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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第329話 この地が滅びた原因とは
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オレ達がドームに入ろうとすると、周囲には多数の霊体が近寄ってくる。
一瞬、緊張したがどうも敵意を持って攻撃してきたわけではなく、ただ単に興味を持って近づいてきただけらしい。
ひょっとすると彼らを礼拝し、なだめに来たシャーマンか何かの類いと思ったのかもしれないな。
こんな所にわざわざやってくるのは、そんな相手だけだろうからな。
しかしオレはそんな彼らを避け、攻撃された時に撃退する術は知っているが、アカスタのような本職のシャーマンのように礼拝し、なだめる方法は知らないのだ。
そんなわけで悪いけど、オレ達に近づいても何も出来ないから勘弁してもらいたい。
念のため『霊体遮断』の魔法で周囲を覆い、霊体を近寄らせないようにすると、精霊達は一斉に逃げていく。
ごめんなさいね。礼拝については次にやってきたシャーマンに期待して下さい ―― 何年後になるかは分からないけどね。
ドームの中の明かりは入り口から入る光だけでかなり薄暗かったが、魔法で夜目を強化出来るオレにはさして困る事では無い。
周囲を見回すとどうも円形に神像が安置されていたらしいが、例によってそれらは残らず破壊されて粉々になっており、台座しか残っていない。
そして正面には例によって『後光を放ちつつ手を広げている大きな神像』が壁面に彫り込まれていたが、やはり大部分が壊されている。
やはり建物の損壊具合に比べて、神像の破壊具合の方が明らかに深刻で、ここを攻め滅ぼした相手は特に『頭部が獣の神像』を目の敵にしていたらしい。
確かに宗教対立ならば、当然かもしれないけどどこか引っかかるな。
「ところでテルモー達はここを見て何か感じた事はありませんか?」
「いや。そもそもこんなところに来た事が無いから分からん」
「私も分からないわよ」
ああ。やっぱりこういう建物に縁が無いから、彼らにはただのワケの分からない廃虚に過ぎないんだな。
そしてテルモーの方が周囲を興味深く見回しつつ、オレに対して問いかけてくる。
「お前は知ってるのか? そもそもここは何をするところなんだ?」
「そういえば……人間がこういうところに集まるのは見た事があるわよ。いったい何のつもりなのかは知らないけどね」
そこから説明が必要なのか。
もちろん彼らが愚かなワケではなく、要するに『住んでいる世界が違う』という奴である。
大勢の人間が住んでいるところで行われている、組織的な崇拝を見た事が無く、せいぜい十人かそこらの部族単位で精霊を崇拝してきた事しか知らないので、当然こんな大規模な寺院など想像の埒外なのだ。
この世界に来てこの手の文化的ギャップに接するのは当たり前だったけど、やっぱりいつまでたっても簡単には慣れないな。
「ここではたぶん精霊を崇拝していたのでしょう」
細かく言えば『精霊』ではなく『神』だったのかもしれないけど、ここはテルモー達の分かるようにかみ砕いたほうがいいよな。
まあこの世界ではその辺りの区別は曖昧だから、場合によっては同じ存在が勢力毎に神のこともあれば英雄のこともあり、また聖人だったり精霊だったりして、しかもどの勢力も『自分達の崇拝する姿が真実』と言い張るので非常に面倒臭い。
「こんなところで精霊を崇拝するだと?」
「何のためにこれだけのものが必要になるのよ」
そうだよなあ。彼らはあくまでも自然の精霊をありのままに崇拝しているのだから、こんな大きな建物をつくって、そこで崇拝する行為が理解出来なくて当たり前か。
「人間は時にはこうやって精霊を崇拝する場所をつくるのですよ」
「どうしてそんな事をする必要がある? 精霊は自然に存在しているのだから、こんなものに入るわけがなかろうが」
まあそうなるよな。
彼らにとってはさしずめ『野生動物を無理矢理、狭い檻に閉じ込めている』ような感覚なんだろう。
「お前はここが『大いなる狼』のゆかりの地と言っていたのでは無いのか?」
「ええ。そうですけど」
オレの返答を聞いて、テルモーはむしろ憤りを感じているらしい。
「もしも『大いなる狼』がこんなところに押し込められているなら、俺はぶち壊してやりたくなるな」
「そうね。許されざる所行だわ」
え? 自分達の崇拝する精霊を崇めている場所であっても、崇拝の系統が違うと容赦しないと言う事なのか。
いや。冷静に考えれば、テルモー達がそう考えるのは当然かもしれない。
待てよ。今までオレはこの地を破壊したのは、動物精霊崇拝に敵対する勢力かと思っていたけど、ひょっとしたらひょっとするぞ。
「ところでふたりはここで『大いなる狼』が石でかたどられていたりしたら ―― たとえば『人間の身体に狼の頭』がつけられた形になっていたらどう考えるんですか?」
「「はあ?」」
テルモーもミキューも揃って呆れたような表情を浮かべる。
「そんな姿を描くはずがないだろう。我らは確かに『二本足の狼』だがそれは魂が狼と同じだからだ。見た目がそのまま『二本足の狼』でないことぐらい分かっている」
「そうね。それはどう考えても我らの始祖精霊ではないわよ」
やっぱりそうなるのか。そうだとすれば、ここが滅んだ原因は外部の勢力との戦いではなかったのかもしれないぞ。
オレがそう思った時、ドーム内に響くものがあった。
『ほう。ここに我が末裔がやってくるとは思わなかったぞ』
反射的に振り向くと、そこでは砕けた残骸の一つから何かが立ち上ってくるのがオレの『霊視』に写っていた。
一瞬、緊張したがどうも敵意を持って攻撃してきたわけではなく、ただ単に興味を持って近づいてきただけらしい。
ひょっとすると彼らを礼拝し、なだめに来たシャーマンか何かの類いと思ったのかもしれないな。
こんな所にわざわざやってくるのは、そんな相手だけだろうからな。
しかしオレはそんな彼らを避け、攻撃された時に撃退する術は知っているが、アカスタのような本職のシャーマンのように礼拝し、なだめる方法は知らないのだ。
そんなわけで悪いけど、オレ達に近づいても何も出来ないから勘弁してもらいたい。
念のため『霊体遮断』の魔法で周囲を覆い、霊体を近寄らせないようにすると、精霊達は一斉に逃げていく。
ごめんなさいね。礼拝については次にやってきたシャーマンに期待して下さい ―― 何年後になるかは分からないけどね。
ドームの中の明かりは入り口から入る光だけでかなり薄暗かったが、魔法で夜目を強化出来るオレにはさして困る事では無い。
周囲を見回すとどうも円形に神像が安置されていたらしいが、例によってそれらは残らず破壊されて粉々になっており、台座しか残っていない。
そして正面には例によって『後光を放ちつつ手を広げている大きな神像』が壁面に彫り込まれていたが、やはり大部分が壊されている。
やはり建物の損壊具合に比べて、神像の破壊具合の方が明らかに深刻で、ここを攻め滅ぼした相手は特に『頭部が獣の神像』を目の敵にしていたらしい。
確かに宗教対立ならば、当然かもしれないけどどこか引っかかるな。
「ところでテルモー達はここを見て何か感じた事はありませんか?」
「いや。そもそもこんなところに来た事が無いから分からん」
「私も分からないわよ」
ああ。やっぱりこういう建物に縁が無いから、彼らにはただのワケの分からない廃虚に過ぎないんだな。
そしてテルモーの方が周囲を興味深く見回しつつ、オレに対して問いかけてくる。
「お前は知ってるのか? そもそもここは何をするところなんだ?」
「そういえば……人間がこういうところに集まるのは見た事があるわよ。いったい何のつもりなのかは知らないけどね」
そこから説明が必要なのか。
もちろん彼らが愚かなワケではなく、要するに『住んでいる世界が違う』という奴である。
大勢の人間が住んでいるところで行われている、組織的な崇拝を見た事が無く、せいぜい十人かそこらの部族単位で精霊を崇拝してきた事しか知らないので、当然こんな大規模な寺院など想像の埒外なのだ。
この世界に来てこの手の文化的ギャップに接するのは当たり前だったけど、やっぱりいつまでたっても簡単には慣れないな。
「ここではたぶん精霊を崇拝していたのでしょう」
細かく言えば『精霊』ではなく『神』だったのかもしれないけど、ここはテルモー達の分かるようにかみ砕いたほうがいいよな。
まあこの世界ではその辺りの区別は曖昧だから、場合によっては同じ存在が勢力毎に神のこともあれば英雄のこともあり、また聖人だったり精霊だったりして、しかもどの勢力も『自分達の崇拝する姿が真実』と言い張るので非常に面倒臭い。
「こんなところで精霊を崇拝するだと?」
「何のためにこれだけのものが必要になるのよ」
そうだよなあ。彼らはあくまでも自然の精霊をありのままに崇拝しているのだから、こんな大きな建物をつくって、そこで崇拝する行為が理解出来なくて当たり前か。
「人間は時にはこうやって精霊を崇拝する場所をつくるのですよ」
「どうしてそんな事をする必要がある? 精霊は自然に存在しているのだから、こんなものに入るわけがなかろうが」
まあそうなるよな。
彼らにとってはさしずめ『野生動物を無理矢理、狭い檻に閉じ込めている』ような感覚なんだろう。
「お前はここが『大いなる狼』のゆかりの地と言っていたのでは無いのか?」
「ええ。そうですけど」
オレの返答を聞いて、テルモーはむしろ憤りを感じているらしい。
「もしも『大いなる狼』がこんなところに押し込められているなら、俺はぶち壊してやりたくなるな」
「そうね。許されざる所行だわ」
え? 自分達の崇拝する精霊を崇めている場所であっても、崇拝の系統が違うと容赦しないと言う事なのか。
いや。冷静に考えれば、テルモー達がそう考えるのは当然かもしれない。
待てよ。今までオレはこの地を破壊したのは、動物精霊崇拝に敵対する勢力かと思っていたけど、ひょっとしたらひょっとするぞ。
「ところでふたりはここで『大いなる狼』が石でかたどられていたりしたら ―― たとえば『人間の身体に狼の頭』がつけられた形になっていたらどう考えるんですか?」
「「はあ?」」
テルモーもミキューも揃って呆れたような表情を浮かべる。
「そんな姿を描くはずがないだろう。我らは確かに『二本足の狼』だがそれは魂が狼と同じだからだ。見た目がそのまま『二本足の狼』でないことぐらい分かっている」
「そうね。それはどう考えても我らの始祖精霊ではないわよ」
やっぱりそうなるのか。そうだとすれば、ここが滅んだ原因は外部の勢力との戦いではなかったのかもしれないぞ。
オレがそう思った時、ドーム内に響くものがあった。
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