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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第308話 迫り来る狩人達に対して
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とりあえずオレは自分に魔法の【鷹の目】をかけて空から周囲を見下ろす。
想像通り複数の狩人と猟犬が動き回っているが、ミキューと相棒の銀月は見当たらない。
おそらくどこかに隠れているのだろう。
残念ながら【鷹の目】は上空から見下ろすだけだから、上から見えなければ当然、どこにいるのかは分からない。
ただ下手に反撃している様子がないのはまだ助かる。
しかし相手も猟犬を何頭も使っているから、隠れていても見つかるか、あぶり出されるのは時間の問題だろう。
こうなったら急がねばならない。
たぶん狩人の真ん中あたりにいるはずだと見当をつけて、そこに向かうことにする。
「おい。これからどうするんだ?」
「テルモーはこっちについてきて下さい」
戦いは可能な限り避けたいので、なるだけ狩人が手薄な方向に移動する。
テルモーがいるのはちょっと扱いが難しいが、ちょっと離れたところで囮になって連中を引きつけてもらうとか出来るだろうか。
そうこうしていると、だいたい目星のついた場所についた。
周囲では猟犬の吠え声も響いており、こっちにとってもとても落ち着かない状況だ。
しかし隠れているミキューがどこにいるのか分からないのは、こっちにとってもいろいろと面倒だな。
「どうした? 何を考えている?」
「実は……ミキューの居場所が分からなくてどうしようかと思っているんです」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
そういうと狼人間形態のテルモーは叫びを挙げる。
するとどこからか、それに応じたらしい叫びが響いてくる。
「どうやらあちらのようだな」
なるほど。今のは狼が仲間を呼ぶ声だったのか。
たぶんミキューの相棒狼の銀月が応えたんだな。
普段は対立していてもそこはやっぱり『大いなる狼』を崇拝する者同士、通じるところもあるということか。
しかし追っている狩人達だって、今のは聞こえているだろうから、連中も一気にここに迫ってくるだろう。
つまりミキュー達の居場所が判明したのと同時に、今まで以上にこちらも急がねばならなくなったということでもある。
そして声がした辺りにオレとテルモーが駆けつけると、そこでは藪の中に隠れていたミキューと銀月の姿があった。
見たところ疲れてはいるようだが、怪我をしている様子はないらしい。
「よかった。無事だったんですね」
近づいて確認したところ、返り血を浴びている様子もなかったので、狩人達を死傷させたわけでもないようで、オレとしてもどうにか胸をなで下ろす。
「どうしてここに来たの?」
ミキューはどこか困惑しているらしい。
そりゃまあオレもテルモーも危険を承知で、ミキュー達を助ける動機があるなどとは思えなくても当然か。
しかしオレにとってはどうでもいいことだ。
「とにかく今は急ぎましょう。あっちから逃げて下さい!」
オレは改めて『鷹の目』で周囲を確認して逃げ道になるところを指し示す。
山を駆け巡るのが当たり前の彼らなら、普通の人間が通れない厳しい獣道でも軽く通れるだろう。
「俺たちはいいとして、アルタシャはどうするんだ?」
「わたしはここであの連中をどうにか食い止めるので、二人は早く行って!」
「……分かったわ」
「それでお前は大丈夫なのか?」
ミキューが一応は納得した様子で頷くが、テルモーはオレを心配しているらしい。
「こっちの事は心配しないで。今はミキューを連れて逃げて下さい!」
「むう……」
「とにかく急いで!」
オレがそう訴えている間にも、周囲で猟犬の吠える事が響いて来た。
もう時間に余裕はないようだ。
「分かった。仕方ない。一緒にこい!」
「なんであなたが仕切っているんですか。もういいです」
テルモーが駆け出すと、ミキューと銀月も不満げな様子で後に続く。
「それではまた後で!」
オレがそう言ったところで、猟犬が何頭もこっちに迫ってくる。
ここで【植物歪曲】の魔法で周囲のツタをのばして、犬たちの前をふさぎ、更に捕まえる。
犬たちがけたたましい叫びを挙げて逃げようとするが、犬どころかそこらの軍人でもオレの【植物歪曲】からは逃げられないのさ。
これで猟犬はひとまず安心だ。
そして犬たちの悲鳴を聞きつけて、猟師達もこちらにドンドン集まってくる。
ざっと見たところ十人ぐらいか。
連中は『二本足の狼』を狩りに来ているのだろうから、手に手に弓や山刀を持っており、まともにやりあったらちょっと危険な相手だ。
しかしオレはドルイド魔術で自分の身を隠した上で、植物を操って道を封鎖したり、足にからめて倒したり出来るので、この程度ならば別に怖くはない。
「な、なんだこりゃ?!」
「まさか山神様が怒っているのか?」
いえ。丸っきり違いますけど、今は皆様がそう思って引いてくれたらありがたいです。
「どうする?」
「まあさっきのも逃げていったようだし、もう今日は戻ってこないだろう」
「そうだな。あんな奴らにかまけて山神様のお怒りを買ったらたまったもんじゃねえ。ここは早いところ引き上げようぜ」
思いもかけぬ出来事が起きたので動揺したのだろう。
狩人達は結構あっさりと引き上げていってくれた。
テルモーやミキュー達が追っ手と命がけで戦うつもりはないように、彼らも『害獣』とみなしている『二本足の狼』を相手にして、わざわざ危険を背負い込んでまで事を構えるつもりはないらしい。
ふう。どうやらこれで片付いたようだな。
しかし今回はたまたまうまくいっただけで、次に同じ事があったら無事に切り抜けられる保証などどこにもない。
やはり『安息の地』とまではいかなくとも、テルモー達がどうにか暮らせる場所を探さねばならないことに変わりは無いのだ。
想像通り複数の狩人と猟犬が動き回っているが、ミキューと相棒の銀月は見当たらない。
おそらくどこかに隠れているのだろう。
残念ながら【鷹の目】は上空から見下ろすだけだから、上から見えなければ当然、どこにいるのかは分からない。
ただ下手に反撃している様子がないのはまだ助かる。
しかし相手も猟犬を何頭も使っているから、隠れていても見つかるか、あぶり出されるのは時間の問題だろう。
こうなったら急がねばならない。
たぶん狩人の真ん中あたりにいるはずだと見当をつけて、そこに向かうことにする。
「おい。これからどうするんだ?」
「テルモーはこっちについてきて下さい」
戦いは可能な限り避けたいので、なるだけ狩人が手薄な方向に移動する。
テルモーがいるのはちょっと扱いが難しいが、ちょっと離れたところで囮になって連中を引きつけてもらうとか出来るだろうか。
そうこうしていると、だいたい目星のついた場所についた。
周囲では猟犬の吠え声も響いており、こっちにとってもとても落ち着かない状況だ。
しかし隠れているミキューがどこにいるのか分からないのは、こっちにとってもいろいろと面倒だな。
「どうした? 何を考えている?」
「実は……ミキューの居場所が分からなくてどうしようかと思っているんです」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
そういうと狼人間形態のテルモーは叫びを挙げる。
するとどこからか、それに応じたらしい叫びが響いてくる。
「どうやらあちらのようだな」
なるほど。今のは狼が仲間を呼ぶ声だったのか。
たぶんミキューの相棒狼の銀月が応えたんだな。
普段は対立していてもそこはやっぱり『大いなる狼』を崇拝する者同士、通じるところもあるということか。
しかし追っている狩人達だって、今のは聞こえているだろうから、連中も一気にここに迫ってくるだろう。
つまりミキュー達の居場所が判明したのと同時に、今まで以上にこちらも急がねばならなくなったということでもある。
そして声がした辺りにオレとテルモーが駆けつけると、そこでは藪の中に隠れていたミキューと銀月の姿があった。
見たところ疲れてはいるようだが、怪我をしている様子はないらしい。
「よかった。無事だったんですね」
近づいて確認したところ、返り血を浴びている様子もなかったので、狩人達を死傷させたわけでもないようで、オレとしてもどうにか胸をなで下ろす。
「どうしてここに来たの?」
ミキューはどこか困惑しているらしい。
そりゃまあオレもテルモーも危険を承知で、ミキュー達を助ける動機があるなどとは思えなくても当然か。
しかしオレにとってはどうでもいいことだ。
「とにかく今は急ぎましょう。あっちから逃げて下さい!」
オレは改めて『鷹の目』で周囲を確認して逃げ道になるところを指し示す。
山を駆け巡るのが当たり前の彼らなら、普通の人間が通れない厳しい獣道でも軽く通れるだろう。
「俺たちはいいとして、アルタシャはどうするんだ?」
「わたしはここであの連中をどうにか食い止めるので、二人は早く行って!」
「……分かったわ」
「それでお前は大丈夫なのか?」
ミキューが一応は納得した様子で頷くが、テルモーはオレを心配しているらしい。
「こっちの事は心配しないで。今はミキューを連れて逃げて下さい!」
「むう……」
「とにかく急いで!」
オレがそう訴えている間にも、周囲で猟犬の吠える事が響いて来た。
もう時間に余裕はないようだ。
「分かった。仕方ない。一緒にこい!」
「なんであなたが仕切っているんですか。もういいです」
テルモーが駆け出すと、ミキューと銀月も不満げな様子で後に続く。
「それではまた後で!」
オレがそう言ったところで、猟犬が何頭もこっちに迫ってくる。
ここで【植物歪曲】の魔法で周囲のツタをのばして、犬たちの前をふさぎ、更に捕まえる。
犬たちがけたたましい叫びを挙げて逃げようとするが、犬どころかそこらの軍人でもオレの【植物歪曲】からは逃げられないのさ。
これで猟犬はひとまず安心だ。
そして犬たちの悲鳴を聞きつけて、猟師達もこちらにドンドン集まってくる。
ざっと見たところ十人ぐらいか。
連中は『二本足の狼』を狩りに来ているのだろうから、手に手に弓や山刀を持っており、まともにやりあったらちょっと危険な相手だ。
しかしオレはドルイド魔術で自分の身を隠した上で、植物を操って道を封鎖したり、足にからめて倒したり出来るので、この程度ならば別に怖くはない。
「な、なんだこりゃ?!」
「まさか山神様が怒っているのか?」
いえ。丸っきり違いますけど、今は皆様がそう思って引いてくれたらありがたいです。
「どうする?」
「まあさっきのも逃げていったようだし、もう今日は戻ってこないだろう」
「そうだな。あんな奴らにかまけて山神様のお怒りを買ったらたまったもんじゃねえ。ここは早いところ引き上げようぜ」
思いもかけぬ出来事が起きたので動揺したのだろう。
狩人達は結構あっさりと引き上げていってくれた。
テルモーやミキュー達が追っ手と命がけで戦うつもりはないように、彼らも『害獣』とみなしている『二本足の狼』を相手にして、わざわざ危険を背負い込んでまで事を構えるつもりはないらしい。
ふう。どうやらこれで片付いたようだな。
しかし今回はたまたまうまくいっただけで、次に同じ事があったら無事に切り抜けられる保証などどこにもない。
やはり『安息の地』とまではいかなくとも、テルモー達がどうにか暮らせる場所を探さねばならないことに変わりは無いのだ。
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