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第8章 ライバンス・魔法学院編
第155話 女子の本音が出る場所は
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そしてオレがスビーリー達に案内された場所と言えば ―― 風呂場だった。
この展開が何となく予想が出来ていた自分がどこかイヤだ。
だけど結構な美少女と一緒に風呂に入っても、身体が反応しないのはもちろんのこと精神もほとんど高揚していない。
カリルと一緒に風呂に入ったときもそうだったけど、改めてその事実に直面するとちょっと気分が沈む。
それはともかくここしばらくはただの水浴びか、さもなくば石焼きの蒸し風呂ばかりだったので、まともな湯船のある風呂は久しぶりだからそこは感謝したい。
マニリア帝国後宮の大理石で作られた風呂にははるか及ばないとしても、かなり立派な風呂場であることは見れば分る。
そして問題なのはそこではない。
「なぜ話をするのが女子寮の風呂場なんですか?」
「ここが女同士もっとも腹を割って話せる場所だと思ったからですよ」
もうすっかり全裸になっているスビーリーが誇らしげに胸をはる。
どう考えても自分の巨乳を見せつけて威圧してやろうと思っているな。
もちろん俺が元男だなどと想像すらしていないから、恥じらいなど微塵も見せていない。
「あなたはそう言いますけどね……」
アニーラは少しばかり劣等感を抱いているようだ。
別に彼女も貧乳というわけではなく、ごく普通の胸なのだがやはりスビーリーと比較すると明らかに差があるな。
「今はわたしたち以外はいませんから、遠慮することはありませんよ」
これも父親のコネを使った結果か。
まあいいだろう。
オレも付き合ってひとまず服を脱ぐと、二人は揃ってこちらの身体を凝視し、そしてため息をついた。
「まあ胸が小ぶりですから……」
スビーリーはもう胸の事しか言うことが無いのかよ。
「あの怪我が跡形も無く治っているのは……褒めてあげるわ」
アニーラも妙な敗北感を漂わせつつ、オレの肢体を眺めている。
オレにとっては自分の裸体を賛美されても丸っきり嬉しくも何ともないので、さっさと湯船に入ることにした。
三人で風呂に入ってしばらくは無言で身体を流していたが、湯船につかったところで二人がそろって頭を下げた。
「遅れましたけど先ほどの件については礼を言っておきます。あなたがあの時にあの怪物を倒してくれなかったら、確実に私が殺されていたでしょう」
「それについてはわたしも同じね。傷を治してくれた事は感謝してますよ」
「いえ。あなた達は巻き込まれただけですから、別に礼など不要ですよ」
この返答に二人ともひとまず納得した様子で頷き、ついでスビーリーがオレに問いかけてくる。
「本題に入りますけど、あなたは何を意図してこの学園に来たのです? 『黄金の乙女』の力はその一端といえど見せてもらいました。今さら入学して魔術を学ぶ意味があるとは思えませんが」
そりゃまあオレの魔力は三ヶ月ほど前、マニリア帝国にいたときですら宮廷魔術師二十人分ぐらいだったけど、今はそれよりかなり増しているぐらいだ。
ケノビウスが宿った聖遺物である首輪でもオレの魔力は抑えきれないぐらいだから、今さらこの点については人間から教わる事は何も無いかもしれない。
だが知識は別だ。
たぶん魔法に関する知識で言えば、この学校の並の生徒よりもずっと足りないだろう。
だからこそわざわざ大陸の真ん中から艱難辛苦を乗り越えてここの大図書館でいろいろと探るためにやってきたのだ。
ここでアニーラがその表情を変える。
「まさか……ガランディアと何か関係あるのですか!」
そんなわけあるかよ!
本当にあのハーレム野郎も困ったものだな。
「わたしはただ単にこの学園にある古い資料を見せてもらいたかっただけです。ホン・イール教授の教え子の一人と付き合いがあってので、そのツテで紹介してもらったに過ぎませんよ」
「それは本当なの?」
「当たり前でしょう。スビーリーさんと最初に出会ったのは図書館の前でしたよね。あそこの蔵書を見たかったんですよ」
「いったい何のために?」
ここですっとぼけるのも可能だ。
しかし彼女達は既に巻き込まれて命の危険に直面してもいるのだし、やっぱりいつまでも隠しておくべきではないだろう。
「実は大陸中央部で崇拝されている女神であるイロールが人間だった千年前にこちらで活動していた事を聞いていて、それについての情報を調べたいと思ったのです」
「それはあなたの金髪と青紫の瞳と何か関係があるのですね」
さすがにスビーリーは察しているようだ。
「その容姿はそのイロールを守護神として崇拝するもの達に多い事はわたしだって聞いています。そして彼女達が他人の傷を治す能力があることもね」
「え? それでは『黄金の乙女』でありながら、あなたは異教徒なのですか?! いったいどういうことなのですか?!」
いや。アニーラが驚くのは分りますよ。
しかしオレは異教徒というよりは、この世界のどの神様の信徒でもありません。もともと正月には神社に初詣、お盆には先祖を供養、一二月にはクリスマスを祝うような宗教的無節操を絵に描いたような人間だったんですよ。
オレは改めてこの世界における常識と、自分の感覚の乖離を感じずにはいられなかった。
アニーラが俺を問い詰めようとしたところでスビーリーはそれを制する。
「落ち着きなさいな」
「異教徒が我が教団の聖者に準ずるような扱いとは、いくら何でも――」
「かつての英雄ガーランドの事を考えれば、それほど驚くような話でもありませんよ」
ああそうか。ガランディアのご先祖様である英雄にして背教者のガーランドはもともと一神教の開祖である聖セルムの側近でありながら、裏切って多神教に身をゆだねたという曰くのある人物だったな。
「しかし――」
「アニーラは相変わらず頭が固いですね。別にアルタシャがもとは多神教の信徒であっても、それを改めたのであればそんな前歴など気にする事ではありませんよ」
スビーリーは随分と割り切りが早いな。
聞いたところでは彼女の属する派閥は『可能性を呑み込む名の無きもの』と『可能性を解き放つ唯一なるもの』の調和を説くものらしいが、比較的他者にも寛容なのだろう。
「もしもガーランドの例にならうなら彼女が西方を混乱させるために送り込まれた、よこしまな異教徒の手先という事も考えられるわ!」
アニーラはあからさまな警戒の視線を俺に注ぐ。
その伝説は確かガーランドの行動が、一神教の勢力を破壊するために送り込まれた多神教の陰謀だという説に基づくものだよな。
だけどオレの前歴についてはかなり詳しく調べているホン・イールですらオレをそこまでは疑ってないぞ。
だいたい幾らチート魔術があるからって、オレ一人でそんな大げさな事が出来るはずが無いのは、ついさっき襲われて命まで落としかねなかったところを見れば分るだろう。
「確かに敵国の王を堕落させるため、美女を送り込むという話はありますね……この身を見る限り、そういう能力にも長けていそうです」
スビーリーもこちらの頭から湯船につかっている足下まで見回している。
おいこら。確かにこっちが不本意ながら『桁違いの美少女』の身にあって、多くの男共がオレを求めてあれこれやらかした事は間違いないよ。
こっちはキッパリ・スッパリ振ったのに、勝手にオレの恋人を自称して自慢して回る困ったストーカー皇帝・王太子すら中にはいたりする。
それがオレにとってどれだけ不本意な扱いなのか、彼女達が知るはずもないし、たとえ説明したところで信じるはずもないので、沈黙するしかないのが何とも口惜しい。
「多神教で神々とされるものの中には誘惑や堕落の権能を持ち、人間の欲望を駆り立て邪悪な行動に駆り立てるものも存在するとか」
「あのですね。いい加減にしないとこっちだって怒りますよ」
オレがあっちこっちで有力者をひっかけて、自分を信仰させているというホン・イールもかなりぶっ飛んでいたけど、よりにもよってオレが男を誘惑して堕落させる淫魔のごとき存在などとはあんまりだ。
「冗談ですよ。本当にあなたがそんな邪な存在だと思っていたら、一緒にこうやって風呂に入ったりはしません」
「一度は助けてもらったのですからね。でも……」
そんな事を言ってはいるけど、結構とげとげしいのは、相変わらずガランディアの件についていろいろ思うところがあるからなんだろう。
あとスビーリーよりもアニーラの方がオレに向ける視線は厳しいな。
このあたりは考え方の違いなのだろうか。
「それでは話を戻しますけど、あなたは『異教の女神とされている存在』が千年前に行った事を知ってどうしたいのですか?」
ここで『女神』ではなく『女神とされている存在』と断りを入れるのは、比較的寛容ではあるにせよ、あくまでも一神教徒である彼女達の流儀なのだろう。
ここで正直にオレが元男であって、女に変えた魔法についての手がかりを求めている、などと口にしたら余計に話がややこしくなるのは必定だ。
性転換魔法について彼女達が何か知っているというなら別だけど、そうでないならわざわざ明かすつもりはない。
しかしこれは少々困ったな。
ホン・イールはどうもオレが『本物の女神』になるため、イロールが神位に上った経緯を調べようとしているのでは無いかと考えているらしいが、こっちの二人だと更にロクでもない深読みをされてしまいかねない。
仕方ない。あくまでも『学究の徒』のフリをした方がいいだろう。
「歴史に関する興味があるに過ぎませんよ。図書の閲覧が認められたら、そこでちょっとした調べ物をするだけです。それが終わればすぐにここを出て行くつもりですよ」
これならオレがすぐにいなくなる事を彼女達も分ってくれるだろう。だが――
「そんな話を信じろと言うのですか?」
「いくら何でも馬鹿げている!」
いきなり二人がオレに注ぐ視線が厳しくなった。
ええ?! どうしてこんなにあからさまに疑われているんですか?
そりゃまあ真実を語ったわけではないけど、完全にウソをついているわけでもない。
それなのにどうしてこんな頭ごなしに否定されるの?
「大陸中央部からこちらに来るまで数ヶ月はかかるはずですよ。それなのにこちらで『ちょっとした調べ物』とはどういうことです?」
「いったい何を隠しているのか、白状なさい!」
そういうことか! しまった!
元の世界の感覚でついつい話してしまったけど、こっちの世界では気軽に『図書館でちょっと調べ物』なんて出来るはずもなかったんだ。
しかもここはオレが最初にいた大陸中央から数千キロは離れているわけで、殆どの一般人が生まれ故郷とその近辺から一生出る事は無いここの常識からすれば、そんな距離を旅してきておいて『ちょっとした調べ物が終わったらすぐに出て行く』なんて、あまりにも現実味がなさ過ぎるのだろう。
たぶん『オレの正体』について、とんでもない深読みをしてしまっているに違いない。
そんな二人の厳しい視線を受けて、自分が口を滑られせしまった事をかみしめていた。
この展開が何となく予想が出来ていた自分がどこかイヤだ。
だけど結構な美少女と一緒に風呂に入っても、身体が反応しないのはもちろんのこと精神もほとんど高揚していない。
カリルと一緒に風呂に入ったときもそうだったけど、改めてその事実に直面するとちょっと気分が沈む。
それはともかくここしばらくはただの水浴びか、さもなくば石焼きの蒸し風呂ばかりだったので、まともな湯船のある風呂は久しぶりだからそこは感謝したい。
マニリア帝国後宮の大理石で作られた風呂にははるか及ばないとしても、かなり立派な風呂場であることは見れば分る。
そして問題なのはそこではない。
「なぜ話をするのが女子寮の風呂場なんですか?」
「ここが女同士もっとも腹を割って話せる場所だと思ったからですよ」
もうすっかり全裸になっているスビーリーが誇らしげに胸をはる。
どう考えても自分の巨乳を見せつけて威圧してやろうと思っているな。
もちろん俺が元男だなどと想像すらしていないから、恥じらいなど微塵も見せていない。
「あなたはそう言いますけどね……」
アニーラは少しばかり劣等感を抱いているようだ。
別に彼女も貧乳というわけではなく、ごく普通の胸なのだがやはりスビーリーと比較すると明らかに差があるな。
「今はわたしたち以外はいませんから、遠慮することはありませんよ」
これも父親のコネを使った結果か。
まあいいだろう。
オレも付き合ってひとまず服を脱ぐと、二人は揃ってこちらの身体を凝視し、そしてため息をついた。
「まあ胸が小ぶりですから……」
スビーリーはもう胸の事しか言うことが無いのかよ。
「あの怪我が跡形も無く治っているのは……褒めてあげるわ」
アニーラも妙な敗北感を漂わせつつ、オレの肢体を眺めている。
オレにとっては自分の裸体を賛美されても丸っきり嬉しくも何ともないので、さっさと湯船に入ることにした。
三人で風呂に入ってしばらくは無言で身体を流していたが、湯船につかったところで二人がそろって頭を下げた。
「遅れましたけど先ほどの件については礼を言っておきます。あなたがあの時にあの怪物を倒してくれなかったら、確実に私が殺されていたでしょう」
「それについてはわたしも同じね。傷を治してくれた事は感謝してますよ」
「いえ。あなた達は巻き込まれただけですから、別に礼など不要ですよ」
この返答に二人ともひとまず納得した様子で頷き、ついでスビーリーがオレに問いかけてくる。
「本題に入りますけど、あなたは何を意図してこの学園に来たのです? 『黄金の乙女』の力はその一端といえど見せてもらいました。今さら入学して魔術を学ぶ意味があるとは思えませんが」
そりゃまあオレの魔力は三ヶ月ほど前、マニリア帝国にいたときですら宮廷魔術師二十人分ぐらいだったけど、今はそれよりかなり増しているぐらいだ。
ケノビウスが宿った聖遺物である首輪でもオレの魔力は抑えきれないぐらいだから、今さらこの点については人間から教わる事は何も無いかもしれない。
だが知識は別だ。
たぶん魔法に関する知識で言えば、この学校の並の生徒よりもずっと足りないだろう。
だからこそわざわざ大陸の真ん中から艱難辛苦を乗り越えてここの大図書館でいろいろと探るためにやってきたのだ。
ここでアニーラがその表情を変える。
「まさか……ガランディアと何か関係あるのですか!」
そんなわけあるかよ!
本当にあのハーレム野郎も困ったものだな。
「わたしはただ単にこの学園にある古い資料を見せてもらいたかっただけです。ホン・イール教授の教え子の一人と付き合いがあってので、そのツテで紹介してもらったに過ぎませんよ」
「それは本当なの?」
「当たり前でしょう。スビーリーさんと最初に出会ったのは図書館の前でしたよね。あそこの蔵書を見たかったんですよ」
「いったい何のために?」
ここですっとぼけるのも可能だ。
しかし彼女達は既に巻き込まれて命の危険に直面してもいるのだし、やっぱりいつまでも隠しておくべきではないだろう。
「実は大陸中央部で崇拝されている女神であるイロールが人間だった千年前にこちらで活動していた事を聞いていて、それについての情報を調べたいと思ったのです」
「それはあなたの金髪と青紫の瞳と何か関係があるのですね」
さすがにスビーリーは察しているようだ。
「その容姿はそのイロールを守護神として崇拝するもの達に多い事はわたしだって聞いています。そして彼女達が他人の傷を治す能力があることもね」
「え? それでは『黄金の乙女』でありながら、あなたは異教徒なのですか?! いったいどういうことなのですか?!」
いや。アニーラが驚くのは分りますよ。
しかしオレは異教徒というよりは、この世界のどの神様の信徒でもありません。もともと正月には神社に初詣、お盆には先祖を供養、一二月にはクリスマスを祝うような宗教的無節操を絵に描いたような人間だったんですよ。
オレは改めてこの世界における常識と、自分の感覚の乖離を感じずにはいられなかった。
アニーラが俺を問い詰めようとしたところでスビーリーはそれを制する。
「落ち着きなさいな」
「異教徒が我が教団の聖者に準ずるような扱いとは、いくら何でも――」
「かつての英雄ガーランドの事を考えれば、それほど驚くような話でもありませんよ」
ああそうか。ガランディアのご先祖様である英雄にして背教者のガーランドはもともと一神教の開祖である聖セルムの側近でありながら、裏切って多神教に身をゆだねたという曰くのある人物だったな。
「しかし――」
「アニーラは相変わらず頭が固いですね。別にアルタシャがもとは多神教の信徒であっても、それを改めたのであればそんな前歴など気にする事ではありませんよ」
スビーリーは随分と割り切りが早いな。
聞いたところでは彼女の属する派閥は『可能性を呑み込む名の無きもの』と『可能性を解き放つ唯一なるもの』の調和を説くものらしいが、比較的他者にも寛容なのだろう。
「もしもガーランドの例にならうなら彼女が西方を混乱させるために送り込まれた、よこしまな異教徒の手先という事も考えられるわ!」
アニーラはあからさまな警戒の視線を俺に注ぐ。
その伝説は確かガーランドの行動が、一神教の勢力を破壊するために送り込まれた多神教の陰謀だという説に基づくものだよな。
だけどオレの前歴についてはかなり詳しく調べているホン・イールですらオレをそこまでは疑ってないぞ。
だいたい幾らチート魔術があるからって、オレ一人でそんな大げさな事が出来るはずが無いのは、ついさっき襲われて命まで落としかねなかったところを見れば分るだろう。
「確かに敵国の王を堕落させるため、美女を送り込むという話はありますね……この身を見る限り、そういう能力にも長けていそうです」
スビーリーもこちらの頭から湯船につかっている足下まで見回している。
おいこら。確かにこっちが不本意ながら『桁違いの美少女』の身にあって、多くの男共がオレを求めてあれこれやらかした事は間違いないよ。
こっちはキッパリ・スッパリ振ったのに、勝手にオレの恋人を自称して自慢して回る困ったストーカー皇帝・王太子すら中にはいたりする。
それがオレにとってどれだけ不本意な扱いなのか、彼女達が知るはずもないし、たとえ説明したところで信じるはずもないので、沈黙するしかないのが何とも口惜しい。
「多神教で神々とされるものの中には誘惑や堕落の権能を持ち、人間の欲望を駆り立て邪悪な行動に駆り立てるものも存在するとか」
「あのですね。いい加減にしないとこっちだって怒りますよ」
オレがあっちこっちで有力者をひっかけて、自分を信仰させているというホン・イールもかなりぶっ飛んでいたけど、よりにもよってオレが男を誘惑して堕落させる淫魔のごとき存在などとはあんまりだ。
「冗談ですよ。本当にあなたがそんな邪な存在だと思っていたら、一緒にこうやって風呂に入ったりはしません」
「一度は助けてもらったのですからね。でも……」
そんな事を言ってはいるけど、結構とげとげしいのは、相変わらずガランディアの件についていろいろ思うところがあるからなんだろう。
あとスビーリーよりもアニーラの方がオレに向ける視線は厳しいな。
このあたりは考え方の違いなのだろうか。
「それでは話を戻しますけど、あなたは『異教の女神とされている存在』が千年前に行った事を知ってどうしたいのですか?」
ここで『女神』ではなく『女神とされている存在』と断りを入れるのは、比較的寛容ではあるにせよ、あくまでも一神教徒である彼女達の流儀なのだろう。
ここで正直にオレが元男であって、女に変えた魔法についての手がかりを求めている、などと口にしたら余計に話がややこしくなるのは必定だ。
性転換魔法について彼女達が何か知っているというなら別だけど、そうでないならわざわざ明かすつもりはない。
しかしこれは少々困ったな。
ホン・イールはどうもオレが『本物の女神』になるため、イロールが神位に上った経緯を調べようとしているのでは無いかと考えているらしいが、こっちの二人だと更にロクでもない深読みをされてしまいかねない。
仕方ない。あくまでも『学究の徒』のフリをした方がいいだろう。
「歴史に関する興味があるに過ぎませんよ。図書の閲覧が認められたら、そこでちょっとした調べ物をするだけです。それが終わればすぐにここを出て行くつもりですよ」
これならオレがすぐにいなくなる事を彼女達も分ってくれるだろう。だが――
「そんな話を信じろと言うのですか?」
「いくら何でも馬鹿げている!」
いきなり二人がオレに注ぐ視線が厳しくなった。
ええ?! どうしてこんなにあからさまに疑われているんですか?
そりゃまあ真実を語ったわけではないけど、完全にウソをついているわけでもない。
それなのにどうしてこんな頭ごなしに否定されるの?
「大陸中央部からこちらに来るまで数ヶ月はかかるはずですよ。それなのにこちらで『ちょっとした調べ物』とはどういうことです?」
「いったい何を隠しているのか、白状なさい!」
そういうことか! しまった!
元の世界の感覚でついつい話してしまったけど、こっちの世界では気軽に『図書館でちょっと調べ物』なんて出来るはずもなかったんだ。
しかもここはオレが最初にいた大陸中央から数千キロは離れているわけで、殆どの一般人が生まれ故郷とその近辺から一生出る事は無いここの常識からすれば、そんな距離を旅してきておいて『ちょっとした調べ物が終わったらすぐに出て行く』なんて、あまりにも現実味がなさ過ぎるのだろう。
たぶん『オレの正体』について、とんでもない深読みをしてしまっているに違いない。
そんな二人の厳しい視線を受けて、自分が口を滑られせしまった事をかみしめていた。
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