192 / 1,316
第9章 『思想の神』と『英雄』編
第192話 幼女と化して迎え入れられた先は
しおりを挟む
もしかしてあれは戦争なのか?
ここは湖を中心にして宗教的に相容れない幾つもの勢力が入り乱れ、オマケに水運による交易で富が集まる場所なので、紛争はしょっちゅうだと聞いた事がある。
そりゃまあオレも今までだって、この世界に来て何度も紛争は目の当たりにしてきたが、どれだけ見ても慣れるもんじゃないよ。
元の世界だったらテレビの向こうで何万人犠牲が出ていようが、全く気にもせず日々の生活を送ってきたオレだけど、実際に目の当たりにしたら湖越しで直接に脅威が迫っているわけでないと分かっていてもいい気はしないものだ。
そしてここでどういうわけか、オレの首回りに柔らかい感触が発生する。
「大丈夫よ。あなたの事はわたしが守るから」
見るとモラーニがオレを抱きしめて、落ち着かせるように優しく声をかけてきていた。
もしもこれが戦争なら彼女だって不安なはずなのに、実に母性にあふれるいい人だな。
あとこういう事にかなり手慣れた様子が見受けられる。
たぶん今までに何度もこうやって子供達を慰めてきたのだろう。
それはともかく何が起きているのかは確認しておきたい。
「あれは――」
質問を発しようとしたところで、オレは慌てて口を閉じる。
今のオレはどう見ても五,六歳の幼女の身体だぞ。
下手な事を口にしたら怪しまれかねない。
まあ普通に『天才』だとか『神の落とし子』とかいい方向に見てもらえるのならまだいいけど、下手すると『子供のフリをした怪物の化身』とか『魔女』とかそっち方面に見られる危険性がある。
モラーニは善人だとは思うけど、前の世界の歴史でもそういう善人が思い込みや恐慌に陥ってとんでもない事をしでかしてしまった事はよく聞く話だった。
そしてオレが言葉を止めたところでモラーニは少しばかり怪訝な表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「いえ。何でもないです」
「そう……とりあえず急ぎましょう。わたしの村はもうすぐだからね」
いかに『対岸の火事』とはいえど、本当に戦争ともなればどんな火の粉がふってくるか分かったものではない。
今の幼女の身体では問題外だが、仮にもとのアルタシャでも戦争ともなれば出来るのは目の前にいる人達の怪我を治すのが関の山だ。
しかもどういう理由で、何と何が戦っているのかも分からないが、迂闊に質問も出来ないのだから何とも困ったことになった。
かの有名な『見た目は子供、頭脳は大人』な名探偵の本当の苦労をこんなところで味わう羽目になるとはまったく想定外だったよ。
そしてオレとモラーニは日が沈みかけたところで小さな村に足を踏み入れた。
ざっと見て人口はせいぜい数百人というところか。
周囲は柵で覆われ、外敵に対しては一応の備えはあるが本格的に攻め込まれたらひとたまりもないのは当然だろう。
ただ一つだけ目を引くのは村の外れに位置する煉瓦造りの建物だ。
かなり古びたものだが相当大きい。
村の規模に比べると不釣り合いな程だ。
この世界では神様は大勢いるので、その神様ゆかりの聖地も数多いから、ひょっとするとどこかの神様の聖地として結構、大きな寺院が建てられたけど、何かの事情で寂れてしまったのかもしれない。
ただ少々不可解なのは、ここに来るまでに通りすがりの村人達はモラーニがオレを連れているのを見てもさして驚きもせず、皆が会釈して通り過ぎるだけだという事だ。
明らかにモラーニはこの村では結構な立場にあるらしい。
裕福とは言えないが、村人達から敬意を払われ、かつ見慣れぬ子供を連れていても疑問に思われないとしたらどんな立場だろうか。
「これからどこに行くのですか?」
「あそこよ」
モラーニが静かに指さしたのは先ほどからオレが気になっていた例の建物だ。
「これからあなたの兄弟や姉妹となる子供達がいるのよ。仲良くしてあげてね」
うすうす気付いていたけどやっぱりそうか。
彼女はあの寺院らしい建物の管理人であり、なおかつあそこで子供を引き取って面倒を見ているのは間違いないだろう。
そしてオレとモラーニが粗末な柵で覆われた敷地内に入ると、子供達が集まってきた。
ざっと見ても十人近く。年齢はいずれも十歳以下だろう。
「みんないい子にしていたかしら?」
「「はーい!」」
一同は一斉にモラーニに向けて叫ぶ。
その笑顔はオレの記憶に微かに残る、幼稚園の先生に対する子供達のものと同じだった。
ただ日が沈みかけたこの時でもいるということは、ここがこの連中の『家』であって、幼稚園のように日中預かっているというわけではないことになる。
「ねえねえ。先生。この娘は?」
「いったい誰なの?」
当然ながら子供達はオレの事について次から次へとモラーニに問いかける。
「彼女はアルタシャ。今日からしばらくここでみんなと一緒に生活するのよ。仲良くしなさいね」
「「はーい!」」
子供達は先ほどと同じく一斉に声を合わせて返答する。
これだけ簡単に受け入れるとなると、モラーニがこうやって身寄りの無い子供を連れてくるのはしょっちゅうなんだろう。
だがここにはモラーニ以外に大人の姿が見当たらない。
いくら何でもこれだけの子供を一人で世話をするのは不可能だろう。
かなりの喜捨と支援を受けているのは間違いない。
しかしモラーニは見たところ三十歳ぐらい。仮に司祭だとしたらむしろ若手のはずだ。
とにかくここが寺院だとしたら、何の神様を祀っているのかを真っ先に確認すべきだな。
ちょっとばかり『表向き良心的な孤児院を装っていて、裏では子供を売り飛ばしたり、生け贄に捧げている』などという妄想が脳裏をよぎるが、さすがにモラーニがそんな所行に手を染めているという事はないだろう。
今まで正義面してロクでもない事をする連中ばかり接してきたせいか、オレも随分と毒されてきてしまった気がするよ。
「ねえねえ。どこから来たの?」
「今まで何していたの?」
「ごめんなさい。今日は疲れているので……」
好奇心旺盛にこっちについて問いかけてくる子供達を適当にあしらいつつ、オレは周囲の様子をうかがっていた。
しかし建物の壁にモザイクで描かれたものを見て、思わず身体が硬直し、全身から冷や汗が吹き出す。
まさか? あれは?
そのモザイクで描かれていたのは金髪と青紫の瞳をした美女 ―― すなわちオレを女の身に変えた元凶であり、かつ守護女神であるイロールだったのだ。
オレは見覚えのある ―― なにしろ自分自身と殆ど同じなんだから ―― 女神の姿に目を奪われていた。
宗教画を前にして打たれたように立ちすくむのは、一歩間違うとそこで凍死してしまった少年と犬の世界的名作を思い出すかもしれない。
それはともかく、あの壁面に描かれているのはイロールの宗教画か?!
そうだとしたらここは聖女教会の関連施設ということになるぞ。
オレが驚愕していると、寄ってきた男子の一人が手を伸ばして髪をいじっていた。
おい。ちょっとお前、気安いぞ!
「その髪と目は僕らの女神様と一緒だよね?」
うげえ! ただ宗教画が描かれているだけで無関係な施設である可能性も考えたけど『僕らの女神様』などと言っているということは、ここは本当にイロールを崇拝する聖女教会の支部なのか!
金髪と青紫の瞳が聖女のシンボルみたいなものだけど、それはあくまでも女神がその外見だからだ。
そして何より聖女教会で性転換させられた元男もオレと同様にその姿になるけど、元から回復魔法の素質のある女性が聖女になった場合、その外見は様々だ。
だが回復魔法を使う聖女でなくとも、聖女教会の関係者はいるわけで、モラーニはそっちの世俗的な事に取り組んでいる信徒なのかもしれない。
しかし今のオレはそれについて深く考える余裕はなかった。
「うわあ。サラサラだし凄く綺麗だね」
「こら! オレにも触らせろ!」
「僕も触っていい?」
「待って。あたしもあたしも」
いつの間にかオレは完全にオモチャにされているぞ。
うぐう。今はされるがままになるしかない。
しかしそんなオレと子供達の行動をモラーニは頬笑みながら見つめているが、少なくとも彼女はオレの髪と目の色、そして何より『アルタシャ』の名が意味するものについても聞いているはずだ。
だけどいくら何でも同一人物とは思わないはずだし、実際これまでの態度からもそれは感じられない。
推測だけど聖女教会に入った時に、新しい名前を与えられるはずだから、恐らくオレが名乗った『アルタシャ』はあやかってつけられたものだと考えたのだろう。
まあそれがもっとも合理的な結論ということになるだろう。
しかしそれはいいとして――
「髪も目も女神様と一緒だなんて凄いね」
「もっともっと触らせて」
「こっちもだよ」
いい加減にしろよこいつら。いつまで人の身体を好きにしているつもりだ。
もしも大人だったら完全にセクハラで訴えられるレベルだぞ。
だけどたぶんオレがこいつらの立場だとしたら、きっと同じ事をしていたのだろうな。
新入りが崇拝する女神と同じだったりしたら、そこをいじり回したくなる気持ちは分かるからな ―― あと比較的年齢の高い男子はやっぱりオレに『異性』としての関心も抱いているようだ。
まあいい。しばらくは付き合わねばならないようだし、ここはオモチャにされるのも我慢して受け入れよう。
これまでにも虜囚にされて散々な目に遭わされた事も何度もあるし、それに比べればオモチャにされるぐらいなら文字通り『児戯』でしかないからな。
とにかく元の身体 ―― アルタシャのことだけど ―― に戻るまではなるだけおとなしくいておくしかないのだ。
そうなるとここがイロールを崇拝する場所だとしても、いかなるものなのかはハッキリさせないといけない。
もちろん通常の聖女教会とは違って、回復魔法と救貧活動を大々的に行っているわけではなく、建物はかなり大きいとは言えど、モラーニがあくまでも行く当てのない子供達の面倒を見ているだけなのだろう。
それに聖女教会にて育てられる『聖女見習い』だとすれば、全員が女性であり、なおかつオレと同じく金髪と青紫の瞳の持ち主がいるはずだが、ここにいる孤児は男女比も半々で髪や瞳の色が該当するものもいない。
つまり未来の聖女を育成すべく、回復魔法の訓練をしているわけではないということになる。
だけどここが単にイロールに敬意を払い、通常の意味で信仰しているだけならいいが、聖女教会と密接な繋がりがあれば困った事にもなりかねない。
いくら何でも今のオレの正体に気付くとは考えにくいけど、万に一つ知られたら捕まって無理矢理に聖女教会に連行されてしまう事もありうるのだ。
何しろ聖女教会がこっちの方面にオレを探し出すべく、手先を何人も送り込んでいるのは間違いないからな。
前にいたライバンスであれだけ目立つ真似をしてしまった以上、オレの動きを追っているのも一人や二人ではないだろう。
もちろんオレも追っ手に見つからないように行動はしていたけど、以前にもミツリーンがライバンスに先回りしていた事を考えると、他の連中だって同様の事が出来て、既にこっちに来ている奴らもいるかもしれない。
しかしこの身で動き回るのも危険だし、あとモラーニがいい人なのでもしもオレがいなくなったら間違いなく心配してあちこち探し回って、余計な苦労をかけてしまうのも申し訳ない。たとえここを出て行くとしても、可能な限り彼女に余計な気苦労をかけないようにしたいものだ。
ガキ連中に身体を弄ばれつつ ―― 自分で言っていて卑猥な響きだ ―― オレはいろいろとややこしい事を考えずにはいられなかった。
ここは湖を中心にして宗教的に相容れない幾つもの勢力が入り乱れ、オマケに水運による交易で富が集まる場所なので、紛争はしょっちゅうだと聞いた事がある。
そりゃまあオレも今までだって、この世界に来て何度も紛争は目の当たりにしてきたが、どれだけ見ても慣れるもんじゃないよ。
元の世界だったらテレビの向こうで何万人犠牲が出ていようが、全く気にもせず日々の生活を送ってきたオレだけど、実際に目の当たりにしたら湖越しで直接に脅威が迫っているわけでないと分かっていてもいい気はしないものだ。
そしてここでどういうわけか、オレの首回りに柔らかい感触が発生する。
「大丈夫よ。あなたの事はわたしが守るから」
見るとモラーニがオレを抱きしめて、落ち着かせるように優しく声をかけてきていた。
もしもこれが戦争なら彼女だって不安なはずなのに、実に母性にあふれるいい人だな。
あとこういう事にかなり手慣れた様子が見受けられる。
たぶん今までに何度もこうやって子供達を慰めてきたのだろう。
それはともかく何が起きているのかは確認しておきたい。
「あれは――」
質問を発しようとしたところで、オレは慌てて口を閉じる。
今のオレはどう見ても五,六歳の幼女の身体だぞ。
下手な事を口にしたら怪しまれかねない。
まあ普通に『天才』だとか『神の落とし子』とかいい方向に見てもらえるのならまだいいけど、下手すると『子供のフリをした怪物の化身』とか『魔女』とかそっち方面に見られる危険性がある。
モラーニは善人だとは思うけど、前の世界の歴史でもそういう善人が思い込みや恐慌に陥ってとんでもない事をしでかしてしまった事はよく聞く話だった。
そしてオレが言葉を止めたところでモラーニは少しばかり怪訝な表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「いえ。何でもないです」
「そう……とりあえず急ぎましょう。わたしの村はもうすぐだからね」
いかに『対岸の火事』とはいえど、本当に戦争ともなればどんな火の粉がふってくるか分かったものではない。
今の幼女の身体では問題外だが、仮にもとのアルタシャでも戦争ともなれば出来るのは目の前にいる人達の怪我を治すのが関の山だ。
しかもどういう理由で、何と何が戦っているのかも分からないが、迂闊に質問も出来ないのだから何とも困ったことになった。
かの有名な『見た目は子供、頭脳は大人』な名探偵の本当の苦労をこんなところで味わう羽目になるとはまったく想定外だったよ。
そしてオレとモラーニは日が沈みかけたところで小さな村に足を踏み入れた。
ざっと見て人口はせいぜい数百人というところか。
周囲は柵で覆われ、外敵に対しては一応の備えはあるが本格的に攻め込まれたらひとたまりもないのは当然だろう。
ただ一つだけ目を引くのは村の外れに位置する煉瓦造りの建物だ。
かなり古びたものだが相当大きい。
村の規模に比べると不釣り合いな程だ。
この世界では神様は大勢いるので、その神様ゆかりの聖地も数多いから、ひょっとするとどこかの神様の聖地として結構、大きな寺院が建てられたけど、何かの事情で寂れてしまったのかもしれない。
ただ少々不可解なのは、ここに来るまでに通りすがりの村人達はモラーニがオレを連れているのを見てもさして驚きもせず、皆が会釈して通り過ぎるだけだという事だ。
明らかにモラーニはこの村では結構な立場にあるらしい。
裕福とは言えないが、村人達から敬意を払われ、かつ見慣れぬ子供を連れていても疑問に思われないとしたらどんな立場だろうか。
「これからどこに行くのですか?」
「あそこよ」
モラーニが静かに指さしたのは先ほどからオレが気になっていた例の建物だ。
「これからあなたの兄弟や姉妹となる子供達がいるのよ。仲良くしてあげてね」
うすうす気付いていたけどやっぱりそうか。
彼女はあの寺院らしい建物の管理人であり、なおかつあそこで子供を引き取って面倒を見ているのは間違いないだろう。
そしてオレとモラーニが粗末な柵で覆われた敷地内に入ると、子供達が集まってきた。
ざっと見ても十人近く。年齢はいずれも十歳以下だろう。
「みんないい子にしていたかしら?」
「「はーい!」」
一同は一斉にモラーニに向けて叫ぶ。
その笑顔はオレの記憶に微かに残る、幼稚園の先生に対する子供達のものと同じだった。
ただ日が沈みかけたこの時でもいるということは、ここがこの連中の『家』であって、幼稚園のように日中預かっているというわけではないことになる。
「ねえねえ。先生。この娘は?」
「いったい誰なの?」
当然ながら子供達はオレの事について次から次へとモラーニに問いかける。
「彼女はアルタシャ。今日からしばらくここでみんなと一緒に生活するのよ。仲良くしなさいね」
「「はーい!」」
子供達は先ほどと同じく一斉に声を合わせて返答する。
これだけ簡単に受け入れるとなると、モラーニがこうやって身寄りの無い子供を連れてくるのはしょっちゅうなんだろう。
だがここにはモラーニ以外に大人の姿が見当たらない。
いくら何でもこれだけの子供を一人で世話をするのは不可能だろう。
かなりの喜捨と支援を受けているのは間違いない。
しかしモラーニは見たところ三十歳ぐらい。仮に司祭だとしたらむしろ若手のはずだ。
とにかくここが寺院だとしたら、何の神様を祀っているのかを真っ先に確認すべきだな。
ちょっとばかり『表向き良心的な孤児院を装っていて、裏では子供を売り飛ばしたり、生け贄に捧げている』などという妄想が脳裏をよぎるが、さすがにモラーニがそんな所行に手を染めているという事はないだろう。
今まで正義面してロクでもない事をする連中ばかり接してきたせいか、オレも随分と毒されてきてしまった気がするよ。
「ねえねえ。どこから来たの?」
「今まで何していたの?」
「ごめんなさい。今日は疲れているので……」
好奇心旺盛にこっちについて問いかけてくる子供達を適当にあしらいつつ、オレは周囲の様子をうかがっていた。
しかし建物の壁にモザイクで描かれたものを見て、思わず身体が硬直し、全身から冷や汗が吹き出す。
まさか? あれは?
そのモザイクで描かれていたのは金髪と青紫の瞳をした美女 ―― すなわちオレを女の身に変えた元凶であり、かつ守護女神であるイロールだったのだ。
オレは見覚えのある ―― なにしろ自分自身と殆ど同じなんだから ―― 女神の姿に目を奪われていた。
宗教画を前にして打たれたように立ちすくむのは、一歩間違うとそこで凍死してしまった少年と犬の世界的名作を思い出すかもしれない。
それはともかく、あの壁面に描かれているのはイロールの宗教画か?!
そうだとしたらここは聖女教会の関連施設ということになるぞ。
オレが驚愕していると、寄ってきた男子の一人が手を伸ばして髪をいじっていた。
おい。ちょっとお前、気安いぞ!
「その髪と目は僕らの女神様と一緒だよね?」
うげえ! ただ宗教画が描かれているだけで無関係な施設である可能性も考えたけど『僕らの女神様』などと言っているということは、ここは本当にイロールを崇拝する聖女教会の支部なのか!
金髪と青紫の瞳が聖女のシンボルみたいなものだけど、それはあくまでも女神がその外見だからだ。
そして何より聖女教会で性転換させられた元男もオレと同様にその姿になるけど、元から回復魔法の素質のある女性が聖女になった場合、その外見は様々だ。
だが回復魔法を使う聖女でなくとも、聖女教会の関係者はいるわけで、モラーニはそっちの世俗的な事に取り組んでいる信徒なのかもしれない。
しかし今のオレはそれについて深く考える余裕はなかった。
「うわあ。サラサラだし凄く綺麗だね」
「こら! オレにも触らせろ!」
「僕も触っていい?」
「待って。あたしもあたしも」
いつの間にかオレは完全にオモチャにされているぞ。
うぐう。今はされるがままになるしかない。
しかしそんなオレと子供達の行動をモラーニは頬笑みながら見つめているが、少なくとも彼女はオレの髪と目の色、そして何より『アルタシャ』の名が意味するものについても聞いているはずだ。
だけどいくら何でも同一人物とは思わないはずだし、実際これまでの態度からもそれは感じられない。
推測だけど聖女教会に入った時に、新しい名前を与えられるはずだから、恐らくオレが名乗った『アルタシャ』はあやかってつけられたものだと考えたのだろう。
まあそれがもっとも合理的な結論ということになるだろう。
しかしそれはいいとして――
「髪も目も女神様と一緒だなんて凄いね」
「もっともっと触らせて」
「こっちもだよ」
いい加減にしろよこいつら。いつまで人の身体を好きにしているつもりだ。
もしも大人だったら完全にセクハラで訴えられるレベルだぞ。
だけどたぶんオレがこいつらの立場だとしたら、きっと同じ事をしていたのだろうな。
新入りが崇拝する女神と同じだったりしたら、そこをいじり回したくなる気持ちは分かるからな ―― あと比較的年齢の高い男子はやっぱりオレに『異性』としての関心も抱いているようだ。
まあいい。しばらくは付き合わねばならないようだし、ここはオモチャにされるのも我慢して受け入れよう。
これまでにも虜囚にされて散々な目に遭わされた事も何度もあるし、それに比べればオモチャにされるぐらいなら文字通り『児戯』でしかないからな。
とにかく元の身体 ―― アルタシャのことだけど ―― に戻るまではなるだけおとなしくいておくしかないのだ。
そうなるとここがイロールを崇拝する場所だとしても、いかなるものなのかはハッキリさせないといけない。
もちろん通常の聖女教会とは違って、回復魔法と救貧活動を大々的に行っているわけではなく、建物はかなり大きいとは言えど、モラーニがあくまでも行く当てのない子供達の面倒を見ているだけなのだろう。
それに聖女教会にて育てられる『聖女見習い』だとすれば、全員が女性であり、なおかつオレと同じく金髪と青紫の瞳の持ち主がいるはずだが、ここにいる孤児は男女比も半々で髪や瞳の色が該当するものもいない。
つまり未来の聖女を育成すべく、回復魔法の訓練をしているわけではないということになる。
だけどここが単にイロールに敬意を払い、通常の意味で信仰しているだけならいいが、聖女教会と密接な繋がりがあれば困った事にもなりかねない。
いくら何でも今のオレの正体に気付くとは考えにくいけど、万に一つ知られたら捕まって無理矢理に聖女教会に連行されてしまう事もありうるのだ。
何しろ聖女教会がこっちの方面にオレを探し出すべく、手先を何人も送り込んでいるのは間違いないからな。
前にいたライバンスであれだけ目立つ真似をしてしまった以上、オレの動きを追っているのも一人や二人ではないだろう。
もちろんオレも追っ手に見つからないように行動はしていたけど、以前にもミツリーンがライバンスに先回りしていた事を考えると、他の連中だって同様の事が出来て、既にこっちに来ている奴らもいるかもしれない。
しかしこの身で動き回るのも危険だし、あとモラーニがいい人なのでもしもオレがいなくなったら間違いなく心配してあちこち探し回って、余計な苦労をかけてしまうのも申し訳ない。たとえここを出て行くとしても、可能な限り彼女に余計な気苦労をかけないようにしたいものだ。
ガキ連中に身体を弄ばれつつ ―― 自分で言っていて卑猥な響きだ ―― オレはいろいろとややこしい事を考えずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる