異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第12章 強奪の地にて

第355話 ここで一つの打開策に

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 少しばかりの沈黙を余儀なくされたオレに対してモンローフは畳み掛けるように迫ってくる。

「さあどうなんだ? 答えてみろ」
「あなたの言う通り、わたしはここに留まる気はありませんし、次に卵が流れてきたときにはどうする事も出来ないでしょう」

 オレは観念して正直に答える。
 この場を切り抜けるだけだったら、デタラメな事を幾らでも言えただろうけど、オレの頼みを聞いて命懸けて戦ってくれたモンローフを欺く事は出来なかった。

「そうだろう。だったら俺の邪魔をするな」
「待ってください。確かにバラストールのような悲劇を繰り返さないために、ドラゴンには卵をもう流さないよう、要求するのはいいでしょう。しかしそのために卵を人質にするのでは、相手の神経を逆なでするだけですよ」

 ドラゴンの思考回路はオレにもよくわからないけど、少なくとも自分たちの卵を略奪されて激怒し、相手を滅ぼす事は分かっているのだ。
 そんな相手が自分たちより明らかに脆弱で力の劣る存在から脅迫されて、はいそうですかと言いなりになるとは思えない。

「それでドラゴンが怒って、また攻撃してきたらどうするのです?」
「その場合は俺が死ぬだけだ」
「あなただって分かっているはずですよ。本当にドラゴンが怒ったら、そんな程度で済むはずがないということを。そしてその怒りは関係した人間だけ降り注ぐわけではないことも」

 なにしろモンローフの父親はバラストールの町にドラゴンの卵の略奪を止めさせようとして、怒り狂ったドラゴンによって町ごと滅ぼされてしまったのだ。
 ドラゴンにすれば人間の中に自分達の怒りの対象がいたら、そこの地の人間をまとめて消し去るぐらい何でもないことだろう。
 それは例えるなら人間が蜂の巣をそっくり駆除するのと近い心理かもしれない。

「つまりあなたが死ぬだけでは終わらない、それどころか大勢の人が巻き込まれて命を落とす可能性が高いのですよ」
「だからどうした」

 開き直った? いや。最初からそれぐらい分かっているんだろうな。

「どうせここにいる連中も金目当てでドラゴンの卵を狙うか、せいぜい面白がって見物している連中が大半だろう。そんなやつらがどうなろうと俺の知った事では無い」
「それは嘘ですね。いえ……強がりでしょう」
「何だと!」

 モンローフはその肩をいからせてオレを睨み付けてくる。
 この状況でモンローフに槍を振るわれたら、オレは川に飛び込んで逃げるぐらいしか出来ないので、正直に言って結構怖い。
 しかしここで引くぐらいなら、そもそもクビを突っ込んだりしないのだ。

「あなたも本心では多くの人達を守りたいのでしょう? だからこそドラゴンと交渉して卵を流さないようにしようとしているのではないですか」
「それは……」
「もっと言えばお父さんの無念を晴らし、またその正しさを多くの人達に知ってもらいたいという面もあると思いますけど」
「何を賢しげに人の心を決めつけているか! いや……お前は人ではないからそう言えるのか……」

 そう言われるとこっちも複雑だ。
 そしてオレはここで周囲の争いなど関係無く、流れていく卵に視線を向ける。

「確かにあなたの言うとおり、この卵を守ってもわたしには次はどうする事も出来ません。何よりドラゴンが何を考えているのか、そして今後の事も分からない以上、あくまでも一時凌ぎでしかないでしょうね」
「だったらなおさら――」
「しかしドラゴンと交渉するにしても、卵を人質にするモンローフさんのやり方ではダメだと言っているんです」
「それではお前はどうしろと……いや。俺はどうすればいいんだ」

 オレ自身もついさっきまで、目の前の卵を守ってこの場をどうにか切り抜ける事しか考えていなかったわけだけど、それでも一つだけ思い当たる事があった。
 もちろんそんな大したものではない。
 それでもこの問題を解決出来る糸口にはなるはずだ。

「モンローフさん。あなたがこの地で仲間を募って、ドラゴンの卵を守る組織を立ち上げるのですよ」
「なんだと?! この俺がか?」

 オレのこの提案にモンローフはかなり驚いた様子だ。

「もちろんドラゴンの卵を守るだけというワケにはいかないでしょうから、普段は今まであなたがやってきたように、地元の人達のトラブルに武力を提供する形で糧を得て、いざという時に備える事になるでしょうけどね」
「そんなの簡単にいくはずがなかろうが」
「確かに永遠に守り続ける事は出来ないかもしれません。しかし本当にドラゴンと交渉するにしても、卵を人質にするよりも卵を守ってきた実績をアピールした方がまだ話が通じる可能性は高いと思いますよ」

 もちろん自分でもかなり穴のある話だという事は分かっているつもりだ。
 ドラゴンがどこまで人間の意向を汲んでくれるか、オレにも全く分からないし、欲にかられた連中から卵を守り切るのも難しいだろう。
 しかし現状ではもっとも現実的な道だと思う。
 そしてモンローフは俺のこの提案に対して、いからせた肩を小さく落とす。

「正直に言えば……同じように考えた事はある。しかし俺ひとりではとても無理だと思って諦めたんだ……」

 ドラゴンの卵の殻からつくられた装備を身につけていない並の人間はドラゴンの卵を見ただけで、硬直して動けなくなるわけだから、モンローフが仲間を募るのを躊躇したのは当然だろう。
 しかし! その問題なら既に解決しているのだ!

「大丈夫ですよ! これを見て下さい」
「な、何だ?」

 オレが合図をすると、水の固まりが船の横から起き上がって船の中にいろいろなものをはき出した。
 それは大半がモンローフの手にした槍と同じ材質の武器だった。

「さっきの戦いで川に落ちた卵の殻製の武器を水の精霊に頼んで拾ってもらっていたんです。これならモンローフさんが仲間を募る事は出来るでしょう」
「お……お前は本当に……」

 モンローフは絶句しつつ、オレを呆然と見つめていた。
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