332 / 1,316
第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第332話 やはり『死んだ英雄だけが良い英雄』となりました
しおりを挟む
毎度の事ながらいろいろややこしい状況だけど、それでもオレは『吠え猛るもの』に対して改めて確認することがあった。
「ところでこちらからも一つ伺っていいでしょうか?」
『断っておくが吾が知っている事など、大したものではないぞ』
「それでも構いません。どうしても聞きたい事があるのです」
『分かった。いいだろう』
オレが真剣に問いかけると、相手も小さく頷く。
「あなたがた『二本足の狼』において、自分の身を狼と化す派閥と、相棒の狼を得る派閥がありますよね」
この『吠え猛るもの』はウルハンガの導きを受けたのならば、テルモー達の派閥抗争とは無縁の存在のはずだ ―― 是非ともそうであって欲しい。
『ああそうだ。それぞれに役割があるのだが、仲が良くなくて吾も困ったものだ』
霊体は『困った』とは言っているが、どちらかと言えば苦笑いに近い態度だ。
少なくとも同胞たちの命がかかっている問題に対する態度ではないな。
「あなたが生きていた時から、すでにあの両者は争っていたのですか? それにしてはあまり深刻に考えてはおられないようですけど」
『そんなことはないぞ。吾が同胞を率いている時も、しばしば連中は対立し、手柄や戦利品をめぐる争いなどしょっちゅうだった。そのために吾が指導者としてどれほど苦労した事か……思い出したくもないほどだ』
なるほど。当時はまだテルモーとミキュー達の『二本足の狼』同士の対立は、あくまでも『仲間内のライバル』の域にとどまっていたのか。
それはそれでまとめるのに苦労したかもしれませんけど、今その両者は人間達に圧迫されて青息吐息の状態でありながら、顔を見ると互いに殺し合いをするほどにまで険悪になっているんです。
『しかしそちらにいる者達の様子を見るとさほど深刻でもあるまい。仲間として共にこの地に来たのであろう?』
まあ今のテルモーとミキューを見たら、そう思っても不思議では無いか。
少なくともこの二人は一緒に旅をしてきたのは間違いないからな。
しかしこの二人をここまでもってくるまで、オレがどれだけ苦労したか。
たぶん『吠え猛るもの』が同族を率いて征服に乗り出したときの『爪の垢を煎じて飲んだ』分ぐらいは大変だったと思いますよ。
自分達を追い回す『人間』という共通の敵がいた上で、何よりどちらも一人ずつだったからこそ、かろうじてどうにかなったのであって、もしも部族同士でやり合っていたら完全にお手上げでした。
「この二人はむしろ例外なんです。他のところでは出会った瞬間に戦いが始まるぐらいに険悪ですよ」
『むう……この地で活動していた時も、どちらかと言えば狼にその身を変じる者達は吾に従う者が多く、狼を友とする者達は吾に刃向かう者が多かった』
そりゃそうだよな。狼を相棒として一緒に暮らしていたら、他の人間達と生活するのは何かと不便だ。
狼に変身する能力を持つ側の方が、まだ支持しやすいか。
テルモーの部族は『吠え猛るもの』が軍勢を率いて進撃していった事だけを憶えていて、いつの日か英雄が凱旋してくるという伝説を語り継いでいたけど、その伝説の渦中ではそっちの派閥の方がむしろ支持者だったというわけか。
いずれにしても両者の確執は、たぶん『吠え猛るもの』を巡って対立したところで更に悪化して、完全に袂を分かつ結果になってしまったのかもしれない。
しかしその場合、両者が共に対立の決定打になってしまった『吠え猛るもの』を英雄として語り継ぎ、互いの敵視だけを受け継いでいたと言う事になるな。
俗に『良い英雄は死んだ英雄だけだ』という言葉があったと聞くが、ある意味で『吠え猛るもの』は道半ばにしてここで斃れたからこそ、同族達には英雄としての姿だけが残ったと言えるのかもしれない。
まあオレが去った後で勝手に『女神』だの何だの、望みもしないのに崇拝されてしまうのも、オレ自身がいないので適当に自分達に都合のいい姿をでっち上げているのだろうと考えるとあんまり違いはないのかもしれないな。
「とにかく先ほど了承してもらったように、この地に彼らを棲まわせたいと思っています。他の霊体はどうですか?」
『心配せずとも、吾を含めて生きている人間をどうにか出来る程の力を持つものは、ここには残っておらんよ。何しろずっと前からたまにシャーマンが来て僅かに礼拝されるぐらいだったからな』
この世界では崇拝もされないのに、強力な力を持っている存在は極めて希にしか存在しないからな。
この廃虚にいる霊体達も同じだとすれば、オレにとっては一安心だ。
オレが立ち去ってもテルモー達が襲われる心配はしなくて済むという事だから。
『ふう……我が同胞には声が届かず、部外者であるはずのそなたしか聞こえぬとは、吾も落ちぶれたものよ』
「いえ。むしろそれが普通ですよ」
何しろイロール神の声がオレに届くようになったのが、望みもしないのに数多くの信徒を『獲得してしまった』後の事だからな。
シャーマンのようにそれが本職ならばいざ知らず、テルモー達に声が届かないのはむしろ当たり前なのだ。
しかしこれまで『隠されていた真実』に出会った事は何度もあったけど、誰も隠す意図など無かったにも関わらず、やっぱり真実とは勝手に歪んでいくものなんだな。
「ところでこちらからも一つ伺っていいでしょうか?」
『断っておくが吾が知っている事など、大したものではないぞ』
「それでも構いません。どうしても聞きたい事があるのです」
『分かった。いいだろう』
オレが真剣に問いかけると、相手も小さく頷く。
「あなたがた『二本足の狼』において、自分の身を狼と化す派閥と、相棒の狼を得る派閥がありますよね」
この『吠え猛るもの』はウルハンガの導きを受けたのならば、テルモー達の派閥抗争とは無縁の存在のはずだ ―― 是非ともそうであって欲しい。
『ああそうだ。それぞれに役割があるのだが、仲が良くなくて吾も困ったものだ』
霊体は『困った』とは言っているが、どちらかと言えば苦笑いに近い態度だ。
少なくとも同胞たちの命がかかっている問題に対する態度ではないな。
「あなたが生きていた時から、すでにあの両者は争っていたのですか? それにしてはあまり深刻に考えてはおられないようですけど」
『そんなことはないぞ。吾が同胞を率いている時も、しばしば連中は対立し、手柄や戦利品をめぐる争いなどしょっちゅうだった。そのために吾が指導者としてどれほど苦労した事か……思い出したくもないほどだ』
なるほど。当時はまだテルモーとミキュー達の『二本足の狼』同士の対立は、あくまでも『仲間内のライバル』の域にとどまっていたのか。
それはそれでまとめるのに苦労したかもしれませんけど、今その両者は人間達に圧迫されて青息吐息の状態でありながら、顔を見ると互いに殺し合いをするほどにまで険悪になっているんです。
『しかしそちらにいる者達の様子を見るとさほど深刻でもあるまい。仲間として共にこの地に来たのであろう?』
まあ今のテルモーとミキューを見たら、そう思っても不思議では無いか。
少なくともこの二人は一緒に旅をしてきたのは間違いないからな。
しかしこの二人をここまでもってくるまで、オレがどれだけ苦労したか。
たぶん『吠え猛るもの』が同族を率いて征服に乗り出したときの『爪の垢を煎じて飲んだ』分ぐらいは大変だったと思いますよ。
自分達を追い回す『人間』という共通の敵がいた上で、何よりどちらも一人ずつだったからこそ、かろうじてどうにかなったのであって、もしも部族同士でやり合っていたら完全にお手上げでした。
「この二人はむしろ例外なんです。他のところでは出会った瞬間に戦いが始まるぐらいに険悪ですよ」
『むう……この地で活動していた時も、どちらかと言えば狼にその身を変じる者達は吾に従う者が多く、狼を友とする者達は吾に刃向かう者が多かった』
そりゃそうだよな。狼を相棒として一緒に暮らしていたら、他の人間達と生活するのは何かと不便だ。
狼に変身する能力を持つ側の方が、まだ支持しやすいか。
テルモーの部族は『吠え猛るもの』が軍勢を率いて進撃していった事だけを憶えていて、いつの日か英雄が凱旋してくるという伝説を語り継いでいたけど、その伝説の渦中ではそっちの派閥の方がむしろ支持者だったというわけか。
いずれにしても両者の確執は、たぶん『吠え猛るもの』を巡って対立したところで更に悪化して、完全に袂を分かつ結果になってしまったのかもしれない。
しかしその場合、両者が共に対立の決定打になってしまった『吠え猛るもの』を英雄として語り継ぎ、互いの敵視だけを受け継いでいたと言う事になるな。
俗に『良い英雄は死んだ英雄だけだ』という言葉があったと聞くが、ある意味で『吠え猛るもの』は道半ばにしてここで斃れたからこそ、同族達には英雄としての姿だけが残ったと言えるのかもしれない。
まあオレが去った後で勝手に『女神』だの何だの、望みもしないのに崇拝されてしまうのも、オレ自身がいないので適当に自分達に都合のいい姿をでっち上げているのだろうと考えるとあんまり違いはないのかもしれないな。
「とにかく先ほど了承してもらったように、この地に彼らを棲まわせたいと思っています。他の霊体はどうですか?」
『心配せずとも、吾を含めて生きている人間をどうにか出来る程の力を持つものは、ここには残っておらんよ。何しろずっと前からたまにシャーマンが来て僅かに礼拝されるぐらいだったからな』
この世界では崇拝もされないのに、強力な力を持っている存在は極めて希にしか存在しないからな。
この廃虚にいる霊体達も同じだとすれば、オレにとっては一安心だ。
オレが立ち去ってもテルモー達が襲われる心配はしなくて済むという事だから。
『ふう……我が同胞には声が届かず、部外者であるはずのそなたしか聞こえぬとは、吾も落ちぶれたものよ』
「いえ。むしろそれが普通ですよ」
何しろイロール神の声がオレに届くようになったのが、望みもしないのに数多くの信徒を『獲得してしまった』後の事だからな。
シャーマンのようにそれが本職ならばいざ知らず、テルモー達に声が届かないのはむしろ当たり前なのだ。
しかしこれまで『隠されていた真実』に出会った事は何度もあったけど、誰も隠す意図など無かったにも関わらず、やっぱり真実とは勝手に歪んでいくものなんだな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる