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第10章 神造者とカミツクリ
第253話 テセルの『贈り物』とは
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テセルを歓迎する宴の日、オレは不本意ながらまたしても着付けをさせられる事となる。
ドレスで装われるのは過去何度もあったことだが、今でもあまりいい気はしない。
もっともそれは女装そのものが恥ずかしいというよりは、オレが着飾らされると大抵はロクでもない事になるからなのだ。
皇帝を騙る大公に蹂躙されかけたり、首輪をはめられて行く先々でセクハラされたり、本当にロクでもない思い出ばかりだった。
それを思い出すとオレの心が寒くなってくる。しかしそれは男としての嫌悪感なのか、女としてのものなのかはオレ自身にもよく分からない。
そしてそんな過去の出来事で悩んでいるオレの前にテセルが姿を見せた。
「アルタシャのドレス姿か。僕は大変期待しているよ」
ああ。今では男性からそんな事を言われても、当たり前のように聞き流すようになってしまったなあ。
「まさかと思いますけど、着替えを見たいと言い出すのではないですよね?」
この言葉にテセルはいかにも芝居がかった様子で、大げさに天を仰ぐ。
「僕たちはアンブラール神の前で将来を誓い合った仲なのに、たかが着替えを見られるぐらいで恥ずかしがる事なんかないだろう」
相変わらず図々しいヤツだ。
まあそれぐらいの太い神経が無いと、神々のみならず、人間世界に巣くう魑魅魍魎の相手をせねばならない神造者の支部長は務まらないのだろうな ―― もっともテセルは人間からの実力行使には限りなく弱いのだが。
「それはともかくこの僕からプレゼントがあるけど、見てくれるかい」
「いったい何ですか」
オレはちょっとばかり警戒に身を固める。以前に『男が女に服を送るのは、着させるためではなく脱がすためだ』などという話を聞いた事があるが、テセルもまだガキの癖にその手の色ボケしているのかもしれない。
「気に入ってもらえるといいのだけどね」
そういってテセルが差し出したのは小さな箱だった。言葉ではこちらがどう思うか分からないかのように言っているが、内心ではかなり自信にあふれている様子がうかがえる。
いったい何だろうか。
いや。まさか。こういう小さな箱に入っているものと言えば思い当たる節があった。
「さあ見てくれよ」
テセルが箱の中身を開けると、その中に入っていたのは、まばゆく輝く透き通った結晶だった。この世界に来て、不本意ながらいろいろな装飾品や宝石類を見てきたが、これほど見事に煌めくものは見たことが無い。
しかし記憶を辿ると、元の世界では見た事がある ―― と言っても直に見たのでは無く、本やネット、テレビで見た覚えがあるだけだ。
そうだ。テセルが差し出してきた小箱の中に入っていたのは、カットされた大粒のダイヤモンドだったのだ。
「どうだい。見事だろう。我が帝国以外でこれだけのものは手に入らないのだぞ」
テセルはかなり自慢げな様子だ。
ひょっとしてこれでオレを『落とす』つもりだったのか。
「ええ。確かに大したものですね」
「それだけなのかい?」
オレの気のない返答にテセルはちょっとばかり意外そうな様子だ。
どうやらオレがカットしたダイヤモンドの輝きに魅了されると思っていたらしい。
あいにくだけどこっちはそんな宝石なんかで落ちるような俗物じゃないつもりですよ ―― まあ元男としてテセルの気持ちは分かるけどね。
「これは前にテセルに渡した金剛石ですね」
「ああ。その通りだ。残念ながら今日の宴に。間に合ったのはこの一個だけだったけどね」
テセルはちょっとばかり残念そうにこぼす。
それはオレを『お披露目する』のに間に合ったのが一つだけだったからなのか、それともオレを落とす切り札だと思っていたけど、あまり効果が無かったことを察したからなのか。
たぶん後者の方だろうな。
「教えてください。いったいどうしたんですか?」
「なんだよ。お前が関心を持つのはそっちなのか」
「いけませんかね」
「ああ。分かったよ。本当にお前は変わっているな」
テセルは仕方ないと言わんばかりだが、説明をはじめる。
「我が帝国には宝石細工師の神もいる。そしてその神の眷族には金剛石を細工する術が伝わっているのだよ」
なるほど。冷静に考えればそれ以外はあり得ないな。
「その教団で教えている魔法では信徒の使う道具が、適切な宝石加工に最善となるように出来るのだ。だから金剛石をこの通り加工する事も出来る。もっともそれらの道具は定められたものを加工する以外には、何の効果もないけどな」
「そこにあの金剛石を持ち込んで加工してもらったんですね」
「まあそういうことだ。このような大粒の金剛石の加工したものは、よほどの大金持ちか王侯クラスでないと手に入らない高価で貴重なものなのだからな」
元になったのがオレの持ち込んだ原石だから、そう言われて別に『凄い贈り物』とまでは思いませんよ。
「しかしお前は本当によく分からないな」
テセルは今度は疑問のこもった目を向けてくる。
「さっきの態度からすると、お前は加工した金剛石について過去に何度も見た事があったのだろう。それなのに帝国で金剛石が加工できる事は知らなかったのだな。いったいどういうことなんだ?」
言われてみればテセルが疑問を持って当然だな。
これについてテセルの側から見れば、オレの態度と発言は不自然極まりないものだろう。
仕方ない。ここはある程度、本当の事を明かすべきか。
「わたしの故郷でも金剛石を加工して、こんな宝石にしているんですよ。ただし神様の力ではなくて宝石細工の職人が技術と道具で行うのですけど」
「ほう。それは興味深いな。いつの日か、一度お前の国にいってみたいものだ」
たぶんいくら神造者の力でもそれは無理だろうけどね。
ここは適当に相づちを打つしか無いか。
「まあいい。とにかく今日はそれをつけて僕の宴には同行してもらうぞ」
「分かりました」
オレは頷きつつ、改めてダイヤモンドを受け取った。
ドレスで装われるのは過去何度もあったことだが、今でもあまりいい気はしない。
もっともそれは女装そのものが恥ずかしいというよりは、オレが着飾らされると大抵はロクでもない事になるからなのだ。
皇帝を騙る大公に蹂躙されかけたり、首輪をはめられて行く先々でセクハラされたり、本当にロクでもない思い出ばかりだった。
それを思い出すとオレの心が寒くなってくる。しかしそれは男としての嫌悪感なのか、女としてのものなのかはオレ自身にもよく分からない。
そしてそんな過去の出来事で悩んでいるオレの前にテセルが姿を見せた。
「アルタシャのドレス姿か。僕は大変期待しているよ」
ああ。今では男性からそんな事を言われても、当たり前のように聞き流すようになってしまったなあ。
「まさかと思いますけど、着替えを見たいと言い出すのではないですよね?」
この言葉にテセルはいかにも芝居がかった様子で、大げさに天を仰ぐ。
「僕たちはアンブラール神の前で将来を誓い合った仲なのに、たかが着替えを見られるぐらいで恥ずかしがる事なんかないだろう」
相変わらず図々しいヤツだ。
まあそれぐらいの太い神経が無いと、神々のみならず、人間世界に巣くう魑魅魍魎の相手をせねばならない神造者の支部長は務まらないのだろうな ―― もっともテセルは人間からの実力行使には限りなく弱いのだが。
「それはともかくこの僕からプレゼントがあるけど、見てくれるかい」
「いったい何ですか」
オレはちょっとばかり警戒に身を固める。以前に『男が女に服を送るのは、着させるためではなく脱がすためだ』などという話を聞いた事があるが、テセルもまだガキの癖にその手の色ボケしているのかもしれない。
「気に入ってもらえるといいのだけどね」
そういってテセルが差し出したのは小さな箱だった。言葉ではこちらがどう思うか分からないかのように言っているが、内心ではかなり自信にあふれている様子がうかがえる。
いったい何だろうか。
いや。まさか。こういう小さな箱に入っているものと言えば思い当たる節があった。
「さあ見てくれよ」
テセルが箱の中身を開けると、その中に入っていたのは、まばゆく輝く透き通った結晶だった。この世界に来て、不本意ながらいろいろな装飾品や宝石類を見てきたが、これほど見事に煌めくものは見たことが無い。
しかし記憶を辿ると、元の世界では見た事がある ―― と言っても直に見たのでは無く、本やネット、テレビで見た覚えがあるだけだ。
そうだ。テセルが差し出してきた小箱の中に入っていたのは、カットされた大粒のダイヤモンドだったのだ。
「どうだい。見事だろう。我が帝国以外でこれだけのものは手に入らないのだぞ」
テセルはかなり自慢げな様子だ。
ひょっとしてこれでオレを『落とす』つもりだったのか。
「ええ。確かに大したものですね」
「それだけなのかい?」
オレの気のない返答にテセルはちょっとばかり意外そうな様子だ。
どうやらオレがカットしたダイヤモンドの輝きに魅了されると思っていたらしい。
あいにくだけどこっちはそんな宝石なんかで落ちるような俗物じゃないつもりですよ ―― まあ元男としてテセルの気持ちは分かるけどね。
「これは前にテセルに渡した金剛石ですね」
「ああ。その通りだ。残念ながら今日の宴に。間に合ったのはこの一個だけだったけどね」
テセルはちょっとばかり残念そうにこぼす。
それはオレを『お披露目する』のに間に合ったのが一つだけだったからなのか、それともオレを落とす切り札だと思っていたけど、あまり効果が無かったことを察したからなのか。
たぶん後者の方だろうな。
「教えてください。いったいどうしたんですか?」
「なんだよ。お前が関心を持つのはそっちなのか」
「いけませんかね」
「ああ。分かったよ。本当にお前は変わっているな」
テセルは仕方ないと言わんばかりだが、説明をはじめる。
「我が帝国には宝石細工師の神もいる。そしてその神の眷族には金剛石を細工する術が伝わっているのだよ」
なるほど。冷静に考えればそれ以外はあり得ないな。
「その教団で教えている魔法では信徒の使う道具が、適切な宝石加工に最善となるように出来るのだ。だから金剛石をこの通り加工する事も出来る。もっともそれらの道具は定められたものを加工する以外には、何の効果もないけどな」
「そこにあの金剛石を持ち込んで加工してもらったんですね」
「まあそういうことだ。このような大粒の金剛石の加工したものは、よほどの大金持ちか王侯クラスでないと手に入らない高価で貴重なものなのだからな」
元になったのがオレの持ち込んだ原石だから、そう言われて別に『凄い贈り物』とまでは思いませんよ。
「しかしお前は本当によく分からないな」
テセルは今度は疑問のこもった目を向けてくる。
「さっきの態度からすると、お前は加工した金剛石について過去に何度も見た事があったのだろう。それなのに帝国で金剛石が加工できる事は知らなかったのだな。いったいどういうことなんだ?」
言われてみればテセルが疑問を持って当然だな。
これについてテセルの側から見れば、オレの態度と発言は不自然極まりないものだろう。
仕方ない。ここはある程度、本当の事を明かすべきか。
「わたしの故郷でも金剛石を加工して、こんな宝石にしているんですよ。ただし神様の力ではなくて宝石細工の職人が技術と道具で行うのですけど」
「ほう。それは興味深いな。いつの日か、一度お前の国にいってみたいものだ」
たぶんいくら神造者の力でもそれは無理だろうけどね。
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