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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第322話 あと一歩のところまでたどり着くと
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『廃虚に見に行った者は誰も帰ってこない』
村人の警告はこれまで何度も危機をくぐり抜けてきたオレにとっても結構、気になるものだったのは確かだ。
元の世界だと昔話や言い伝えで『そこに行った者は誰も帰ってこなかった』というのは、あくまでもそこの危険を強調して、地元の人間を近づけさせないためのものであり、実際にはそこまで危険なところはまず存在しない ―― 本人達がそれを信じているかどうかは別として。
宗教の戒律で『○○を食べてはならない』というのは、その地域では病気や寄生虫などが原因で食べると危険が高いから『神の決めた掟』として禁じられた場合が多いとか聞いた事がある。
しかしこっちの世界ではそれが本当の事である可能性もあるのだ。
先日出会った『数多の目』の精霊でも、一般人が襲われたらひとたまりもないからな。
だがそこで恐れていても、何も進まないのは明らかだ。
オレの場合、逃げも隠れもするし、場合によっては嘘もつくけど、何もしないという選択だけはない。
本当に近づいた人間が誰も帰ってこないような危ないところだったとしたら、通常のファンタジーならそこには危険と共に、とんでもないお宝が眠っているはずなんだけど、それはこの世界では期待薄だな。
少なくとも今までそんなお宝を見つけて事なんて一度も無いのだから。
そんなわけで村を出た後でテルモー達と合流し、そこからくだんの廃墟のある谷に向かうことにした。
しばしオレ達一行が進むと、周囲よりひときわ高い台地がそびえ、その中央をうがつ川と谷が見えてくる。
まだまだ遠いので細かいところまでは分からないが、台地の上にも谷の中にも樹木が生い茂っていて、動物がかなりたくさん住み着いていそうだ。
少なくともこれだけを見ると、この地ならテルモー達が住み着くのに問題は無いように思えてくる。
地元の言い伝えで近くの人間が避けているのも、こっちにとっては好都合だ。
しかしオレがそう考えただけでテルモー達にも同じとは限らない。
「あそこはどうですか?」
「悪くはなさそうだな」
「まあいいところではないかしら」
とりあえず二人とも同意はしてくれたようだ。
一安心したところで、オレは改めて気分を引き締める。
ここで何の問題も無く、二人が仲良くあの場所で生活を始め、オレが安心してこの地を去るなどという都合のいい事があるはずがないのだ。
ああそうだよ。オレが関わってしまった以上は、絶対に厄介な事になると決まってるのさ。
そう覚悟を固めつつ、オレは台地の方に足を向けた。
とりあえず台地をうがっている谷の奥底をオレ達は進む。
谷と言ってもそれほど急峻なものではなく、左右に広がる森はかなり豊かそうだ。
予想というか希望していた通りで、ここは安堵すべきところのはず。
ここでオレの視界の片隅に、かなり風化した石碑がひっかかる。
「これは?」
「どうしたんだ?」
オレが思わず石碑に駆け寄って、表面の汚れをさすっているとテルモーは不思議そうに問いかけてくる。
「この石は人間がここに残していったものです」
「何だと? 人間はこんなところにまで来ているのか?」
「いえ。これはかなり昔のものですよ」
ツタに覆われ、風化の進んだ様子から数十年から下手をすれば百年以上も前のものだ。
表面にあった文字は殆ど崩れて読み取れないが、恐らくは道標だったのだろう。
やはりこの先にあるという廃虚が実際に使用されていたときの名残だと考えるべきか。
「それでこれは何なんだ?」
今までの旅の途中で、テルモー達も道標なんて何度も見てきたはずなんだけど、そんなのは気にもとめていなかったのだろうな。
「たぶんこの先に何があるのか書いてあったのでしょうね」
「そうなのか。まあいい」
「さっさと行きましょう」
普通だったら『そこには何て書いてあるんだ?』と質問するところなんだろうけど、もともとテルモー達は文字を使う文化がないので、何が書いてあろうと意に介さないのだろう。
オレも【翻訳】の魔法を使えば、どんな文章でも意味は分かるのだが、文字そのものが風化してかすれてしまっていてはどうしようもない。
定番のパターンなら警告文の肝心なところが読めなくなっていて、それが後々の伏線になっていたりするわけだが、そういう事にはならないようだ。
よく見るとあちこちにちらほら、この谷でかつて多くの人間が行き来していたとおぼしき遺物が残っている。
朽ちた建物の礎石や、殆ど崩れてしまっている石造りの塀の残骸などが生い茂った植物の中にチラホラと覗いているのだ。
これは歴史学者だったら大喜びする光景なんだろう。オレは賢者系の魔法は使えても賢者ではないから、ちょっとばかり好奇心が刺激される程度だけどな
しかしオレにとって重要なのは、そんなものじゃない。
霊体を見る【霊視】を使って周囲を確認する。このところその手の相手に出会うのはしょっちゅうだから、警戒を怠るワケにはいかないのだ。
ひとまず視界内には霊体は見当たらず、一安心して先に進む。
このままいけば本当に何事もなく、順調に終わってくれるかもしれない ―― などというオレの甘い期待は当然のごとく裏切られ、いつものようにいろいろと厄介な事になるのだった。
村人の警告はこれまで何度も危機をくぐり抜けてきたオレにとっても結構、気になるものだったのは確かだ。
元の世界だと昔話や言い伝えで『そこに行った者は誰も帰ってこなかった』というのは、あくまでもそこの危険を強調して、地元の人間を近づけさせないためのものであり、実際にはそこまで危険なところはまず存在しない ―― 本人達がそれを信じているかどうかは別として。
宗教の戒律で『○○を食べてはならない』というのは、その地域では病気や寄生虫などが原因で食べると危険が高いから『神の決めた掟』として禁じられた場合が多いとか聞いた事がある。
しかしこっちの世界ではそれが本当の事である可能性もあるのだ。
先日出会った『数多の目』の精霊でも、一般人が襲われたらひとたまりもないからな。
だがそこで恐れていても、何も進まないのは明らかだ。
オレの場合、逃げも隠れもするし、場合によっては嘘もつくけど、何もしないという選択だけはない。
本当に近づいた人間が誰も帰ってこないような危ないところだったとしたら、通常のファンタジーならそこには危険と共に、とんでもないお宝が眠っているはずなんだけど、それはこの世界では期待薄だな。
少なくとも今までそんなお宝を見つけて事なんて一度も無いのだから。
そんなわけで村を出た後でテルモー達と合流し、そこからくだんの廃墟のある谷に向かうことにした。
しばしオレ達一行が進むと、周囲よりひときわ高い台地がそびえ、その中央をうがつ川と谷が見えてくる。
まだまだ遠いので細かいところまでは分からないが、台地の上にも谷の中にも樹木が生い茂っていて、動物がかなりたくさん住み着いていそうだ。
少なくともこれだけを見ると、この地ならテルモー達が住み着くのに問題は無いように思えてくる。
地元の言い伝えで近くの人間が避けているのも、こっちにとっては好都合だ。
しかしオレがそう考えただけでテルモー達にも同じとは限らない。
「あそこはどうですか?」
「悪くはなさそうだな」
「まあいいところではないかしら」
とりあえず二人とも同意はしてくれたようだ。
一安心したところで、オレは改めて気分を引き締める。
ここで何の問題も無く、二人が仲良くあの場所で生活を始め、オレが安心してこの地を去るなどという都合のいい事があるはずがないのだ。
ああそうだよ。オレが関わってしまった以上は、絶対に厄介な事になると決まってるのさ。
そう覚悟を固めつつ、オレは台地の方に足を向けた。
とりあえず台地をうがっている谷の奥底をオレ達は進む。
谷と言ってもそれほど急峻なものではなく、左右に広がる森はかなり豊かそうだ。
予想というか希望していた通りで、ここは安堵すべきところのはず。
ここでオレの視界の片隅に、かなり風化した石碑がひっかかる。
「これは?」
「どうしたんだ?」
オレが思わず石碑に駆け寄って、表面の汚れをさすっているとテルモーは不思議そうに問いかけてくる。
「この石は人間がここに残していったものです」
「何だと? 人間はこんなところにまで来ているのか?」
「いえ。これはかなり昔のものですよ」
ツタに覆われ、風化の進んだ様子から数十年から下手をすれば百年以上も前のものだ。
表面にあった文字は殆ど崩れて読み取れないが、恐らくは道標だったのだろう。
やはりこの先にあるという廃虚が実際に使用されていたときの名残だと考えるべきか。
「それでこれは何なんだ?」
今までの旅の途中で、テルモー達も道標なんて何度も見てきたはずなんだけど、そんなのは気にもとめていなかったのだろうな。
「たぶんこの先に何があるのか書いてあったのでしょうね」
「そうなのか。まあいい」
「さっさと行きましょう」
普通だったら『そこには何て書いてあるんだ?』と質問するところなんだろうけど、もともとテルモー達は文字を使う文化がないので、何が書いてあろうと意に介さないのだろう。
オレも【翻訳】の魔法を使えば、どんな文章でも意味は分かるのだが、文字そのものが風化してかすれてしまっていてはどうしようもない。
定番のパターンなら警告文の肝心なところが読めなくなっていて、それが後々の伏線になっていたりするわけだが、そういう事にはならないようだ。
よく見るとあちこちにちらほら、この谷でかつて多くの人間が行き来していたとおぼしき遺物が残っている。
朽ちた建物の礎石や、殆ど崩れてしまっている石造りの塀の残骸などが生い茂った植物の中にチラホラと覗いているのだ。
これは歴史学者だったら大喜びする光景なんだろう。オレは賢者系の魔法は使えても賢者ではないから、ちょっとばかり好奇心が刺激される程度だけどな
しかしオレにとって重要なのは、そんなものじゃない。
霊体を見る【霊視】を使って周囲を確認する。このところその手の相手に出会うのはしょっちゅうだから、警戒を怠るワケにはいかないのだ。
ひとまず視界内には霊体は見当たらず、一安心して先に進む。
このままいけば本当に何事もなく、順調に終わってくれるかもしれない ―― などというオレの甘い期待は当然のごとく裏切られ、いつものようにいろいろと厄介な事になるのだった。
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