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第12章 強奪の地にて
第351話 こぎ出した川面にて
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これまでにもオレの魔法がなかなか通用しない相手に出会ったことは何度もある。しかしそいつらもまた何らかの付け入る隙があるか、ある程度は話し合いが出来た。
だがここにいる連中は目の前のドラゴンの卵が、莫大なカネになると知った上でドラゴンの怒りがこの地に降り注ぐ事を承知して行動しているのだ。
これが霊体だったら、オレにもまだやれることはあったと思うけど、魔法の効かない生身の人間よりとなると本当にどうしようもない。
やっぱり欲に目がくらんだ人間が一番始末に負えないのは、どこに行っても同じということなんだなあ。
いずれにせよこの状況でオレがやるべき最優先はドラゴンの卵を守って、どうにか川を無事に下らせてやることだ。
そのためにはちょっとばかり、無理をする必要もあるだろう。
そんなわけでオレは川岸で船を出そうとする槍の男にところに駆けつける。
非常時だからもう同行者は選んでられない。
「すみません。お手伝いさせて下さい」
この男の目的は『ドラゴンの卵を人質にしてドラゴンにもう人間社会に関わらないよう要求する』というものだから、当然オレとは相容れない。
しかし欲に目がくらんで行動しているわけではないし、それなりに話が通じると言う事で、今は頼りにさせてもらおう。
ダメだったら ―― 不本意だけど『女の武器』を使う事も考えようか。
「おい! お前、どうするつもりだ?」
男の方はやっぱり驚いているようだ。
そりゃまあこの人にしてみれば、オレはただの通りすがりの旅人だと思っていたら、ドラゴンの卵に施された魔法に影響されず、何のつもりで同行しているのか見当もつかないのだから、怪しく見えて当然だろう。
「今はお互いに協力しましょうよ。ドラゴンの卵のことはあちらのライバル方をどうにかしてからゆっくりと考えるというのどうでしょうか?」
オレのこの返答に対して、男は警戒をその顔に浮かべる。
「お前……やっぱりどこかから送り込まれてきたのか……だからドラゴンの魔力にも魅入られなかったのだな?」
ここでムキになって否定したところでただ口論になって、時間を無駄にするだけだ。
しかたないのでここは、適当にはぐらかすとしよう。
文句は後でなら幾らでも聞きますから。
「おい。俺に近づいてきたのも、さっきからいろいろ聞いてきたのも、何かの目的があったのだな。どういうつもりだ」
「もちろん目的はありました。しかし決してあなたの敵になるつもりはありません」
「それなら仲間は何人いる? そいつらはいったいどこで何をしているんだ」
「仲間はいません。ここには一人で来ました」
「……」
あからさまに疑いの視線だな。
そりゃまあオレがあっちの立場でも信じないとは思うけど。
「まあいいだろう。今はお前の言葉を信じよう」
信じてくれたの? いや。たぶん違う。
当たり前だけど、この男だって幾人もの卵を巡るライバルがいるなか、一人で行動するのは不安に決まっている。
それでとりあえず道連れが欲しいので、怪しくてもオレの同行を許したというところなんだろうな。
そういえば神様について何も言わないけど、たぶんバラストールの町が滅んだ時に、何も出来なかった町の神に失望して ―― または『裏切られたと思って』 ―― 信仰心を失ったのかもしれない。
「とにかく急ぐぞ。他にもあれこれいるからな」
見ると既に何艘もの船が卵に近づいている。
当然ながら船同士でぶつけ合ったり、相手の船に乗り込んだりして争いも始まっている。
見た人間を動けなくする魔法で覆われたドラゴンの卵を視界内において行動出来る者がごく少数しかいないので、最初に危惧していたように大勢の犠牲が出るような事は無いけど、それでも幾人かの死傷者は避けられないか。
とにかく今は魔法でどうにかするしかないな。
これが森の中だったら【成長加速】や【植物歪曲】の魔法によって植物を操って手助けをさせられるけど、川の上ではその系統は使えない。
そんなわけでオレは川に住んでいる水の精霊に対し【精霊使い】の魔法でお願いする事にした。
基本サポート役であるオレの場合【命令】系の魔法はダメだが、相手と親しくなる系統の魔法は使える。
もちろん【命令】ではないので危険な事はさせられないし、当然ながらタダでは動いてくれないので、オレの場合は対価として魔力を相手に注ぐ必要があるが、相手の船をひっくり返す傍ら、こっちの船を加速させるぐらいならどうにかなるはずだ。
なるだけ溺れる人が出ない事を祈るしかないな。
そんなわけでオレが魔力を川面に注ぎ込んでしばらく願うと、他の船が次々と大きく揺れ始めて勝手に動き回り、次々に座礁や転覆を始めた。
それを見て船を動かしていた槍の男は驚きの声を挙げる。
「むう。川の精霊が暴れているのか。しかも一体や二体じゃないぞ……いったい何が起きたんだ?」
並の魔法使いなら精霊は一体動かすのがせいぜいだから、いきなりこんなことになれば、驚くのは当然か。
「今はそんな事を考えている場合ではありません。早く卵のところに行きましょう」
「そうだな……分かった」
とりあえライバル達をどうにか引き離したところでオレ達は卵に近づく。
順調過ぎる展開だけど、そんなにうまくいくはずがないとオレは脈打つ紋様に覆われた卵を前に改めて気を引き締めるのだった。
だがここにいる連中は目の前のドラゴンの卵が、莫大なカネになると知った上でドラゴンの怒りがこの地に降り注ぐ事を承知して行動しているのだ。
これが霊体だったら、オレにもまだやれることはあったと思うけど、魔法の効かない生身の人間よりとなると本当にどうしようもない。
やっぱり欲に目がくらんだ人間が一番始末に負えないのは、どこに行っても同じということなんだなあ。
いずれにせよこの状況でオレがやるべき最優先はドラゴンの卵を守って、どうにか川を無事に下らせてやることだ。
そのためにはちょっとばかり、無理をする必要もあるだろう。
そんなわけでオレは川岸で船を出そうとする槍の男にところに駆けつける。
非常時だからもう同行者は選んでられない。
「すみません。お手伝いさせて下さい」
この男の目的は『ドラゴンの卵を人質にしてドラゴンにもう人間社会に関わらないよう要求する』というものだから、当然オレとは相容れない。
しかし欲に目がくらんで行動しているわけではないし、それなりに話が通じると言う事で、今は頼りにさせてもらおう。
ダメだったら ―― 不本意だけど『女の武器』を使う事も考えようか。
「おい! お前、どうするつもりだ?」
男の方はやっぱり驚いているようだ。
そりゃまあこの人にしてみれば、オレはただの通りすがりの旅人だと思っていたら、ドラゴンの卵に施された魔法に影響されず、何のつもりで同行しているのか見当もつかないのだから、怪しく見えて当然だろう。
「今はお互いに協力しましょうよ。ドラゴンの卵のことはあちらのライバル方をどうにかしてからゆっくりと考えるというのどうでしょうか?」
オレのこの返答に対して、男は警戒をその顔に浮かべる。
「お前……やっぱりどこかから送り込まれてきたのか……だからドラゴンの魔力にも魅入られなかったのだな?」
ここでムキになって否定したところでただ口論になって、時間を無駄にするだけだ。
しかたないのでここは、適当にはぐらかすとしよう。
文句は後でなら幾らでも聞きますから。
「おい。俺に近づいてきたのも、さっきからいろいろ聞いてきたのも、何かの目的があったのだな。どういうつもりだ」
「もちろん目的はありました。しかし決してあなたの敵になるつもりはありません」
「それなら仲間は何人いる? そいつらはいったいどこで何をしているんだ」
「仲間はいません。ここには一人で来ました」
「……」
あからさまに疑いの視線だな。
そりゃまあオレがあっちの立場でも信じないとは思うけど。
「まあいいだろう。今はお前の言葉を信じよう」
信じてくれたの? いや。たぶん違う。
当たり前だけど、この男だって幾人もの卵を巡るライバルがいるなか、一人で行動するのは不安に決まっている。
それでとりあえず道連れが欲しいので、怪しくてもオレの同行を許したというところなんだろうな。
そういえば神様について何も言わないけど、たぶんバラストールの町が滅んだ時に、何も出来なかった町の神に失望して ―― または『裏切られたと思って』 ―― 信仰心を失ったのかもしれない。
「とにかく急ぐぞ。他にもあれこれいるからな」
見ると既に何艘もの船が卵に近づいている。
当然ながら船同士でぶつけ合ったり、相手の船に乗り込んだりして争いも始まっている。
見た人間を動けなくする魔法で覆われたドラゴンの卵を視界内において行動出来る者がごく少数しかいないので、最初に危惧していたように大勢の犠牲が出るような事は無いけど、それでも幾人かの死傷者は避けられないか。
とにかく今は魔法でどうにかするしかないな。
これが森の中だったら【成長加速】や【植物歪曲】の魔法によって植物を操って手助けをさせられるけど、川の上ではその系統は使えない。
そんなわけでオレは川に住んでいる水の精霊に対し【精霊使い】の魔法でお願いする事にした。
基本サポート役であるオレの場合【命令】系の魔法はダメだが、相手と親しくなる系統の魔法は使える。
もちろん【命令】ではないので危険な事はさせられないし、当然ながらタダでは動いてくれないので、オレの場合は対価として魔力を相手に注ぐ必要があるが、相手の船をひっくり返す傍ら、こっちの船を加速させるぐらいならどうにかなるはずだ。
なるだけ溺れる人が出ない事を祈るしかないな。
そんなわけでオレが魔力を川面に注ぎ込んでしばらく願うと、他の船が次々と大きく揺れ始めて勝手に動き回り、次々に座礁や転覆を始めた。
それを見て船を動かしていた槍の男は驚きの声を挙げる。
「むう。川の精霊が暴れているのか。しかも一体や二体じゃないぞ……いったい何が起きたんだ?」
並の魔法使いなら精霊は一体動かすのがせいぜいだから、いきなりこんなことになれば、驚くのは当然か。
「今はそんな事を考えている場合ではありません。早く卵のところに行きましょう」
「そうだな……分かった」
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