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第10章 神造者とカミツクリ
第276話 神像の元で新たな危機が
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目の当たりにした神像は、どういうわけかこの廃虚の中で唯一の生命というべき緑のツタに覆われて、その根がはびこってヒビがあちこちに入っているが、それでも紛れも無くイロールのものだった。
「まさか? ここにこんなものがあるなんて……」
思わぬ神像の登場に、オレの心臓は早鐘を打つ。
いったいどういうことだ?
いや。まともに考えるとここにこの女神の存在がある事を知っていたからこそ、副支部長や市長はオレが『イロールの信徒』だと語ったときに動揺していたのではないだろうか。
そうだとすると、この街が滅んだのはイロールのためだったのか?
う~ん。いくら何でもそれはありそうに無い。
あの女神の言うことをまるで聞いていないオレに対しても、いつも笑顔で応じて、むしろ加護を押し売りしているのだ。それがどこぞの『大○神』じゃあるまいし、街一つ滅ぼすような暴虐な女神に変わるものだろうか。
確かにこの世界で神様は、信徒の信仰によって変わっていくものだけど、少なくとも神像を見て一目で分かるのにそこまで異なる神になっているとは考えにくい。
「どうした? お前の女神がここで崇拝されているので、そんなに驚いたのか? それともお前はこれがある事を事前に知っていたのか?」
「え? そんなはずが……」
オレは反論しようとしたところで、テセルの厳しい視線を受けてつい口ごもる。
「お前は先ほど驚きはしていたが、崇拝する女神の知られていない神像を見つけたのにしては妙に冷めていたな?」
「ええ? それは――」
だってオレは別にあの女神を崇拝しているワケじゃ無いから、そりゃ普通の信徒の基準で見たら冷めているのは当然だろう。
「お前はここに何があるのか知っていた ―― とまではいかなくとも、ある程度の見当はついていたんじゃないのか?」
「いえ。そんな事はありませんよ」
「本当か? まあいい。お前のような半神級の存在ならば、自分の神から離れて独り立ちしたいと思っていても不思議ではないからな」
それもまったく違うんだけど、テセルの常識からするとそう考えるのもやむを得ないということなんだろうな。
しかし廃虚地域にイロールの神像があって、かつてここ熱心に崇拝されていたとしても、その程度ならば隠さねばならない事ではないはずだ。
いったいここには何が秘められているというのだろうか?
「お前の事はいいとして、この神像はこの廃虚で唯一、植物に覆われているな」
そうだ。それはオレもちょっと気になっていたんだ。
「イロールの神としての権能は『生命』と『治癒』だから、その神力を吹き込まれた像に生命が芽吹くことはよくある事なんだ。つまりかつては本当に熱心に崇拝されていたという証明だな。そしてこの様式の神像はだいたい――」
テセルは興味深そうに神像を眺めている。オレには区別などつかないが、テセルの知識だとこれだけでも分かる事があるのだろう。
「う……うう……」
だがここでテセルの顔色が急に変わる。
「どうしたんですか?」
「迂闊だった……僕の魔力……いや。生命が……」
「え?!」
よくよく見ると、テセルの顔から血の気が引いている。それだけでなくその全身から精気が失せていくようなそんな事が感じられる。
言ってみれば生命力を吸収されているかのようだ。
「この廃虚に入った時から。どこか違和感があったんだ……」
そういえばここに足を踏みいれた瞬間、テセルは一度怪訝な顔をしていたが、あの時点で既に生命力を僅かずつでも吸収されていたのだろう。
だけどどうしてオレは平気なんだ?
やはりオレはテセルとはいろいろと違うと言うことなんだろうか。
いや。今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
ここは【疲労回復】の魔法でテセルを回復させるしかないだろう。
オレが魔法をかけると、テセルの顔に少しばかり血色が戻る。
「しっかりして下さい。とにかく早くここから逃げましょう」
「いや……ダメだ……とても動けない……」
あっという間にテセルの顔はまた元の蒼白なものに戻っていた。
どうやら【疲労回復】が効果を発揮しても、ホンの一瞬でその回復分すらも奪われてしまうらしい。
これではここから逃げ出すどころではない。
「こうなれば仕方ない……最後の手段だ」
「どうするんです?」
「ひとまず現世に戻る。この現象は精霊界というか、神界かどこかとにかく異界に僕の生命が奪われているかららしい。だから現世に戻れば効果は減じるはずだ」
それは後の事を考えると、色々と困るのは間違いない。
しかしこのままだと確実にテセルは死ぬだろう。もはや他に選択肢など無い。
そして困った事に、こちらが精霊界に身を置いたままだとテセルを回復させる事も出来ないから、オレも同行せざるを得ない。
いくら何でもこの状態のテセルを置き去りにするなどあり得ないし、ここはもう諦めて、一緒に現世に戻るしかないだろう。
オレが決断を下したところで、テセルは蒼い顔でこちらに呼びかける。
「僕は現世に戻るが、お前は支部に帰って助けを呼んできてくれ」
「それは……」
もちろんそれも考えられるが、テセルと確執のあるあの副支部長がそうそう簡単に救援を出してくれるだろうか。
しかもその助けを呼びに行くのが、あからさまに疑われているオレなのだ。
失敗すれば取り返しがつかない状況で、テセルを置いていくわけにはいかない。
「心配するな。現世に戻れば少しぐらいは持つだろう」
「そういうわけにもいきませんよ! とにかく今は一緒に行きましょう!」
「行く時は一緒か……それは出来ればベッドの上で聞きたかったな」
命のかかっている場面でもセクハラ発言を忘れないとはどこまでもぶれない男だな!
「冗談を言っている場合じゃないですよ」
「それでは生きて帰ったらご褒美ということで約束してくれないか?」
「そういう死亡フラグもダメです」
オレのこの返答にテセルは少しばかり困惑した様子を見せる。
「死亡フラグ……何だそれは?」
「わたしの故郷では、こういう場面でそんな発言をすると命を落としやすくなるという言い伝えがあるんですよ。とにかく今は一緒に精霊界から脱出しましょう!」
「分かった……いいだろう……」
テセルの覚悟の言葉と共に、周りの景色が変化する。だがそれはオレが想像していたように、周囲にかかっていた光のカーテンが消えるだけではなかった。
「これは?」
まるで何かに吸い込まれるかのような感覚と共に、景色がパノラマのごとく切り替わっていくのだ。
そしてテセルはここで臍を噛む。
「しまった! 僕の生命を奪っているヤツが異界をゆがめて引きつけようとしているんだ!」
ええ?! それではこれは相手の懐に飛び込むようなものだったの?!
愕然となったところで、オレとテセルは『どこか』へと引き込まれていった。
「まさか? ここにこんなものがあるなんて……」
思わぬ神像の登場に、オレの心臓は早鐘を打つ。
いったいどういうことだ?
いや。まともに考えるとここにこの女神の存在がある事を知っていたからこそ、副支部長や市長はオレが『イロールの信徒』だと語ったときに動揺していたのではないだろうか。
そうだとすると、この街が滅んだのはイロールのためだったのか?
う~ん。いくら何でもそれはありそうに無い。
あの女神の言うことをまるで聞いていないオレに対しても、いつも笑顔で応じて、むしろ加護を押し売りしているのだ。それがどこぞの『大○神』じゃあるまいし、街一つ滅ぼすような暴虐な女神に変わるものだろうか。
確かにこの世界で神様は、信徒の信仰によって変わっていくものだけど、少なくとも神像を見て一目で分かるのにそこまで異なる神になっているとは考えにくい。
「どうした? お前の女神がここで崇拝されているので、そんなに驚いたのか? それともお前はこれがある事を事前に知っていたのか?」
「え? そんなはずが……」
オレは反論しようとしたところで、テセルの厳しい視線を受けてつい口ごもる。
「お前は先ほど驚きはしていたが、崇拝する女神の知られていない神像を見つけたのにしては妙に冷めていたな?」
「ええ? それは――」
だってオレは別にあの女神を崇拝しているワケじゃ無いから、そりゃ普通の信徒の基準で見たら冷めているのは当然だろう。
「お前はここに何があるのか知っていた ―― とまではいかなくとも、ある程度の見当はついていたんじゃないのか?」
「いえ。そんな事はありませんよ」
「本当か? まあいい。お前のような半神級の存在ならば、自分の神から離れて独り立ちしたいと思っていても不思議ではないからな」
それもまったく違うんだけど、テセルの常識からするとそう考えるのもやむを得ないということなんだろうな。
しかし廃虚地域にイロールの神像があって、かつてここ熱心に崇拝されていたとしても、その程度ならば隠さねばならない事ではないはずだ。
いったいここには何が秘められているというのだろうか?
「お前の事はいいとして、この神像はこの廃虚で唯一、植物に覆われているな」
そうだ。それはオレもちょっと気になっていたんだ。
「イロールの神としての権能は『生命』と『治癒』だから、その神力を吹き込まれた像に生命が芽吹くことはよくある事なんだ。つまりかつては本当に熱心に崇拝されていたという証明だな。そしてこの様式の神像はだいたい――」
テセルは興味深そうに神像を眺めている。オレには区別などつかないが、テセルの知識だとこれだけでも分かる事があるのだろう。
「う……うう……」
だがここでテセルの顔色が急に変わる。
「どうしたんですか?」
「迂闊だった……僕の魔力……いや。生命が……」
「え?!」
よくよく見ると、テセルの顔から血の気が引いている。それだけでなくその全身から精気が失せていくようなそんな事が感じられる。
言ってみれば生命力を吸収されているかのようだ。
「この廃虚に入った時から。どこか違和感があったんだ……」
そういえばここに足を踏みいれた瞬間、テセルは一度怪訝な顔をしていたが、あの時点で既に生命力を僅かずつでも吸収されていたのだろう。
だけどどうしてオレは平気なんだ?
やはりオレはテセルとはいろいろと違うと言うことなんだろうか。
いや。今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
ここは【疲労回復】の魔法でテセルを回復させるしかないだろう。
オレが魔法をかけると、テセルの顔に少しばかり血色が戻る。
「しっかりして下さい。とにかく早くここから逃げましょう」
「いや……ダメだ……とても動けない……」
あっという間にテセルの顔はまた元の蒼白なものに戻っていた。
どうやら【疲労回復】が効果を発揮しても、ホンの一瞬でその回復分すらも奪われてしまうらしい。
これではここから逃げ出すどころではない。
「こうなれば仕方ない……最後の手段だ」
「どうするんです?」
「ひとまず現世に戻る。この現象は精霊界というか、神界かどこかとにかく異界に僕の生命が奪われているかららしい。だから現世に戻れば効果は減じるはずだ」
それは後の事を考えると、色々と困るのは間違いない。
しかしこのままだと確実にテセルは死ぬだろう。もはや他に選択肢など無い。
そして困った事に、こちらが精霊界に身を置いたままだとテセルを回復させる事も出来ないから、オレも同行せざるを得ない。
いくら何でもこの状態のテセルを置き去りにするなどあり得ないし、ここはもう諦めて、一緒に現世に戻るしかないだろう。
オレが決断を下したところで、テセルは蒼い顔でこちらに呼びかける。
「僕は現世に戻るが、お前は支部に帰って助けを呼んできてくれ」
「それは……」
もちろんそれも考えられるが、テセルと確執のあるあの副支部長がそうそう簡単に救援を出してくれるだろうか。
しかもその助けを呼びに行くのが、あからさまに疑われているオレなのだ。
失敗すれば取り返しがつかない状況で、テセルを置いていくわけにはいかない。
「心配するな。現世に戻れば少しぐらいは持つだろう」
「そういうわけにもいきませんよ! とにかく今は一緒に行きましょう!」
「行く時は一緒か……それは出来ればベッドの上で聞きたかったな」
命のかかっている場面でもセクハラ発言を忘れないとはどこまでもぶれない男だな!
「冗談を言っている場合じゃないですよ」
「それでは生きて帰ったらご褒美ということで約束してくれないか?」
「そういう死亡フラグもダメです」
オレのこの返答にテセルは少しばかり困惑した様子を見せる。
「死亡フラグ……何だそれは?」
「わたしの故郷では、こういう場面でそんな発言をすると命を落としやすくなるという言い伝えがあるんですよ。とにかく今は一緒に精霊界から脱出しましょう!」
「分かった……いいだろう……」
テセルの覚悟の言葉と共に、周りの景色が変化する。だがそれはオレが想像していたように、周囲にかかっていた光のカーテンが消えるだけではなかった。
「これは?」
まるで何かに吸い込まれるかのような感覚と共に、景色がパノラマのごとく切り替わっていくのだ。
そしてテセルはここで臍を噛む。
「しまった! 僕の生命を奪っているヤツが異界をゆがめて引きつけようとしているんだ!」
ええ?! それではこれは相手の懐に飛び込むようなものだったの?!
愕然となったところで、オレとテセルは『どこか』へと引き込まれていった。
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