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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第333話 最後にして最大の難関は
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オレはひとまず『吠え猛るもの』に対して礼を述べる。
「いろいろとありがとうございました。それでは失礼します」
『そうか。また話に来てくれ。吾は……いや。吾らはいつでも楽しみに待っているぞ』
「次がいつになるか分かりませんけどね」
何というか隠居したお年寄りから、嬉しげに昔話を聞かされているかのような気分だな。
とりあえず戦いになどならなくてよかったと考えるべきか。
オレが霊体との話を終わらせると、さっきから怪訝な表情を浮かべつつこちらを見つめていたテルモーとミキューが問いかけてくる。
「おい。さっきからお前、何を言っているんだ?」
「そうよ。ちゃんと説明しなさい」
彼らには『吠え猛るもの』の霊体までは見えているのだろうけど、声が届いていないから、オレが一方的にしゃべっているようにしか見えていないのだな。
とにかく今は穏便にことを進めるだけだ。
「話によるとここに住んでいいそうです。いえ。むしろ喜んで受け入れてくれるとの事です」
彼らが始祖精霊に次いで尊敬しているかつての英雄『吠え猛るもの』の今の姿だという事は敢えて伏せる事にした。
詳しい事情について説明したら、確実に話がややこしくなるし、何より大事な問題は過ぎ去った昔の事では無い。
既に死んだ人間よりも、生きている人間の方が遙かに大事に決まっているのだ。
「それは分かったが、結局のところここが『大いなる狼』ゆかりの地という話はどうなったんだ?」
「そのあたりはおいおい説明しますけど、ここにはもう用はありません」
「だったらすぐに出ましょう。銀月もウンザリしているわ」
「そうだな。こんなところは真っ平だ」
二人ともむしろ安堵した様子だ。こんな大きな建物の中はかなり緊張するらしい。
薄暗い廃虚を後にして、改めて陽光の中に戻ると、オレもちょっとはホッとする。
大した力は持っていないと分かっていても、周囲に霊体が沢山いる場所はやっぱりオレも落ち着かないのだ。
「先ほどの霊体との話で、ここには特に危険な相手もいないようです。だからお二人ともこの谷に住む事でいいですか?」
「お前はどうするんだ?」
テルモーは怪訝そうに問いかけてくる。
何度か『一緒に群れをつくろう』などとプロポーズされたけど、もちろんオレは応じるつもりはない。
「まずはお二人に仲良くなって欲しいですね」
「なんだよ。その言い方では俺とこいつが群れを作るかのように聞こえるぞ」
「失礼な事を言わないで欲しいわね」
うう。まだまだこの二人は仲良しとは言いがたいか。
いきなり伴侶になれとは言わないけど、せめて共同生活が出来るぐらいにはなって欲しい。
そうなるとやはり『過去の真実』を伝えるしかないか。
いや。それで反発される危険性は分かっている。
それどころか下手をすればやぶ蛇になって、今までどうにかやってきた二人がいきなり喧嘩になる危険性もある。
しかしそれではオレが立ち去った後で、結局は二人が対立し、初対面の時のように殺し合いを始めるというのではこっちがたまったものではない。
こっちは散々苦労したんだから、お前らは文句言わず、とっとと一緒になれと言いたいところだよ。
そんなの『大きなお世話』だと言われるだろうけど、そんなの承知の上だ。なぜならオレはお節介なんだから。
とりあえずテルモー達が戦いを始めないよう、前もって【調和】をかけておいてから、説明を始めるとするか。
「先ほどの霊体から聞いたのですけど、お二人の部族はもともとひとつであって、共に『大いなる狼』を崇拝していたそうです」
「「……」」
オレにとっては別に『吠え猛るもの』に聞くまでもなく、当然の認識だったけど、最初は顔を見ただけで殺し合いを始めたテルモー達にとって、そういうワケにはいかないのは仕方ない。
いや。実を言えばもっと厄介なのは、オレの話が受け入れられない事では無い。むしろアッサリと受け入れられた方なのだ。
「それであなた方のご先祖は一緒になって力を合わせ『吠え猛るもの』と共に戦っていたんですよ。だからあなた達も元々は同胞だったんですよ」
「そんな事は分かっていたさ」
「当たり前の事でしょう」
やっぱりそうか。二人ともこれまで相手を『大いなる狼を貶める存在』という言い方をしていたからな。
彼らがもともと一つであった事を受け入れないのなら、まだ説得の余地もある。
だけどそれを承知の上で『かつては同胞でも今は不倶戴天の仇敵』だという前提で対立している方が、よっぽど困った話なのだ。
「だからここでは昔の同胞と同じく、二人が共に仲良く一緒に生きるべきなんです」
実際には『仲良く』と言うには複雑過ぎる関係だったようだけど、ここはちょっとばかり話を盛らせてもらおう。
そしてテルモーはオレの言葉に対して、少しばかり神妙な様子を見せる。
「そうか……それがお前の望みなのか?」
「そうですよ! テルモーとミキューに仲良く一緒に暮らして欲しいんです!」
オレはここでテルモーの手をとって懇願する。
もちろん片方だけ納得しても意味が無いことは分かっているけど、ここはとにかく突破口が欲しかったのだ。
「……」
しかしミキューの方はどうにも冷たい目をこちらに注いでいる。
うう。やっぱり難しいか。
よくあるパターンならここでタイミングよく、別の何者かが襲撃してきて、それをテルモーとミキューが共に力を合わせて撃退し、それが切っ掛けに仲良くなってくれるものだけど、この世界でそんな都合のいい展開はないのだ。
「いろいろとありがとうございました。それでは失礼します」
『そうか。また話に来てくれ。吾は……いや。吾らはいつでも楽しみに待っているぞ』
「次がいつになるか分かりませんけどね」
何というか隠居したお年寄りから、嬉しげに昔話を聞かされているかのような気分だな。
とりあえず戦いになどならなくてよかったと考えるべきか。
オレが霊体との話を終わらせると、さっきから怪訝な表情を浮かべつつこちらを見つめていたテルモーとミキューが問いかけてくる。
「おい。さっきからお前、何を言っているんだ?」
「そうよ。ちゃんと説明しなさい」
彼らには『吠え猛るもの』の霊体までは見えているのだろうけど、声が届いていないから、オレが一方的にしゃべっているようにしか見えていないのだな。
とにかく今は穏便にことを進めるだけだ。
「話によるとここに住んでいいそうです。いえ。むしろ喜んで受け入れてくれるとの事です」
彼らが始祖精霊に次いで尊敬しているかつての英雄『吠え猛るもの』の今の姿だという事は敢えて伏せる事にした。
詳しい事情について説明したら、確実に話がややこしくなるし、何より大事な問題は過ぎ去った昔の事では無い。
既に死んだ人間よりも、生きている人間の方が遙かに大事に決まっているのだ。
「それは分かったが、結局のところここが『大いなる狼』ゆかりの地という話はどうなったんだ?」
「そのあたりはおいおい説明しますけど、ここにはもう用はありません」
「だったらすぐに出ましょう。銀月もウンザリしているわ」
「そうだな。こんなところは真っ平だ」
二人ともむしろ安堵した様子だ。こんな大きな建物の中はかなり緊張するらしい。
薄暗い廃虚を後にして、改めて陽光の中に戻ると、オレもちょっとはホッとする。
大した力は持っていないと分かっていても、周囲に霊体が沢山いる場所はやっぱりオレも落ち着かないのだ。
「先ほどの霊体との話で、ここには特に危険な相手もいないようです。だからお二人ともこの谷に住む事でいいですか?」
「お前はどうするんだ?」
テルモーは怪訝そうに問いかけてくる。
何度か『一緒に群れをつくろう』などとプロポーズされたけど、もちろんオレは応じるつもりはない。
「まずはお二人に仲良くなって欲しいですね」
「なんだよ。その言い方では俺とこいつが群れを作るかのように聞こえるぞ」
「失礼な事を言わないで欲しいわね」
うう。まだまだこの二人は仲良しとは言いがたいか。
いきなり伴侶になれとは言わないけど、せめて共同生活が出来るぐらいにはなって欲しい。
そうなるとやはり『過去の真実』を伝えるしかないか。
いや。それで反発される危険性は分かっている。
それどころか下手をすればやぶ蛇になって、今までどうにかやってきた二人がいきなり喧嘩になる危険性もある。
しかしそれではオレが立ち去った後で、結局は二人が対立し、初対面の時のように殺し合いを始めるというのではこっちがたまったものではない。
こっちは散々苦労したんだから、お前らは文句言わず、とっとと一緒になれと言いたいところだよ。
そんなの『大きなお世話』だと言われるだろうけど、そんなの承知の上だ。なぜならオレはお節介なんだから。
とりあえずテルモー達が戦いを始めないよう、前もって【調和】をかけておいてから、説明を始めるとするか。
「先ほどの霊体から聞いたのですけど、お二人の部族はもともとひとつであって、共に『大いなる狼』を崇拝していたそうです」
「「……」」
オレにとっては別に『吠え猛るもの』に聞くまでもなく、当然の認識だったけど、最初は顔を見ただけで殺し合いを始めたテルモー達にとって、そういうワケにはいかないのは仕方ない。
いや。実を言えばもっと厄介なのは、オレの話が受け入れられない事では無い。むしろアッサリと受け入れられた方なのだ。
「それであなた方のご先祖は一緒になって力を合わせ『吠え猛るもの』と共に戦っていたんですよ。だからあなた達も元々は同胞だったんですよ」
「そんな事は分かっていたさ」
「当たり前の事でしょう」
やっぱりそうか。二人ともこれまで相手を『大いなる狼を貶める存在』という言い方をしていたからな。
彼らがもともと一つであった事を受け入れないのなら、まだ説得の余地もある。
だけどそれを承知の上で『かつては同胞でも今は不倶戴天の仇敵』だという前提で対立している方が、よっぽど困った話なのだ。
「だからここでは昔の同胞と同じく、二人が共に仲良く一緒に生きるべきなんです」
実際には『仲良く』と言うには複雑過ぎる関係だったようだけど、ここはちょっとばかり話を盛らせてもらおう。
そしてテルモーはオレの言葉に対して、少しばかり神妙な様子を見せる。
「そうか……それがお前の望みなのか?」
「そうですよ! テルモーとミキューに仲良く一緒に暮らして欲しいんです!」
オレはここでテルモーの手をとって懇願する。
もちろん片方だけ納得しても意味が無いことは分かっているけど、ここはとにかく突破口が欲しかったのだ。
「……」
しかしミキューの方はどうにも冷たい目をこちらに注いでいる。
うう。やっぱり難しいか。
よくあるパターンならここでタイミングよく、別の何者かが襲撃してきて、それをテルモーとミキューが共に力を合わせて撃退し、それが切っ掛けに仲良くなってくれるものだけど、この世界でそんな都合のいい展開はないのだ。
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