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第12章 強奪の地にて
第388話 あらためてドラゴンと対峙すると
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オレを引き裂く直前で爪を止めたドラゴンは、どこか困惑しつつこちらをのぞき込みながら問いかけてくる。
《良かった。アルタシャは無事だったんだね》
マジでコイツはついさっきオレを殺しかけた事を理解していないらしい。
冷静に考えると生まれたばかりの子どもだから、仕方ないか。
そういえば化身状態のオレに容姿に人間は目を奪われていたけど、ドラゴンが人間の外見に興味が無いのは当たり前だな。
とにかく落ち着いてくれたのだから、ようやく一安心というところだと思ったら、そうでもなかった。
《それじゃまた――》
そう言ってドラゴンはまた鼻先を近づけてきたのだ。
またペロペロする気かよ。
ええい。本当に飽きない奴だな。
「少し待って下さい」
ついさっき殺されかけたのに比べれば遥かにマシではあるけど、また『ぶっかけ』られたかのごとく、粘液まみれにされるのは真っ平なのでオレは思わず距離を取る。
《なんだよ。こちらは心配したんだよ》
「それはありがたいんですけど、ここにいつまでもいるわけにはいかないでしょう」
《だったらどうすればいいの?》
やっぱりスケベでもガキなのか。本当に困った相手だな。
だけどオレだって、どうすればいいのかはわからない。
そうなると頼るべき相手はここには一人、というか一体しかいない。
ここでオレはさっきから黙ってドラゴンの頭の周囲をうろついているだけな、卵の精霊の方に向き直って問いかける。
「あなたは何で知らん顔していたんですか?」
『我よりもずっと格上のそなたなら、気になるような事でも無いだろう』
そんなわけあるか。
一歩間違っていたら、ドラゴンの攻撃でこっちの身体はズタズタだったぞ。
肝心な時に何もしてくれないし、やっぱり精霊というのは役に立たないもんだな――オレの経験上はいつものことなので仕方ないのだけど。
「これから先はどうするつもりなんですか?」
『ふうむ。ドラゴン達の意向からすれば、川に流した卵が無事に孵り成長して帰ってきたところで、自分たちの子供として認めて一族に受け入れる事となっている』
「それならばこの子供を今のまま連れて帰れば、それで全て解決するのですね」
ようやく希望が見えてきたのかとオレは勢い込んで問いかける。
冷静に考えればそれしか無いけど、どのみちドラゴンの案内はこの精霊にしか出来ず、オレはもちろん他の人間にもどうしようもないからな。
だが精霊の返答はいつものように、オレの期待には沿ってくれなかった。
『それは難しいかろうな』
「ええ?! なぜですか!」
『ドラゴン達が川に卵を流す目的は、強い子供を選別するだけでなく、世界を見て回ってその見識を広める事にあるのだ。この状態ですぐに帰ったとしても、おそらく受け入れてはもらえまい』
つまりオレの魔力で急速に成長したから、いろいろと困った事になってしまったのだな。
せめてこの精霊がそれを分かっていて、助言してくれたならオレにもやりようがあった。
しかしドラゴンにとっても、精霊にとっても、そしてもちろんオレにとってもこんな事になるとは全く想像の埒外だったのだ。
『そうだ。いっそのことこのドラゴンと共に旅をする気はないかね?』
「いったいどれぐらいの期間ですか?」
これが数日なら、まだ我慢出来るけど数ヶ月ともなるととても無理だな。
ドラゴンが同行などしたら、どんな厄介事が降りかかってくるか分かったものではないし、何よりもいくらこちらを慕っていようと、こんなのに毎日ペロペロされるのは真っ平だ。
『そうだな……人間の基準では数年というところだろうか。我らにとっては大した時間でもあるまい』
《アルタシャがずっと一緒なら何でもいいよ》
無茶苦茶言うな!
そっちはよくてもこっちがたまらないよ。
その精霊はずっとこのドラゴンと一緒にいて、郷里に戻したら親ドラゴンから報酬がもらえるらしいけど、こっちはそんなわけにはいかないんだ。
いや。考えを切り換えよう。
ひょっとしたら神様がいろいろな化身をこの世に送りこめるように、このドラゴンも魔法で姿を自在に変えて人型になる能力があったりはしないか?
何年も同行せねばならないのはひとまず置いて、それだけでも現状を一応は打開出来るはずだ。
「それではこっちの世界でどうにか暮らせるように、人間に化ける事は出来ませんか?」
オレの問いかけに対し、ドラゴンは明らかに困惑した様子を見せる。
《そんなやり方、知らないよ。それともアルタシャが教えてくれるの?》
オレがそんな簡単に自分の身体を変えられたら、女の身に変えられてからこんな苦労していません。
『そなたも随分と無茶な事を言うのだな。成長したドラゴンならともかく、こんな子どもにそんな芸当が出来るはずがなかろうが』
成長したドラゴンなら人間に化けられるのかよ。
その割には親ドラゴンが人間と意志疎通している様子もないけど、それはこの地域のドラゴンがそうなのだろうか。
いや違うって。
何でこいつらは、オレの方が理不尽な要求をしているかのような態度なんだよ。
しかしどうする?
もう逃げ出したい気分だけど、幾ら子どもでも――ひょっとしたら子どもだからこそ――いまこのドラゴンが暴れ回ったら、少なからぬ犠牲が出るのは間違いないのに、放り出すような真似は出来ないのだ。
そんな窮地に陥ってしまったオレだったが、この時一同の頭上で思わぬ異変が巻き起こっていたのだった。
《良かった。アルタシャは無事だったんだね》
マジでコイツはついさっきオレを殺しかけた事を理解していないらしい。
冷静に考えると生まれたばかりの子どもだから、仕方ないか。
そういえば化身状態のオレに容姿に人間は目を奪われていたけど、ドラゴンが人間の外見に興味が無いのは当たり前だな。
とにかく落ち着いてくれたのだから、ようやく一安心というところだと思ったら、そうでもなかった。
《それじゃまた――》
そう言ってドラゴンはまた鼻先を近づけてきたのだ。
またペロペロする気かよ。
ええい。本当に飽きない奴だな。
「少し待って下さい」
ついさっき殺されかけたのに比べれば遥かにマシではあるけど、また『ぶっかけ』られたかのごとく、粘液まみれにされるのは真っ平なのでオレは思わず距離を取る。
《なんだよ。こちらは心配したんだよ》
「それはありがたいんですけど、ここにいつまでもいるわけにはいかないでしょう」
《だったらどうすればいいの?》
やっぱりスケベでもガキなのか。本当に困った相手だな。
だけどオレだって、どうすればいいのかはわからない。
そうなると頼るべき相手はここには一人、というか一体しかいない。
ここでオレはさっきから黙ってドラゴンの頭の周囲をうろついているだけな、卵の精霊の方に向き直って問いかける。
「あなたは何で知らん顔していたんですか?」
『我よりもずっと格上のそなたなら、気になるような事でも無いだろう』
そんなわけあるか。
一歩間違っていたら、ドラゴンの攻撃でこっちの身体はズタズタだったぞ。
肝心な時に何もしてくれないし、やっぱり精霊というのは役に立たないもんだな――オレの経験上はいつものことなので仕方ないのだけど。
「これから先はどうするつもりなんですか?」
『ふうむ。ドラゴン達の意向からすれば、川に流した卵が無事に孵り成長して帰ってきたところで、自分たちの子供として認めて一族に受け入れる事となっている』
「それならばこの子供を今のまま連れて帰れば、それで全て解決するのですね」
ようやく希望が見えてきたのかとオレは勢い込んで問いかける。
冷静に考えればそれしか無いけど、どのみちドラゴンの案内はこの精霊にしか出来ず、オレはもちろん他の人間にもどうしようもないからな。
だが精霊の返答はいつものように、オレの期待には沿ってくれなかった。
『それは難しいかろうな』
「ええ?! なぜですか!」
『ドラゴン達が川に卵を流す目的は、強い子供を選別するだけでなく、世界を見て回ってその見識を広める事にあるのだ。この状態ですぐに帰ったとしても、おそらく受け入れてはもらえまい』
つまりオレの魔力で急速に成長したから、いろいろと困った事になってしまったのだな。
せめてこの精霊がそれを分かっていて、助言してくれたならオレにもやりようがあった。
しかしドラゴンにとっても、精霊にとっても、そしてもちろんオレにとってもこんな事になるとは全く想像の埒外だったのだ。
『そうだ。いっそのことこのドラゴンと共に旅をする気はないかね?』
「いったいどれぐらいの期間ですか?」
これが数日なら、まだ我慢出来るけど数ヶ月ともなるととても無理だな。
ドラゴンが同行などしたら、どんな厄介事が降りかかってくるか分かったものではないし、何よりもいくらこちらを慕っていようと、こんなのに毎日ペロペロされるのは真っ平だ。
『そうだな……人間の基準では数年というところだろうか。我らにとっては大した時間でもあるまい』
《アルタシャがずっと一緒なら何でもいいよ》
無茶苦茶言うな!
そっちはよくてもこっちがたまらないよ。
その精霊はずっとこのドラゴンと一緒にいて、郷里に戻したら親ドラゴンから報酬がもらえるらしいけど、こっちはそんなわけにはいかないんだ。
いや。考えを切り換えよう。
ひょっとしたら神様がいろいろな化身をこの世に送りこめるように、このドラゴンも魔法で姿を自在に変えて人型になる能力があったりはしないか?
何年も同行せねばならないのはひとまず置いて、それだけでも現状を一応は打開出来るはずだ。
「それではこっちの世界でどうにか暮らせるように、人間に化ける事は出来ませんか?」
オレの問いかけに対し、ドラゴンは明らかに困惑した様子を見せる。
《そんなやり方、知らないよ。それともアルタシャが教えてくれるの?》
オレがそんな簡単に自分の身体を変えられたら、女の身に変えられてからこんな苦労していません。
『そなたも随分と無茶な事を言うのだな。成長したドラゴンならともかく、こんな子どもにそんな芸当が出来るはずがなかろうが』
成長したドラゴンなら人間に化けられるのかよ。
その割には親ドラゴンが人間と意志疎通している様子もないけど、それはこの地域のドラゴンがそうなのだろうか。
いや違うって。
何でこいつらは、オレの方が理不尽な要求をしているかのような態度なんだよ。
しかしどうする?
もう逃げ出したい気分だけど、幾ら子どもでも――ひょっとしたら子どもだからこそ――いまこのドラゴンが暴れ回ったら、少なからぬ犠牲が出るのは間違いないのに、放り出すような真似は出来ないのだ。
そんな窮地に陥ってしまったオレだったが、この時一同の頭上で思わぬ異変が巻き起こっていたのだった。
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