程度で、口には隙間だらけ不揃いの歯が並んでいる。
何というか一言で例えるなら《包帯を巻いていないミイラ男》というところである。
明らかに人間、と言うよりまともな生物の範疇ではないだろう。
もちろんこんなヤツに襲われる覚えはもちろん、見たことすら一度も無い ―― 強いて言えば『虚ろなるもの』の司祭の正体がこれに近かったか ―― ので、普通の人間だったらパニックに陥っても不思議ではないだろう。
しかしオレは自慢ではないが、こういう怪物よりもむしろ人間の方がよっぽど始末に負えない事を知っている。
それに何よりオレにはコイツと一対一で戦うつもりなど微塵も無い。
「助けて下さい! 侵入者です!」
オレは攻撃を避けつつ悲鳴を挙げる。
まあ『か弱い乙女』だったらこの場合はホラー映画のヒロインのごとく『絹を裂くような悲鳴』を発するものなのかもしれないけどな。
「……」
こっちの助けを呼ぶ声などまるで意に介した様子もないように《乾物男》は改めて攻撃を仕掛けてくる。
助けが来ても気にしないのか、それとも助けなどこないと思っているのか。
前者だったら助けに来た相手も躊躇無く排除しそうだし、後者だったらこの学校内でもかなりの影響力のある相手がコイツを送り込んできた可能性が高い。
どっちであってもロクでもないな。
ええい。うっとうしい。
こういうアンデッドまがいのヤツだったら以前に対面したヤツと同様に【陽光】が有効だろうか。
あとは回復系魔法をかけたら効果が裏返ってアンデッドにはダメージになる筈だけど、コイツが本当にアンデッドなのかどうかいまだに確証が持てないし、もっと言えばあんまり触りたくない。
そんなわけでオレが対応に躊躇していると《乾物男》は改めて迫ってくる。
どうやらコイツは見た目こそ人型だけど、自分の意志がなく、与えられた命令を果たす事しか考えられないタイプのようだな。
これなら今のオレにとってはさして脅威でも無いはず ―― ただしどっちにしても長く付き合う気も無いが。
それに助けも来てくれればいいけど、あんまり当てに出来ないだろう。
ならば今すぐにでも倒すべきだ!
オレは改めて突き出されたひび割れだらけの手を避けつつ、その枯れ木のごとき身体に手を伸ばす。
本当にコイツが見た目通りアンデッドならば、回復魔法の『肉体の治癒』をかけることで倒せるはずだ。
仮に違っていたとしても、まさかこの乾物のような身体が見る見る回復して
『こんなひ弱だった僕が魔法のお陰で向き向きマッチョな肉体になりました』
などという深夜放送の肉体増強グッズ宣伝のような事態にはならないだろう。
そしてオレの手がその身を覆うフードに触れる。
よしこれで決まりだ!
思ったよりも簡単な成り行きにオレはほくそ笑む。だが――
回復魔法が放たれんとした瞬間、黒い稲妻のごとき動きで《乾物男》の腕が閃き、伸ばしたオレの白い腕がつかまれる。
ええ? まさか?!
そして思わず顔を上げたところで、オレと《乾物男》の視線が交錯するが、このとき間違いなく相手のそのひからびた唇が嘲笑にゆがんでいた。
今までの単調で何も考えていなさそうな動きはひょっとして、オレを欺いて捕まえるためのものだったのか?!
それに気付いた瞬間、オレの脳裏には激痛で火花が散る。
うがぁ!
その枯れ木のごとき見た目とはかけ離れた腕力でオレの腕が締め上げられ、次いで身体が軽々と持ち上げられて壁に叩きつけられたのだった。
壁に叩きつけられた後、オレは何も出来ないまま床に倒れ伏す。
まさに一瞬の出来事だった。
背中を激しくうって呼吸が止まり、視界が一瞬暗く覆われる。意識が飛ばなかったのは行幸としか言いようが無い状況だ。
腕もこの痛みからすれば骨にヒビ、いや、ひょっとしたら折れているかもしれない。
いや。腕だけで無く壁にぶつけられた衝撃で肋骨もやられているかもしれないな。
何とか意識を保っていられるのも、これまたケノビウスから学んだ【自己回復力強化】の魔法をかけていたからだろう。
少々の負傷なら見る見る回復してくれる魔法だけど、それを自分の身にかけていてこれでは相当な重傷だろう。
さすがに魔法の威力を試すために自分の身体を傷つけるわけにはいかなかったのでどこまで効果があるのかは把握していないけど、もし何もなかったら瀕死の重傷の可能性すらあるぞ。
相手が人間でないなら、むしろ楽だと思って甘く見ていた。
いつもいつもオレは思い通りだと思って調子に乗るとさんざんな目に遭うんだな。
そして《乾物男》はその骨にかろうじて肉が張り付いているだけの顔に、背筋が凍りそうな笑いを浮かべつつ、動けなくなったオレに近寄ってくる。
逃げなければ ―― と思っても体が言うことをきいてくれない。
考えて見ればこんな直球で暴力を振るわれたのは本当に久方ぶりの気がする。
こうなったらお約束通りガランディアでもミツリーンでもいいから助けに来てくれ。
もし助かったら『何でもあげちゃう』とまでは言わないけど、一緒に風呂に入るぐらいのサービスはしてやるよ!
セクハラ行為でも喜んで耐えてやる!
別に颯爽と現れてコイツを格好良く倒さなくても、魔法でオレが回復する時間ぐらい稼いでくれれば十分だ。
大けがしても命さえあれば、ちゃんと回復魔法で治してやるからさ!
オレが死にものぐるいでそんな事を考えていても、当然ながら時間が経ってくれるワケではない。
枯れ木のような腕が伸びてこちらの胸ぐらをつかみ、引き上げて顔を寄せてくる。
そして重傷のこちらの様子を確認したところで、その皮膚も筋肉も乾ききって不揃いの歯が覗いている口が動き、映画でしか見たことの無いミイラのごとき顔がゾッとするような笑いを見せる。
やっぱり思った通りコイツの目的はオレを殺す事では無く、どこかに連れ出す事らしい。
それが分っただけでも、不幸中の幸いと見るべきだろうか。少なくともオレを殺すつもりだったら、とっくにこの首をねじ切られていたところだ。
しかしオレが壁に叩きつけられた時に相当な衝撃と音がしたはずだし、その前にも助けを求める声を挙げていたのにまだ誰もこないのか。
もちろんオレがこいつと対面してから、時間にしてまだ一分かそこらだから仕方ないかもしれないけど何かないのかよ。
そんな事を考えていると、オレの身は軽々と担がれる。
やばい! このままではどこかに運び出されてしまいかねない。
たとえ魔法で傷が治っても、この《乾物男》に捕まったままでは逃げ出すのは困難だ。
いや。オレが自己再生している事を察知したら、もっと強烈なダメージを喰らわそうとしてくるかもしれない。
何か使える魔法はないのかと苦慮していると《乾物男》が入った時に閉めたドアが僅かに動く。
まさか?! 本当に助けか?!
お約束のパターンならガランディアの可能性が一番高くて、それでオレがやっぱり『ハーレム要員』に加えられてしまう展開だけど、ここは背に腹は代えられない。
しかしオレのその予想は見事に裏切られる。
扉が開いたとき、そこにいたのはガランディア ―― ではなく『ハーレム要員』のアニーラとスビーリーだったのだ。
二対の瞳が驚愕の色を載せてオレと《乾物男》を交互に見ている。
そりゃまあドアを開けたら、ミイラ状の男にオレが担ぎ上げられていたら、普通は驚くだろうよ ―― つまりオレの叫びだとか叩きつけられた衝撃だとかは外部に伝わっていなかったのか?
そうならば事前になんらかの魔法が使われていた可能性が高いな。
それはともかく!
この二人がやってきたのはどう考えてもオレを助けるためではなく、ガランディアとの関係と問い詰めるためだろう。
もし何も無かった状態でこいつらの訪問を受けていたら、ウンザリしただろうけど今は感謝だ!
助かった後で『ガランディアに近づくな』といわれたら喜んで約束しよう!
そう思った瞬間、オレは改めて叩きつけられて息が止まる。《乾物男》が担ぎ上げていたオレをかなり乱暴に投げ落としたのだ。
痛ぇよ! もし肋骨が折れていたら内臓に突き刺さったかもしれないぞ。
「これは! ならば!」
アニーラは事態を即座に把握したらしく、魔法を唱えだす。
「私は職員を呼んできます!」
スビーリーは背を向けて逃げようとする。
どっちも間違った選択ではない ―― だがいまは相手が悪かった。
一瞬にして《乾物男》はアニーラに迫って、一撃で吹き飛ばす。
肉が潰れ、骨が砕けるイヤな音と共にアニーラの身体は壁に叩きつけられ、そのまま動きを止める。
「まさか?!」
眼前の惨劇にスビーリーの身が思わずすくんだ瞬間《乾物男》はあっという間にその首をつかんで部屋の中に引き戻した。
「あ……ああ……」
スビーリーは恐怖をその顔面に貼り付けて《乾物男》に対面させられていた。
あの腕力ならば瞬時に首をへし折れただろうけど、それをしなかったのはたぶん戦慄している顔を見たかったとかそんな理由だろうか。
そして《乾物男》は満足げにもう一方の腕を引く。恐らく手刀でスビーリーの胸元を貫くつもりだ。
あのサディスト的な性格からして、心臓を貫かれて死ぬ寸前の表情を楽しみたいとかそんな事を考えていそうだな。
だが ―― そうはさせない!
オレは背を向けていた《乾物男》に飛びかかる。
あの二人が稼いでくれた時間は僅かだったけど、それでオレの身体はかなり動けるところまで回復していたのだ ―― 自己回復力強化魔法を教えてくれたケノビウスに改めて感謝しよう。
今まで試した事がなかったので、どこまで効果があるか分らなかったけど、どうやらオレの魔力ならば、致命傷に近い負傷でもこの短時間で動けるまでに治癒出来たようだ。
そして《乾物男》がこちらに振り向いたのとほぼ同時に乾坤一擲のオレの魔法が閃めいた。
黒幕は同じ相手なのか、それとも別口か。
少なくともアンデッドを使うとなると、聖女教会の手先で無い事だけは確かだな。
それにたぶん相手はこの学校の内情に通じているんだろう。
ホン・イールが言っていた『名の無きもの』を崇拝している連中が本当にオレをターゲットにしているのかもしれない。
しかし明らかにとんでもない怪物に襲撃されているのに、俺は妙に落ち着いているな。
ぶっちゃけて言えば、ガランディアにこっちの裸を覗き見られた時の方がよっぽど動揺していた気がする。
もちろんそれは怪物なら一切遠慮する必要が無いが、人間相手なら命を奪うような真似が出来ないからだ。
それ以外の意味は一切無いからな!
そんな事を考えていると、改めて相手は音も無く向かってくるが、オレはかなり身軽に跳んでその攻撃をかわす。
う~ん。これは結構、傍目には格好いいかもしれないな。
ケノビウスから学んだ身体強化の魔法で身体能力を強化出来るようになったお陰で、この程度の攻撃をかわすのなら造作も無い。
まあか弱い乙女の身ではたとえ筋力を強化しても、この怪物につかまれたら逃げられないだろうし、殴ったところで効果があるとも思えないけどな。
そして攻撃をかわした瞬間、フードの下にあった顔が垣間見えたが、それは戦慄すべきものだった。
わずかに覗いた相手の顔の皮膚は干からび、ひび割れて殆ど乾物も同然だ。
鼻も唇も残っているのは痕跡程度で、口には隙間だらけ不揃いの歯が並んでいる。
何というか一言で例えるなら《包帯を巻いていないミイラ男》というところである。
明らかに人間、と言うよりまともな生物の範疇ではないだろう。
もちろんこんなヤツに襲われる覚えはもちろん、見たことすら一度も無い ―― 強いて言えば『虚ろなるもの』の司祭の正体がこれに近かったか ―― ので、普通の人間だったらパニックに陥っても不思議ではないだろう。
しかしオレは自慢ではないが、こういう怪物よりもむしろ人間の方がよっぽど始末に負えない事を知っている。
それに何よりオレにはコイツと一対一で戦うつもりなど微塵も無い。
「助けて下さい! 侵入者です!」
オレは攻撃を避けつつ悲鳴を挙げる。
まあ『か弱い乙女』だったらこの場合はホラー映画のヒロインのごとく『絹を裂くような悲鳴』を発するものなのかもしれないけどな。
「……」
こっちの助けを呼ぶ声などまるで意に介した様子もないように《乾物男》は改めて攻撃を仕掛けてくる。
助けが来ても気にしないのか、それとも助けなどこないと思っているのか。
前者だったら助けに来た相手も躊躇無く排除しそうだし、後者だったらこの学校内でもかなりの影響力のある相手がコイツを送り込んできた可能性が高い。
どっちであってもロクでもないな。
ええい。うっとうしい。
こういうアンデッドまがいのヤツだったら以前に対面したヤツと同様に【陽光】が有効だろうか。
あとは回復系魔法をかけたら効果が裏返ってアンデッドにはダメージになる筈だけど、コイツが本当にアンデッドなのかどうかいまだに確証が持てないし、もっと言えばあんまり触りたくない。
そんなわけでオレが対応に躊躇していると《乾物男》は改めて迫ってくる。
どうやらコイツは見た目こそ人型だけど、自分の意志がなく、与えられた命令を果たす事しか考えられないタイプのようだな。
これなら今のオレにとってはさして脅威でも無いはず ―― ただしどっちにしても長く付き合う気も無いが。
それに助けも来てくれればいいけど、あんまり当てに出来ないだろう。
ならば今すぐにでも倒すべきだ!
オレは改めて突き出されたひび割れだらけの手を避けつつ、その枯れ木のごとき身体に手を伸ばす。
本当にコイツが見た目通りアンデッドならば、回復魔法の『肉体の治癒』をかけることで倒せるはずだ。
仮に違っていたとしても、まさかこの乾物のような身体が見る見る回復して
『こんなひ弱だった僕が魔法のお陰で向き向きマッチョな肉体になりました』
などという深夜放送の肉体増強グッズ宣伝のような事態にはならないだろう。
そしてオレの手がその身を覆うフードに触れる。
よしこれで決まりだ!
思ったよりも簡単な成り行きにオレはほくそ笑む。だが――
回復魔法が放たれんとした瞬間、黒い稲妻のごとき動きで《乾物男》の腕が閃き、伸ばしたオレの白い腕がつかまれる。
ええ? まさか?!
そして思わず顔を上げたところで、オレと《乾物男》の視線が交錯するが、このとき間違いなく相手のそのひからびた唇が嘲笑にゆがんでいた。
今までの単調で何も考えていなさそうな動きはひょっとして、オレを欺いて捕まえるためのものだったのか?!
それに気付いた瞬間、オレの脳裏には激痛で火花が散る。
うがぁ!
その枯れ木のごとき見た目とはかけ離れた腕力でオレの腕が締め上げられ、次いで身体が軽々と持ち上げられて壁に叩きつけられたのだった。
壁に叩きつけられた後、オレは何も出来ないまま床に倒れ伏す。
まさに一瞬の出来事だった。
背中を激しくうって呼吸が止まり、視界が一瞬暗く覆われる。意識が飛ばなかったのは行幸としか言いようが無い状況だ。
腕もこの痛みからすれば骨にヒビ、いや、ひょっとしたら折れているかもしれない。
いや。腕だけで無く壁にぶつけられた衝撃で肋骨もやられているかもしれないな。
何とか意識を保っていられるのも、これまたケノビウスから学んだ【自己回復力強化】の魔法をかけていたからだろう。
少々の負傷なら見る見る回復してくれる魔法だけど、それを自分の身にかけていてこれでは相当な重傷だろう。
さすがに魔法の威力を試すために自分の身体を傷つけるわけにはいかなかったのでどこまで効果があるのかは把握していないけど、もし何もなかったら瀕死の重傷の可能性すらあるぞ。
相手が人間でないなら、むしろ楽だと思って甘く見ていた。
いつもいつもオレは思い通りだと思って調子に乗るとさんざんな目に遭うんだな。
そして《乾物男》はその骨にかろうじて肉が張り付いているだけの顔に、背筋が凍りそうな笑いを浮かべつつ、動けなくなったオレに近寄ってくる。
逃げなければ ―― と思っても体が言うことをきいてくれない。
考えて見ればこんな直球で暴力を振るわれたのは本当に久方ぶりの気がする。
こうなったらお約束通りガランディアでもミツリーンでもいいから助けに来てくれ。
もし助かったら『何でもあげちゃう』とまでは言わないけど、一緒に風呂に入るぐらいのサービスはしてやるよ!
セクハラ行為でも喜んで耐えてやる!
別に颯爽と現れてコイツを格好良く倒さなくても、魔法でオレが回復する時間ぐらい稼いでくれれば十分だ。
大けがしても命さえあれば、ちゃんと回復魔法で治してやるからさ!
オレが死にものぐるいでそんな事を考えていても、当然ながら時間が経ってくれるワケではない。
枯れ木のような腕が伸びてこちらの胸ぐらをつかみ、引き上げて顔を寄せてくる。
そして重傷のこちらの様子を確認したところで、その皮膚も筋肉も乾ききって不揃いの歯が覗いている口が動き、映画でしか見たことの無いミイラのごとき顔がゾッとするような笑いを見せる。
やっぱり思った通りコイツの目的はオレを殺す事では無く、どこかに連れ出す事らしい。
それが分っただけでも、不幸中の幸いと見るべきだろうか。少なくともオレを殺すつもりだったら、とっくにこの首をねじ切られていたところだ。
しかしオレが壁に叩きつけられた時に相当な衝撃と音がしたはずだし、その前にも助けを求める声を挙げていたのにまだ誰もこないのか。
もちろんオレがこいつと対面してから、時間にしてまだ一分かそこらだから仕方ないかもしれないけど何かないのかよ。
そんな事を考えていると、オレの身は軽々と担がれる。
やばい! このままではどこかに運び出されてしまいかねない。
たとえ魔法で傷が治っても、この《乾物男》に捕まったままでは逃げ出すのは困難だ。
いや。オレが自己再生している事を察知したら、もっと強烈なダメージを喰らわそうとしてくるかもしれない。
何か使える魔法はないのかと苦慮していると《乾物男》が入った時に閉めたドアが僅かに動く。
まさか?! 本当に助けか?!
お約束のパターンならガランディアの可能性が一番高くて、それでオレがやっぱり『ハーレム要員』に加えられてしまう展開だけど、ここは背に腹は代えられない。
しかしオレのその予想は見事に裏切られる。
扉が開いたとき、そこにいたのはガランディア ―― ではなく『ハーレム要員』のアニーラとスビーリーだったのだ。
二対の瞳が驚愕の色を載せてオレと《乾物男》を交互に見ている。
そりゃまあドアを開けたら、ミイラ状の男にオレが担ぎ上げられていたら、普通は驚くだろうよ ―― つまりオレの叫びだとか叩きつけられた衝撃だとかは外部に伝わっていなかったのか?
そうならば事前になんらかの魔法が使われていた可能性が高いな。
それはともかく!
この二人がやってきたのはどう考えてもオレを助けるためではなく、ガランディアとの関係と問い詰めるためだろう。
もし何も無かった状態でこいつらの訪問を受けていたら、ウンザリしただろうけど今は感謝だ!
助かった後で『ガランディアに近づくな』といわれたら喜んで約束しよう!
そう思った瞬間、オレは改めて叩きつけられて息が止まる。《乾物男》が担ぎ上げていたオレをかなり乱暴に投げ落としたのだ。
痛ぇよ! もし肋骨が折れていたら内臓に突き刺さったかもしれないぞ。
「これは! ならば!」
アニーラは事態を即座に把握したらしく、魔法を唱えだす。
「私は職員を呼んできます!」
スビーリーは背を向けて逃げようとする。
どっちも間違った選択ではない ―― だがいまは相手が悪かった。
一瞬にして《乾物男》はアニーラに迫って、一撃で吹き飛ばす。
肉が潰れ、骨が砕けるイヤな音と共にアニーラの身体は壁に叩きつけられ、そのまま動きを止める。
「まさか?!」
眼前の惨劇にスビーリーの身が思わずすくんだ瞬間《乾物男》はあっという間にその首をつかんで部屋の中に引き戻した。
「あ……ああ……」
スビーリーは恐怖をその顔面に貼り付けて《乾物男》に対面させられていた。
あの腕力ならば瞬時に首をへし折れただろうけど、それをしなかったのはたぶん戦慄している顔を見たかったとかそんな理由だろうか。
そして《乾物男》は満足げにもう一方の腕を引く。恐らく手刀でスビーリーの胸元を貫くつもりだ。
あのサディスト的な性格からして、心臓を貫かれて死ぬ寸前の表情を楽しみたいとかそんな事を考えていそうだな。
だが ―― そうはさせない!
オレは背を向けていた《乾物男》に飛びかかる。
あの二人が稼いでくれた時間は僅かだったけど、それでオレの身体はかなり動けるところまで回復していたのだ ―― 自己回復力強化魔法を教えてくれたケノビウスに改めて感謝しよう。
今まで試した事がなかったので、どこまで効果があるか分らなかったけど、どうやらオレの魔力ならば、致命傷に近い負傷でもこの短時間で動けるまでに治癒出来たようだ。
そして《乾物男》がこちらに振り向いたのとほぼ同時に乾坤一擲のオレの魔法が閃めいた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる