異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第9章 『思想の神』と『英雄』編

第193話 孤児達の中で

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 自分自身の身体の事だけで『女性化』『幼女化』の二重苦で、それ以外にも難題を幾つも抱えつつ、オレは壁面のカラフルな宗教画を注視していた。
 しかしこのモザイクで出来た宗教画だけどかなり古びているので、風雪にさらされてあちこちが痛んでいる。
 間違いなく『金髪と青紫の瞳の女神』が描かれているのは分かるのだが、どうもその描き方から何者かと共に、別に存在と戦っているかのように見えるのだ。
 詳しいところは分からないが少なくともオレが今まで見知ってきた神話とはかなり異なっているらしい。
 いや。ひょっとしたらここで描かれている『女神』の伝説だって、オレの知っているイロールのものとは大きく異なっているかも知れない。
 この世界では地域毎、文化圏毎に神様の評価もまるで違うし、恋人や夫ですらまちまちだからな。
 このモザイク画を見る限りでは、どうやら女神はなんらかの敵に立ち向かう男の英雄らしき人物を手助けしているらしい。
 男の方はこの地域の英雄なのか、はたまたもっと名の知られた存在なのかは、この絵ではどうしようもない。
 また戦っている相手も大きな人型の存在で、どうも後光というかそういうものが周囲に広がっているように見える。
 う~ん。元の世界の宗教画だったら後光が差すような存在の方が『善』のはずなんだけど、欠損部分が多いので何か重大なところが分からないのかもしれないな。
 こういうところを見ると、ついつい好奇心が鎌首をもたげてきて、詳しく調べてみたいという気になってしまうのが、オレの性分なのだから仕方ない。
 そしてオレがそんなことを考えているところで、手をたたく音がして一同は一斉にそちらの方に向き直る。

「さあみんな。話はそこまでですよ。それでは食事にしましょう」
「「はーい!」」

 モラーニの言葉に対し、訓練でもしているのか、と思うほど声をはもらせて一同は建物の中に入ることとなった。

 そしてしばしの後、オレ達は粗末なシチューとパンで夕食を取っていた。
 オレも食器を並べるのぐらいは手伝ったが、どうやらモラーニがいなくともここの子供達で簡単な食事を作るぐらいは出来るらしい。
 例えるなら『訓練された子供達』ということだな。
 正直に言えば味はまあそれなりだけど、ここ半年の間、サバイバル生活に慣れているせいか、粗食でも腹にたまれば気にはならなくなっているのは確かだ。
 日本にいたころはこの世界の基準で言えば、ものすごく贅沢な生活をしていたものだが、必要があれば何にだって人間は対応できるということだな ―― 女である事に対応しつつあるのは、個人的にはかなり不本意なんだけど。
 それはともかく食事中に情報収集出来ないかと思ったが、ここにいるのが子供とモラーニだけでは殆ど役に立つ情報は得られなかった。
 ただ僅かに探りを入れてみたところでは、ここはやはりイロールを崇める寺院であり、モラーニが身寄りのない子供を引き取っているらしい。
 ここにいる子供の年齢がいずれも十歳に届かないのは、年長の子供から順番にモラーニが自分の有する人脈を使って養子に出したり、交流のある寺院に出家させたりしているからのようだ。
 住み込みなのはモラーニひとりだけだが、昼間は村人が交代で面倒を見ており、また費用については時折、差し入れがあるようだが具体的な相手までは分からない。
 またモラーニの立場について子供達は『先生』と呼んでいるが、前歴までは彼女があまり語らないので誰も知らないらしい。
 そして子供達は普段はこの村の農作業などの手伝いをする傍ら、モラーニが読み書きや計算などの教育を施しているようだ。
 あえて言えば『よい意味で平凡な孤児院』というところだろうか。

 ちょっとばかり今までのように善人面して、裏で悪行を働いている連中の事が脳裏をよぎったけど、心の中でモラーニに謝っておこう。

 そして食事が終わったところで、またしてもオレの周囲に人だかりができかけたところでモラーニが近づいてくる。

「アルタシャ。これから話はいいですか?」
「え……ええ……」

 オレが頷いたところでモラーニは他の子供達に向けて宣言する。

「他のみんなはもう下がりなさい。これからわたしは彼女と少し話がありますからね」
「……分かりました」

 う~ん。さっきの威勢のいい返答に比べるとちょっと不満がありそうだな ―― 特にオレの髪をいじり回っている男子共に。
 明らかにオレから離れる事に不満を抱いているぞ。
 まだ年齢一桁のくせに色気づいているんじゃねえよ、と言いたくなるがまあオレだって初恋はそんな時分だった気がするから、やっぱりそれも悲しい『男のサガ』というものなんだろうか。
 児童向けの漫画でも、小学生の主人公がいきなりやってきた転校生の美少女に一目惚れなんて、掃いて捨てるほどありふれまくった展開だ。
 下手するとまたしても『男からプロポーズ』されてしまいかねないな。
 だけどそんなことを考えても、女にされた直後のように違和感や不快感をあまり抱かなくなってしまった自分自身を自覚せざるを得ないが。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 しばしの後、オレはランタンの明かりに照らされたモラーニの部屋に案内されていた。
 部屋の壁面の一方を占める本棚を見ると結構な数の蔵書があるようだ。
 元からここにあったのか、モラーニの所有物なのかは分からないけど、これだけでもかなりのものだろう。
 さすがにここには本を触ったら襲撃してくるような精霊のたぐいはいないだろうし、後で時間があったらこっそり読んで情報収集に役立たせてもらうとしよう。
 それぐらいはこっちだって許されていいよね。
 しかしモラーニが聖女教会の関係者ならば、当然ながらオレの目と髪の色から聖女がらみだと考えるだろうし『アルタシャ』の名の由来も聞いていて不思議ではない。
 そしてこっちが固唾を呑んでモラーニの言葉を待っていると、彼女はオレが持っていた鞄を見せてきた。

「これはわたしが預かっておきます。あなたがここを出て行く時になったら返しましょう」

 ああそうか。正直に言えば金なんてどうでもよかったので半ば忘れていたけど、オレの鞄の中にはいち財産入っていたんだな。
 オレを見た目通りの幼女だと思っているなら、黙って使い込んでも良かったものを、わざわざ宣言して預かるとは実にいい人だな。
 もっとも正直に言って、これが用事だったとしたらオレとしては拍子抜けだ。
 だがここでモラーニは鞄をしまい込んだところでその表情を改めて引き締める。

「ここからが本題です。アルタシャ……あなたはひょっとするとどこかの聖女教会から、別のところに行く途中だったのですか?」

 どうやら核心をついてきたようだな。
 だけどこれは返答が難しい。
 ついついオレが名乗ってしまったアルタシャという名前と、この容姿を見れば聖女教会との関係を疑わない方がどうかしている。
 ちょっとばかり言葉を探していると、ここでモラーニは安心させように微笑む。

「そんなに緊張しなくてもいいのですよ。私はあなたと同じ聖女……いえ。元聖女なのですからね」

 やはりそうか。
 聖女は回復魔法に長けているせいか、寿命も長く年を取るのもかなり遅い。
 だいたい常人の二倍ぐらいらしいので、そこから考えると外見年齢が三〇歳ぐらいのモラーニは五~六〇歳ぐらいということになる。
 オレなりに調べたところでは聖女の地位は、本人の能力は当然ながらスポンサーであり守護者である夫の地位が大きく影響するらしい。
 そして聖女は長命なので、殆どは夫に先立たれる事になるのだが、その場合は第一線を退いて後進に地位を譲るのが慣例のようだ。
 たぶんモラーニも夫に先立たれたので、こんな田舎の孤児院の院長という実質的な隠居生活となったのだろうな。
 どっちにしてもオレは『聖女』じゃないし、なろうと思った事すら無い ―― ホンの一時、聖女達でハーレムなんて儚い妄想を抱いたことがあるぐらいだよ。
 いっそ開き直って聖女教会との関わりをあくまでも否定しようか。それともどう答えていいのか分からない幼女のフリをするべきだろうか。
 そんな事を考えて返答を躊躇していると、モラーニはズイと顔を近づけてくる。

「ひょっとすると……あなたは自分の事を『男』だと思っていませんか?」
「え?!」

 思わぬ言葉にオレはついつい目を見開いてモラーニの顔を凝視してしまう。
 そしてモラーニは納得した様子で頷く。

「やっぱり……そうだと思いました」

 しまった! 思わず反応してしまった!

「あなたに出会った時から、その態度にずっと違和感がありましたからね。それにその髪と瞳を見ればあなたの身に何が起きたのかは見当ぐらいつきます」

 それは間違ってないけど、かなり肝心なところが抜けているな。
 まあ魔法実験の失敗でこんなに若返ってしまった結果だと見抜いたら、そっちの方がどうかしている。
 しかしそれはともかくモラーニは間違いなく、聖女教会が男子を性転換させていて、その女子は女神イロールに近い外見になる事を知っている。
 聖女教会は産婦人科をかねていて、そこで回復魔法の素養のある男子の赤子は生まれてすぐに性転換した上で親元から離されて、聖女としての教育を受ける事となっている。
 だが以前に出会ったオスリラのようにそこに漏れてある程度成長してから、回復魔法の素質を見いだされ、性転換させられた聖女も少数ながらいた。
 モラーニはオレの外見と態度から『最近になって性転換させられた』と考えたのか?

「アルタシャという名前も、あなたがその身体になってから、新しく与えられたものなのでしょう?」

 自分で名乗ったんですけど、それも間違いとは言い切れないな。
 そうか。髪と目の色だけだったらまだ偶然の一致もあり得るけど『アルタシャ』の名を子供が名乗るとしたら、オレの評判を聞いて与えられる場合しかない。
 だからつい最近、改名させられたとモラーニは思って、聖女教会で性転換させられたに違いないと結論したのだろう。
 どこかズレているようで、それでも部分的には真相を突いているというのは、結構ややこしいものである。

「その名前は我が教会における新しく誉れ高い英雄の名前ですよ。間違いなくその彼女にあやかって名付けられたのでしょう。あなたも誇りとすべきです」

 申し訳ないですけど、それはオレの事であって、しかも自分では全然誇りになんかしていませんよ。
 だけどモラーニの立場から言うと、ごく当然の発言に聞こえてしまうのだからつくづく世の中はままならない。
 オレとしてはもちろん許容しがたいが、モラーニに文句を言っても何の意味も無いことぐらいは分かっているつもりだ。
 しかしモラーニがそう受け止めているという事は、今ではオレと同じ名前をつけられている女の子は結構、あっちこっちにいるんだろうな。
 アルタシャを騙る偽者が大勢いるとミツリーンから聞いてはいたけど、紛れも無い本名の女の子も生まれているということか。

「あなたが自分を男だと考えているのも今は仕方ないでしょう。わたしも同様の例は少数ですけど見た事がありますから」

 ここでモラーニは手を伸ばしてオレの頭をなでる。そこには慈しむような、悲しむようなそんな複雑な感情が交じっているように思えた。
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