異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
276 / 1,316
第10章 神造者とカミツクリ

第276話 神像の元で新たな危機が

しおりを挟む
 目の当たりにした神像は、どういうわけかこの廃虚の中で唯一の生命というべき緑のツタに覆われて、その根がはびこってヒビがあちこちに入っているが、それでも紛れも無くイロールのものだった。

「まさか? ここにこんなものがあるなんて……」

 思わぬ神像の登場に、オレの心臓は早鐘を打つ。
 いったいどういうことだ?
 いや。まともに考えるとここにこの女神の存在がある事を知っていたからこそ、副支部長や市長はオレが『イロールの信徒』だと語ったときに動揺していたのではないだろうか。

 そうだとすると、この街が滅んだのはイロールのためだったのか?
 う~ん。いくら何でもそれはありそうに無い。
 あの女神の言うことをまるで聞いていないオレに対しても、いつも笑顔で応じて、むしろ加護を押し売りしているのだ。それがどこぞの『大○神』じゃあるまいし、街一つ滅ぼすような暴虐な女神に変わるものだろうか。
 確かにこの世界で神様は、信徒の信仰によって変わっていくものだけど、少なくとも神像を見て一目で分かるのにそこまで異なる神になっているとは考えにくい。

「どうした? お前の女神がここで崇拝されているので、そんなに驚いたのか? それともお前はこれがある事を事前に知っていたのか?」
「え? そんなはずが……」

 オレは反論しようとしたところで、テセルの厳しい視線を受けてつい口ごもる。

「お前は先ほど驚きはしていたが、崇拝する女神の知られていない神像を見つけたのにしては妙に冷めていたな?」
「ええ? それは――」

 だってオレは別にあの女神を崇拝しているワケじゃ無いから、そりゃ普通の信徒の基準で見たら冷めているのは当然だろう。

「お前はここに何があるのか知っていた ―― とまではいかなくとも、ある程度の見当はついていたんじゃないのか?」
「いえ。そんな事はありませんよ」
「本当か? まあいい。お前のような半神級の存在ならば、自分の神から離れて独り立ちしたいと思っていても不思議ではないからな」

 それもまったく違うんだけど、テセルの常識からするとそう考えるのもやむを得ないということなんだろうな。
 しかし廃虚地域にイロールの神像があって、かつてここ熱心に崇拝されていたとしても、その程度ならば隠さねばならない事ではないはずだ。
 いったいここには何が秘められているというのだろうか?

「お前の事はいいとして、この神像はこの廃虚で唯一、植物に覆われているな」

 そうだ。それはオレもちょっと気になっていたんだ。

「イロールの神としての権能は『生命』と『治癒』だから、その神力を吹き込まれた像に生命が芽吹くことはよくある事なんだ。つまりかつては本当に熱心に崇拝されていたという証明だな。そしてこの様式の神像はだいたい――」

 テセルは興味深そうに神像を眺めている。オレには区別などつかないが、テセルの知識だとこれだけでも分かる事があるのだろう。

「う……うう……」

 だがここでテセルの顔色が急に変わる。

「どうしたんですか?」
「迂闊だった……僕の魔力……いや。生命が……」
「え?!」

 よくよく見ると、テセルの顔から血の気が引いている。それだけでなくその全身から精気が失せていくようなそんな事が感じられる。
 言ってみれば生命力を吸収されているかのようだ。

「この廃虚に入った時から。どこか違和感があったんだ……」

 そういえばここに足を踏みいれた瞬間、テセルは一度怪訝な顔をしていたが、あの時点で既に生命力を僅かずつでも吸収されていたのだろう。
 だけどどうしてオレは平気なんだ?
 やはりオレはテセルとはいろいろと違うと言うことなんだろうか。
 いや。今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
 ここは【疲労回復】スタミナの魔法でテセルを回復させるしかないだろう。
 オレが魔法をかけると、テセルの顔に少しばかり血色が戻る。

「しっかりして下さい。とにかく早くここから逃げましょう」
「いや……ダメだ……とても動けない……」

 あっという間にテセルの顔はまた元の蒼白なものに戻っていた。
 どうやら【疲労回復】スタミナが効果を発揮しても、ホンの一瞬でその回復分すらも奪われてしまうらしい。
 これではここから逃げ出すどころではない。

「こうなれば仕方ない……最後の手段だ」
「どうするんです?」
「ひとまず現世に戻る。この現象は精霊界というか、神界かどこかとにかく異界に僕の生命が奪われているかららしい。だから現世に戻れば効果は減じるはずだ」

 それは後の事を考えると、色々と困るのは間違いない。
 しかしこのままだと確実にテセルは死ぬだろう。もはや他に選択肢など無い。
 そして困った事に、こちらが精霊界に身を置いたままだとテセルを回復させる事も出来ないから、オレも同行せざるを得ない。
 いくら何でもこの状態のテセルを置き去りにするなどあり得ないし、ここはもう諦めて、一緒に現世に戻るしかないだろう。
 オレが決断を下したところで、テセルは蒼い顔でこちらに呼びかける。

「僕は現世に戻るが、お前は支部に帰って助けを呼んできてくれ」
「それは……」

 もちろんそれも考えられるが、テセルと確執のあるあの副支部長がそうそう簡単に救援を出してくれるだろうか。
 しかもその助けを呼びに行くのが、あからさまに疑われているオレなのだ。
  失敗すれば取り返しがつかない状況で、テセルを置いていくわけにはいかない。

「心配するな。現世に戻れば少しぐらいは持つだろう」
「そういうわけにもいきませんよ! とにかく今は一緒に行きましょう!」
「行く時は一緒か……それは出来ればベッドの上で聞きたかったな」

 命のかかっている場面でもセクハラ発言を忘れないとはどこまでもぶれない男だな!

「冗談を言っている場合じゃないですよ」
「それでは生きて帰ったらご褒美ということで約束してくれないか?」
「そういう死亡フラグもダメです」

 オレのこの返答にテセルは少しばかり困惑した様子を見せる。

「死亡フラグ……何だそれは?」
「わたしの故郷では、こういう場面でそんな発言をすると命を落としやすくなるという言い伝えがあるんですよ。とにかく今は一緒に精霊界から脱出しましょう!」
「分かった……いいだろう……」

 テセルの覚悟の言葉と共に、周りの景色が変化する。だがそれはオレが想像していたように、周囲にかかっていた光のカーテンが消えるだけではなかった。

「これは?」

 まるで何かに吸い込まれるかのような感覚と共に、景色がパノラマのごとく切り替わっていくのだ。
 そしてテセルはここで臍を噛む。

「しまった! 僕の生命を奪っているヤツが異界をゆがめて引きつけようとしているんだ!」

 ええ?! それではこれは相手の懐に飛び込むようなものだったの?!
 愕然となったところで、オレとテセルは『どこか』へと引き込まれていった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...