異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第9章 『思想の神』と『英雄』編

第188話 ようやく見つけた魔法で実験開始するが……

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 歴史資料については期待外れだったけど、魔法についてはきっと凄いものがあるに違いない。
 さすがに超絶的な破壊魔法だとか、神様を召喚するゲート魔法だとか、もうそこまで高望みはしませんから、何かオレにとって利益をもたらすものの一つぐらいはあってもいいですよね?
 それぐらいやってもバチは当たりませんよ。

 命がけで苦労した末にどうにか獲得した貴重な資料なんだから、役に立って下さいよと、かなりマジで神頼みした ―― いや。この世界の神様に頼ったところで何の意味もないか。
 そしてやっぱりオレの希望は叶わなかった ―― いつものように。

 大部分は現在使われている魔法の開発の関する話題だが、仮にマイク○ソフト社の昔の社内資料を垣間見ることが出来たとしても、その中身と言えば『○S-DOSやWI×DOWS95の開発秘話』とか『お蔵入りした失敗ソフトの開発過程』とかその手の話になるだろう。
 それはコンピュータの歴史を論じるには重要な資料かもしれないが、いまパソコンを使っている人間には関係のないものだ。
 それ以外に『失われた過去の魔法技術』についての研究があったりして、大期待して覗いて見たけど、その中身もまたオレには何の意味もないものばかりだった。
 どういうことかと言えば、技術が発展していない時には得てして『未熟な技術を補うための技術』が発展する。
 たとえば三十年程前のパソコンは同時に発色可能なのが八色だの一六色だのと二一世紀のパソコンとは比較にならないほどショボいグラフィック能力しかなかった。
 だからその時代のエロゲーでは貧弱なグラフィック機能でいかに『かわいい女の子』『自然な肌』を描くのかが重要で、それに特化した技術が発展していた。
 エ○フだのアリ○ソフトだのの黎明期はそんな技術によって支えられてきたのだが、もちろん二一世紀のパソコンでは無意味な技術だ。
 要するに魔術学園に秘蔵されていた資料の『失われた魔法技術』というのは、そういう記録の集大成だったのだ。

 落ち着いて考えてみるとそんなの当たり前の話だ。
 有益な技能だったら、世間に広まっていくはず。
 何よりこの世界は現在進行形で魔法が使用され、大勢の人間が凌ぎを削って研究しているんだ。
 そうなると一番、肝心な研究成果が奥底に秘蔵されているなんてあり得ない。
 そういうものはむしろ研究の第一線の人間が使いやすいところにあるに決まっているじゃないか。
 ホン・イールはそれを知っていたから、気前よく秘蔵の資料をオレに見せてくれたというわけか。
 ちくしょう。感謝して損をした気分だ。

 だがそんな事でオレはくじけないぞ!
 そんなに簡単に役に立つ魔法が手に入るなどと思っちゃいない ―― 期待はしていたけどさ。
 とりあえず旅すがら、資料を再検討して役に立つものを探すとしよう。
 中には実行するのに膨大な魔力が必要なので、実用化を断念したものもかなりあるようなので、オレの魔力を持ってすれば可能になるものだって少なくは無いはず。
 その中にはきっとオレの現状を変える何かをもたらすものもあるだろう。

 魔法で資料を記録していつでも引き出せるのは便利と言えば便利だが、元の世界のスマホ一つで情報が幾らでも出てくるのに比べれば、とても及ばない。
 しかし元の世界で学生だった頃にはこんなに熱心に調べ物をした事など無かったのだから、必要に迫られると人間は変わるものなのだなあ。
 もっとも一番、大きな変化である性別を変えられる必要性は全く無かったんだけどな!

 ちょっとばかり落胆させられてしまったが、とりあえず旅を続けて気分を切り替えよう。
 何しろこっちは聖女教会に追われる身だ。
 他にもオレに恨みを抱いていたり、その他もろもろの理由でこっちを探している連中は掃いて捨てるほどいるだろう。
 現在のオレはひとまずライバンスで耳にした『英雄にして背教者』というガーランドの足跡を追うことにしている。
 ガーランドの最後については、あっちこっちで矛盾したいろいろな逸話が語られているらしく、それはホン・イールに見せてもらった資料でも変わりは無い。
 なお聖セルム教におけるもっとも一般的なガーランドの末路についての教えは『異教の地で唯一神に対する裏切りの後悔と自責に苛まれ、神の御許に行くことの出来ない己を呪いつつ朽ち果てていった』という事になっている。
 まあ早い話が『聖セルム教を離反して忌むべき多神教の神々を信仰するとこうなるぞ』という戒めの対象となっているわけだ。
 そして面白い事に、そんな戒めの対象として有名であるが故に『聖セルム教に失望し、棄教しようとしている人間』から自分たちの守護者として崇拝されていたりするというのだからつくづくややこしい。
 それはともかく、もしもガーランドがオレが想像した通りの『宗教的無節操』な人間だったとしたら、ひょっとするとオレと同じく異世界の住民、場合によっては日本人だったりしないだろうか?

 もちろんこれは単なる想像に過ぎず、特別な根拠があるわけではない。
 何よりも今までのそんな期待を抱いて、その通りになった事なんか一度もないさ。
 ついでに言えば本当にガーランドが日本からやってきた異世界人だったとしても、それでオレの現状が何か変わるのかというと、そこはもうやってみないと分からないとしか答えようが無い。
 だけどとにかく行動する、というのがこっちの世界に来てからのオレの習い性になってしまった気がするな。

 そんなわけで現在、オレが向かっているのはライバンスの南方にある大きな湖を中心としたフェルスター盆地だ。
 そこは中央にあるフェルスター湖を中心として、そこに流れ込む多数の川と湖を使った水上交易で栄える街が幾つもあるが、その川毎に文明圏を構築しているために文化・文明・宗教的に非常に多様なんだそうだ。
 そんなわけでいろいろな勢力が割拠していて、ややこしいのだがそこならきっと何かオレの現状を変える何かに出会えるかもしれない。
 そしてやっぱりその予想は当たる事になる。
 オレにとってそれがいいか悪いかは別として。

 そしてオレは旅を続けつつも学園で手に入れた資料については調べ続けていた。
 何しろ他にやること無いからな。
 オレ一人ではモンスター退治とかできっこないし、それ以外で『疫病の流行』とかオレの能力が役立つような機会が無かった事も幸いしたな。
 まあ冒険者同様、これまでオレが実力を発揮したのはロクでもない事が起きたときだけだから、これはむしろ喜ぶべき事なんだろう。

 自分のチート魔力を知った時に、小躍りして喜び、有頂天となったのは半年あまり前の話だけど、もう遠い昔の事のように思えてくるよ。
 それはともかくそんな一見、平穏な旅を続けている最中、オレはある衝撃的なものを発見したのだった。
 もう幾ら探しても無駄なのかと半ば諦めていたときの事だ『それ』を魔法で脳裏から引き出した時には背筋に電撃が走るようだった。

 まさか?! ひょっとしたらこれでオレは男に戻れるかもしれないぞ!
 フェルスター湖が見えてきたところで、オレはあさっていた魔法資料の中からかなり重要な魔法を見いだす事が出来たのだった。
 それは資料の中に埋もれていた、かつて魔法学園で研究されていたが実用性無しとしてうち捨てられていた魔法だった。
 その魔法は【遡上】というもので、どうやら物体の存在を以前に巻き戻すものらしい。
 もっとも実験によると並の人間がこの魔法を使っても事実上効果は無く、最高レベルの術者でも巻き戻せるのは一週間かそこらだったらしい。


 これまでの経験から得られたオレの主観だが、この世界では耐久力ヒットポイントを上げるのはかなり難しい。
 魔法を使って肉体を頑健にする事も可能だが、再生能力を高めた方がより有効なんじゃないかと思えるぐらいだ。
 ただし耐久力に比べると、魔力は比較的簡単に上げられるようで、オレ自身の魔力もかなり上がっている様子がある。
 また魔法を使うには総合的な魔力と共に『一度に使える魔力』も重要だ。
 大ざっぱに見たところで魔法をかじった程度の一般人が有する魔力を十点とすると、一度に使える魔力は全体の一割、つまり一点というところだ。
 訓練された魔術師の場合は魔力が一般人の数倍、一度に使える魔力は十点あまりという感じになる。
 あと魔力を貯蔵するアイテムも存在していて、地位の高い魔術師は使っていない魔力を込めていざという時に備えているらしい。
 オレも今まで特に魔力に不足を感じてはいなかったけど、そういうアイテムも場合によっては必要になるかもしれないな。


 それはともかくこの【遡上】をかけた場合でも、時間そのものが巻き戻るわけではない。
 もちろん死体にかけても生き返るのではなく『その時間分、死体が新鮮になる』というだけのものだ。
 当然ながら壊れたものでも、バラバラになっていた破片が集まって一つになったりもしない。
 しかしオレが女にされた半年あまり前にこの身を巻き戻したら、ひょっとすると男に戻れるかもしれないのだ。
 もっともこのアルタシャの女の身が半年分だけ若返るかもしれないので、あまり過度の期待は禁物だ。

 あとこの魔法を人間にかけると、その身が巻き戻る事から苦痛があるらしい。
 万一に備えて最大魔力で【自己回復力強化】をかけておくとしよう。
 もちろん自分の身を魔法の実験台にするのはちょっとどころでなく、躊躇するところなので出来れば他人で実験したい ―― ところだけどそんな事は出来ない。
 一歩でもそんな道に足を踏み入れたら、たぶんビューゼリアンのごとく魔法の実験のためには平気で他人を蹂躙し、犠牲にするような怪物と化してしまうかもしれない。
 それは女の身のままでいるよりも恐ろしい事だ。

 そんなわけでオレは自分の身にぶっつけ本番でやるしかない。
 少なくともこの身は『か弱い乙女』のものなので素のままで筋力に不安があるが、生命力は高いらしくちょっとやそっとのダメージならばどうにかなるのだ。
 ただしオレが全力でこの【遡上】をかけたとしても、どれぐらいの巻き戻るのかは正直言って分からない。
 何しろオレの身もこの半年の間ずっと『少女と女性の間の絶妙なバランス』を維持した体型から全く変化が無いので、少しばかり遡っても外見上は全く同じに見えるかもしれないのだ。
 当たり前だけど研究資料でもオレ並の魔力で使った場合については何の記載もない。そりゃまあビューゼリアンはオレが学園はじまってから、初めて身柄を確保した不死者イモールタルだと言っていた。
 当然、過去の資料には魔法をオレと同等の魔力で使った例などない。

 う~ん。実際これで元に戻れるかどうかはやってみなければ分からないが、とにかく試してみるだけだな。
 そしてもしもこれで男に戻れたら ―― なにかいろいろと複雑な感情がある。
 何しろ半年以上も女の身でいたからな。何というかこの身体にもいろいろと愛着があると言わざるを得ない。
 そしてこの前、女神の化身となった後は『このままでいいだろう』的な心の声が強くなった。そんな気がしている。

 いかんいかん!

 オレは勢いよく首を振って、胸中にわき上がった感情を振り切る。
 周囲には誰もいないけど、もしも他人に見られていたら実に滑稽な光景だとは思う。

 これもあの無能女神の影響か?
 ひょっとするとイロールに一時でもこの身体をあずけた結果としてオレの精神がどんどん浸食されているかもしれない。
 このままなし崩しで女のままでいるのはヤバすぎる。
 まあこれで元に戻れる保証も無いし、いちおうやってみるだけやってみよう。
 とりあえず街道からちょっと離れた場所に移動し、周囲に人影が無い事を確認する。
 その上で精神を集中させて【遡上】をオレの身体にかける。
 魔力は大ざっぱにオレの全力の半分ぐらいにしておこうか。
 そんなわけで実験開始だ。

 だが期待半分、諦め半分、何かあればめっけもののつもりで取り組んだ自分自身で行った実験の結果はとんでもない事になってしまったのだ。
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