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第12章 強奪の地にて
第350話 『卵』に秘められていたのは
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ドラゴンの卵が見える前、周囲にはどよめきと喧騒が広がっていたが、実物が姿を現すとそれは一気に沈黙へと変わった。
それは誰もが固唾を呑んで卵を見守っている。そのような印象を与える光景だったのだ。
しかしいくら何でもおかしいぞ。
そりゃ中にはそういう人間がいても不思議では無いけど、見渡す限り千人を超える人間の殆どが動きを止めているのだ。
ついさっきまでドラゴンの卵を巡って口論していた連中ですら、揃って動きを止めて卵を惚けた様子で見つめている。
いったいこれはどういうことなんだ?
こっちが困惑している中で、さっきの槍の男は制止した周囲の人間達をすり抜けて川岸へと向かっていた。
オレはひとまず追いかけつつ、声をかける。
「ちょっと待って下さい。あなたは大丈夫なんですか?」
「何だと? お前……平気なのか?」
男はかなり驚いた様子だった。
どうやらこうなることを予想していて、なおかつオレが影響されずに動いている事は全く想定外だったらしい。
「そうか! やっぱりお前も!」
男はいきなり槍の切っ先を突きつけてくる。
この人にはさっき【平静】をかけて効かなかったけど、たぶんそれと同じでこの周囲を覆っている異様な状態の影響を受けていないのは間違いない。
オレの場合は、魔力が常人を二桁は上回っているので、そこらの魔法は通用しないのだけど、この人はそんな事はないはずだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。別にあなたと争う気なんてありませんよ。もちろんドラゴンの卵を狙ってなどいません」
オレはひとまず距離を置いて、どうにか男を制止しようとする。
「あなたはいま何が起きているのか分かっているのですか?」
「お前は本当に知らないのか? それでどうして平然としているんだ? まあいい……」
怪訝な表情を浮かべつつ、男はひとまず槍の穂先を下げる。
どうやら少しは信じてもらえたらしい。
いや。オレがあまり『マヌケ』に見えたので、さすがに『卵を狙うライバル』とは思わなかったのかもしれないな。
「ええ。良かったら教えて下さい。お願いします」
「しかたないな……ほら。あのドラゴンの卵に施された紋様を見ろよ」
よくよく見ると紋様は微妙に動いており、まるで生きているかのように脈打っている。
そしてまるで心が吸い寄せられるような気がしてくるようだ。
「まさか?! あの紋様は人を惑わせるもの?」
「そういうことだ。お前はただのガキかと思っていたがな……」
そういえば流れてくるドラゴンの卵の殻には強い魔力が込められていて、人を近づけないようになっていたと言っていたな。
つまり普通の人間はその殻を目にしただけで、心を奪われて動けなくなる魔法の紋様が描かれているということか。
いや。それだけではなくもっと別の魔力だってあるかもしれない。
そしてこの男はオレの【平静】が効かなかった事から、その手の精神操作魔法が効かない ―― 少なくとも非常に効きにくい ―― ということらしい。
しかしそれはちょっと解せないぞ。
「そんな大事な事をなぜ殆どの人が知らないんです?」
これだけの野次馬はもちろん卵を目当てに、来ている連中ですらそんな肝心な事を知らなかったとはあまりにも不自然だ。
「決まっている。ドラゴンの卵の紋様について知っている奴は殆ど生き残っていないからさ」
ああそうか。バラストールがドラゴンに滅ぼされた時に、関係者と河沿いの集落はほぼ全滅しているし、当然記録も殆ど焼失しているはずだ。
情報が一瞬で世界を駆け巡る元の世界ならいざ知らず、こっちではそんなに簡単に広まらないし『流れてくる丸いもの』を略奪して栄えていたバラストールも、もっと上流で奪われたら困るから、そういう肝心な情報は隠していただろう。
そんなわけで殆どの人間はドラゴンの卵の紋様を見ると、魅入られて動けなくなると事を知らなかったのだ。
「それでどうしてあなたは無事なんですか?」
「お前こそなんで大丈夫なんだよ……まあオレの場合はこの槍があるからな」
ここで男は少しばかり自慢げに槍の穂先を指差す。
「ドラゴンの卵の殻からつくったこの槍があれば魔法が効かない……とまでは言わないが、強い抵抗力があるのさ」
なるほど。ドラゴンの卵の殻を加工してつくったアイテムには強い魔力がこもっていると言われていたけど、それが具体的に何なのかは聞いていなかった。
全てが同じかどうかは分からないけど、千人を超える人間を一瞬にして金縛り状態にするような魔法を弾くことが出来るのなら ―― そしてこのオレの魔法まで効かないのなら ―― そりゃもの凄い値段がついて当然だろう。
「バラストールの町でも最初はあれに手を焼いて、強い魔法使いを集め、町の神の助力を得てどうにか最初の卵を解体するのに成功したんだ」
う~ん。そこまでは分かった。
この男も決して勝算無く、あのドラゴンの卵に挑んでいるわけではなかったのだ。
しかし待てよ。
強力な魔法使いはまだしもロブ・エッグで得られた卵の殻を加工したアイテムを持っていれば、そのドラゴン卵の魔力に幻惑されないとなると、それが意味するものは――
「おお! 邪魔者が減ったな!」
「あの卵はオレのものだ!」
やっぱり! この男以外にも卵の殻からつくったアイテムを持っている人間は少数でもいたんだ。
しかも当然というから、そいつらは卵を略奪しようとしている側らしい ―― そりゃドラゴンの怒りを恐れて、卵を守ろうとしている側がその怒りを買いかねないアイテムを身につけているとは思えないからな。
オマケにこいつらはオレの【調和】では止める事も出来ない。
いったいどうすればいいんだ?
それは誰もが固唾を呑んで卵を見守っている。そのような印象を与える光景だったのだ。
しかしいくら何でもおかしいぞ。
そりゃ中にはそういう人間がいても不思議では無いけど、見渡す限り千人を超える人間の殆どが動きを止めているのだ。
ついさっきまでドラゴンの卵を巡って口論していた連中ですら、揃って動きを止めて卵を惚けた様子で見つめている。
いったいこれはどういうことなんだ?
こっちが困惑している中で、さっきの槍の男は制止した周囲の人間達をすり抜けて川岸へと向かっていた。
オレはひとまず追いかけつつ、声をかける。
「ちょっと待って下さい。あなたは大丈夫なんですか?」
「何だと? お前……平気なのか?」
男はかなり驚いた様子だった。
どうやらこうなることを予想していて、なおかつオレが影響されずに動いている事は全く想定外だったらしい。
「そうか! やっぱりお前も!」
男はいきなり槍の切っ先を突きつけてくる。
この人にはさっき【平静】をかけて効かなかったけど、たぶんそれと同じでこの周囲を覆っている異様な状態の影響を受けていないのは間違いない。
オレの場合は、魔力が常人を二桁は上回っているので、そこらの魔法は通用しないのだけど、この人はそんな事はないはずだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。別にあなたと争う気なんてありませんよ。もちろんドラゴンの卵を狙ってなどいません」
オレはひとまず距離を置いて、どうにか男を制止しようとする。
「あなたはいま何が起きているのか分かっているのですか?」
「お前は本当に知らないのか? それでどうして平然としているんだ? まあいい……」
怪訝な表情を浮かべつつ、男はひとまず槍の穂先を下げる。
どうやら少しは信じてもらえたらしい。
いや。オレがあまり『マヌケ』に見えたので、さすがに『卵を狙うライバル』とは思わなかったのかもしれないな。
「ええ。良かったら教えて下さい。お願いします」
「しかたないな……ほら。あのドラゴンの卵に施された紋様を見ろよ」
よくよく見ると紋様は微妙に動いており、まるで生きているかのように脈打っている。
そしてまるで心が吸い寄せられるような気がしてくるようだ。
「まさか?! あの紋様は人を惑わせるもの?」
「そういうことだ。お前はただのガキかと思っていたがな……」
そういえば流れてくるドラゴンの卵の殻には強い魔力が込められていて、人を近づけないようになっていたと言っていたな。
つまり普通の人間はその殻を目にしただけで、心を奪われて動けなくなる魔法の紋様が描かれているということか。
いや。それだけではなくもっと別の魔力だってあるかもしれない。
そしてこの男はオレの【平静】が効かなかった事から、その手の精神操作魔法が効かない ―― 少なくとも非常に効きにくい ―― ということらしい。
しかしそれはちょっと解せないぞ。
「そんな大事な事をなぜ殆どの人が知らないんです?」
これだけの野次馬はもちろん卵を目当てに、来ている連中ですらそんな肝心な事を知らなかったとはあまりにも不自然だ。
「決まっている。ドラゴンの卵の紋様について知っている奴は殆ど生き残っていないからさ」
ああそうか。バラストールがドラゴンに滅ぼされた時に、関係者と河沿いの集落はほぼ全滅しているし、当然記録も殆ど焼失しているはずだ。
情報が一瞬で世界を駆け巡る元の世界ならいざ知らず、こっちではそんなに簡単に広まらないし『流れてくる丸いもの』を略奪して栄えていたバラストールも、もっと上流で奪われたら困るから、そういう肝心な情報は隠していただろう。
そんなわけで殆どの人間はドラゴンの卵の紋様を見ると、魅入られて動けなくなると事を知らなかったのだ。
「それでどうしてあなたは無事なんですか?」
「お前こそなんで大丈夫なんだよ……まあオレの場合はこの槍があるからな」
ここで男は少しばかり自慢げに槍の穂先を指差す。
「ドラゴンの卵の殻からつくったこの槍があれば魔法が効かない……とまでは言わないが、強い抵抗力があるのさ」
なるほど。ドラゴンの卵の殻を加工してつくったアイテムには強い魔力がこもっていると言われていたけど、それが具体的に何なのかは聞いていなかった。
全てが同じかどうかは分からないけど、千人を超える人間を一瞬にして金縛り状態にするような魔法を弾くことが出来るのなら ―― そしてこのオレの魔法まで効かないのなら ―― そりゃもの凄い値段がついて当然だろう。
「バラストールの町でも最初はあれに手を焼いて、強い魔法使いを集め、町の神の助力を得てどうにか最初の卵を解体するのに成功したんだ」
う~ん。そこまでは分かった。
この男も決して勝算無く、あのドラゴンの卵に挑んでいるわけではなかったのだ。
しかし待てよ。
強力な魔法使いはまだしもロブ・エッグで得られた卵の殻を加工したアイテムを持っていれば、そのドラゴン卵の魔力に幻惑されないとなると、それが意味するものは――
「おお! 邪魔者が減ったな!」
「あの卵はオレのものだ!」
やっぱり! この男以外にも卵の殻からつくったアイテムを持っている人間は少数でもいたんだ。
しかも当然というから、そいつらは卵を略奪しようとしている側らしい ―― そりゃドラゴンの怒りを恐れて、卵を守ろうとしている側がその怒りを買いかねないアイテムを身につけているとは思えないからな。
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