異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第10章 神造者とカミツクリ

第282話 ようやくの決着 そして――

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 広大な地下堂で人々がこぞって人々がこちらに跪いている。
 彼らはいずれも笑顔で『自分達の女神』が生まれる瞬間に立ち会える事への期待と希望に満ちあふれていた。
 そして儀式がクライマックスとなり、神像に信仰の精気が満たされた時、そこにいた者たちには等しく死が与えられたのだ。

『彼らは死んだのではありません。このわたしが真の神となるための糧となったのです。ゆえに誰もがみな歓喜の笑みの中で、わたしに命を捧げたました。もちろんその後も、わたしに出会った者はみんな同じでしたよ』

 それは全て、あんたの魅了の力の結果による偽りの歓喜でしかないんだよ。
 とんでもない勘違いだが、考えてみればこいつはただの神像だったのだから人間の事を分かっていないとしても不思議ではない。
 ひょっとするとこのまがい物は、自分に向けられた『魂を捧げる』云々を、額面通りに受け取り、それゆえにこんな能力を身につけてしまったのかもしれないぞ。
 それは神造者達の実験が最初から間違っていたからなのか、儀式が失敗したからなのか、神像に宿った歪んだ知性のなせるものだったのか、はたまた自分たちの信仰対象の神像をも栄誉・栄達の道具に利用しようとした信徒の欲が招いた災いなのか。
 たぶん理由はその中のどれでもないし、また同時に全てが正解の一端を秘めているのかもしれない。
 一つだけ確実に言えることがあるとすれば、この真相がもしも明かされていたとしても、関わった誰もが『自分たちは悪くない。悪いのは◯◯だ』と言い張ったということぐらいだろうか。
 そして意識と力を得た神像は、捧げられた命と魂から得たことで更に力を増し、この街の住民を次々に自らの糧と化していった。
 当時のまがい物の力は、現在とは比べものにならないほど強大なものであり、見る事もなくただこの街にいたというだけで、その力によって魅入られる程のものだったようだ。

 うう。その全てが明確に見えているわけでもないが、こっちが吐き気を催すには十分過ぎるほどだよ。
 これまでも恐ろしいものを見てきた事は何度もあるが、下手をすれば万に上る人々が偽りの歓喜と共に神像に命を捧げようとする光景は、全身が震える程におぞましい。
 神像に魅入られた人々は逃げる事も出来ず、というよりは逃げる事など考えもせず、偽りの幸せの中で、怠惰に過ごすしか出来なくなったのだ。
 それにより街はもちろん周辺に広がる農地も荒れ果てるにまかされ、何もかもが滅びへと向かって行くだけだった。
 やはりこの街を滅ぼして廃虚と化し、近隣の土地を不毛の荒野と化したのは、まがい物の仕業だったのか。

『わたしは崇拝の見返りとして人々を彼らの願い通りに癒やしました。あらゆる苦痛も無く、苦労もせず、ただ喜びだけを与えたのです』

 やっぱり神像に宿った知性でしかないから、人間の事が理解出来なかったのか。
 ひょっとしたら捧げられた祈りの中に『日々の苦役からの解放』とかその類いのものが数多くあって、このまがい物自身は厄介な事に善意で行っていたつもりなんだろう。
 困った事にそれが人間にとって破滅の道でしかない事など、この時には誰もコイツに伝えられなくなっていたんだ。
 元の世界でいえば『知性あるロボットもの』の漫画や小説で人間世界の常識が欠落しているロボットが、出会った人間の言葉を鵜呑みにして、とんでもない騒ぎを起こしてしまうのはよくある話だが、それを桁外れに大事にしたようなものだろうか。
 救いが無いにも程がある。

 だがここで過去を見ていたオレの目に一瞬のまばゆい閃光が走る。
 なんだ? 何事だ?
 一瞬、幻惑された後で次に目の当たりにした光景は、都市の周囲の土地が根こそぎ荒れ果て、住民達が残らず息絶えた一面に死のみが広がる世界だった。
 いきなり時間が飛んだのか? それとも何か別の事が起きたのか――

『気がついたとき、私の愛したもの達は全て命を落としていたのです ―― その悲しみにより私は動きを止め、それから永い時が過ぎました』

 ここでオレの胸には強い悲しみがわき上がる。
 それはまがい物が本当に嘆き悲しんでいた事を示すものだった。

『私は幸せを与え、癒やしをもたらせる人々がやってくるのを、ただひたすら待ち続けました。そしてようやく最近になって、それを求める人々が少ないながら私の元に来てくれるようになったのですよ』

 やっぱりそうなるか。
 テセルの様子からして、衰えたと言えどコイツを見たところで誰もが命を捧げる羽目になるだけだったのだろう。

『そして私はずっと考えていました。かつてのように多くの人々を癒やし、救うためにはどうすればいいのか。しかしその答えをいま見いだしたのです』
「それが……この身体を奪うことだと?」
『あなたと私が一体になれば、今とは比べものにならないほどの多くの人々を救う事が出来ます。それはあなたや我らの女神であるイロールの意志にも沿うことでしょう』

 そんなの全くもって、ありがた迷惑にも程がある。

『大丈夫です。身体はあなたで魂は私、お互いに分け合って人々を救いましょう』
「悪いけど。そんなヨタ話を受け入れる気はありませんよ。あなたの過去は分かったから ―― 消えて下さい!」

 オレはここで久しぶりに、信徒達から捧げられてきた信仰の精力を引き出し、こちらの魂に食らいついていたまがい物の精神に叩きつける。

『な、なんですかこれは?』
「あなたは悪では無いです……たぶん誰にも悪意はなかった……ただ余計な善意と的外れな野心があっただけでしょう。だからもうこの現世から離れて下さい」

 長年、この廃虚に封じられ、最近になって幾ばくかの人々の命を吸収していただけの相手程度では不本意ながら、数多くの人間から崇拝を捧げられている今のオレの敵ではないよ。
 あの神像のように物質的な肉体を持っていたならどうしようも無かったけど、霊体としてオレを乗っ取ろうなどと考えたのが運の尽きだ。
 オレはまがい物女神の意識が消えていくのを確認した。それで危機を乗り切った事で安堵の気持ちこそあったが、少しも嬉しく思えないのは垣間見た、あのまがい物の記憶故なのか。
 それとも本来ならば『癒やしの奇跡をもたらす女神像』として、ずっと人々に小さな幸せをもたらすだけの存在でいられたものが、人間の欲のために『怪物』と化してしまった事への同情か。
 それともまた何か別の理由があるのかは、この時点ではよく分からなかった。
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