異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第12章 強奪の地にて

第364話 思わぬ卵の力が

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 ダンギムが先祖代々の名誉だとか信仰心だとかの発露で、オレにあれこれ聞いてくるのは、まあいいのだけど、何しろ現在オレ達は川を下るドラゴンの卵の上に乗っているわけで、足場も不安定だし、二人とも全身ずぶ濡れだ。
 しかもいつ何時、卵を略奪すべく次の脅威が出てくるのかも分からない。
 オレの方はまだいいけど、ダンギムの方は大丈夫なんだろうか。
 申し訳ないけど、攻撃を受けたら彼の方はとても守り切る自信が無い。何しろ泳げないから、ちょっとした攻撃で足を滑らせたら、それでドザエモンになりかねない。
 やっぱりまだ余裕があるうちに、降りてもらった方がいいだろうな。
 命の危険を顧みず、後先も考えず無謀にもやってきたダンギムには悪いけど、研究の業績はもっと別のところで挙げてもらうしかない。

 だがオレがそんな事を考えているとは、夢にも思っていないらしいダンギムはまたドンドンと迫ってくる。
 全く嬉しくないけど男に迫られた経験は過去何度もあるが、こうも軽々しく間合いを詰めてくる相手は初めてな気がするぞ。
 しかしここで思いもかけぬ事が起きる。

「それでは次の話ですが――」

 ダンギムはここでどういうわけか、急に崩れて卵の上にまた四つん這いとなる。

「あれ? ダンギムさん? どうしたんですか?!」

 見るとダンギムの顔はすっかり蒼白となっている。
 明らかに体調が悪そうだ。

「申し訳ありません……急に身体に力が入らなくなって……」

 これは一体どういうことだろうか。
 もしかすると水に浸かったことで体が冷えて体調を崩したのかもしれない。
 オレの場合は、これぐらいのことではビクともしないけど、ダンギムは普通の人間だから、こんなことでも下手をすれば肺炎になって、命に関わることにもなりかねないぞ。
 仕方ないからここは【病の治療】キュア・ディシーズでダンギムの体調を戻すことにしよう。

「とにかく今はこれでどうにかなるでしょう」

 オレがダンギムに魔法をかけると――まるで状況が変わらない?
 いや。むしろ見る見る蒼白になっていくぞ。
 つまりこれは病気ではない。もっと何か別の事が起きているんだ。
 そういえばどこかで見た覚えがある、と思ったら以前にバッド・ディールで出会った、イロールのまがい物が行ったのとどこか似ているように感じられる。
 もちろんあれほどあっという間に人間の命を吸い尽くすような威力はないようだけど、それでも時間をかければダンギムの精力を吸い尽くすことになるかもしれない。
 そういえばオレも先ほどから、ちょっと体がだるい気がしていたがこれはまさか?!

「ちょっと……ええと。精霊さん!」

 卵の精霊の名前を聞いてなかった事に今さら気がついたが、とにかく呼びかける。

『なんだ? 先ほどから我の事は二人して知らん顔をしていたから、もうどうでもいいのかと思っていたぞ』
「いえ。そういうわけでも無かったと言いますか、むしろそっちに彼が深入りしないようにしていたと思って下さい」

 実のところ特にそこまで意識していたワケでも無い。
 しかし卵の精霊にすれば、部外者がどうなろうと知った事では無いのは明らかだし、またダンギムはそれでも危険を承知で関わろうとするだろうから、オレが相手をしたのは間違っていないとは思う。

『それはいいが、その男がどうかしたのか?』
「ひょっとしてこの卵の上にいると何かあるのでしょうか。卵の魔法が上に乗っている相手に作用するのではありませんか?」

 冷静に考えればこの卵には、強力な守護の魔法が幾つもかかっているんだ。
 オレには殆ど効果は無いから、軽く考えていたし、ダンギムもその卵の殻でつくったアイテムを身につけているから抵抗力はあるかもしれないけど、やはり効果を受けているに違いない。

『心配せずとも我は何もしてはおらぬ。だがこの卵は周囲の魔力を吸収して、中の子供の糧に変えているのだ』
「ええ? それではまさか?」

 さっきから身体が重かったのはそれが理由か。
 オレの場合は有している魔力も桁外れだから、ちょっと体調が悪いぐらいで済んだけど、常人のダンギムにとっては魔力どころか命まで削られる程になっているらしい。

「どうしてそれを言ってくれなかったんですか?」
『そなたが平気な顔をしていたし、卵の紋様の魔力も通じない様子だったからな。お前達には気にするような事では無いのかと思っていたぞ』

 ああそうか。この精霊にとっては外の世界の人間の事など知りもしなかったし、その生死まで含めて興味も無かったんだな。
 たぶんバラストールで卵を略奪していたときは、戦った人間が魔力を吸収される前に卵の生命が絶たれていたから、それはあまり問題にならなかったのだろう。
 しかしこのままではダンギムの魔力どころか、命まで吸い取られてしまうに違いない。
 こうなってはやむを得ないか。
 オレは水の精霊を呼び出し、斃れたダンギムを預ける。

「お願いしますから、この人を岸まで送り届けて下さい」

 オレが魔力を提供しつつ頼むと、水の精霊はダンギムの身をあっという間に岸に打ち上げる。
 殆ど話も出来なかったし、その向こう見ずな探究心には、今後に不安を感じずにはいられないが、本当に彼が『神の目にとまる』と自負するに足る成果を挙げる事を祈っておくよ。
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