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第12章 強奪の地にて
第365話 卵が魔力を糧にしていると
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川岸に打ち上げられたダンギムは、次第に遠く小さくなっていく。
ただ起き上がってこちらを見ている様子から、貴重な機会を失ってしまった事を残念がっているらしい。命の危険があったのに、凄い知識欲と言うべきか、それとも暢気と言うべきかはオレには分からない。
何にせよダンギムは無事なようでそこは一安心だが、このドラゴンの卵は存在するだけで周囲から魔力を吸収していたのか。
いや。卵そのものが吸収しているのではなく、ドラゴンが殻に刻み込んだ魔法の紋様がそうやって魔力を集めて、卵の中身の成長を助けるようにしているのだろう。
冷静に考えればありがちな話だけど、オレの場合、魔力がケタ外れだったのとその前の戦いでちょっと疲労していた事もあって気がつかなかったんだ。
この世界、魔力がポイントでステータスシートに簡単に表示されるような事など無いので、細かい所は分からないからな。
だけど一つの社を預かっているというダンギムがせいぜい数分で力尽きてしまうとなると、相当な魔力を周囲からくみ上げているのは間違いない。
もしもこの卵が一箇所に留まっていたら、あっという間にその周囲の土地は不毛の荒野と化してしまうのではあるまいか。
ひょっとしたらドラゴンが卵を川に流すのも、それが理由だったのかもしれないな。
もしかすると人間が集まってきて、卵を見物したまま動けなくなるのは卵を守るためだけでなく集まった人間から魔力を吸収するためなのかもしれない。
もしもこれにダンギムが気付いたら、知識神の信徒として立派な業績となるんじゃないだろうか。彼がこの一件から、何かを得て自らの糧とする機会が得て欲しいものだ。
そうでないとあの向こう見ずな男は、また何かあったときに命がけでクビを突っ込むだろうから、他人事ながらこっちが心配でたまらない。
それはともかく本当にこの卵に魔力が吸われているというなら、オレもとっとと降りるべきだろうか。
だけどその場合、下流でこの卵が破壊されてしまいかねないので、そういうわけにもいかないな。ドラゴンの怒りが降り注ぐのを止めるのが、元々の目的なんだから。
とにかく可能な限り付き合って、後の事はそこから考えよう――結局は行き当たりバッタリだけど仕方ない。
「ところでこのドラゴンの卵が周囲から魔力を吸収する事で成長を助けるとして、それが無ければどれぐらいの期間で卵はふ化するんですか?」
『生憎だが我もそれは知らん』
うう。そんな事だろうとは思ってはいたけど、やっぱりこの精霊はあんまりドラゴンの事についての知識は無いらしい。
『もちろん吸収した魔力に応じて成長が加速するのは間違いないが、具体的にいつどうなるのかもこちらには分からないな』
そりゃまあどれだけの魔力を得たら、卵の成長がどうなるかとか、そんな研究成果があるわけではないだろうし、何よりも生き物だから個体差もあるだろう。
結局、そのあたりはひょっとするとドラゴン自身にも大ざっぱな見当ぐらいしかつかないのかもしれない。
だけどドラゴンが欲の皮の突っ張った人間に卵を略奪されてしまいかねない事を承知で卵を川に流しているのは、その危険があっても卵を早く育てたいのかもしれないな。
むしろ『卵の世話が面倒臭い』なんて理由だったりするかもしれないけど、やっぱりそのあたりは想像するだけ無意味か。
それよりももっと確認すべき事は他にある。
「一つ聞きますけど、吸収した魔力で卵が育つとして、その相手の影響を受けたりするんですか? たとえば人間からずっと魔力を得ていたら、生まれた子供が人間ぽくなるとか?」
『そなたは植物を食べている人間は、植物に近づくとか、魚を食べている人間が魚になると考えているのか? そんなはずはあるまい』
「それもそうですね」
何から魔力を得ようが、それを卵の糧にしているだけなんだから生まれるドラゴンに影響があるはずがないか。
それにドラゴンからすれば、生まれた子供が人間ぽくなるというのは、言ってみれば『下等な動物』に近づくわけでそんなの真っ平だろう。
まあ神様が人間体の化身を作り出してまでわざわざ人間とチョメチョメするのに比べたら、まだ肉体を持った存在であるドラゴンが人間に化身した上で恋をするのもありなのかもしれないけどな。
しかし他の地域のドラゴンがさすがに全部同じ事をしているはずがない――もしもそんな事があったなら同様の事例が頻発しているに違いない。
そういう意味ではドラゴンも結構多様なんだな。
出来ればわざわざ実体験などしたくは無かったけど。
オレがそんな事を考えている間も、卵はドンドン下流に流れ周囲の景色も変わっていく。
いつの間にやら川の両岸は森になり、大勢いた見物人もこのあたりにはいないようだ。
そして日も沈んで来て、かなり暗くなっている。
「ところでこの卵の上で休ませてもらっていいですか?」
『それは構わんが、この卵とずっと一緒でも平気とは本当にそなたは桁違いの存在だな。有する魔力で言えば親のドラゴンもずっと凌駕しているだろう』
ふうん。ドラゴンでも魔力はそんなものなのか。
それが分かっただけでも一つの成果と言えるかな。
そんな事を考えつつ、オレは卵に張り付いた状態で眠る事にした。今までいろいろなところで過ごしてきたけど、今回が一番とんでもない状況のような気がするな。
ただ起き上がってこちらを見ている様子から、貴重な機会を失ってしまった事を残念がっているらしい。命の危険があったのに、凄い知識欲と言うべきか、それとも暢気と言うべきかはオレには分からない。
何にせよダンギムは無事なようでそこは一安心だが、このドラゴンの卵は存在するだけで周囲から魔力を吸収していたのか。
いや。卵そのものが吸収しているのではなく、ドラゴンが殻に刻み込んだ魔法の紋様がそうやって魔力を集めて、卵の中身の成長を助けるようにしているのだろう。
冷静に考えればありがちな話だけど、オレの場合、魔力がケタ外れだったのとその前の戦いでちょっと疲労していた事もあって気がつかなかったんだ。
この世界、魔力がポイントでステータスシートに簡単に表示されるような事など無いので、細かい所は分からないからな。
だけど一つの社を預かっているというダンギムがせいぜい数分で力尽きてしまうとなると、相当な魔力を周囲からくみ上げているのは間違いない。
もしもこの卵が一箇所に留まっていたら、あっという間にその周囲の土地は不毛の荒野と化してしまうのではあるまいか。
ひょっとしたらドラゴンが卵を川に流すのも、それが理由だったのかもしれないな。
もしかすると人間が集まってきて、卵を見物したまま動けなくなるのは卵を守るためだけでなく集まった人間から魔力を吸収するためなのかもしれない。
もしもこれにダンギムが気付いたら、知識神の信徒として立派な業績となるんじゃないだろうか。彼がこの一件から、何かを得て自らの糧とする機会が得て欲しいものだ。
そうでないとあの向こう見ずな男は、また何かあったときに命がけでクビを突っ込むだろうから、他人事ながらこっちが心配でたまらない。
それはともかく本当にこの卵に魔力が吸われているというなら、オレもとっとと降りるべきだろうか。
だけどその場合、下流でこの卵が破壊されてしまいかねないので、そういうわけにもいかないな。ドラゴンの怒りが降り注ぐのを止めるのが、元々の目的なんだから。
とにかく可能な限り付き合って、後の事はそこから考えよう――結局は行き当たりバッタリだけど仕方ない。
「ところでこのドラゴンの卵が周囲から魔力を吸収する事で成長を助けるとして、それが無ければどれぐらいの期間で卵はふ化するんですか?」
『生憎だが我もそれは知らん』
うう。そんな事だろうとは思ってはいたけど、やっぱりこの精霊はあんまりドラゴンの事についての知識は無いらしい。
『もちろん吸収した魔力に応じて成長が加速するのは間違いないが、具体的にいつどうなるのかもこちらには分からないな』
そりゃまあどれだけの魔力を得たら、卵の成長がどうなるかとか、そんな研究成果があるわけではないだろうし、何よりも生き物だから個体差もあるだろう。
結局、そのあたりはひょっとするとドラゴン自身にも大ざっぱな見当ぐらいしかつかないのかもしれない。
だけどドラゴンが欲の皮の突っ張った人間に卵を略奪されてしまいかねない事を承知で卵を川に流しているのは、その危険があっても卵を早く育てたいのかもしれないな。
むしろ『卵の世話が面倒臭い』なんて理由だったりするかもしれないけど、やっぱりそのあたりは想像するだけ無意味か。
それよりももっと確認すべき事は他にある。
「一つ聞きますけど、吸収した魔力で卵が育つとして、その相手の影響を受けたりするんですか? たとえば人間からずっと魔力を得ていたら、生まれた子供が人間ぽくなるとか?」
『そなたは植物を食べている人間は、植物に近づくとか、魚を食べている人間が魚になると考えているのか? そんなはずはあるまい』
「それもそうですね」
何から魔力を得ようが、それを卵の糧にしているだけなんだから生まれるドラゴンに影響があるはずがないか。
それにドラゴンからすれば、生まれた子供が人間ぽくなるというのは、言ってみれば『下等な動物』に近づくわけでそんなの真っ平だろう。
まあ神様が人間体の化身を作り出してまでわざわざ人間とチョメチョメするのに比べたら、まだ肉体を持った存在であるドラゴンが人間に化身した上で恋をするのもありなのかもしれないけどな。
しかし他の地域のドラゴンがさすがに全部同じ事をしているはずがない――もしもそんな事があったなら同様の事例が頻発しているに違いない。
そういう意味ではドラゴンも結構多様なんだな。
出来ればわざわざ実体験などしたくは無かったけど。
オレがそんな事を考えている間も、卵はドンドン下流に流れ周囲の景色も変わっていく。
いつの間にやら川の両岸は森になり、大勢いた見物人もこのあたりにはいないようだ。
そして日も沈んで来て、かなり暗くなっている。
「ところでこの卵の上で休ませてもらっていいですか?」
『それは構わんが、この卵とずっと一緒でも平気とは本当にそなたは桁違いの存在だな。有する魔力で言えば親のドラゴンもずっと凌駕しているだろう』
ふうん。ドラゴンでも魔力はそんなものなのか。
それが分かっただけでも一つの成果と言えるかな。
そんな事を考えつつ、オレは卵に張り付いた状態で眠る事にした。今までいろいろなところで過ごしてきたけど、今回が一番とんでもない状況のような気がするな。
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