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第12章 強奪の地にて
第336話 廃虚の名は
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槍を持った男はオレに対して敵意ある視線を注ぎつつ、槍の穂先を突きつけてくる。
よくよく見ると槍の穂先は金属ではないらしい。
象牙かそれとも骨を磨いたかのようにも見えるけど、この世界では魔法がかかっている武器もあるので、見た目で軽々しく判断したらとんでもない事になるので注意が必要だな。
「どうせお前もあそこの噂を聞きつけて、金目のものを漁りに来たんだろう。何とも浅ましい奴だ」
う~ん。ひょっとするとこの人はあの廃虚を自分の『縄張り』だと思っている冒険者さんでしょうか。
以前のバッド・ディールでも神造者が廃虚漁りをさせて価値のある遺物を買い上げていたけど、似たような事があるなら廃虚を自分の縄張りだと言い張って、競争相手を締め出そうとする人がいてもおかしくはないな。
「すみません。ちょっと興味をひかれただけで、深い意味は無いんです」
「ただの物珍しさでもあそこには近づくな。死んだ人間が大勢いるんだぞ」
それってアンドッドが大勢棲み着いていると言う事なんだろうか?
いや。違うな。
この人はあの廃虚となった町が滅びた時に、親しい誰かを失ったのかもしれない。
それなら通りすがりの人間が興味本位で近づくのをイヤがるのは当然か。
ひょっとしたらこの熱心な稽古は、あの町を破壊した相手と戦い、復讐するためだったりするのかな。
しかし城壁のある町をあんな風にしてしまう相手は、それが軍勢だとしても、モンスターだとしても、一人が幾ら鍛えても太刀打ち出来るとはとても思えないけどな。
だけどぱっと見でも、何年もこうやって槍の腕を磨いている相手に対して、そんな事をわざわざ指摘しても聞き入れるはずもないか。
「どうしたんだ?」
「分かりました。それでは失礼します」
オレは男に対して一礼すると急いで離れた。
しばしの後、オレは先ほど見かけた小さな集落に足を踏みいれていた。
遠目では普通の集落だったが、よくよく見るとこれまで見てきた同規模の集落に比べてそれなりに立派に見えるぞ。
屋根の上には翼のある爬虫類っぽい生き物 ―― 恐らくはドラゴンのたぐい ―― をかたどったとおぼしき石造の飾りが幾つも取り付けられていて、それが結構目立っている。
特別に豊かな土地というわけにも見えないし、交易が特別盛んにも見えないけど、普通の集落よりも裕福らしい。
そんな事を考えつつ、オレは村の中央の広場に面した小さな宿屋兼雑貨屋らしき建物に足を踏みいれる。
とりあえず保存食を幾つか買い入れつつ、オレはそこの主人の男に気になっていた事を幾つか問うことにした。
「すみません。一つ聞いていいですか? この先の中州の周囲に廃虚がありますよね」
この問いかけの時点で男はピクリと動きを止める。
「あそこに行くのは辞めておけ。ろくな事にならんぞ」
う~ん。何があったのかは知らないけど、この世界では大量の死者が出ると悪霊の類いが跋扈するからな。
それが無くとも、町が一つ消滅する程の大事件が起きたのならば、恐れて近づかなくなることは不思議では無い。
「よそもんが知らないのは当然だろうけど、俺たちはあそこは普段からなるだけ見ないようにしているぐらいなんだ」
やっぱりあの町が滅んだ出来事は、地元に人間から相当に恐れられているらしい。
これでは情報を引き出すのは難しいな。
仕方ないので話題を切り換えよう。
「ところで先ほど村はずれで槍を振るっている男の人を見かけましたけど――」
「あのバカにも関わらん方がええ。村のもんも普段は誰も近づかんでな。厄介事があったときしか出番のない奴だからな」
この言い方からして、さっきの槍の男はこの村で何か暴力沙汰が起きたときに、あの槍の腕で用心棒的な事をして生活の糧にしているけど、それにも関わらず住民からは『厄介者』とみられているらしい。
ここまでの出来事から推測すると、たぶん地元の人が恐れているあの廃虚に積極的に関わろうとしているので嫌がられているのだろう。
「一つ聞くがお前さんは、あの廃虚で何かしようと思ってここに来たんじゃねえのだろう?」
「ええ。そうですけど」
さすがにあんなところが『観光名所』になっているとは思えないし、この世界の基準では『ちょっと興味があるから見てみたい』なんて理由で旅をする人間はまずいない。
もちろん武装もしていない一人旅のオレが、危険な悪霊やモンスターが出て来そうな廃虚漁りをするとも思わなくて当然だ。
「だったら悪い事は言わねえ。あそこには関わっちゃなんねえ。よそもんがどうなろうと知っちゃこっちゃないけど、こっちにとばっちりが来たらたまったもんじゃないからな」
そう言い切ると男は『考えたくもない』と言わんばかりにブルッとその身を震わせる。
本当に恐れているらしいが、やっぱりここはどうにか情報が欲しいな。
「いったい何があったのかぐらいは教えてくれませんかね? そうでないとむしろこっちが知りたくて深入りしてしまうかもしれませんよ」
「おい! こら! そんな事をされたらこっちが困るんだよ!」
男は血相を変えて制止の叫びを挙げるが、オレとしてはこの程度の事で動じる事は無い。
まあオレがあの廃虚に関わったぐらいの事で、この集落に被害が及ぶとは思えないけど、この男が本気でそれを恐れているなら、これぐらいのハッタリをかましてみるぐらいの事は出来るんだよ。
まあ今までの経験から、少々の事では動じないつもりだけどな。
「分かったよ……本当に若いもんは畏れ知らずだな。いいだろう。教えてやるよ。あのロブ・エッグに何があったのかをな」
「え? ロブ・エッグですか?」
あからさまにロクでもない空気が漂っている呼び名を耳にして、オレは少しばかり困惑する事になった。
よくよく見ると槍の穂先は金属ではないらしい。
象牙かそれとも骨を磨いたかのようにも見えるけど、この世界では魔法がかかっている武器もあるので、見た目で軽々しく判断したらとんでもない事になるので注意が必要だな。
「どうせお前もあそこの噂を聞きつけて、金目のものを漁りに来たんだろう。何とも浅ましい奴だ」
う~ん。ひょっとするとこの人はあの廃虚を自分の『縄張り』だと思っている冒険者さんでしょうか。
以前のバッド・ディールでも神造者が廃虚漁りをさせて価値のある遺物を買い上げていたけど、似たような事があるなら廃虚を自分の縄張りだと言い張って、競争相手を締め出そうとする人がいてもおかしくはないな。
「すみません。ちょっと興味をひかれただけで、深い意味は無いんです」
「ただの物珍しさでもあそこには近づくな。死んだ人間が大勢いるんだぞ」
それってアンドッドが大勢棲み着いていると言う事なんだろうか?
いや。違うな。
この人はあの廃虚となった町が滅びた時に、親しい誰かを失ったのかもしれない。
それなら通りすがりの人間が興味本位で近づくのをイヤがるのは当然か。
ひょっとしたらこの熱心な稽古は、あの町を破壊した相手と戦い、復讐するためだったりするのかな。
しかし城壁のある町をあんな風にしてしまう相手は、それが軍勢だとしても、モンスターだとしても、一人が幾ら鍛えても太刀打ち出来るとはとても思えないけどな。
だけどぱっと見でも、何年もこうやって槍の腕を磨いている相手に対して、そんな事をわざわざ指摘しても聞き入れるはずもないか。
「どうしたんだ?」
「分かりました。それでは失礼します」
オレは男に対して一礼すると急いで離れた。
しばしの後、オレは先ほど見かけた小さな集落に足を踏みいれていた。
遠目では普通の集落だったが、よくよく見るとこれまで見てきた同規模の集落に比べてそれなりに立派に見えるぞ。
屋根の上には翼のある爬虫類っぽい生き物 ―― 恐らくはドラゴンのたぐい ―― をかたどったとおぼしき石造の飾りが幾つも取り付けられていて、それが結構目立っている。
特別に豊かな土地というわけにも見えないし、交易が特別盛んにも見えないけど、普通の集落よりも裕福らしい。
そんな事を考えつつ、オレは村の中央の広場に面した小さな宿屋兼雑貨屋らしき建物に足を踏みいれる。
とりあえず保存食を幾つか買い入れつつ、オレはそこの主人の男に気になっていた事を幾つか問うことにした。
「すみません。一つ聞いていいですか? この先の中州の周囲に廃虚がありますよね」
この問いかけの時点で男はピクリと動きを止める。
「あそこに行くのは辞めておけ。ろくな事にならんぞ」
う~ん。何があったのかは知らないけど、この世界では大量の死者が出ると悪霊の類いが跋扈するからな。
それが無くとも、町が一つ消滅する程の大事件が起きたのならば、恐れて近づかなくなることは不思議では無い。
「よそもんが知らないのは当然だろうけど、俺たちはあそこは普段からなるだけ見ないようにしているぐらいなんだ」
やっぱりあの町が滅んだ出来事は、地元に人間から相当に恐れられているらしい。
これでは情報を引き出すのは難しいな。
仕方ないので話題を切り換えよう。
「ところで先ほど村はずれで槍を振るっている男の人を見かけましたけど――」
「あのバカにも関わらん方がええ。村のもんも普段は誰も近づかんでな。厄介事があったときしか出番のない奴だからな」
この言い方からして、さっきの槍の男はこの村で何か暴力沙汰が起きたときに、あの槍の腕で用心棒的な事をして生活の糧にしているけど、それにも関わらず住民からは『厄介者』とみられているらしい。
ここまでの出来事から推測すると、たぶん地元の人が恐れているあの廃虚に積極的に関わろうとしているので嫌がられているのだろう。
「一つ聞くがお前さんは、あの廃虚で何かしようと思ってここに来たんじゃねえのだろう?」
「ええ。そうですけど」
さすがにあんなところが『観光名所』になっているとは思えないし、この世界の基準では『ちょっと興味があるから見てみたい』なんて理由で旅をする人間はまずいない。
もちろん武装もしていない一人旅のオレが、危険な悪霊やモンスターが出て来そうな廃虚漁りをするとも思わなくて当然だ。
「だったら悪い事は言わねえ。あそこには関わっちゃなんねえ。よそもんがどうなろうと知っちゃこっちゃないけど、こっちにとばっちりが来たらたまったもんじゃないからな」
そう言い切ると男は『考えたくもない』と言わんばかりにブルッとその身を震わせる。
本当に恐れているらしいが、やっぱりここはどうにか情報が欲しいな。
「いったい何があったのかぐらいは教えてくれませんかね? そうでないとむしろこっちが知りたくて深入りしてしまうかもしれませんよ」
「おい! こら! そんな事をされたらこっちが困るんだよ!」
男は血相を変えて制止の叫びを挙げるが、オレとしてはこの程度の事で動じる事は無い。
まあオレがあの廃虚に関わったぐらいの事で、この集落に被害が及ぶとは思えないけど、この男が本気でそれを恐れているなら、これぐらいのハッタリをかましてみるぐらいの事は出来るんだよ。
まあ今までの経験から、少々の事では動じないつもりだけどな。
「分かったよ……本当に若いもんは畏れ知らずだな。いいだろう。教えてやるよ。あのロブ・エッグに何があったのかをな」
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