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第12章 強奪の地にて

第395話 ドラゴンはようやく立ち去り……

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 ようやく話がついたところで、二頭のドラゴンはその翼を広げる。
 元の世界の基準だと、ドラゴンの体格でとても空を飛べるもんじゃないのだろうけど、そのあたりも生まれついての魔力でどうにかするのだろうな。

【それではいくぞ。イオ】
《分かったよ。それじゃあアルタシャ。またね――》

 本当に名残惜しそうなイオを見ると、ちょっとばかり申し訳ない気にはなる。
 そしてここでオレにはもう少しだけ話をする必要があった。

「すみません。ちょっと待って下さい」

 二匹のドラゴンはようやく立ち去ってくれそうだが、最後のオレの方からどうしてもいっておかねばならない事があった。

【なんだ?】
「こちらからのお願いですけど、もうあなた方も卵を川に流すのは辞めてくれませんか?」
【それはなぜだ】

 おい。あんたら川に流した自分達の卵が、人間に略奪されたので激怒して町一つ滅ぼしたんじゃないのかよ。

「人間達にとってもあなた方の卵が流れてくるといろいろ面倒な事になるのは、分かっているのではないのですか?」
【そんな人間の都合など、こちらが知った事では無い】

 さっき人間とは関わり合いになりたくないと言っていたけど、あくまでも自分達の都合が優先でしかないということか。
 人間がモンスターと関わり合いになりたくないと思いつつ、わざわざその生息地に足を踏みいれるのと似たような心理なのかもしれない。

「しかし以前にも経験がおありでしょうけど、卵が危険なんですよ。あなたもそれを知っていたから、卵に何かあったと気付いてここまで来たのでしょう」
【今回は無事成功しただけでなく、通常よりも遥かに早く成長したではないか】

 それはたまたまオレが同行していたからですよ――ドラゴンはそんな事情なんて知らないから、そういうオレから見たらぶっ飛んだ結論を出してしまう事もありうるのか。
 ええい。オレ自身の招いた事でもあるし、ここは食い下がるしかない。

「たまたまです。次は同じようにはいきませんよ」
【それはそなたがもうこの地にはいないからなのか?】

 オレのために卵が急速に成長した事は分かっていたんかい。
 いや。大人ドラゴンのところに卵の精霊がいるようだから、一応は何があったのか報告はしたのだろう。

「そうですよ。わたしが守るのはイオが最初で最後です」
《え? そうなの?》

 イオはどこか嬉しそうだ。別にお前が好きで守ったつもりはないんだけど、何か勘違いしているだろう。

【そなたがそう思っていたとしても、そんな事を我に言ったところでどうにもならんぞ】
「それでも他のドラゴンに、伝えてもらえるだけでいいのです」
【分かった。その約束はしよう。ただしその頼みを他のドラゴンが聞き入れるかどうかは、保証の限りではない】

 やっぱりそうなるか。
 これまでの話からして、ドラゴンは同族同士の繋がりが希薄なので、この大人が何を言ったところで、他のドラゴンがどうするかは誰にも分からないのだな。
 たぶん卵を厄介払いのつもりで川に流すドラゴンもいれば、今回急速に成長したので次も同じように成長するのを期待するのもいるかもしれない。
 このあたりもやっぱり人間とさして変わらないのだろう。
 要するにこのドラゴンがオレの望み通り同族に警鐘を鳴らしたところで、それを聞き入れてくれるかどうかは別問題ということだ。

《それなら一緒に行って、アルタシャがみんなにそう伝えたらいいじゃないか》

 イオは嬉しげに誘うけど、好き嫌い抜きにして同族のドラゴンの言う事も聞き入れない連中が、オレなんぞの言う事を聞くはずがないだろう。

「繰り返しますけど、それは無理です」
《そうなの……》

 だからそんな『親に捨てられた子ども』みたいな態度を見せるんじゃない――こんな短期間でもドラゴンの感情がなんとなく分かるようにはなるんだな。
 それはともかく今後がどうなるかは、ドラゴンとこの地に棲まう人間次第という曖昧な事しか言えないのか。
 途中で出会ったモンローフやダンギム達がどうにかして、今後も卵を欲に駆られた人間達から守るように、どうにか手を打ってくれるように願うしかないか。
 結局のところ余所から来たオレが何かしたからと言って、それで問題が抜本的に解決して、めでたしめでたしで終わらないのはいつもの事だと思うしかない。

【それでは改めてさらばだ】
《なるだけ早く会いに行くからね》
「ええ。待っていますよ」

 正直に言ってイオにまたやってこられても、迷惑なだけになりそうですけど、ここはさっさと立ち去ってもらうためにも一応は付き合いが必要だな。
 そして二体のドラゴンはあらためて翼を広げ、もの凄い風を巻き起こしつつ宙に舞う。
 やっぱり何らかの魔法で自分の身を飛ばしているらしいな。支援系魔法ばかりで空は飛べないオレとしてはかなり羨ましいところである。

《それじゃあさようなら!》

 イオの叫びと共に、大小二体のドラゴンは飛び去っていく。
 大人の方は慣れたものだが、イオの方はどうにもぎこちないが、ちゃんと同族の元にたどり着ける事は祈っておこう。

「「……」」

 そしてどうにか無事に切り抜けた――しかし厄介な事を将来にわたって抱え込んでしまったかもしれない――とオレが少しばかり複雑な気分でいると、周囲には次第に他の人間達が集まってきていたのだった。
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