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第10章 神造者とカミツクリ
第246話 支部長室は伏魔殿?
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ここでテセルはワストリに向けて、厳しい視線を注ぐ。
「実はこの街にくる途中で一柱の『廃神』に出会ったのだよ。もちろん辺境のこの地を首都や主要都市と比較するつもりはないが、まだまだこのバッド・ディールでの神話修正は完全とはほど遠いと言わざるを得ないな」
このテセルの問いにワストリは一瞬その眉を動かすが、特に動じた様子も示すことなく話を続ける。
「ご存じのようにこのバッド・ディール地区が帝国に組み入れられたのは、まだ最近の事でして、これまでは都市や農地の整備のために、地域の精霊を再配置し、開発の手助けをする事を優先したため廃神の処理は後回しとなっていたのです」
「言っている事は分からないでもないが、いくら『最近』と言ったところでこのバッド・ディール市の建設が始まってからでも既に十年以上経つのだ。いくら何でものんびりしすぎではないかね?」
ここでテセルは窓の外に広がる廃虚に視線を向ける。
明らかにワストリを『手ぬるい』ととがめ立てしているのだろう。
「申し上げにくい事ですが、この地域は帝国の外縁部であり、過去の崇拝の残滓が見受けられる上に、異邦の宗教を持ち込む者も少なくありません。それ故に神話修正はなかなか思うようには進まないのです」
「それがこの地域の問題なのか、それとももっと別の要因があるのかは、これから僕自身の目で確かめさせてもらうさ」
「……これは手厳しい。さすがは首都の神造者学院を優秀な成績で卒業されたエリートだけの事はありますな」
賞賛とも当てつけともとれる言葉を述べつつ、ワストリの笑顔は微動だにしない。
「廃神につきまして我らの非は明白でございます。もしお怒りとあらば、このわたしをいかようにも処分下さい。ただしわたしの身と引き替えに、部下にはなにとぞ寛大なご処置をお願いします」
そう言って副支部長は深々と頭を下げる。
これはいかにも潔く、また部下をかばう発言のように聞こえるが、実際問題として就任したばかり、しかもまだ若干十六歳の支部長がいきなり副支部長を解任することなど出来ない事が分かりきった上での駆け引きなのは明白だろう。
オレとしてはこんなドロドロした世界にはなるだけ近づきたくないんだけどなあ。
「君を処分するか否かも含めて、全て僕が確認してからのことだ。現時点では保留とさせてもらう」
「そうですか。ありがとうございます。それでは話を戻しますが、市長の歓迎の宴はどうされますか?」
「相手の都合に合わせてくれて構わないが、その前に一度出向いて話をしておこう」
まあ地域の有力者を大勢招いて、新支部長のお披露目になるわけだろうから、準備だけで数日はかかるのは間違いない。
いろいろと伏魔殿になりそうだ。
「それでしたら今晩にでも市長宅にいらして欲しいとのことです」
「また急な話だな。まあいい。向こうとしても一刻も早くこちらの事を知りたいだろう」
「かしこまりました。それでは失礼します」
ワストリは一礼すると支部長室を後にする。
その後ろ姿にはどこか無機質な、それでいて何かが秘められているようなそんな嫌な予感がオレにはあった。
そしてワストリの姿が見えなくなったところで、テセルはオレに向き直る。
「さてと……今日のところは仕事をさせてもらえないらしいし、ここは支部長室で他に出来る事にいそしもうか?」
そう言ってテセルはこちらに手を伸ばしてくるので、オレはひょいとかわす。
「テセルが着任当日に不名誉極まりない罪で解任されたいというなら、こっちも考えるかもしれませんね」
オレのこの皮肉に対して、テセルは一瞬ムッとした様子を見せる。
「いいのかい? 僕はここでは最高権力者なんだよ。そんな男に言われてホイホイと部屋に入るような世間知らずの女の子にはそれ相応のお仕置きが必要になるかもしれないよ」
最初は『望みもしない女性に関係を強要しない』とか言っていたが、それはオレを安心させるための嘘だったのか ―― そんなはずは無いな。
「テセルに腕尽くでそんな事が出来る度胸があるのなら、こっちはむしろ見直すかもしれませんよ」
生憎だけどオレはこれまで結構な悪人を見てきたんだよ。
テセルのようなヘタレの童貞野郎 ―― もちろん根拠は無い ―― がハッタリで悪人のフリをしたところで、ちっとも恐ろしくなどないさ。
まあオレ自身もかつては同じような立場だったのだから、偉そうな事は言えないけどな。
「やれやれ。つれないな。こういう場合は赤面して怒るなり、恥ずかしがったりしてくれたらかわいいんだけど」
「御期待に添えなくてすみませんね。ところであの副支部長についてはどう思いました?」
セクハラにいつまでも付き合ってはいられない。話題を切り換えるとしよう。
「あんな短時間の会話だけで、そんなに簡単に他人の事が分かれば苦労はしないだろ。これが神や精霊のたぐいなら魔法で簡単に権能や神格が分かるんだけどな」
「……それはどうも」
元の世界でも『神よりも人間の方が恐ろしい』という話はよくあったけど、神造者にとってはまさしく切実な問題なんだな。
それはともかくオレにとってはこのバッド・ディールで神造者がどんな活動をしていようと、殆ど他人事でしかない。
大量虐殺だの戦争だのをはじめるつもりというなら、必死で止める気にもなるだろうけど、神造者は秩序を守る側であってさすがにそこまで無茶はしないだろう。
しかし当面はこのテセルに付き合わねばならないからには、いろいろと気を回せねばならない事があるのだ。
特にあの副支部長は間違いなくオレについて何か含みがあっただろう。
それがただ単に『新任のエリート支部長の弱みをつかみたい』というだけなら、オレとしてはどうでもいいのだけど、裏にはもっと何かあるかもしれない。
「ところで僕の秘書になることは了承してもらえるのかな?」
「仕方ないでしょう。ただしあくまでも『秘書』ですからね」
「そうか……まあ今のところはそれでもいいや」
オレは『テセルの欲望』に応える気がないことを念押しすると、テセルはやや残念そうに同意した。
もっともあくまでも『今のところ』であって、下心満載なのは見え見えだったが。
「実はこの街にくる途中で一柱の『廃神』に出会ったのだよ。もちろん辺境のこの地を首都や主要都市と比較するつもりはないが、まだまだこのバッド・ディールでの神話修正は完全とはほど遠いと言わざるを得ないな」
このテセルの問いにワストリは一瞬その眉を動かすが、特に動じた様子も示すことなく話を続ける。
「ご存じのようにこのバッド・ディール地区が帝国に組み入れられたのは、まだ最近の事でして、これまでは都市や農地の整備のために、地域の精霊を再配置し、開発の手助けをする事を優先したため廃神の処理は後回しとなっていたのです」
「言っている事は分からないでもないが、いくら『最近』と言ったところでこのバッド・ディール市の建設が始まってからでも既に十年以上経つのだ。いくら何でものんびりしすぎではないかね?」
ここでテセルは窓の外に広がる廃虚に視線を向ける。
明らかにワストリを『手ぬるい』ととがめ立てしているのだろう。
「申し上げにくい事ですが、この地域は帝国の外縁部であり、過去の崇拝の残滓が見受けられる上に、異邦の宗教を持ち込む者も少なくありません。それ故に神話修正はなかなか思うようには進まないのです」
「それがこの地域の問題なのか、それとももっと別の要因があるのかは、これから僕自身の目で確かめさせてもらうさ」
「……これは手厳しい。さすがは首都の神造者学院を優秀な成績で卒業されたエリートだけの事はありますな」
賞賛とも当てつけともとれる言葉を述べつつ、ワストリの笑顔は微動だにしない。
「廃神につきまして我らの非は明白でございます。もしお怒りとあらば、このわたしをいかようにも処分下さい。ただしわたしの身と引き替えに、部下にはなにとぞ寛大なご処置をお願いします」
そう言って副支部長は深々と頭を下げる。
これはいかにも潔く、また部下をかばう発言のように聞こえるが、実際問題として就任したばかり、しかもまだ若干十六歳の支部長がいきなり副支部長を解任することなど出来ない事が分かりきった上での駆け引きなのは明白だろう。
オレとしてはこんなドロドロした世界にはなるだけ近づきたくないんだけどなあ。
「君を処分するか否かも含めて、全て僕が確認してからのことだ。現時点では保留とさせてもらう」
「そうですか。ありがとうございます。それでは話を戻しますが、市長の歓迎の宴はどうされますか?」
「相手の都合に合わせてくれて構わないが、その前に一度出向いて話をしておこう」
まあ地域の有力者を大勢招いて、新支部長のお披露目になるわけだろうから、準備だけで数日はかかるのは間違いない。
いろいろと伏魔殿になりそうだ。
「それでしたら今晩にでも市長宅にいらして欲しいとのことです」
「また急な話だな。まあいい。向こうとしても一刻も早くこちらの事を知りたいだろう」
「かしこまりました。それでは失礼します」
ワストリは一礼すると支部長室を後にする。
その後ろ姿にはどこか無機質な、それでいて何かが秘められているようなそんな嫌な予感がオレにはあった。
そしてワストリの姿が見えなくなったところで、テセルはオレに向き直る。
「さてと……今日のところは仕事をさせてもらえないらしいし、ここは支部長室で他に出来る事にいそしもうか?」
そう言ってテセルはこちらに手を伸ばしてくるので、オレはひょいとかわす。
「テセルが着任当日に不名誉極まりない罪で解任されたいというなら、こっちも考えるかもしれませんね」
オレのこの皮肉に対して、テセルは一瞬ムッとした様子を見せる。
「いいのかい? 僕はここでは最高権力者なんだよ。そんな男に言われてホイホイと部屋に入るような世間知らずの女の子にはそれ相応のお仕置きが必要になるかもしれないよ」
最初は『望みもしない女性に関係を強要しない』とか言っていたが、それはオレを安心させるための嘘だったのか ―― そんなはずは無いな。
「テセルに腕尽くでそんな事が出来る度胸があるのなら、こっちはむしろ見直すかもしれませんよ」
生憎だけどオレはこれまで結構な悪人を見てきたんだよ。
テセルのようなヘタレの童貞野郎 ―― もちろん根拠は無い ―― がハッタリで悪人のフリをしたところで、ちっとも恐ろしくなどないさ。
まあオレ自身もかつては同じような立場だったのだから、偉そうな事は言えないけどな。
「やれやれ。つれないな。こういう場合は赤面して怒るなり、恥ずかしがったりしてくれたらかわいいんだけど」
「御期待に添えなくてすみませんね。ところであの副支部長についてはどう思いました?」
セクハラにいつまでも付き合ってはいられない。話題を切り換えるとしよう。
「あんな短時間の会話だけで、そんなに簡単に他人の事が分かれば苦労はしないだろ。これが神や精霊のたぐいなら魔法で簡単に権能や神格が分かるんだけどな」
「……それはどうも」
元の世界でも『神よりも人間の方が恐ろしい』という話はよくあったけど、神造者にとってはまさしく切実な問題なんだな。
それはともかくオレにとってはこのバッド・ディールで神造者がどんな活動をしていようと、殆ど他人事でしかない。
大量虐殺だの戦争だのをはじめるつもりというなら、必死で止める気にもなるだろうけど、神造者は秩序を守る側であってさすがにそこまで無茶はしないだろう。
しかし当面はこのテセルに付き合わねばならないからには、いろいろと気を回せねばならない事があるのだ。
特にあの副支部長は間違いなくオレについて何か含みがあっただろう。
それがただ単に『新任のエリート支部長の弱みをつかみたい』というだけなら、オレとしてはどうでもいいのだけど、裏にはもっと何かあるかもしれない。
「ところで僕の秘書になることは了承してもらえるのかな?」
「仕方ないでしょう。ただしあくまでも『秘書』ですからね」
「そうか……まあ今のところはそれでもいいや」
オレは『テセルの欲望』に応える気がないことを念押しすると、テセルはやや残念そうに同意した。
もっともあくまでも『今のところ』であって、下心満載なのは見え見えだったが。
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