異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
184 / 1,316
第8章 ライバンス・魔法学院編

第184話 残った厄介者は……

しおりを挟む
 ミツリーンは誇らしげに天を仰いで感嘆の声を挙げる。

「何しろ『女神の化身』に出会えるなど、私のような下級の者では生涯に一度あるかないかです。そのような希少な機会に恵まれてついつい興奮してしまいました」

 あれ? ミツリーンの言葉にはどこか違和感があるぞ。

「え? いま何と言いました?」
「はい。イロールの化身を直に目の当たりにするなど、極めて珍しい出来事だと申し上げました」

 これはおかしい。確かさっきイロールは『数多の人間を自分の器にしてきた』とオレに伝えてきた。
 あの女神の態度や言い方からでは、自分の化身が希少な存在であるという意識はまるで感じられなかった。
 もちろん千年のも間、女神をやってきたのだから、その間に器になった人間が大勢いたという意味なのかもしれない。やっぱり神の感覚と人間の感覚は違うと言われれば、そこまでだろう。
 だけど殆どの信徒は一生に一度機会があるかないかだとも言っていたけど、その言い方からすれば逆を言えば一度は化身になったことのある信徒は珍しくないと受け取れる。
 いくら回復魔法を身につけた聖女が少ないと言っても、聖女教会が君臨する大陸中央部には万単位でいるはずだ。
 化身の力はその器となった人間 ―― つまり本当に『神の力を受け入れる器』 ―― 次第らしいので誰もが強大な力を振るえるようになるわけでないのは間違いないが、それにしてもそんなに機会が少ないとはどういうことだろう?
 イロールが嘘をついたのか。
 いや。オレに対してそんな嘘をついても何の意味もないはずだ。
 それではミツリーンがオレを騙そうとしているのか?
 しかしいまオレの目の前で、感動に打ち震えているこいつがそんなことを考えているとはちょっと思えない。
 それとも正式な聖女教会の信徒では無い、この男が何か誤解しているのか?
 この食い違いに何かが引っかかるぞ。
 そんな事を考えていると、いつの間にかオレの身長が低くなり、胸も先ほどまでのはち切れんばかりの状態から小さくなってきたようだ。
 どうやら『元通り』になってきたらしい ―― そう思った時、やっぱりこの少女の姿を普通に受け入れつつある自分を認識せずにはいられなかった。

 いずれにしてもオレの身体が ―― アルタシャを『正常』とするなら ―― 普段通りになったところで、これからどうするか考えるとしよう。

「……」

 どうもオレの姿がまた少女に戻った事に対して、周囲の面々は色々と複雑な視線を注いできているようだ。
 悪いけどどいつもこいつもこれ以上、オレは付き合うつもりはないからね。
 特にガランディアはオレに巻き込まれて、怨霊に乗っ取られてしまったのだから、これに懲りてくれたらいいのだが ―― どう考えてもそんなヤツがハーレム野郎やっていないことはこっちだって分かっている。
 そもそもこの学園に来た目的が何も果たされていないのは残念だが、オレに残された選択肢はとっとと逃げ出す以外にはないのだ。

『とりあえずあなたにはいろいろと聞きたい事があるので、しばらくはこの学園に留まって下さいませんかね~』

 オレの心を読んだのか、ホン・イールがこちらに話しかけてくる。

「何があったのかについて、あなたは先代から記憶を引き継いでいるのではないのですか?」

 そもそもビューゼリアンがこの全ての元凶であり、捕まえたオレの身体をいろいろとまさぐった変態野郎だ。
 ホン・イールにもその記憶が引き継がれているはずだから、結構恥ずかしい。
 しかしオレのそんな感情に気付いているのかいないのか、ホン・イールは相変わらず間の抜けた口調のままだ。

『それだけでは不足ですわ~ 先代だって欠けている知識を補うためにあなたに協力を要請したわけですからね~』

 あのどこが『協力を要請』だ!
 まったくどいつもこいつもこの学園の連中は本当に鉄面皮揃いだな。
 まあオレもそれにつけ込んで、事態の収集と、自分の身の安全を図ったのだから偉そうな事を言えた義理ではないかもしれないけどな。
 もちろん学園の守護精霊となったあんたはそういう人間的な感情は欠落してしまったのかもしれないが、オレにとってはそういうわけにはいかないのだ。

『もしも協力して下さるなら、学園秘蔵の書籍を望むだけ見せて差し上げますわ~ 今のわたしなら造作も無いことですからね~』

 うぐう。これは釣られないと言いたいが心が傾く。
 結局のところ苦労してこの学園に来たのは、そういった秘蔵の書籍を調べる事で『男に戻る』方策を見いだす事にあったわけだ。
 そして一連の出来事でオレの男としての自我がかなりヤバい事になっているのを再認識させられたところでもある。
 仕方ない。背に腹は代えられないか。

「それではしばらくはお付き合いさせてもらいます。ただし――」
『分かっていますよわよ~ あなたに無理強いはしませんから、あくまでもこちらの質問に答えてもらえるだけで結構です』

 もちろんオレだって相手がビューゼリアンだったら、絶対にこんな言葉を信じたりはしなかっただろう。
 しかしホン・イールは絶体絶命だったオレを身を挺して庇ってくれたわけなので、後始末に付き合う事は仕方ないと割り切るしかあるまい。

「分かりました。あくまでも数日間ですけど、ここに留まりましょう」

 その場合、当面の邪魔者と言えば――

「おお。元に戻られましたか。それでイロールはいかなる神命を下されましたか?」

 オレが深刻な顔をしていると、ミツリーンが声をかけてくる。
 たぶんコイツはホン・イールと意志疎通していないので、オレが何かブツブツ呟いているようにしか見えない。
 そうなるとこの場合、さっきまでオレに憑いていた女神イロールと何か会話していたと思うのが普通か。
 この際だからその誤解は利用させてもらおう。

「すみませんが細かい事は話せません。ただしばらくわたしの事は黙っていてもらえないでしょうか?」
「お言葉ではありますが……」

 ミツリーンは明らかに釈然としない様子だ。
 そりゃまあコイツが聖女教会から受けているであろう命令は推測するに『オレの事を探し出し、その情報を収集し、そして場合に寄っては連れてくる』事だろうからな。
 ぶっちゃけミツリーンは『オレの言うことを聞く義理』はあるかもしれないが『オレの命令を受ける立場』ではない。
 ひょっとしたら『腕尽くでも捕らえて連れて帰れ』という命令を受けている可能性だってあるのだ ―― それを行わないのは、たぶんこの異邦の地において、単独行動をしている都合からそんな事が不可能だからに過ぎないのだろう。
 つまりコイツは聖女教会からの命令とオレの頼みがバッティングしたら、聖女教会の方をとるのは間違いないのだ。

 もちろんその気になれば、オレがコイツを実力でどうこうするのはさほど難しくは無い。
 それにミツリーンは異教徒だから、やりようによってはこの学園の牢屋に放り込む事だって出来るだろう。
 しかし実際に危害を加えられたわけでもないし、異教徒として迫害されるような事になるのはオレとしても避けたい。
 仕方ないのでここはどうにか『お願い』するしかないだろう ―― 自分でもその甘さ故にいつも失敗し、追い込まれている事は理解しているが、こればっかりはオレの性分だからどうしようもない。

「お願いです。事情を話すわけにはいきませんが、わたしがここを離れるまで、黙っていてもらえないでしょうか?」
「命令……ではないのですか?」
「ええ。あくまでもお願いです」
「……」

 ミツリーンは少しばかり困惑している様子を見せる。たぶんオレの意図を計りかねているのだろう。
 ミツリーン以外の連中が来ていないのは、地球の裏側だって即座に連絡がついた元の世界と違って、情報伝達速度イコール人の足だから時間がかかっているに過ぎないのだ。

「せいぜい数日の事です。それだけ目をつぶって下さい」

 ここでミツリーンは数瞬の間、考えた様子を見せるが、どこか観念したようすで小さくため息をつく。

「……分かりました。それではわたしはこの件を報告するため、しばしのお別れとさせていただきます。それでよろしいですね」
「ありがとうございます!」

 オレは思わず頭を下げた。オレの意図をちゃんと汲んでもらえたのは、本当に久しぶりのような気がするよ。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...